JAMA誌より抜粋(大西淳子氏=医学ジャーナリスト)

JAMA 誌より抜粋
ICU での清拭、消毒薬は感染リスク減らさず
クロルヘキシジン含有タオルでの清拭は不要?
新たな研究結果が
報告
2015/2/5
大西淳子=医学ジャーナリスト
米国では、集中治療室(ICU)の入院患者を清拭する際に、消毒薬の
クロルヘキシジンに浸したタオルが広く用いられている。普及を後押
ししたのが、クロルヘキシジン清拭を実施した患者で、特定の感染症
の合併率が低いことを示した大規模な比較試験だ。しかし、新たに実
施された大規模比較試験では、クロルヘキシジン清拭は感染症全般の
発生を抑制しないという真逆の結果となった。米 Vanderbilt 大学の
Michael J. Noto 氏らが、JAMA 誌電子版で 2015 年 1 月 20 日に報
告した。
クロルヘキシジンは幅広い抗菌スペクトルを持つ抗菌薬で、その含
浸タオルを用いた毎日の清拭は、ICU 患者の医療関連感染リスクを低
減すると考えられている。複数の観察研究などが、この介入が多剤耐
性菌の皮膚への定着を減らし、血流感染の発生率を低減、クロストリ
ジウム・ディフィシル感染症のリスクを下げることを示している。さ
らに、骨髄移植患者を収容する ICU などで行われた多施設クラスター
無作為化試験で、クロルヘキシジン清拭を受けた患者では多剤耐性菌
(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[MRSA]やバンコマイシン耐性腸球
菌[VRE])の定着・感染と院内血流感染症の罹患が少なかったことが
分かり、2013 年に NEJM 誌で報告されて大きな話題となった。しかし、
同様の試験はその後行われておらず、他の感染症の罹患に対するクロ
ルヘキシジン清拭の効果は明らかではなかった。
クロルヘキシジン清拭には、医療コストの上昇や、クロルヘキシジ
ン耐性獲得などの懸念もあることから、著者らは、複数の医療関連感
染症に対するクロルヘキシジン清拭の影響を評価するために、実際的
なクラスター無作為化クロスオーバー試験を実施した。
対象は、米テネシー州の三次病院の成人 ICU5 施設(心血管疾患 ICU、
内科 ICU、神経疾患 ICU、外科 ICU、外傷 ICU)に 2012 年 7 月から
2013 年 7 月までに入院した患者 9340 人。2%クロルヘキシジン含浸
使い捨てタオルを用いた清拭と、同薬を含まない使い捨てタオルを用
いた清拭に各 ICU を割り付けて、1 日 1 回、全ての患者に実施した。
各 ICU では、最初に割り付けられた方法で 10 週間清拭を継続、2 週間
のウォッシュアウト期間を経て、もう一方の方法で 10 週間清拭を実施
した。ウォッシュアウト期間は、抗菌薬を含まないタオルを用いた清
拭を全員に行った。各 ICU では、この 22 週間の介入を 2 回繰り返し、
清拭以外の感染予防対策はそれまで通り実施した。
主要評価項目(1 次エンドポイント)は、中心静脈カテーテル関連血
流感染症(CLABSIs)、カテーテル関連尿路感染症(CAUTIs)、人工呼
吸器関連肺炎(VAP)、クロストリジウム・ディフィシル感染症を合わ
せた複合イベントとした。副次的評価項目(2 次エンドポイント)は、
培養による多剤耐性菌検出率(1000 人・日当たりの培養陽性件数)、
血液培養のコンタミネーション(1000 人・日当たりの発生件数)や、
医療関連血流感染症、複合イベントを構成する個々の感染症、院内死
亡、ICU 入院期間、全ての入院期間などに設定した。
Intention-to-treat 分析では、4488 人の患者について、クロル
ヘキシジン清拭期間(介入期間)に関する情報が得られた。介入期間
には、複合イベントに含まれる感染が 52 人に 55 件発生。内訳は、
CLABSI が 4 件、CAUTI が 21 件、VAP が 17 件、C.ディフィシル感染
が 13 件だった。コントロール期間の情報が得られたのは 4852 人の患
者で、うち 58 人に 60 件の感染が発生していた。内訳は、CLABSI が
4 件、CAUTI が 32 件、VAP が 8 件、C.ディフィシル感染が 16 件だっ
た。罹患率は、介入期間が 1000 人・日当たり 2.86、コントロール期
間は 2.90 で、罹患率差は-0.04(95%信頼区間は-1.10 から 1.01、
P=0.95)となった。年齢、性別、入院時の白血球数などで調整した
リスク比は 0.94(0.65-1.37、P=0.83)であり、有意な差となら
なかった。
副次的評価項目でも、クロルヘキシジン清拭が優るものはなかった。
医療関連血流感染(罹患率差は-0.45、P=0.53 )、血液培養のコン
タミネーション(率差は-0.61、P=0.40)、培養による多剤耐性菌検
出率(率差は-0.57、P=0.43)を初めとして、どの評価項目も差は
有意では無かった。
ICU ごとのサブグループ解析も行ったが、主要評価項目について有
意差が見られた ICU はなかった。なお、心血管疾患 ICU では、介入期
間で血液培養のコンタミネーションの発生率が有意に低かった(率差
-5.88、-9.41 から-2.35)が、医療関連血流感染症の罹患率には差
は見られなかった(率差-1.71、-4.63 から 1.21、P=0.26)。
原 題 は 「 Chlorhexidine Bathing and Health
Care-Associated Infections: A Randomized Clinical
Trial」、概要は、JAMA 誌の Web サイトで閲覧できる。