若者の採用・活用・定着 - 労働政策研究・研修機構

特集―若者の採用・活用・定着
――地域での就労機会の拡大に向けて
大都市圏に集中する人口過多の是正へ地域に若年雇用を――。政府は昨年末、
臨時閣議で地方の人口減少に歯止めをかける「ま
ち・ひと・しごと創生総合戦略」を決めた。①地方で働く場の創出②移住者の増加③結婚・出産などの若者の希望の実現④少
子高齢化時代に対応したまちづくり――などを柱に掲げるとともに、2020 年までに地方での若年雇用を 30 万人生み出すな
どの数値目標も打ち出している。1月9日には、若年者雇用に関する総合的な対策を検討する「労働政策審議会職業安定分科
会雇用対策基本問題部会」が、今後、検討すべき対策をまとめた報告書案を提示した。このなかには、地域雇用のあり方につ
いての言及もみられる。特集では、企業の働く地域を限定する採用行動に関する当機構の調査研究と労政審の報告書案の概要
等を紹介。さらに人手不足を解消すべく若年雇用の創出や人材育成、移住計画などに取り組む3地域のレポートを取り上げる。
少子高齢化が進むなか、人口減少と地域経済の衰退に歯止めをかける対策が求め
られている。地域雇用に関するデータなどから特徴的な内容をピックアップする。
各地域の将来推計人口
完全失業率
国土交通省の「国土のグランドデザ
一方、総務省の「労働力調査」によ
イン二〇五〇参考資料」で、地域の将
ると、二○一四年七―九月期平均の完
来推計人口(中位推計)の動向を年齢
全失業率は三・六%だった。都道府県
別にみると、大都市圏・地方圏すべて
別でみると、愛知県と和歌山県が二・
の地域で若年・生産年齢人口の減少や
四
%
、
富
山
県
と
三
重
県
が
二・五%で低
高齢者の増加が進むことがわかる。た
く、沖縄県(六・二%)
、福岡県(四・
だし、東京圏では高齢者が大幅に増加
六%)、大阪府、鹿児島県(ともに四・
する一方、地方圏では生産年齢人口が
二%)などが高い。
大きく減るなど、地域差がみられる(図
表1)。
人口移動の状況:地域別転入・転出の
推移
都道府県別有効求人倍率
総務省統計局の「住民基本台帳人口
移動報告」で人口移動の状況をみると、
厚生労働省の「職業安定業務統計」
によると、二○一四(平成二六)年一
地方圏から南関東(埼玉県、千葉県、
一月の有効求人倍率(季節調整値)は
東京都、神奈川県)への転入が続いて
全国で一・一二倍だった。これを都道
い る こ と が わ か る( 図 表 2)
。この動
府県別にみると、東京都(一・六四倍)、 きは男女共通だが、近年、南関東にお
愛 知 県( 一・ 五 三 倍 )、 福 島 県( 一・
ける女性の転入超過が男性を上回る動
四六倍)などが高く、沖縄県(○・七
きを示している。
七倍)、青森県、鹿児島県、埼玉県(い
また、これを年齢別にみると、南関
ずれも○・八○倍)などで低かった。
東と近畿で若年層の転入超過が多く
なっていることがわかる。ただし、転
ただし、正社員の有効求人倍率(実
数値)となると、全国計で○・七二倍
出超過が続く北海道、東北、中国、九
と一倍を割り込む。都道府県別でみる
州は、札幌市、仙台市、広島市、福岡
と、福井県(一・○五倍)、富山県(一・
市といった地方の中枢都市に限ってみ
○二倍)、東京都、愛知県(ともに一・
れば、転入超過となっている。
○○倍)が高く、沖縄県(○・三○倍)、
高 知 県、 青 森 県( と も に ○・ 四 五 倍 )、 東京在住者の今後の移住に関する意向
鹿児島県(〇・四九倍)で、〇・五〇
内閣官房「まち・ひと・しごと創生
倍を下回っている。
本部」が実施した「東京在住者の今後
の移住に関する意向調査」によると、
東京在住者の四割(うち関東圏以外出
Business Labor Trend 2015.2
2
採 用・活 用 ・定 着
若者の
特
集
特集―若者の採用・活用・定着
(百万人)
3
40.0
35.6
35.7
34.4
7.3
9.3
9.9
35.0
30.0
25.0
14.0
32.3
11.2
29.8
27.0
11.5
10.8
20.0
23.9
15.0
22.3
21.1
10.0
名古屋圏
(百万人)
18.1
15.7
13.9
12.0
11.3
11.2
10.7
10.0
2.5
3.0
3.1
65歳以上
8.0
15-64歳
6.0
0-14歳
4.0
7.3
6.7
10.0
9.3
3.4
6.4
8.5
3.3
0.0
4.4
4.0
2010
2020
18.5
18.0
3.4
2030
2.7
2050
2.3
2060
0.0
(年)
大阪圏
(百万人)
4.9
4.5
4.2
11.8
16.8
5.2
5.3
5.6
14.0
2.5
2.1
2010
2020
9.9
1.7
2030
8.3
1.5
2040
1.2
2030
1.1
2040
1.0
2050
0.9
2060
12.4
50.0
5.5
7.2
1.3
2050
65歳以上
40.0
15-64歳
30.0
0-14歳
15.5
38.8
20.0
6.3
59.2
18.5
33.7
54.7
18.6
49.5
44.0
18.5
38.9
0.0
(年)
8.3
2010
7.0
2020
65歳以上
17.4
15-64歳
15.7
30.4
0-14歳
25.9
22.2
19.5
5.1
2040
4.4
2050
3.7
2060
10.0
1.1
2060
(年)
地方圏
62.6
60.0
5.0
10.6
1.4
2020
(百万人)
70.0
15.4
1.6
2010
5.7
2030
(年)
資料出所:国土交通省「国土のグランドデザイン 2050 参考資料」より
(注)2040 年までは国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」
(平成 25 年 3 月推計)の中位推計。2050 年以降は
国土交通省国土政策局による試算値。
図表2 人口移動 地域ブロック別転入・転出超過数の推移(昭和 29 年~平成 25 年)男女計
(万人)
45
35
北海道
東北
南関東
北関東・甲信
北陸
東海
意識が高い。ちなみに、内閣府が都市
住民の農山漁村への定住願望を調べた
世論調査でも、二〇〇五年の二〇・六%
か ら 二 〇 一 四 年 に は 三 一・ 六 % に 高
20.0
18.0
16.0
14.0
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
3.0
2040
15-64歳
0-14歳
5.6
2.0
5.0
65歳以上
3.1
身者は五割)が地方への移住を「検討
している」
もしくは
「今後検討したい」
と考えている。とくに三〇歳代以下の
若年層と五〇歳代男性の移住に対する
図表1 地域毎の将来推計人口の動向
東京圏
まっている。
の女性は、「結婚・子育て」をきっかけ
にしたり、「出身地や家族・知人等がい
移住を検討するきっかけや移住を望
む理由は、年代や性別で大きく異なる。 る」ことを理由に地元へのUターンを
若年層に着目すると、一〇~三〇歳代
考える人が比較的多い。また、三〇歳
代男性は、「転職」や「退
職」などをきっかけに「ス
ローライフ」を理由に地
方への移住を考える傾向
がみられる。
移住するうえでの不安
や懸念材料について、一
〇~三〇歳代の若年層は
男女ともに「働き口がみ
つからないこと」をあげ
る人が多い。また、「公共
交通の利便性」もネック
になっているようだ。一
〇、二〇歳代の女性と三
〇歳代の男性は、これら
に加えて「給与が下がる
可能性」を指摘する人が
増える。
また、移住を検討する
にあたって重視すること
については、男性は一〇、
二〇歳代が「仕事」と「交
通 の 利 便 性 」、 三 〇 歳 代
は「仕事」「生活コスト」
「子育てのしやすさ」を
あげる人が多い。一方、
女性は一〇、二〇歳代で
「生活コスト」「買い物の
利便性」「子育てのしやす
さ」、三〇歳代は「仕事」
「買い物の利便性」「子育
てのしやすさ」をあげる
人が多くなる。
転入
超過
25
近畿
中国
九州
沖縄
四国
15
5
-5
転出
超過
-15
-25
昭和29
34
39
44
49
資料出所:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」
ここでは、以下のように定義している。
54
59
平成元年
6
11
16
21
○北海道 北海道 ○東北 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
○南関東 埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県 ○北関東・甲信 茨城県、栃木県、群馬県、山梨県、長野県
○北陸 新潟県、富山県、石川県、福井県 ○東海 岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
○近畿 滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 ○中国 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
○四国 徳島県、香川県、愛媛県、高知県 ○九州 福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県
○沖縄 沖縄県
Business Labor Trend 2015.2