「地方に存在する 価値ある産業 を担って 」

地域の明日を拓く
有限会社月の輪酒造店
(紫波町)
常務取締役 杜氏
していたが、岩手に居る時はそれを知ろうとも
しなかった。
その中にだけいると当たり前すぎて感じない
地元の紫波町古館地区では、
公民館主催で
「地
「地方」に存在することがお客様にとって価値
「地方に存在する酒蔵」として何を行ってい
元学講座」が開講され、年に2回の座学と酒蔵
価値を、どうにかして皆さんにも知っていただ
くことが地域の活性化に繋がるのか。実のとこ
での3回の酒造り体験を通して、酒蔵を身近に
を感じていただける要因のひとつであると感じ
ろ、1歳4ヶ月の娘の子育てと酒造りの両立の
感じ、日本酒に触れていただく良い機会となっ
きたい。
真っ最中のため、外に出る機会が以前より減っ
ており、弊社としても感謝している。
古館地区は盛岡のベットタウンで多くの新し
生まれ育った紫波町を出て東京へ。そして東
「伝統産業を『伝え』
、
『知って』もらう
ことに力を注ぐ」
で)自己紹介する時に酒蔵の存在を話題に出し
いうことを知ってもらい、どこかで(特に海外
い。自分の住んでいる地域には酒蔵がある、と
い住民が住んでいるが、その多くの方はもしか
京で暮らす中で芽生えた「地元」への郷愁から、
てもらえたら大変嬉しい。
酒蔵をはじめ、意外にも多くの伝統産業が存在
県外にいて岩手を見てみると、生まれ育った
ったうえで、周知してくれるファンを増やすこ
さらに、多くの方々にその産業を知ってもら
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したら酒蔵があることを 知らないかもしれ な
私が紫波町へ戻り 年を迎えようとしている。
てみたい。
てしまっているが、最近思っていることを書い
ている。
著しく集中するなか、我が酒造業界においては、
情報や人、様々なものが東京などの大都市へ
「地方に存在する
価値ある産業を担って」
横 沢 裕 子
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岩手経済研究 2015 年2月号
地域の明日を拓く
とが大事である。
酒造りをはじめとする魅力ある、ある意味閉
鎖的な地方の伝統産業を残していくためには、
がブームになったことで「酒造りをしたい」と
を掲げ、名刺にも印刷している。
呼ばれたいという想いから、弊社ではこの理念
「人の顔が見える商品」を求められるように
酒蔵に就職する女性も出てきた。
しかし、女性を受け入れる土壌が不十分であ
していくことに努めていくべきである。その際、
そして人々の「知る」という欲求を刺激し満た
めには、辞めさせないための女性同士のネット
た女性をこの業界、そして地方に引き止めるた
せっかく日本酒、酒造りに興味を持ってくれ
賛否の評価にしてもその造り手の顔がしっかり
の娘がやるようになってまずくなった」とか、
の親父が造っているなら信頼がおける」
とか
「あ
なか見えにくいものがあるが、
家業であれば「あ
なってきている。それはやはり、企業ではなか
造り手はこれ位「いいもの」を造っているのだ
ワークが必要だと感じ、
「蔵女性サミット」が
見えた意見が出てくる。
ったため、辞めてしまうケースが多かった。
からこれでいいという自 負のレベルで留ま ら
立ち上がったのが平成 年。
まず造り手が「伝える」ということに力を注ぎ、
ず、お客様が本当に求めていることは何なのか
人は足を運んでくれるようになっていくし、離
そうすれば地元はもとより、遠いところでも
まれ育った家というような恵まれた環境でなけ
事な仕事があり、それと並行しての酒造りは生
行っているが、女性には出産・子育てという大
界で女性も頑張っています」を周知する活動を
ントを開き、女性の造る日本酒、
「酒造りの世
それ以来、会員数は増え、今では隔年でイベ
を造り出しているのに、そのことに造り手本人
また、もしかしたら実は非常に価値あるもの
要素である。
とが地方産業を活性化させていくための重要な
んだが、その造り手についても知ってもらうこ
なってくる。商品を知ってもらうことはもちろ
地方の産業では、特にこのことがポイントに
というところまで思いを巡らす必要があるであ
れた場所、
例えば東京でも、
ファンの方々はその
れば難しく、実際には女性がこの仕事を選び、
が気付いていないケースもあるかもしれない。
ろう。
産業の良さをどんどん発信してくれると思う。
生涯の仕事とするにはまだまだ試練が多いので
「女性の立場からみた酒蔵」
昨年、イタリアワインの女性醸造家とパネル
それを発掘してくれる第三者の存在も期待され
れでも全国の「地方の酒蔵」では、女性が活躍
ディスカッションをする機会をいただいた。イ
こうしてここまで書いてきて、最近私は皆さ
ある。
している。その女性の多くは酒蔵の娘か嫁とい
タリアでも女性醸造家は少ないようで、国や造
んに「伝える」こと、
「知って」いただくこと
我が業界はまだまだ男性が中心であるが、そ
う立場の人であり、外の世界からこの業界に入
っている酒の酒類は違うけれども、抱える悩み
ず更新しようと考えているところである。
そういえば、サボりがちな自分のブログをま
るのではないかと思う。
ってくる方はまだまだ少ない。
に対して十分尽くせていたかなと反省する。
「中小企業」と呼ばれるよりも「大家業」と
「企業ではなく家業として」
や喜びは同じであると感じた。
酒蔵に女性が入り始めたのは、杜氏や蔵人を
雇うよりも身内の女性が蔵に入る方がよいとい
う経済的事情などがあったからなのだが、それ
と時を同じくした頃に「夏子の酒」という漫画
岩手経済研究 2015 年2月号
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