発生工学(2014)
Ⅲ.全胚培養
1.全胚培養とは
着床後の哺乳類胚を体外培養することを「全胚培養」という。
1-1.全胚培養の歴史
1934~1938
Nicholas and Rudnic
ラット胚をラット血漿とラット抽出液を含む培養液で培養し、2~16 体節期
まで成長した。
1938
Jolly and Lieure
1963-1964
ラットおよびモルモット胚の培養では培養温度(37~39℃)が重要であると報告。
New and Stein
マウスとラット胚を、鶏胚抽出液を添加した培養液で、静置培養の時計皿法(Watch
glass culture)で、凝固血漿を用いて培養した。培養胚の 72%に血液循環系が形成され、30%が胚芽形成
期まで発育した。
1967
New
ガラス製の筒状培養管に胎子を固定し培養液を気相ごと貫流する
培養法(Circulator system)を考案。この手法により、ラットおよびマウ
ス胚の器官形成期(ラット 9~11 日、マウス 7~10 日)を 96 時間まで培
養できた。しかし、準備に時間と手間を要すること、一度の実験で培養
できる胎子の数が少ないこと、培養液の消耗が激しく、汚染する確率が
高いことなどから医薬品の代替試験法としては使用されなかった。
1970
New
ローラーボトル法(Roller bottle/tube system)を考案。
気相を数時間ごとにボトルに注入する必要があり、長時間の器
官形成期の培養には不向き。
1974
New
自動送気型回
転培養装置(Rotator system)
を開発。
1978 に改良型が発表され広く利用されている。
2.全胚培養の方法
2-1.使用できる発生段階
全胚培養を開始できる発生段階は、器官形成初期(中
胚葉形成が開始する時期、ラットは妊娠 8 日胚、マウス
は 6 日胚)から器官形成後期(四肢の指が形成される時
期、ラットは 13 日胚、マウスは 11 日胚)の間に限られ
る。ラット 9 日胚では 4~5 日間の培養が可能だが、ラ
ットでは 11.5 日、マウスでは 9.5 日以降の胚の発育は、
胎盤機能に依存するところが大きいため、培養可能期間
が短くなる。
図
培養可能なラット胚およびマウス胚の発生段階と培養期間
(脳科学辞典 Web より)
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2-2.培養条件
全胚培養に用いられる培養液は、有効成分・必要成分が詳しく調べられておらず、細胞培養用の培地が適してい
るという保証がない。そのため、100%血清が用いられるが、溶血している血清では培養成績が下がるため、市販
のものではなく、IC 血清(immediately centrifuged serum)を各自で採取、調製する。理想的には同種血清が望まし
いが、手間とコストの面からラット血清が便宜的に使用されている。
気相は、胚の発生段階によって酸素濃度を変える必要があり、5%CO2 を除く部分は窒素で調整する。
培養条件の一例
実験動物=ラット胎齢 11 日目,12 日目
培養時間:48 時間,72 時間
解剖手技:New の子宮壁切開法, Cock loft の卵黄嚢開放法,
Yokoyama の血管止血法
培養装置:自動送気式回転培養装置
回転数:20 回/分
培養温度:38℃
培養液:ラット血清 100%
培養液量:5ml
培養瓶用量:25ml
培養気相:5%CO295%02 混合ガス
培養気相流量:100ml/min
薬液処理法:培養液内添加
薬液量:100μ1
添加物:グルコース,ストレプトマイシン+ペニシリン混合
キット 500μ1
観察項目:(生理機能)胎児心拍動数
(分化機能)胎児総体節数
(成長の指標)胎児頂殿長、胎児総体重、総蛋白質量、頭部長
【出典】横山(2006)日薬理誌 128:303
3.全胚培養の応用
現在、全胚培養が可能となっているのはラットとマウスだけであり、それも、器官形成期の初期に限られてい
る。また、材料となる胎子は、生体から採取しているし、培養には 100%血清を用いている。したがって、安全性
試験における代替システムとして利用するには、まだ不十分であるが、使用する動物個体の数を大幅に減少させ
たという面では評価されている。
応用の例
①
細胞系譜や分化様式の研究
②
発生毒性、胎子代謝、催奇形性など医薬品の安全性試験
③
遺伝子導入や遺伝子発現制御技術を利用した基礎研究
④
疾患モデル動物に対する遺伝子治療の研究
Ⅳ.雌雄の産み分け
※追加資料はありません。テキスト 7 章を参照してください。
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