07 兵庫県 関西学院中学部 2年 西村 優輝

平成 26 年度「土砂災害防止に関する絵画・作文」作文中学生の部 優秀賞(事務次官賞)
「土砂災害を体験して」
兵庫県
関西学院中学部
2年
にしむら
西村
ゆう き
優輝
今年の夏は雨の日が多かった。そして各地で土砂災害が発生し、長野では中学生1人が亡くなり、広島で
は 70 人以上の方々が亡くなり、他にも建物等の被害が各地で発生した。
特に広島の災害はテレビでも連日、報道されていた。僕はその様子をテレビで知り、自然災害は恐ろしく、
また災害に遭われた方々を気の毒に感じたものの、我が身に降りかかることがあろうとは思いもしなかった。
広島の土砂災害が発生した週の日曜日の夕方から、僕の住む大阪府北部を大雨が襲った。1時間の降水量
が 200 ミリ前後という、猛烈な雨が降ったのだ。
その日、クラブの試合のために外出していた僕は、夕方に自宅の最寄りの駅で家族と合流し、食事に行く
ことになっていた。駅に着いた頃には強い雨が降り出していた。目的のお店に向けて車を走らせていると、
低くなっている道路が大雨のために既に川のようになっていて、乗用車のタイヤの半分ぐらいが水に浸かる
ような状況だった。僕たちは、急遽行き先を変更し、近場のお店で早々に夕食を済ませ、帰宅した。
僕の家はマンションで、山の中腹に建っている。マンションの裏には雑木林の山の斜面がせまっている。
父が地下階の駐車場に車を停めると、僕は先に母と一緒にエレベーターで自宅のある階に上がった。自宅
玄関の前で、ふと外を見ると、普段は緑に覆われている裏山に、2本の薄茶色い筋が見えた。その筋の正体
について母と話していると、次の瞬間、裏山の斜面が「ドドドッ」と轟音を立てて崩れた。一瞬の内に木が
倒れ、それが薄茶色の泥水の川を土砂とともに流れていった。僕は、これが現実の出来事なのか信じられな
いという不安と同時に、これから大変なことが起こりそうだという漠然とした予感を抱いた。
やがて、父と妹もエレベーターで自宅のある階に上がってきた。地下階の駐車場にも急に大量の泥水が流
れ落ち始めてきたらしく、危険がひしひしと近づいてくるような感覚を覚えた。上下の階の住人も廊下に出
てきて、口々に不安を口にし、消防や警察に電話をかける人もいた。
気がつくと、地下階の駐車場は泥水があふれ、普段の黒いアスファルトの路面はもう見えなくなっていた。
父はとっさに「車を出しに行く」と言い出した。皆は地下に降りるのは危険だからやめた方が良いと止めた
が、父はエレベーターを呼んでいた。父 1 人で行かせる訳には行かないと思い、僕は付いていくことにした。
地下階に着くと、エレベーターホールにも泥水が入って来ていた。さらに地下階の駐車場に出ると、裏山側
のよう壁やそこからつながる通路から、滝のように泥水が降ってきていた。なんとか駐車場所から車を出し
たものの、駐車場の斜路は木切れや土砂混じりの泥水であふれ、それらを乗り越えるようにして車を走らせ
なければならなかった。近所のコインパーキングに車を停め、マンションに戻ると、共用廊下には泥水がひ
ざ下まで溢れ、エレベーターもとまっており、泥水が流れ落ちる階段を歩いて自宅に戻った。もう、ズボン
も靴も泥まみれだった。
その後、消防や警察もマンションにやって来て、避難指示が出されたが、深夜であり、自宅は上層階にあ
るため、土石流が来てもマンション自体は大丈夫だろうと思い、避難所には行かず、自宅にとどまることに
した。
翌日、未明には雨も止み、月曜日だというのに、朝からマンションの住人 100 人以上が土砂や泥の清掃作
業をしていた。僕もクラブの練習を休んで、清掃作業に参加した。土砂を土のうにつめたり、ブラシで泥水
を洗い流したり、精一杯できることをした。その時、このマンションにはこんなに多くの人が住んでいたの
か、と思うほどの大人数が作業に出てきていた。父も仕事を休んで作業に参加したが、多くの人が仕事を休
んだのだろう。僕も父もそうだったが、マンションの住人も、早く普段の生活に戻りたいという思いだった
に違いない。
また、清掃作業をする中で、様々な体験をした。近くの家の人の意外な面を発見したり、それまで知らな
かった住人と会話をしたりした。僕は小学校から私立に通っているため、子供会のような地域の行事にも参
加したことがなく、同じマンションに住む人とのつながりがほとんど無かったが、この清掃作業を通じて、
絆というか、同じマンションに住むことの連帯感のようなものを感じた。
あの日から1週間が経ち、泥水の跡はまだ至るところにあるが、ほぼ普段通りの生活に戻った。そして今、
思うことは、自然災害は身近に起こり得るものだということだ。
今回は避難しなかったが、もしマンション自体を押し倒すような土砂崩れが起きたら、自宅にいることは
危険だっただろう。逆に深夜に大雨の中を歩いて、遠くの避難所まで行くこと自体、危険が潜んでいるかも
知れない。冷静で的確な状況判断が求められる。
また、マンションの裏山の土砂崩れへの対策が不十分だったのか、1時間に 200 ミリ前後の猛烈な雨が想
定外だったのかは、まだ分からない。しかし、今回は、人的被害が無かったことが何よりだと思う。だが、
もっと雨量が多かったらどうなるのか、十分に調査し、土留めのかさ上げや排水溝の整備など必要な対策を
取らなければならないだろう。また、広島の土砂災害の報道でもあったが、対策が取られていない土砂災害
の危険箇所が各地に多くあるという。個人やマンションがとれる対策には限りがある。行政にも積極的な関
与を期待したい。