ちょっとでも、やさしさを。 我孫子市立我孫子中学校三年 服部 美優 私が

ちょっとでも、やさしさを。
我孫子市立我孫子中学校三年
服部
美優
私が考える『明るい社会』…それは子供も大人もお年寄りも、みんなが立場
に関係なく助け合い、笑顔で過ごせる社会のことだ。
最近、テレビをつけると悲しいニュースばかり流れているように感じる。
「誘拐事件が発生しました。」
「男が知人の男性を殺害しました。」
こんなニュースを聞く度に胸が痛くなる。もし私が被害者の家族だったらどん
な気持ちになるだろう。それとも、犯人の友達だったら…。犯人に、被害者や
自分の大切な人を思う正しいやさしさがあれば、暗いニュースも明るいニュー
スに変わるのに。あの夏の日を思い出しながらいつも私は考えるのである。
小学五年生の夏休みのある日。私は祖母の家を目指し、一人で電車に乗った。
初めての挑戦だった。降りる駅を何度も確認し、到着するのを待った。しかし、
なかなかその駅に着かない。母に三十分くらいで着くと言われていたのにもう
四十五分以上経っていた。もしこのまま全然知らない土地に行ってしまったら
どうしよう。携帯電話を持っていなかったため助けを呼ぶこともできず、不安
だけがどんどん大きくなり、ポロポロ涙がこぼれてきた。そんなとき、
「大丈夫?どうしたの?」
と若い女の人が声をかけてくれた。全く知らない人だったため、びっくりして
最初は声が出なかった。しかし、本当に心配そうに私のことを見ていたので、
なんだかほっとし、
「ここの駅にはあと何分くらいで着きますか?」
と、駅名が書かれたメモ用紙を見せて聞いた。女の人は首をかしげ、言った。
「この電車、その駅には止まらないよ。」
どうやら乗る電車を間違えていたらしい。また不安な気持ちになりもっと泣き
たくなった。そんな私を見て、女の人はこう言った。
「次の駅で一緒に降りて、ちゃんと着く電車に乗り換えよう。」
次の駅で本当に一緒に降りてくれた女の人は、私の手をつなぎ、
「大丈夫だよ。」
と言った。階段を降り、次のホームに向かう間、女の人はずっとやさしい言葉
をかけ続けてくれた。
「一人なんだね。えらいね。」
「誰でも間違うことはあるんだよ。」
「私なんて何回も失敗してるよ。」
女の人のやさしい言葉は私の不安な心を少しずつ、少しずつ溶かしていった。
「この電車に乗ればいいからね。」
親切にホームまで案内してくれた女の人はその電車が来るまで一緒に待ってく
れた。
「ありがとうございました。」
私が頭を下げると、女の人はにっこり笑い手を振ってくれた。そして、来た電
車には乗らず、階段に向かって歩き始め、腕時計を見ると全速力でかけ降りて
いった。しばらくすると、反対側のホームでもう一度、さっきと同じ行き先の
電車に乗る姿が電車の中から見えた。てっきり、たまたま同じ駅で降りるから
案内してくれたのだと思っていた私は、女の人が降りる必要のない駅で降り、
わざわざホームまで連れてきてくれたことにこのとき気付いた。階段でのダッ
シュを見る限りきっと時間もなかったのだろう。なんだか、申し訳なく思った。
しかし同時にとても嬉しかった。胸の奥から感謝の気持ちが溢れてきた。祖母
の待つ駅へと無事に向かう電車の中は、冷房が効いてひんやりとしていたが、
私の心の中はぽかぽか温かかった。
もし、誘拐事件の犯人がどうしようもなく不安なとき、
『大丈夫?』と声をか
けてくれる人がいたらどうだっただろう。殺人を犯してしまった人が道に迷っ
たとき、道を教えてくれる人に出会えたらどんな気持ちになっただろう。そん
なやさしさを、ちょっとのやさしさを思い出し、自分もやさしい気持ちを取り
戻してそんなひどいことはできなかったはずだ。
どんな暗いニュースがテレビに流れても、ちょっとのやさしさで明るいニュ
ースを作る人は街に必ずいる。やさしさはその人の心を温め、感謝の気持ちに
変わり、その人の心にもやさしさを生む。この世にいる全ての人がちょっとの
やさしさで助け合い、その気持ちを忘れずにいたら、みんなが笑顔になり、私
の考える『明るい社会』が実現できると思っている。私はそう強く信じ、まず
私自身が誰にでも手を差し伸べることのできるような、やさしい人でいたい。
あの女の人のように。