第12回 債権の順位・配当・手続終了

2014 年度
倒産法
第 12 回
第12回
債権の順位・配当・手続終了
1 債権の種類と優先順位
破産財団から弁済を受けることができる債権は,財団債権と破産債権に分けられる。
財団債権は破産債権に優先する。
破産債権は,①優先的破産債権,②(一般)破産債権,③劣後的破産債権,④約定劣
後破産債権に分けられる。
優先順位は,①>②>③>④
2 財団債権
(1) 意義
破産手続によらずに破産財団から随時弁済を受けられる債権(破 2 条 7 項)
(2) 種類
(ア) 共益性を有する債権(破 148 条 1 項 1 号,2 号,4 号,7 号)
破産手続の遂行に必要な費用
→開始申立費用,債権者集会開催費用,管財人報酬
破産手続の遂行過程で破産管財人の法律行為または不法行為に基づいて発生する
債権
→双方未履行の双務契約について管財人が履行を選択した場合に相手方が有する
債権,双方未履行の双務契約について管財人が解約を選択した場合に破産手続開
始後契約終了までに生じた債権等
(イ) 租税債権(破 148 条 1 項 3 号)
租税債権のうち,①破産手続開始当時,納期限が到来していないもの,②納期限
から 1 年を経過していないもの
なお,破産手続開始時に滞納処分が開始している租税債権は,滞納処分を続行で
きる
租税には公益性があるから特に保護するという政策的配慮。
①・②以外の租税債権は優先的破産債権
旧法では租税は全額財団債権としていたのが,格下げされた。
管財人が徴税請負人のようになってしまい,破産債権者を犠牲にして怠慢な租税
官庁が保護されるのはおかしいとの批判から保護範囲を制限した。

古い租税で,滞納処分にも着手していないもの=租税官庁が徴収に熱心では
ない→財団債権として保護する必要はない
(ウ) 労働債権(破 149 条)
労働債権のうち,①破産手続開始前 3 か月分の給料債権,②破産手続開始前に退
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平野哲郎
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職していた場合は 3 か月分の給料に相当する額の退職金債権
労働者を保護するという政策的配慮。
①・②以外の労働債権は優先的破産債権
旧法では全額優先的破産債権に過ぎなかったので,格上げされた。
3 優先的破産債権(破 98 条 1 項)
一般先取特権及びその他の優先権がある債権
一般の破産債権に優先して配当を受けられる。
納期限 1 年を経過した租税債権
財団債権以外の労働債権(破 98 条 1 項)
4 一般の破産債権
優先的でも劣後的でもない債権
5 劣後的破産債権(破 99 条 1 項)
一般破産債権が全て配当を受けた後に配当を受けられる債権
破産債権者間での「痛み分け」にそぐわない性質の債権
実際に劣後的破産債権に配当されることはほぼあり得ないので,これらの破産債権は
破産の配当から除外されることを意味する。
劣後的破産債権者は,債権者集会での議決権は認められない(破 142 条 1 項)

免責との関係
劣後的破産債権のうち,破産手続開始後の利息・損害金(破 97 条 1 号,2 号),破産手
続参加費用(7 号)は,免責の効果は受ける(破 253 条 1 項本文)。
破産手続開始後の延滞税(破 97 条 3 号),破産手続開始後の原因に基づく租税債権(4 号),
加算税(5 号),罰金(6 号)は,免責の効果は受けない(破 253 条 1 項 1 号,7 号)。
6 約定劣後破産債権(破 99 条 2 項)
平常時は通常の債権(高利息)であるが,非常時は全債権者の満足に後れる扱いを受け
る債権
劣後ローン:金融機関(特に相互会社形態を採る保険会社)の資金調達方法。自己資本
算入が可能
7 破産債権の届出・調査・確定
(1) 破産債権の届出
破産債権者は届出期間中(破 31 条 1 項 1 号)に,破産裁判所に債権を届け出なければ手
続上の権利・権限を行使できない(破 111 条 1 項,112 条)
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届出は書面により行う(破規 32 条)
別除権者は,担保目的財産と予定不足額の届出(破 111 条 2 項)
届出に基づいて,裁判所書記官が破産債権者表を作成する(破 115 条 1 項)。
破産債権者表は調査・確定の基礎となる。
(2) 破産債権の調査
(ア) 債権調査期間(破 31 条 1 項 3 号)
破産管財人による認否書の提出(破 117 条)や債権者による書面による異議(破 118
条)などを行う期間

債権の認否
管財人が,届出のあった債権につき認否をする。これによって実際より多額
の債権で手続参加しようとする債権者を牽制する。
(イ) 債権調査期日
必要があると認めるときに実施される(破 116 条 2 項)。
利害関係人が裁判所の面前に会して,債権の存否について口頭陳述等をする。
(3) 破産債権の確定(破 124 条)
債権調査期間内または債権調査期日において,破産管財人が認めて,他の破産債権者
から異議が出ない場合に破産債権は確定する。

異議があるとき
債権調査で異議が出された債権者は破産裁判所に破産債権査定を申し立てる(破
125 条)
↓
破産裁判所による異議者の審尋
↓
破産債権査定決定
(↓)
※決定に異議ある債権者は破産債権査定異議の訴えを提起する(破 126 条)
異議者すべてを被告にする。判決が確定すると破産債権者表に記載され,全破産
債権者に効力が及ぶ(破 131 条)

破産債権者表
破産手続終了後に,破産債権者表を債務名義として強制執行をすることが可能(破
221 条 1 項)
8 配当の実施
(1) 配当の種類
(ア) 時期を基準としたもの
① 最後配当
破産財団に属する全ての財産の換価終了後に実施(破 195 条 1 項)
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② 中間配当
換価終了前に実施(破 209 条 1 項)
手続の遅延を防止するため
③ 追加配当
最後配当後に配当可能財産が発生した場合に実施(破 215 条 1 項)
破産者が隠匿していた財産が発見されたり,破産債権に関する訴訟で破産債
権者が敗訴したり(供託されていた配当金が他の債権者に配当される)した
場合
(イ) 方法を基準としたもの
① 通常の配当
② 簡易配当
配当可能金額 1000 万円未満の場合に,簡略化された手続で行う(破 204 条 1
項)
③ 同意配当
全ての債権者が同意している場合に,
簡易配当をさらに簡略化(破 208 条 1 項)
(2) 配当の実施
【書式:収支計算書・配当表】
破産管財人による配当表の作成(破 196 条 1 項,209 条 3 項)
破産債権者の氏名,債権額,配当可能金額,優先劣後の区別を記載
配当表に対する異議(破 200 条 1 項,209 条 3 項)
※異議事由(存在・額・順位の誤り)
配当額(中間配当では配当率)の決定と通知(破 200 条 1 項,211 条)
配当金の交付
配当したときは,管財人は配当金額を破産債権者表に記載する(破 193 条 3 項)
9 破産手続の終了
(1) 配当による破産手続終結
(ア) 破産管財人による計算報告
最後配当による任務終了後,管財人は計算報告書を裁判所に提出する(破 88 条 1
項)。
債権者集会招集の申立て(破 88 条 3 項,135 条 1 項)
計算報告に対して破産者,破産債権者は異議を出せる(破 88 条 4 項)
←破産管財業務の適正確保のため
※実際には形骸化しているため,現行法では債権者集会を任意化
書面による計算報告で代替(破 89 条 1 項)
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(イ) 破産手続終結決定
【書式:破産終結決定】
計算報告のための債権者集会の終結または計算報告書に対する異議提出期間経過
後,破産裁判所は破産手続終結決定をする
決定主文,理由の要旨の公告と破産者への通知(破 220 条 1 項,2 項)
終結決定の効果
→対破産者:開始決定に伴う人的効果(破 37 条)の消滅,残余財産の管理処分権の
回復
→対破産債権者:個別的権利行使の制限(破 100 条 1 項)の解除
※もっとも免責手続開始時は,個別権利行使制限は継続し(破 249 条 1 項),免責
許可により個別的権利行使の可能性は消滅する(破 253 条 1 項)
(2) 配当終結以外の手続終了原因
(ア) 手続の中止と失効
優先手続係属による破産手続の劣後
破産手続係属中の会社更生手続または民事再生手続の開始による手続中止(会更
208 条,民再 184 条)
更生計画または再生計画認可決定による手続の失効(会更 50 条 1 項,民再 39 条 1
項)
(イ) 同意破産手続廃止
届出破産債権者全員による,破産手続続行を求める利益を放棄する旨の裁判所に
対する意思表示
裁判所による破産廃止決定(破 218 条 1 項)
→手続の将来的消滅
→破産者の財産管理処分権の回復・復権
※免責なし=破産債権者による個別的権利行使の制限の解除
(ウ) 財団不足による破産手続廃止
① 同時破産廃止(破 216 条 1 項)
手続開始時点で財団不足が明らかなとき
破産管財人を選任せず,開始決定と同時に手続を廃止
② 異時破産手続廃止(破 217 条 1 項)
開始決定後,破産財団で手続費用を支弁するに足りないことが判明したとき
取戻権の行使,否認訴訟の敗訴等
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過去のレジメは,http://lawschool.jp/hirano/からダウンロードできます。
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平野哲郎