1. ホタテガイ桁曳網漁業の省エネルギー化 水産工学研究所 長谷川 勝男、升也 利一、溝口 弘泰、三好 潤 概 要 オホーツク海沿岸で行われているホタテガイの地蒔き養殖業において、経営環境の安定化 のためにはホタテガイ採捕に関わる桁曳網漁業の燃油使用量削減等の方策が求められてい る。操業に係わる燃油コストは、遠距離のホタテ採区で操業するほど顕著に増大することが 指摘されている。ここでは、ホタテガイ桁曳網操業の燃油消費量について定量的に把握し, その改善を計るべく,実船計測と水槽試験の両面から検討を行った。船質等の影響を評価す る目的でアルミ製漁船と FRP 製漁船の操業時の燃油消費特性を調査した。本操業開始後ホ タテガイ資源量が減少するに従い、漁獲努力量(曳網距離×桁曳き回数に比例)は増大傾向 を示し、これに伴って桁曳き操業時の燃油消費量が増大した。ホタテガイ桁曳網漁船は漁獲 物を満載して帰港する復航時には、船首トリムとなり船体抵抗増加をもたらすことから、復航 時の燃油消費量は往航時に比較して顕著に増加する。模型船による水槽試験から喫水とト リム変化が航走時の船体抵抗増加に及ぼす影響を評価した。また、バラストによって船体トリ ム変化を緩和することで抵抗増加を緩和できること、即ち燃油消費量の削減に有効であるこ とを明らかにした。これらから、ホタテガイ桁曳網漁船の燃油消費量を削減(省エネルギー 化)するための運航・操業に関わる方策を提示した。 7 1. ホタテガイ桁曳網漁業の省エネルギー化 1.1 計画の概要 北海道のホタテ漁業は、生産量 43 万トン、生産額 526 億円(H20)と鮭定置網と並んで 道内の基幹漁業として地域において漁業と経済の重要な位置を占めている。しかし、ホタ テガイ地蒔き漁業では,近年多発する低気圧被害によってホタテガイの大量斃死の発生、 魚価および燃油価格の乱高下などによって経営環境が悪化しており,経費削減が強く要望 されている。道庁等からも経営改善に資する方策の一環として燃油費削減等の対策が求め られている。操業に係わる燃油コストは、遠距離のホタテ採区で操業するほど顕著に増大 することが指摘されている。ここでは、ホタテガイ桁曳網操業の燃油消費量について定量 的に把握し,その改善を計るべく,実船計測と水槽試験の両面から検討を行う。これによ って,ホタテガイ桁曳網漁船の燃油消費量を削減するための知見を提示するとともに,省 エネルギー化のための運航・操業指針を提示する。 図1 取り組みの概要(フロー図) 1.2 調査研究の内容 1.2.1 操業に係わる省エネ要素の調査研究 過去における現地調査では,ホタテ採取船は往航時と復航時において積載量とそれに 伴いトリムが変化することが確認されている。このため, ① ホタテガイ桁曳網漁船の喫水,トリム,船速と,燃油消費の関係を調査・計測する。 操業に係わる燃油消費量削減方策を検討するため,ホタテガイ桁曳網操業時の燃油消費 量の実態を,操業条件を踏まえて計測調査する。すなわち, ② 桁曳網時における曳網時間(入網量),底質の影響が燃料消費特性に与える影響を調 査する。また、桁曳ウインチおよび荷役クレーンなどの油圧機械駆動時の燃油消費を 調査する。 以上について、ホタテ生息密度が大きく操業時間も短い漁期序盤(6 月)から密度が低下 8 し操業時間が長くなる漁期終盤(11 月)にかけて行い,この間の燃油消費特性を解析し,操 業の関連づけた燃油削減方策を提示する。また,現地ではFRP製漁船とアルミ合金製漁 船が併存することから,船質の異なる2隻の漁船を対象に以上の調査を行い,船質やそれ に伴う船型による差異も併せて評価する。 1.2.2 省エネのための船体要素の調査研究 操業時の実船調査では,実際の運航状態に対する調査を行うことは可能であるが,実船 を用いてトリムや喫水,船速を変化させた燃油消費量を計測することは困難である。そこ で,これらの航行条件を変化させた場合に,燃油消費量がどのように変化するかを正確に 算定するため, ③ 実船の航行条件に対応した模型船による水槽試験を行い,実船と同じ航行条件下にお ける実船データと模型船データの突き合わせを行って,模型船データから実船性能を定 量的に算定するための修正係数を求める。 ④ 船首,船尾にバラストタンクを増設する場合を想定して,実船の往復航行時の載荷状 態を中心に,模型船のトリム,喫水,船速を変化させた水槽試験を行い,実船に対し てこれらの航行条件を変化させた場合の燃油消費量を推定する。 ⑤ 以上の結果を基に,ホタテ漁船の往復航行時における燃油消費量の削減対策を検討す る。 1.3 調査対象漁船・海域 ホタテガイ桁曳網操業の燃油消費量計測は、次の2船を対象に行う。 ①枝幸漁協自営船「A丸」・・・14 トン、AL 漁船 ②常呂漁協自営船「B丸」・・・14 トン、FRP 漁船 北海道オホーツク沿岸のホタテガイ地撒き漁業は協同経営方式が主で、ホタテガイ採捕 用の漁船は漁協自営船の場合が多い。一部でチャーター方式等もある。常呂漁協のように 自営船 12 隻を FRP 製の同型漁船とする場合もあるが、最近の代船建造は AL 製漁船が主流 となっている。それぞれ一長一短はあるものの船質・船型等による影響を評価するため、 上記の2隻を対象として燃油消費計測を行う。調査対象漁船の選定に当たっては、道庁等 との意見交換を経て、省エネルギーに意欲的な漁協のホタテガイ桁曳網漁船を対象とする。 図1 ホタテガイ桁曳網漁船、A丸(左)とB丸(右) 表1 データ取得対象船の仕様 図2 ホタテガイ桁曳網漁船(A丸(左)とB丸(右)) 9 表1 操業データ取得対象船の仕様 枝幸漁協および常呂漁協のホタテガイ4輪採区を以下に示す。本年度の操業海区は枝幸 漁協は目梨泊ブロック、常呂漁協はC海区である。 図3 枝幸漁協外海ホタテガイ輪採区(○印は漁港を示す) 図4 常呂漁協外海ホタテガイ輪採区(○印は漁港を示す) 10
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