第13回 民事再生

2014 年度
倒産法
第 13 回
第13回
民事再生
1 民事再生法の概観
(1) 目的
民事再生手続の目的は「経済的に窮境にある債務者について,その債権者の多数の同
意を得,かつ,裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等により,当該債務者と
その債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,もって当該債務者の事業又は
経済生活の再生を図ること」である(再 1 条)
(2) 民事再生法施行前
かつての中小企業向け債権手続は「和議法」
(大正 11 年)による和議
和議の問題点
①
手続の開始原因が破産と同じ→手続の開始が遅れ,再建が困難になる
②
手続申立てと同時に再建計画(和議条件)の提示が必要(債権者の 4 分の 3 以上)
③
和議条件の可決要件が厳格
④
担保権の実行を制限できない
⑤
履行確保措置が不十分(
「和議は詐欺」
)
↓
ほとんど利用されていなかった(200~300 件/年)
。
(3) 民事再生法の特徴
上記の和議の問題点を改善して制定(平成 12(2000)年)
アメリカのチャプターイレブン手続を参考
①
破産原因が生じるよりも前の段階で申立て可能
②
再建計画は申立後に裁判所が定める期間内に提出すればよい
③
民事再生計画の可決要件は緩和されている(議決権と頭数の過半数)
④
担保権の実行を制限でき,消滅させることもできる
⑤
監督委員の監督による履行確保
↓
2001 年には 1110 件。最近は中小企業金融円滑化法の影響で 300 件台。
(4) DIP 型手続
債務者自身が主体となって手続を進めること(Debtor In Possession=DIP)
原則として管財人は選任されない。
これ自体は,和議も同様。
和議では,債務者の不適切な経営を是正監督する手段がなかった→無責任・無能力な経
営者が延命のために濫用。
民事再生では,債務者に公平誠実義務を課すほか,監督委員が選任される。経営責任の
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追及も可能。

DIP のメリット
経営権が奪われないので,経営者が申立てを躊躇せず,早期に申し立てるため,再
建が容易になる。
経営者の専門知識・営業力・人的ネットワークなどが活用できる。
経営者の再建に向ける意欲を生かせる。
*大企業を対象とする会社更生法(昭和 27 年制定,平成 15 年改正)では,更生管
財人が必置の手続遂行機関として財産管理処分権と事業経営権を有する(会更 72 条
1 項)。
弁護士の法律管財人と事業経営に当たる事業管財人が選任されることが多い。事業
管財人は,スポンサーから派遣される場合,従前の経営者が選任される場合,全く
別分野の経営者が選任される場合などがある。
2 申立て
(1) 開始原因(再 21 条1項)
① 破産原因が生じるおそれがあること
② 事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済できないこと
破産までいかない状況で,傷が浅いうちに再生手続を開始する。
(2) 担保権実行中止命令(再 31 条1項)
申立後,開始決定前に担保権の実行を中止して,再建の基盤となる資産を確保する。
① 再生債権者一般の利益に適合すること
→事業継続によって収益が見込め,一般債権者への弁済増加が期待できる
② 競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないこと
→担保権を実行しないと担保権者自身が倒産してしまうような場合は中止できな
い
3 開始決定
(1) 要件
申立棄却事由(再 25 条)がなければ開始決定がなされる
不当な開始申立てによる債務逃れを回避するための要件
「再生計画案の作成・可決・認可の見込みがないとき」
(3 号)」
過半数の債権者が再生手続に反対し,破産申立てをしている場合(東京高決平
成 13・3・8 判タ 1089・295)
「不当な目的で再生手続の開始の申立てがされたとき,その他申立てが誠実にされ
たものでないとき」
(4 号)
債務者が取り込み詐欺的行為を行い,債権者説明会に欠席し,代理人弁護士と
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も連絡がつかない場合(高松高決平成 17・10・25 金判 1249・37)
(2) 開始決定後の債務者の地位
業務遂行・財産管理処分権を掌握(再 38 条 1 項)
ただし,公平誠実義務を負う(同 2 項)ため,第三者的性格もある。
例:双方未履行の契約の解除権(再 49 条)
ただし,否認権は監督委員が行使する。
*会社更生では,更生管財人が手続遂行機関として財産管理処分権と事業経営権を有す
る(会更 72 条 1 項)
(3) 開始決定の効力
強制執行,仮差押え・仮処分,破産等は禁止・中止(再 39 条),再生債権に関する訴
訟は中断(再 40 条)
再生債権の弁済は原則禁止(再 85 条 1 項)
例外①少額債権の弁済(同条 5 項)
→債権者の数を減らしたり,取引を継続するため
②再生債務者を主要な取引先とする中小企業者の債権(同条 2 項)
→連鎖倒産防止
再生債権弁済以外の手続開始後の債務者の行為は有効。債務者に対する弁済も有効。
(4) 監督命令
裁判所は,必要と認めるときは,監督委員による監督を命ずる処分(監督命令)を発
令できる(再 54 条 1 項)
実際には,ほぼ全ての事件について弁護士が選任されている(まれに公認会計士)
。
監督委員の権限・報酬
①業務・財産状況についての調査権限がある。
②裁判所の要許可行為(再 41 条。財産の処分・譲受け,借財,提訴,和解,別除権
の目的財産の受戻し,権利放棄等)の一部が監督委員の要同意行為とされる(再 54
条 2 項)
。
③報酬は予納金から支払われる。

その他,調査委員,管財人,保全管理人,債権者委員会などの制度もあるが,あ
まり利用はされていない。
4 再生債権の届出・調査・確定
(1) 再生債権の定義
再生債務者に対して,再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(再
84 条 1 項)
(2) 届出
再生債権者は,開始決定において定められた債権届出期間内に,自らの債権を届け出
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なければならない。
(3) 調査
債務者の作成する認否書,再生債権者による異議(再 100 条)
(4) 確定
異議等がなく,債権が確定し,債権者表に記載されると,確定判決と同一の効力(再
104 条 3 項)
→再生計画に基づいて債務が履行されない場合,債権者表に基づいて強制執行可能
5 その他の債権
(1) 共益債権
再生債権者一般の利益になる債権(破産の財団債権に相当)
→再生債権に優先して随時弁済される(再 121 条)
(2) 一般優先債権
一般の先取特権その他の優先権がある債権(労働債権,租税債権)
→随時弁済される(再 122 条 2 項)
6 債務者の財産の調査・管理
破産と異なり,換価は予定されていない。
再生計画の合理性・遂行可能性を判断するために債務者の財産を評定する。
双方未履行の双務契約の処理(再 49 条以下),相殺権の制限(再 93 条以下)などは破
産法と同様(会社更生も同様)
(1) 財産評定
債務者は,手続開始後遅滞なく,一切の財産の手続開始時の価額を評定しなければな
らない(再 124 条 1 項)
。処分価格を前提として評価する(再規 56 条 1 項)
。
再生計画による弁済が破産による配当を上回ることを債権者・裁判所が確認するため
(清算価値保障原則。再 174 条 2 項 4 号)
。
(2) 否認権
監督委員が否認権を行使する。
理由:債務者が自らした行為を否認するのは社会的に認めがたい。
*会社更生では,管財人が否認権を行使する。
(3) 法人役員の責任追及
取締役等が法人の利益を害する行為を行っていた場合に,法人はその役員に対して損
害賠償請求権を有する。
訴訟より簡略な損害賠償請求権査定制度(再 143 条)を創設
債務者に加えて再生債権者も申し立てられる(債務者だけだと馴れ合いのおそれがあ
るから)。
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査定に不服があれば異議の訴えを提起できる。
*これは会社更生も同様。役員責任査定決定を受けるおそれがある者は管財人にはな
れない(会更 67 条 3 項)
。
(4) 別除権
担保権者は,再生手続によらないで行使できる(民再 53 条 1,2 項)
ただし,実行中止命令の対象となることがある。

担保権消滅制度(再 148~153 条)
担保目的物の価額の支払によって担保権を消滅させる制度
再生債務者の事業継続に欠くことのできない財産上に別除権となる担保権が存在
する場合,債務者は,一定の財産価額を提示して担保権を消滅させることの許可
を裁判所に求められる。
(再 148 条 1 項)
。
例:事業に不可欠な工場に抵当権が設定されているような場合
別除権者が争う方法
①許可決定に即時抗告する(再 148 条 4 項)・・・事業不可欠性を争う。
②価額決定の請求をする(再 149 条 1 項)
・・・提示された価額が低すぎるとし
て争う。裁判所が評価人の評価に基づき,価額を決定する。
債務者は,裁判所が定める期限までに,債務者が提示した価額又は裁判所が決定
した価額を納付する。
納付された金銭を裁判所書記官が配当する。
実際には,担保権消滅許可制度があることを背景にして,債務者が別除権者と
交渉して,被担保債権を長期分割弁済する代わり,弁済が続いている間は担保
権を実行しないとの別除権協定を締結することが多い。
*会社更生法では,担保権者を手続内に組み込む点が民事再生と異なる。
担保権の実行は原則として禁止・中止される代わりに,更生計画において優先的
に弁済を受ける地位が与えられる(会更 168 条 1,3 項)。また,管財人は担保権消
滅許可を裁判所に求めることもできる。
7 再生計画
テキスト 232~234 ページ「再生計画案」参照
再生計画案において再生債権の権利の内容を変更して (民再 155 条以下),債権者集会
の議決と裁判所の認可を受けると,再生計画として発効する(民再 174 条以下)。
*会社更生の更生計画もほぼ同様(会更 167 条以下)
(1) 権利変更
権利変更の基本は,債務減免と期限猶予
例:テキスト 232 頁の再生計画案
20 万円以下の部分は全額一括弁済
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20 万円を超える部分は 20%を 10 年かけて分割弁済
債権カット率は特に規制なし
期限の猶予は 10 年が上限(再 155 条 3 項)

再生計画案の原則
①債権者平等原則(再 155 条 1 項)
債権者平等は法的倒産手続の大原則
①の例外
a 不利に扱われる債権者の同意がある場合
b 少額債権を有利に扱う場合(再 85 条 5 項参照)
c 劣後的破産債権に当たる債権を不利に扱う場合(破 99 条参照)
d 不平等な扱いに合理性がある場合(人身損害賠償請求権を有利に扱う,経営
破綻に責任のある者の債権を不利に扱う等)
②清算価値保障原則
多数決によって,再生計画案に同意していない債権者の権利も変更してしまう
のであるから,少なくとも直ちに清算するよりは債権者一般にとって有利であ
ることが必要(再 174 条 2 項 4 号)
。
(2) 再生計画案の提出
債務者は,債権届出期間満了後で,裁判所の定める期日までに再生計画案を提出しな
ければならない(再 163 条 1 項。実務上申立てから 3 か月程度)
。
債権者も独自に再生計画案を提出することができる(再 163 条 2 項)。
例外的に事前(申立後,債権届出期間満了前)提出もできる(再 164 条)
。
申立前に債務者と主要な債権者,別除権者,スポンサー等の間で話が概ねできてい
る場合には,申立てと同時に再生計画案を提出する場合もある(プレパッケージ型)
。
*会社更生も民事再生と同様(会更 167 条以下)
(3) 再生計画案の決議
裁判所は,再生計画案を再生債権者の決議に付する決定をする(付議決定)
。ただし,
不認可事由があるときは付議しない(再 169 条 1 項 3 号)
。

決議の方法
①債権者集会での決議(再 169 条 2 項 1 号)
出席議決権者の過半数+議決権総額の過半数の賛成
・和議法では 4 分の 3 だったのを大幅に緩和→利用しやすい制度にする
・私的整理では全債権者の同意が必要
②書面投票(再 169 条 2 項 2 号)
債権者集会を開くコストの節約
議決要件は集会決議と同じ
③併用型
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集会を開催し,意見を述べる機会を保障するが,出席できない債権者には書面
での投票を認める(東京・大阪)
。
(4) 再生計画の認可
可決された再生計画を裁判所が認可。不認可事由(再 174 条 1 項)がなければ必ず認
可しなければならない。
不認可事由
①手続・計画が違法な場合(1 号)→例:債権者平等原則違反等
②計画遂行の見込みがない場合(2 号)
③決議が不正の方法で成立した場合(3 号)
④再生債権者一般の利益に反する場合(4 号)→例:清算価値保障原則違反等
8 履行確保
監督委員が 3 年間は監督を続ける(再 186 条 2 項,188 条 2 項)。全期間を監督するの
はコストがかかるため。

再生計画どおりに履行できない場合
再生債権者は,債権者表に基づいて強制執行できる。ただし,再生計画で免除さ
れた部分は除く。また履行期が到来した部分に限られる。
やむを得ない事由が生じた場合は再生計画の変更も可能(再 187 条)
。ただし,変
更した計画について再生債権者の可決と裁判所の認可が必要。
9 再生計画のスキーム
(1) 自主再建型(収益弁済型)
テキスト 24~31 ページ
事業自体は,収益を生み出せる余力があるが,債務の弁済の負担が重いため窮境に陥
った場合
赤字体質を営業努力・経費節減・新規商品開発等によって黒字体質に転換できる見込
みがある場合
(2) スポンサー型
テキスト 31~35 ページ,224~227 ページ参照
従来の経営陣では体質転換が困難だったり,債権者・従業員の同意を得られない場合
→同業他社や金融機関から支援を受けたり,身売りしたりする。

事業譲渡
事業をスポンサーに譲渡し,その代金で債権者にある程度の弁済をして,再生債
務者は解散して清算をする。
事業譲渡には全て裁判所の許可(再 42 条)が必要。
裁判所は債権者,従業員の過半数を代表する者から意見聴取をし,
「事業の再生の
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ために必要である」と認めた場合に許可をする。譲渡先や対価についても審査す
る。
さらに,債務者が株式会社で,債務超過に陥っている場合は株主総会特別決議(会
467 条 1 項,309 条 2 項 11 号)に代わる許可(代替許可)を裁判所が行う(再
43 条 1 項)
。このような会社の株主の実質的な持分は無価値になっているので,
株主に拒否権を与える必要はないから。
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手続の終了
(1) 終結決定
通常は,認可決定から 3 年間再生計画が順調に遂行されると,監督委員からの申立て
によって再生手続終結決定がされる(再 188 条 2 項)
。
終結決定がされると,監督命令は失効し,監督委員の任務は終了する(再 188 条 4 項)
。
(2) 取消決定
債務者が再生計画の履行を怠った場合には,10 分の 1 以上の債権額を有する債権者が
申し立てると再生計画が取り消される(再 189 条)
。取消申立ては認可から 3 年以上経
過した後も可能。
再生計画が取り消されると通常は破産が開始する
(
「牽連破産」
という。
再 250 条 1 項)
。
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1 月 8 日の授業の最後に小テスト2(○×式)を実施します。
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1 月 15 日は野村剛司弁護士による講演です。
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定期試験は論述試験です。レジメとテキストをよく復習しておくこと。

過去のレジメは,http://lawschool.jp/hirano/からダウンロードできます。
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