リサーチ TODAY 2015 年 2 月 26 日 今年の転換は実質賃金が上がること 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 みずほ総合研究所は四半期毎に改訂している『内外経済見通し』を発表した1。そのなかで、日本経済 の2015年度成長率は2.1%と、2014年度に比べて大幅な改善を見込んでいる。その要因としては、従来の ストーリーライン同様に、日本経済が「トリプルメリット」で1%以上底上げされることを指摘している2。加えて、 2015年の成長率の底上げ要因には、2015年半ば以降に生じる実質賃金の上昇もあると考えている。本論 では、昨年実質賃金の伸びが大幅にマイナスになったことを踏まえたうえで、今年はそれがプラスに転じる ことの影響を重視したい。 そもそも、2014年の成長が期待外れに終ったのは、4月の消費増税によって実質賃金がマイナスになり、 消費の下振れが生じたからとされることが多い。下記の図表は春季賃上げ率の推移である。実際に、2014 年の賃上げは10数年ぶりの水準にまで上昇しており、相応の賃上げが生じていた。しかし、賃上げを大幅 に上回る物価上昇によって実質賃金がマイナスになったことが個人消費の屈折の背景にあった。 ■図表:春季賃上げ率(主要企業)の見通し 3.5 (%) 予測 3.0 春季賃上げ率 (主要企業) 2.5 2.35 2.19 2.0 1.5 事前アンケートの値 (年) 1.0 1995 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 (注)2015 年はみずほ総合研究所による予測値。事前アンケートの結果は労使・専門家全体ベース。 (資料)厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況について」、労務行政研究所「2015 年賃上げの見通し」 よりみずほ総合研究所作成 次ページの図表は、実質賃金の推移を示す。昨年は消費増税で物価3が2%以上上昇し、加えて円安 の影響も加わり、消費増税以外のCPIの上昇幅が1%を超えた。すなわち、消費増税を合わせれば3%以 1 リサーチTODAY 2015 年 2 月 26 日 上の物価上昇が起きたことになり、実質賃金は大幅なマイナスになった。一方、今年は前ページの図表で も示しているように昨年以上の賃金上昇が期待される。足元の企業収益が上場企業では最高益に近いこと や、事前アンケートの状況も踏まえると実質賃金の伸びが、昨年以上になると予想される。消費者物価に ついては、今年は消費増税が先送りされたことに加えて、原油価格が暴落した影響から、年央よりその伸 びがマイナスに転じると予想される。その結果、今年は4~6月期以降、実質賃金はプラスに転じると展望さ れる。ボーナスも、上場企業の2014年度経常利益が最高益を更新する見込みの中で、昨年からの積み増 しが期待される。中小企業においても、原油安の恩恵が波及することで徐々に賃上げに前向きな動きも展 望される4。 ■図表:実質賃金の見通し (前年比、%) 予測 2 1 0 ▲1 ▲2 ▲3 物価要因 所定外給与+特別給与 所定内給与 実質賃金 ▲4 ▲5 2013 14 15 16 (年/四半期) (注)2015 年 1~3 月期以降はみずほ総合研究所による予測。 (資料)厚生労働省「毎月勤労統計」より、みずほ総合研究所作成 足元の環境は、世界全体の状況に不透明感が強いことで、日本の景況感もすぐれないが、春以降、次 第に回復期待が高まりやすいと展望される。また、昨今の海外投資家の日本株への関与拡大の背景には 実質賃金の転換期待もあると考えられる。 1 2 3 4 「2014・15・16 年度内外経済見通し」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2015 年 2 月 17 日) トリプルメリットとは、①金融緩和に伴う円安・株高、②消費増税先送りや補正予算による財政のサポート、③原油価格下落の要 因である。 持家の帰属家賃を除く総合ベース。 日本経済については、『みずほ日本経済情報』 (2015 年 2 月号 2015 年 2 月 20 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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