資産格差 小林利郎 近年各国で所得格差の拡大が進み、それが社会的不安定の原因となっていることが指摘 されている。ラテンアメリカでもこの問題は深刻である。ブラジルでは極めて低い水準の 所得しか得ていない貧困層が大多数の人口を占めていた。しかし、経済発展に伴い雇用が 増加し、給与水準が上がった結果、中間所得層が増大してこの状況はかなり改善されたと いわれてはいるが、ジニ係数その他の統計を見てもまだまだ貧富の差は大きい。昨年6月 以来頻発する大衆のデモもそれを抗議の一つとしている。 しかしラテンアメリカの経済的格差の問題は、所得格差もさることながら、実は大きな 資産格差が温存されていることではないだろうか。大農場や牧場は伝統的に著名家族の所 有であったり、民族資本企業の大株主あるいは大経済グループの実質支配者は特定の家族 内で代々引き継がれていることが多い。不動産や株式はラテンアメリカにありがちな高率 のインフレ下でも安全に価値を維持し、多くの場合増大し、そこから得られる収益率は得 てして経済成長率よりも高い。したがって所得格差と同様、あるいはそれ以上に、資産を 持つ者と持たざる者の間の格差は拡大する傾向にあると考えられる。 日本にはもはや大富豪と言える家族は存在しない。高率の固定資産税や相続税でどんな 大きな資産家でも三世代もすれば一般の人とほぼ同等になるがブラジルやメキシコでは資 産の多くは代々引き継がれて特権階級的地位を享受し続ける。ブラジルでは労働者党(PT) のポプリズム政策で低所得層には最低賃金の大幅引き上げや家族手当(Bolsa Familia)の 支給 等いろいろな名目で所得の支援があり、所得格差は緩和する政策がとられている。し かし、社会主義を標榜する歴代政権下でも、資産には寛大な税制が行われているため大資 産家や大株主の地位はずっと安泰で、何世代も経済的・社会的格差は維持され続けている。 本当に国民が平等で民主的・近代的な国になるには資産格差の縮小をもたらすような強力 な税制の施行が必要なのではないだろうか。(2014 年 12 月]
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