国際的山岳リゾートの形成

研究テーマ No.6
国際的山岳リゾートの形成
伊那市 農林部 耕地林務課
伊藤 聡平
伊那市 高遠町総合支所 産業振興課
兼子 美信
駒ヶ根市 企画振興課
福澤 修
上伊那地方事務所 地域政策課
山内 彩可
林務課
伊藤 晃
〃
平沢 公彦
商工観光課
上伊那農業改良普及センター
田中 陽如
宮澤 雅子
早稲田大学マニフェスト研究所
中村 健 テーマアドバイザー
目
次
1 はじめに
2 ありたい姿
3 現状
4 具体的構想(FVA構想)
4-1 おもてなしゲートセンター
4-2 施策例
・ TATAMI
STYLE VILLA
・ LAKESIDE MEMORIES
5 スケジュール及び予算
6 今後の課題
7 おわりに
8 打合せ及び現地調査の経過
©長野県アルクマ
1 はじめに
今回の研究テーマである「国際的山岳リゾートの形成」を題材に、地元である上伊那地域を対象
に政策研究をすることにしました。上伊那地域は南アルプス・中央アルプスが立ち並んでおり麓で
はアルプスを活かした観光地が増えてきています。一方で、長野県全体の観光客数等を比べると上
伊那地域は低い順位にあるのが現状です。そのような現状を少しでも改善しようと思い、まずは上
伊那地域の経済の活性化及び県と市町村等が集まり協働して行えることを基本として構想を立てま
した。
2 ありたい姿
「国際的山岳リゾート化による上伊那地域の経済の活性化」をめざし、平成 32 年東京オリンピッ
ク、平成 39 年リニア中央新幹線開通などを踏まえ、達成年次は平成 40 年としました。
南アルプスと中央アルプスに挟まれ、日本の農村の原風景(農村風景・歴史と文化の残る城下町
の雰囲気等)に富む地域の強みを生かすこと、さらに今後人口減少が危惧される日本においては、
国際的視野からの政策立案の必要性を感じ、「国際的山岳リゾート化」という着眼点から研究を進
めました。
当地域の産業構造は電子・電気部品及び機械加工などの加工組立型産業が集積する製造業が主軸
となっていますが、牽引役であるこの製造業は円高などの外的要因に左右されやすいという課題を
抱えています。そのような中「上伊那地域の経済の活性化」のために、観光業は当地域では今後伸
びしろのある分野であると着目しました。
3 現状の課題と数値目標
(1)上伊那地域の観光客の国際化の現状と今後の見通し
外国人登山者に関する統計はないが、当地域の主な山岳観光施設である中央アルプス駒ヶ岳
ロープウェイの外国人乗車者は、アジア圏からのグループツアー中心に数千人程度と推測され
ます。外国人宿泊者数は 10 広域中 9 位と低い水準にあります(図 1)。
今後の外部要因として、平成 39 年リニア中央新幹線の東京~名古屋間が開通により国際空
港(羽田・中部)からの利便性が格段に向上し、海外からのアクセスが容易となります。日本
への外国人観光客数は伸びており、数少ない成長市場として期待されます。
南アルプスがユネスコエコパーク・日本ジオパークに登録されたものの、富士山等と比べ、
観光資源として世界へ発信していくにはさらなる飛躍が必要です。現状では、外国人観光客へ
のおもてなしは十分とは言えず、他地域と差別化できる付加価値の高い新たな海外向けのサー
ビスの提案が必要と思われます。
北信, 39,885
佐久, 37,540
上小, 7,037
諏訪,
15,177
上伊那, 3,937
下伊那, 2,967
長野, 48,074
木曽, 4,639
松本, 33,990
北安曇, 56,000
図 1 平成 24 年度外国人宿泊者数
県観光部山岳高原観光課調査
上伊那地域 3,937 人(10 広域中 9 位)
(2)上伊那地域産業としての観光業および山岳観光の現状と課題
管内の観光客数、観光消費額は 10 広域中ほぼ最下位、日帰り客の割合が8割を超え、宿泊
客が2割に満たない状況となっています(図 2、図 3)。
年間 10 万人訪れる中央アルプス、南アルプスがあるにも関わらず、山岳観光業者と市街地
との連携が薄いため地元での消費額は少なく、山のみを楽しんで帰ってしまう観光客が多いの
が現状です。市街地の商業者にとっては山岳が観光資源であり、このまちは登山基地である認
識が薄いことも課題と思われます。最近伊那市では地域住民による地域活性化に向けた組織が
活動し始めました。通過型ではなく、滞在型の観光地化することで、消費額を増加させること
が地域経済の活性化に必要です。
北信,
39,177
28,441
日帰客
宿泊客
長野,
63,059
57,102
北安曇,
33,134
4,000
780
3,805
佐久,
49,072
諏訪,
36,445
上伊那,
11,130
松本,
45,034
10,000
H40
H25
H25
上伊那目標
長野県
上伊那
図 2 平成 25 年度観光消費額(百万円)
県観光部山岳高原観光課調査
上伊那地域 111 億円(10 広域中 8 位)
上小,
16,591
木曽,
11,001
下伊那,
10,213
図 3 平成 25 年度観光客の内訳(千人)
県観光部山岳高原観光課調査
上伊那地域宿泊客 78 万人(10 広域中 9 位)
宿泊客の割合 17%(10 広域中 最下位)
(3)数値目標
具体的な目標値としては、県内 10 広域中上位3位の数値を参考に設定しました。
*観光消費額 111 億円(H25)→ 500 億円(H40)
*観光客数 458 万人(H25)→ 1400 万人(H40)
*延宿泊者数 78 万人(H25)→ 400 万人(H40)
*外国人延宿泊者数 3,937 人(H24)→ 40,000 人(H40)
4 具体的構想(FVA構想)
山岳地帯の麓の町である伊那市高遠町で、外国人観光特区としてForeigner‘s
Village Area(通称FVA)を設定します。FVAでは、①外国人が滞在しやすい
環境、②日本の文化を楽しめる環境、③健康でエコな環境をコンセプトとした町づくりを行いま
す。コンセプトに基づき様々な施策により外国人を誘致し、長期滞在を促進します。
(1) 構想の目的
外国人観光客が少なく、日帰り客が多い(宿泊客が少ない)上伊那の現状を踏まえ、外国
人観光客をターゲットとした滞在型のまちづくりを目指します。
(2) 構想の場所
FVA構想の選定地である伊那市高遠町は、南アルプスと伊那市街の中間地点に位置して
おり都会からのアクセスも比較的良好です(表 1、図 4)
。
出発地
大阪発
名古屋
発
経路
高速バス(大阪~伊那)→JR バス(伊那~高遠)
約 5 時間半
高速バス(名古屋~伊那)→JR バス(伊那~高遠)
約 3 時間半
高速バス(新宿~伊那)→JR バス(伊那~高遠)
新宿発
時間
JR 特急(新宿~岡谷)→JR 通常(岡谷~伊那市)→JR バス(伊那
~高遠)
表 1 都市部から高遠町までのアクセス時間
図 4 高遠町の立地状況
約 4 時間
約 4 時間
また、農村景観、城下町、温泉、桜の名所など日本の文化を楽しむことのできる豊富な観
光資源を有しており、さらに、ジオパークおよびエコパークに指定されています。なかでも、
高遠の桜は国内ではすでに知名度が高い資源であり、春の開花時期には多くの観光客が訪れ
ています。
上記のような、立地条件、保有する観光資源から、FVA構想に適した地域であると考え
られます。
(3) 構想の内容
FVA構想では宿泊、観光情報等を一元的に管理し、外国人の問合わせに直接対応する運
営組織である“おもてなしゲートセンター”を中心とし、基盤整備、情報発信、人材教育、
イベント関係等の様々な施策を立案、実施します(図 5)
。施策は以下の3つのコンセプトに
基いています。
①外国人が滞在しやすい環境
言語の壁により外国人が強度のストレスを感じないような環境、地域から歓迎、おもて
なしを実感できる環境を創出。
②日本の文化を楽しめる環境
日本の文化を体験することができ、かつ、長期滞在して飽きない環境を創出。
③健康でエコな環境
健康やエコに対して意識の高い外国人(特に欧米人)に対し、アピールできる環境。
次項以降より、
“おもてなしゲートセンター”の詳細と具体的な施策例を記載します。
4-1 運営組織「おもてなしゲートセンター」
FVA構想を中心となって運営する組織として「おもてなしゲートセンター」を設置します。
(FVAでは看板や印刷物などの様々な表記を外国人にわかりやすい英語を基本(併記)としま
す。
「おもてなしゲートセンター」は「Omotenashi Gate Center」の頭文字から通称OGC
と呼びます。
)
OGCは、外国人観光客が上伊那に滞在する間の困りごとをなんでも受け付ける総合的インフ
ォメーションセンターとして機能させることで、外国人が安心して訪れることができ、滞在しや
すい環境を整備します。また、FVA構想のコンセプトに基づいた様々な施策を総合的に企画・
運営を行い、FVAを中心とした国際的山岳リゾート形成の柱となる組織でもあります。
組織は株式会社(第三セクター)を想定し、構成メンバーは県、市町村、観光協会、地元企業
の他、地域で活動する組織・団体等も加わることで、広範な情報集約、活動を目指します。組織
形態も自由で融通が利く体制とすることで、ターゲットとなる外国人からの様々なアクションに
臨機応変な対応が可能となると考えます。
【OGCで行う施策】
・エリア内の総合企画・運営
FVAに外国人を受け入れるための環境や基盤の整備からイベントの企画、情報発信や人材
育成等を行う。
・滞在用の空家整備・管理
地域に眠る空家資産を一括して管理し、居住に必要な整備を行い滞在が可能な住居を確保す
る。
(空家所有者から管理委託を受けるほか、必要に応じて購入も行う。
)
・観光・宿泊情報の発信
FVAを始め、上伊那地域の宿泊施設・空家の(空き)情報を集約し一元的に管理提供する。
また地域の観光資源を案内し、外国人を飽きさせない情報発信を行うことで長期の滞在につな
げる。
・滞在時の“おこまりごと”相談
初めて訪れる外国人でも安心して滞在できるよう、生活の簡単な問い合わせから日本文化の
紹介など、あらゆる困りごとに親切、迅速に対応する。
(例:日用品の販売店舗の紹介、道案内、
長期滞在に係る手続きの説明など)
・外国人向け人材育成
山岳リゾートに相応しい国際山岳案内人の認定や、外国人を迎えるためのおもてなし講習会
の開催などを行う。
・滞在中の移動手段の提供
エコに配慮した移動手段を提供する。
(電気自動車、自転車、人力車)
ここで、OGCが行う施策の中から特徴的なものを2つ提案します。
4-2 施策例
【 TATAMI STYLE VILLA 】
(1)概要
ア)施設の概要
「FVA」内の空き屋となっている民家等を、外国人観光客をターゲットにした、中期又は長
期にわたる滞在が可能な宿泊施設(
「TATAMI STYLE VILLA」と仮称し、
以下「VILLA」とする。
)として整備します。
なお、
「日本の日常生活の体験」を中心的なコンセプトとし、屋内改装は外国人が生活する
上での利便性を踏まえつつも、必要最低限に抑えます。
イ)施設の管理及び滞在中のフォロー体制
「VILLA」として整備する空き家の取得、整備及び維持管理並びに宿泊申込に関する
事務はOGCが行います。また、各「VILLA」を担当するOGC職員を設置し、滞在中
の各種相談に対応します。
なお、別荘に近い感覚で宿泊することができるよう、担当者は各「VILLA」に常駐せ
ず、宿泊者からの相談等を受けた際に随時対応する形式とします。
(2)
「VILLA」の意義
ア)
「FVA」の独自性を生み出すために
外国人観光客の滞在拠点エリアを形成し、上伊那地域を国際的山岳リゾート化していく
ためには、観光客が是非滞在したいと思う魅力を創出し、内外に強くアピールすることが
必要不可欠です。この点、豊かな山岳資源などの地域固有の強みを活かす一方、
「滞在する
こと」それ自体に着目して特色ある取組みを打ち出すことにより、
「FVA」でしか味わえ
ない魅力としてアピールできると考えます。
イ)
「VILLA」が持つ独自の魅力
観光地での滞在スタイルとしては、旅館やホテルへの宿泊が一般的です。また、昨今で
は、農家民宿などの日本の生活文化に触れることができる滞在スタイルも、外国人観光客
の人気を獲得しつつあります。外国人観光客をターゲットとする上では、上記のような滞
在スタイルに対応した環境整備を進めることも重要ですが、一方で、日本の生活文化の体
験を魅力とする滞在スタイルを確立することにより「FVA」の独自性が生まれると考え
ます。
「VILLA」への宿泊は、家屋をまる
ごと自由に利用することで、より直接的
に日本の日常生活の一端を体験できるも
のです。これは、日本の生活文化や伝統
に興味を抱く外国人にとって、OGCに
よるサポートのもと、より新鮮な「日本
体験」を可能とする宿泊施設として、
「FVA」の特色となるものと考えます。
【 LAKESIDE MEMORIES 】
(1) 概要
ア)事業内容
上伊那を訪れていただいた外国人に、旅の記念として植樹をしてもらい、訪れて実際に
植樹した本人だけでなく、樹の成長と共に世代を超えた思い出の場所となることが期待で
きます。
植樹場所は、FVAの象徴的エリアである伊那市東部地区の美和ダム湖畔とし、桜やブ
ナ・もみじなどの各種樹種から植樹する木を選択していただき、外国人観光客に旅先での
アクティビティの一つとして位置付けます。
イ)管理体制
植樹エリアでは樹種ごとにエリアを分け、OGCやボランティアが管理を行い、どの季
節に訪れても楽しめる場所として活用できるようなエリアづくりを行います。
(2)期待できる効果
ア)PR効果
様々な国から訪れる外国人観光客に植樹をしていただくことで、二つのアルプスの麓に
「万国旗の山」が形成され、国内外に魅力ある観光地としてPRしていくことができます。
イ)リピーターや口コミによる広がり
一度上伊那を訪れて植樹をしても、外国人観光客にとってはなかなか日本に来ることも
少ないと思われることから、日本の四季の移り変わりと共に、植樹エリアの様子をインタ
ーネットで配信することにより、植樹した上伊那地域での思い出と共に長きにわたって上
伊那エリアを思い出の地として残していただくことができます。また、インターネットで
誰でも見ることができるため、木の成長を植樹した本人だけでなく、子や孫などの家族や
友人などにも紹介ができ、樹の成長と共に世代を超えた思い出の地となり、リピーターや
口コミによる広がりが期待できます。
美和ダム湖畔
5 スケジュール及び経費
以上の構想を踏まえて、図 6 のとおりスケジュールと経費を決めました。
準備期間として、準備段階は平成 27 年度から平成 29 年度までとし、具体的な構想のスタートは
東京オリンピックやリニア中央新幹線開通を踏まえ、平成 30 年度としました。準備期間中は、設立
委員会の準備・設置や空き家の整備などを考えています。必要な経費は、主に人件費や整備費等に
使うと予想されます。
図 6 スケジュール及び経費
6 今後の課題
本施策をすすめるにあたっては、次のような課題が考えられます。
最初に県や市町村、地域住民が協働で設立準備委員会を立ち上げるイメージですが、本事業の趣
旨や目的について関係者(県、市町村、地元関係機関、住民など)の理解を得ることができるかど
うかが鍵となります。
南アルプス・中央アルプスの山岳資源や上伊那地域内の様々な資源を活用し、外国人をターゲッ
トにした新たな観光事業を興すことを関係者が共有することが重要となります。そして、上伊那地
区が目指す観光の新たなコンセプトとして位置付けることが必要と考えます。その上で市町村や観
光関連事業者に「こんなメリットがある」
、
「地域全体にもこんな相乗効果が生まれる」ことを理解
してもらい、地域が一丸となって取り組んでいきます。
先にも触れたように、上伊那地域は観光客数、観光消費額、延宿泊者数とも県内の他地域と比べ
ても極端に少なく伸び悩んでおり、大きな課題と捉えています。地域特性からも観光業が地域経済
の活性化の原動力となっていないのが現状であり、そこで生活し活動する住民や企業の観光に対す
る意識も弱いと思われます。
まず、上伊那地域全体の観光構想に、
「外国人」
「山岳リゾート」をコンセプトのひとつとして位
置付けることで、関係者が共有し、提案した事業のような具体的な取り組みを進めることが望まし
いと考えます。次にターゲットとする外国人観光客誘致の取り組みがほとんどなされていません。
ふたつのアルプスを抱えた景観などの資源は世界に誇れるものと考えられるが、その強みを世界へ
発信するしくみや地域資源を商品化する取組も不十分であり、課題といえます。
7 おわりに
南アルプスのエコパーク認定、平成 32 年の東京オリンピック開催、和食の無形文化遺産認定、平
成 39 年のリニア中央新幹線開通など外国人の誘客にはチャンスとなる要因は多くあります。
上伊那
地域に継続的に多くの外国人観光客を呼び込み、地域経済の活性化につながるかは未知数ですが、
他地域にはない、
地域資源を活用した多くの魅力あるメニューが作られ発信する取組が機能すれば、
誘客に繋がり観光客数や観光消費額の増加につながります。そのための施策として、FVA構想は
重要であり、OGCを通じて外国人観光客が宿泊、滞在することにより伊那谷の、より広域観光連
携にも発展することも期待できます。
今回提案した事業を進めるために上伊那地域の現状を捉え、新たなコンセプト(外国人、山岳リ
ゾート)の導入と共有、情報発信の取り組み、マネジメントづくりなど課題は多いですが、上伊那
地域の新たな観光づくりが行われ上伊那地域の経済活性化に繋がるものと考えます。
8 打合せ及び現地調査の経過