(図書館報の原稿) 校長 久保田 法順 『全一冊 小説 吉田松陰』(集英社文庫)(童門 冬二著) NHKの大河ドラマ「花燃ゆ!」で、吉田松陰の妹、杉 文を主 人公にドラマが展開している。今、改めて吉田松陰の生き方にスポ ットライトが当たっているように感じる。彼は、33 歳の若さで刑死 を遂げたが、幕末に萩の松下村塾で多くの子弟を育てたことは、よ く知られている。私は、松陰の優れた教育者としての資質に関心を ゆえん 寄せている。彼は、 「学とは人たる所以を学ぶなり。」と述べている。 つまり、学ぶというのは、人間となる道を学ぶものであるという ことである。彼は、野山獄内での孟子の輪講でも、自分なりに考え た孟子の言葉をみんなに話します。それに対し、其々が思い思いの 考えを発表し合います。また、松下村塾では、弟子に対し、自らも ともに学ぶ立場に立つ学友だと言います。彼は門人に対し、 「あな た」 「ぼく(学僕の意味)」と呼び合います。彼は、門人の出身、年 齢、学力の程度は考えず、すべて平等に扱った。使うテキストも自 主性を重んじ、教育内容も現実に起こっている社会問題を常に討議 の対象に、情報のメモを作り、これを『飛耳長目録』と名付け、門 人が自由に見ることができた。このように、当時の私塾としては、 型破りな塾であり、身分制社会の中にありながら、人間平等主義が 貫かれていた。吉田松陰を通じて、時代の先を見据えた指針を与え られたように感じるのである。
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