「トマトジュース」

中学生人権作文コンテスト
「トマトジュース」
七宗町立上麻生中学校三年
伊藤 美咲
岐阜新聞・岐阜放送賞
東北の被災者の人たち。あぁ、あのトマトジュースもこ
んなふうに不安だったのかな。「福島県産」というだけ
で、どれだけ差別されたのだろう。「被災者」というだ
けで、どれだけ苦しんだのだろう。私たちと、何も変わ
「これ、福島のやつやん。頼む?」
私はお母さんに呼ばれ、宅配サービスのカタログを見ま
した。そこには、福島県産のトマトジュース。
らないのに。
そう考えていると、女の子が声をかけてくれました。
「どこの中学校?」
東日本大震災があってから、正直私は東北のものをさ
私は驚きました。その一言で、一人の不安も気まずさも
けていたと思います。「放射線物質」という目に見えな
安心に変わったからです。それと同時に思いました。あ
いものへの恐怖があったから。もちろん、市場に出てい
のトマトジュースだって、肩身のせまい思いすることな
るものは安全だと分かっていました。だから私は、トマ
いじゃないか。こうやって、たった一言で、こんなにも
トジュースを頼むか、すぐには返事ができませんでした。
安心できるんだから。じゃあ、その言葉をかけるのは?
でも、「これが風評被害ってやつかな」そう思った私は、
私は嬉しくなりました。
「うん。」
「うん。」
と返事をしました。
もしかしたら、あの一言でトマトジュースを安心させる
東日本大震災から三年。連日やっていたニュースを、
今でも鮮明に覚えています。私はそのニュースを見て思
ことができたのかな。
家に届いたトマトジュースは、何も変わらない私の大
いました。
好きな味でした。
「この先の未来、どうなるんだろう。」
「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、か
大津波、原発事故、失った家族や友達…。この人達の明
つ、尊敬と権利とについて平等である。」
日は、未来は、たった一瞬で変わってしまったのかもし
れない、と。
それから間もなく言われるようになった、「放射線」。
差別、いじめ、戦争…。すべての人の人権が完ぺきに
守られる日なんて、こないかもしれません。だけど、苦
しむ人を守る事はできます。そうするには、三つの事が
今もまだ理解できていません。放射線ってなに?それば
あると私は思います。「相手を思いやること」「相手を
かりが頭に残りました。目に見えない恐怖。それにどれ
理解すること」「相手を受け入れること」。この三つは、
だけの人が苦しんだのだろう。東北のものが売れない。
簡単そうで難しいんだと思います。私も実際、できてい
東北のものは買わない。そんな状況を、私はだだの「差
るのか分かりません。だけど、これを一人でも多くの人
別」じゃないか、と思いました。確かに、たくさんのも
が意識すれば、一人でも多くの人の苦しみがやわらぐと
のが汚染されたかもしれない。だけど市場に出ているも
思います。
のは安全。それを分かってても東北のものだからってさ
私は夏休み中、初めて東日本大震災のボランティアに
けるのは違うと思います。風評被害ってすごいんだな。
参加しました。現地のスタッフさんが、
そのとき初めて知りました。
「ここはキレイな砂浜だったんだよ。」
それだけ考えていたはずなのに、トマトジュースの返
「ここは家が並んでたんだよ。」
事につまった自分に驚きました。知らないうちに、私だ
と説明してくれても、想像できませんでした。だけど分
って差別してたのかもしれない。そう思うと、本当に悔
かったことは、そこにあった日常が突然うばわれたとい
しかったです。
うこと。それでも自分たちで立ち上がろうとする東北の
夏休みに入り、私は高校見学に行きました。同じ学校
の子は居なくて、親も仕事なので一人。知らないたくさ
んの中学生の中に居るのは正直気まずくて、不安でした。
そこでふと思い出したのが、あのトマトジュース。と、
人たちは本当にすごいと実感しました。その手助けが、
ほんの少しでもできていたら嬉しいです。
一人でも多くの人が、一日でも早く笑顔になりますよ
うに。