青森県で今盛り上がりを見せている “短命県返上”について

時の言葉
青森県で今盛り上がりを見せている
“短命県返上”について
弘前大学大学院医学研究科長 中路 重之
平成22年の最短命県青森と最長寿県長野の
人ひとりの健康に対する知識と意識の問題
平均寿命には、男性で3.6歳の差があります。
(健康教養)です。正しい知識の先に、正し
さらに詳しく分析すると、両県の男性の年代
い考え方、高い意識、そして正しい行動が生
別死亡率(全死因)では、各年代とも青森県
まれてきます。
の死亡率が長野県を上回り、とくに40歳代は
長野県は健康啓発(教育)が成功した県だ
実に約 2 倍です。つまり、この3.6歳は人生
と考えられています。その理由として、保健
最後の部分の差ではないのです。ここの理解
補導員等の健康リーダーの活躍が挙げられま
がないと「短命をなんとかしよう」というモ
す。この制度が全県に普及していった昭和40
チベーションにつながりません。
年代に長野県の平均寿命ランキングは上昇を
短命の背景として死亡統計の解析から二つ
のことが言えます。
① 全世代の死亡率が高い。とくに40歳代の
死亡率の高さが顕著。
② 主要な死因(がん、心臓病、脳卒中の 3
始めました。長野県全体で今、女性の 5 人に
1 人がその経験者です。各家庭にこれだけの
「健康ミニ博士」が増えたら世の中は間違い
なく変わります。
健康は最終的には個人のものですが、最初
大生活習慣病)の死亡率が高い。
から個人に頼って結果が出るほど簡単ではあ
その背景には以下のものがあります。
りません。結局は人から人へと伝えていくも
① 生活習慣が悪い(喫煙、肥満、多量飲酒、
食塩摂取過多)。
のです。健康リーダーの大切である所以です。
最後にどうしても強調しておきたい一点が
② 健診受診率が低い。
あります。つまりこのように考えていくと、
③ 病院受診が遅い・通院状況が悪い。
短命県返上や健康づくりでは、一見健康に関
青森県の短命の理由を、雪や経済状況、そ
連した分野の人間だけではカバーしきれない
して医師不足にしていてもはじまりません。
部分が大きすぎるということです。そこには
雪の多い北陸各県はいずれも長寿県です。ま
日々の営みや性(さが)など人間味のある部
た、日本一県民所得の低かった沖縄県はずっ
分が大きく横たわっています。いわゆる文化
と長寿を誇ってきました。最長寿の長野県は
系・人文系といわれる分野の方々、加えて研
青森県に負けないくらいの医師不足です。
究者の枠を超えた多くの人間の結集がなけれ
筆者は、青森県が主要な健康指標で“こと
ば超えることはできません。町づくりの意
ごとく”長野県に水を開けられていることか
味、そして全県の盛り上がりの意味がそこに
ら、結局はそれらの根本にこそ問題の本質が
あると思います。
あると考えています。その根本とは、県民一
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