Title Author(s) Citation Issue Date Type 日本企業の研究開発 榊原, 清則; 大滝, 精一 一橋論叢, 88(3): 337-358 1982-09-01 Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://hdl.handle.net/10086/13020 Right Hitotsubashi University Repository (35) 日本企業の研究開発 巨本企業の研究開発 原 清 則 滝 精 一 造、問魑解決ないし開発、実施およぴ伝播、の三段階に 分けられる。こうした概念枠組に基づく実証的研究は、 企業の環境、個人間コミュニケーシ目ン、組織構造、顧 概念枠組と調査デザイン 本稿の目的は、比較的大量の調査データに基づいて、 客との関係等に関する技術革新の特徴を検出し、情報フ ローのようなミクロ・プロセスを記述することに成功し 日本の主要企業における研究開発活動の実態を探索する ことにある。 てきた。 ^1︶ しかしながら、歴大な研究蓄積にもかかわらず、この 研究開。発ないし技術革新のマネジメントに関する研究 は、過去およそ二五年間にわたり、産業、企業、個々の ぱ技術革新過程の情報フロー・モデルは、たしかに惜報 にとって有用な知識をほとんど提供していない。たとえ フローの特性が、技術革新のタイプや産業のあいだで変 分析レベルの現在の知識べースは、経営者や政策立案者 技術的プロトタイプとは区別され、実際に企業によって 化することを示しているが“そうした変化がなぜ観察さ 技術革噺自体の各分析レベルにおいて、精カ的に展佛さ 最初に蘭業的に利用あるいは応用される技荷を意味して れてきた。ここで﹁技術革新﹂とは、通常、発明ないし おり、それが起こるプロセスは、便宜的に、アイデァ創 33? 大榊 研究開発人貝と構成 魑織上の位逝 綱織の機能 組織憾造・過程の 全般的特性 経済的成果 研究開発実繍 管理システム 個人煽僅 評価システム 評価の厳しさ パーソナリティ 能力 評価の工套点 資質 研究開発費の 決定ボリシー 研究開発費の 配分比率 戦鴎志向性 研究開発戦略 価値 志向性 評価緒果の 活用度 第三号 (36) 第八十八巻 一橘論叢 図1調査のための概念枠組 組繊特性 れるのか、あるいは、どのような目的のために情報が利 用されるのかという﹁説明﹂ないし﹁理論﹂を欠いてい るのである。 ^2︺ 他方、産業ないし企業を分析単位とする研究には、二 ェーラーの研究のように、経済学の分析用具に依拠しな つの傾向が見られる。ひとつは、マンスフィールドやシ がら、企薬規模や市場構造が技術革新に与える影響を探 ヅク・ボヅクス内都の行動プロセスについての単純化に 究しようとするものであり、そこでは、企業というブラ 基づいて、実質的焦点は、主に企業の外部環境に当てら れている。もうひとつは、バーンズーーストー力ーやウヅ ドワードに代表されるように、組織行動論の観点から技 術と組織設計の関係を研究するもので、前者とは逆に、 外都環境に関する一定の仮定に基づいて、主たる探究の 焦点を企業の内部環境に置いている。 以上の簡潔なレビューから、われわれは次のような結 論を得ることができる。これまでの技術革新マネジメン トに関する諸研究は、たしかに一群の有用な記述的ファ イ!ディングを生み出してきたけれども、それらは限ら れた説明カしか持たないものにとどまっている。より適 33ε (37) 圓本企業の研究開発 なコミュニヶーシ目ンといった諸要因が、技術革新の成 べき間題ではない。しかしながら、強カなマネジメント ︵3︺ されなけれぱならないのである。 功と関係することは明らかになったものの、それらの諸 とビジネス・イノベーターの存在、マーケティングの成 研究の現状をこのように認識したうえで、本稿では図 要因間の相互連関に関する全体的な分析は、ほとんどな みでなく、企業および産業レベルの既存の理論枠組をも 1のような調査のための概念枠組を提起したい。図1は、 されていない。ことに、評価シ.ステムやコントロール・ 切な﹁説明﹂のためには、個々の技術革新過程の記述の 経営戦略︵特に研究開発戦略︶が、組織特性、管理・評 システムが、研究開発活動にどのような影響を与えるの 果、開発の効率的遂行、ユーザー・二ーズの理解、良好 価システム、個人属性の相互作用としての広義の研究開 かについのて分析は少ない。 視野に入れた、より高い抽象レベルでの統合理論が探究 発活動に影響を与え、その緒果として一定の成果がもた 分に意識し、その後、諸変数間の因果関係の究明に精カ 勿論、サヅフォーのメンバーは、彼らのファインディ の点を強調しておきたい。 を集中した。しかし、そうした因果関係をひとつひとつ らされ、それが再び経営戦略にフィードバヅクされるこ 第一は、有効な研究開発活動は、図1で示される諸変 明らかにしていくことはきわめて困難であり、どうして ングがそのまま技術革新の﹁理論﹂にならないことを十 数の間の多元的斉合︵一昌三亘:8冨目冒①呉︶の追求から みえる。分析の時間枠が短期であるときは、諸変数間の も都分的で漸進的な分析にとどまらざるをえないように とを表わしている。この概念枠組に関し、以下では三つ 生まれるということである。サヅフォーのデータが端的 発活動のように時間枠がやや中・長期的になる場合には、 因果関係の解明は可能でかつ有効でありえても、研究開 ^4︺ に示しているように、技術革新のプロセスは、企業がア イデアあるいは発明を製品、工程ないしサーピスに変換 無数の因果経路を想定しうるために、因果関係自体の究 、 、 、 ぺてのレベルにおいて技術はビジネスの恩考の中心都分 明よりも、むしろ全体の斉合のバターンを検出すること 、 、 、 、 、 、 、 する全体の、多元的要因からなる過程であり、企業のす をなすのであって、研究開発都門の境界内に限定される 339 合 計 414 場 き 新組わ 行 し術的に う て革に恩 る に と は ’こ ネ 込 る三 す 中 心 合.たマみれ_ の 据 医薬品 その他製造 私 鉄 その他化挙工業 電カ・ガス・原子カ 商 業 石油・石炭製品 ゴム製品 をし活で究がむ 分創動発と明よ 析造 を展技示 う 金属製品 蓋氏・’ぺ」レフ・ 機 械 電気機器 無機化学工業製品 有機化学工業製品 輸送用機器 油脂・洗剤 精密機器 り境とはむのり 、はが 、.し研 、 こなで別ろ究実 のんき個’に践 点なるの経は的 で の 。枠営 ’含 経か研組戦戦意 営を究の略賂に 戦定開 も の概 も 塗料・インキ 賂義発 と 研念富 繊 維 あ環 こ究 ’来あ 石炭鉱業・原油 ガラス・土石製品 建 設 鉄 鋼 食 晶 非鉄金属 にに指ンて二り 重自摘トおに重 要社すのら’要 での る研ず従で 回答企業の業種別分布 表1 ヨ岸ことジま が 常 と を メ れ第 よ 第三号 (38) 第八十八巻 一橘論叢 えることが必要である。最近に至って、技術革新の発展 には、それ自体のダイナミヅクスが存在することが次第 ^6︺ に明らかにされてきているが、なお、戦略と技術のあい 9︺ だの連関や、研究開発戦略に固有な論理に関しては未知 の都分が多い。ここで注意しなけれぱならないことは、 研究開発戦略は、全社戦略にたいする機能分野別戦略の. ひとつとして位置づけられるということであり、それは・ 当然全社戦略によってその概略が規定されると同時に、 全社戦略に先行し、逆にそれに影響するという二つの側 面を合せ持っているということである。 第三に、日本企業の研究開発活動に関する経験的証拠 は多くなく、その,点で本研究は一定の貢献をなしうると 考えられる。むろん、これまでにも研究開発活動につい ての実態調査が行われなかったわけではないが、組織論 や戦略論との関連を明確に意識した研究は少ない。 また、従来の日本企業に関する研究、ことに、いわゆ る﹁日本的経営﹂に関する研究の圧倒的部分は、終身雇 用や年功賃金を中心とした人事・労務の領域に築申して おり、研究開発において日本企業がいかなる特徴を持っ ているのかについての分析は、ほとんど行なわれていな 3皇0 (39) 日本企業の研究開発 い。近年、比較経営研究の視角から、日本企業の経営全 以下セはまず業績変数をコントロールしないで回答企 一一 日本企業における研究開発の特色 の、そこでは、研究開発は企業の活動の一部とみなされ 業の平均像を明らかにし、そのファインディングを要約 般について、系統的分析が徐々に蓄積されつつあるもの ^8︶ ているにすぎず、研究の中心都分となっているわけでは した上で、次に業績差を考慮した分析結果を示そう。 ^9︺ この研究では、日本企業における研究開発の特色をで ない。しかし、研究開発を真正面から取り上げた研究は、 企業のダイナミヅクスや成長パターンを考察するうえで、 あげるのは、研究開発戦階、組織、評価システム、研究 きるかぎり広範に摘出することがめざされている。とり 以下で報告されるデータは、日本生産性本部企菜行動 いまや不可欠のものになっているのである。 委員会︵委員長・宮川公男一橋大学教授︶’が実施した ぱ組織特性のように、いろいろな研究で既に繰り返し操 作化されその完成度が高いものもあると同時に、従来の 者の個人属性である。これらの概念のなかには、たとえ 査対象は、科学技術庁監修﹃全国試験研究機関名鑑﹄︵一 ﹁研究開発に関する企業行動調査﹂に基づいている。調 九七九−一九八O年度版︶に収録されている民間企業 担当役員など︶に回答を依頼した。調査は一九八一年八 あるいは技術都門を代表し得る人︵中央研究所長、技術 る。調査方法は郵送質問票調査により、各社の研究開発 川 研究開発戦略 ても留意しつつ、議論を進めていく。 の種の経験的研究のなかでいかに操作化すべきかについ 典型である。したがって、以下では、こうした概念をこ もある。研究開発戦略や研究開発の評個システムはその 研究ではほとんどとりあげられずに放置されてきた概念 月に実施され、有効回答企業数は四一四社であった。回 研究開発戦賂は財務戦略や生産戦略、マーケティング 一、五〇〇余社のうち、比較的大規模な一、一〇〇社であ 答企業の業種別分布は表1のとおりであり、特定産業へ 戦略とともに機能分野別戦賂の一つであり、より上位の ^珊︶ の過度の偏りはないとみてよいようである。 全社戦略と事業戦略に規定されると同時に、それらに先 341 一橋論叢 第八十八巻 第三号 (40) ど戦つのつ費 表2売上高研究開発費比率(55年度実繊) ち略の使 。予 忘喬姦荒警蒸一一1産業錐票傲発㈹ よ性基方は額 りで準に研の CHE繊維・化学 3.12 (1.99) 近あで特究査 FOO食品 1.33 (1.99) い之渕定開定。。。鉄鋼.非鉄金属 α。。 (αア。) か 定の発基 をぺす方費準 MEC機械 2・η (ユ・99) えを 性配い 管 ア る 向 の と ELE 電気機器 3.05 (1.93) 乏享裏窒盆三AUT輸送用機器 L90 (α76) ら十4る率つ 計 2・26 (1−93) と う個図かでの 汕は標準偏差(以下同[) こ の ど あ イ 2 と文 う り ン 言葦轟サ紫毒蓬;蓼警受婁柔芝蕎署讐雪 答い。異開i研究実あ決は つこ測発つと情 企て第な発タ究開績り定研 をこ定戦てい報 業そ三る投を開発の’ポ究 とでで略いうを ののは二資も発費売五リ開 りはきはる側提 表3研究開発費予算総額の査定 基準 水にう 的くの高ま 戦 準よなこ高’が比ず集略 Lる基のい電表率’計展 でと準よ 。気2のわ結開 重視度 (s・d・) あ 日 に う り 本基な 従来の支出水準 4・08(1・26) ・企づ研 11曇1㌦llllllllll1萎1嚢 機で平れ果の 器あ均わは性 三るはれ表質 ・ 。二の 2 を ○鉄 ・回 ∼定 五鋼二答表量 数字.、醐度スコア(1位。点,、位、点,、局重らの 鮎帥榊値蓄㍗表 てい総 表4 費用配分比率一(1) 基礎研究 9−3%(12−08) 応用研究 27.9%(19.8ア) 開 発 62.4%(24−68) が そ いる額 る の は れ 、 の で に は あい 続 rろ っ い従うた て来かい いの 。ど る支表の % ・六企4化 ’非%業 ’し 繊鉄でに図た 維金あお2 も ・属り け ’の 化の ’る図で 学○こ研3 あ 三 ・れ究にる ・九を開示 O’ 一九産発さ 二%業費れ %が別のて が最に対い 比もみ売る 。出3 よ 較低た上 。 342 (4ユ) 日本企業の研究開発 競争会杜との比較による追随型の研究開発費決定は最も 旬 の 皿兀巴b 製晶化・企業化可献 性を巫視 3.16 少ない。このように従来の支出水準を最も重視した研究 テーマの持続を重初 ■ 類似分野の深耕 2.94 費査定は、売上や利益の揺れに左右されない研究費を確 ,保しようという日本企業のはっきりしたポリシーの表わ ■ れといえる。 ■ 国内での展開 3.31 ’ 次に、研究開発投資の内容を、ここでは表4と図2の 二つの費用配分此率で検討してみた。まず表4は基礎研 究、応用研究、開発という通常の三分類であり、基礎が 一割、開発が六割、残 ︶ りを応用が占めている ^u︺ ことがわかる。次に図 2 独白に研究開発 リーダーの直観 , 2.53 均を求めた。その結果、最も多かったのは予想どおり左 図 全体が一〇〇点になる めている。次に多いのは右上の﹁既存市場・新技術﹂で 三一.三%、.次いで左下の﹁新市場・既存技術﹂の一 八.三%、右下の﹁新市場・新技術﹂の一五・二%の順 布場 ように、四つのセルの 既存 新 費用配分比率をうめて 18.3%(15.8〕 序である。日本企業は平均的には、マーケティング・ノ 2 費 用 新規ーの別に二大別した { 8〕体系的なテーマ探索 ■ 25 シーズ探索型研究 ■ 2.69 て 7〕技術提携に械極的 市場の「すきま」の遺寸 1 2.04 i 1.83 に研究 フオロアーの利点グ 追求 { 3〕競合者と同一の 領域で対決 ( 4〕異質な技術分野へ の積極的進出 { 5〕海外での研究 開発活動に偵極的 ( 6〕二一ズ即応型研究 広範な領域で総合向1 .2写 ( 1〕少数の重点的 テーマヘの特化 ( 2〕先取リ志向 4 2 3 上の﹁既存市場・既存技術﹂で、全体の三四・三%を占 図3戦略志向性 マトリヅクスであるo 配 上披 分 て、それぞれを既存と 脾術 り、横軸を技術にとっ ⑫ 2は、縦軸を市場にと ユ5.2%(15.4〕 2.49 { 9)テーマの改劇こ 禰極的 Φ 技術ノウハウの 蓄穫を重視 o 31.3%(18.2〕 34.3%(24.3) もらい、回答企業の平 343 ■x刊』既存 新 (20.5) 19,4 (15.3) 技能者 15,1 (15.9) 8.7 (6.8) の合計は六五・六%︶、シーズ志向 開発に熱心であり︵上の二つのセル 既に去り、現代はそれを文字通り組織的に展開していか 研究開発も、個人のオリジナリティに依存する時代は ②組織 であろう。 というよりもむしろ二ーズ志向が強 ねぱならない時代である。研究開発を組織的文脈の中で ウハウの生かせる既存市場での技術 いといえる。 η 21 し、第三にとりあげたの 態的特質に関わるのに対 二つが組織の公式的・形 位置づけである。以上の 部門の全社組織における とした。第二は研究開発 他﹂の四つを分析の範曉 ﹁技能者﹂、﹁研究事務ぞの ﹁研究者﹂、﹁研究補助者﹂、 のうち、構成については の人員と構成である。そ 第一は研究関係従業者 とりあげた。 ^12︺ 検討した研究は数多くあるが、ここでは研究開発組織の 独立関係会社 最後に、戦略志向性の集計結果は 29 特性として以下の三つを 祉畏一事業部一事業所一研究所 82 図3のとおりである。中心軸から ○・五以上離れている㈲と㈹と⑩に 注目すれば、日本企業は海外での研 つつ、既存市場を中心に二ーズ志向的に研究開発を展開 上や利益に左右されずに一定水準の研究開発費を投入し 研究開発戦略に関する以上のデータを要約すれぱ、売 可能性を強く意識した研究活動を行なっている。 で あ る 。さらに、製品化・企業化 2の発見事実と斉合的 究 の 性 格 よりも二ーズ即応型研 が 強 い 。この事実は、図 消 究開発活動にきわめて 極 的 で あ り 、 シーズ探索型研究 研究事務その他 し、製品化・企業化の早期実現をめざすというのが日本 ア8 社長一事業部一研究所 53.9% 研究補助者 企業の平均的な研究開発戦略である。こうした戦略は、 8ア 社長一開発本都一研究所 研究者 欧米企葉へのキャッチ・アップを追求してきた、日本企 234 377 207 250 社畏一担当役員一研究所 48社 90 社長一研究所 会社数 研究所数 表5研究関係従業者の構成 業のこれまでのフォロアーとしての立場を反映したもの 表6 組織図上の位置 第三号 (42) 第八十八巻 一橋論叢 344 (43) 日本企業の研究開発 (O.68) 経営トヅプとの緊密なコミュニケーシ目ン 2,86 教育,研修,留学プログラム 2,55 (〇一72) (O.76) 研究開発成果に直縞した老課,処遇 2,49 (O.69) 人事交流,配置転換 2,46 (O.ア1) 組織改革 2,42 (0.69) 褒賞制度の整備 2.25 (O.72) は、組織のワーキングの特質であり、研究開発組織が実 際にどのように機能するのかという問題である。ここで はそれを、組織の活性化、技術の部門間トランスファー、 製品開発プロセスの中で最も重要な段階、研究のための テーマ・ソースという特殊な四つの項目についてきいて いる。 集計結果を順にみていこう。研究関係従業者数の回答 企業の平均は二六六人、その全社従業員比率は七二八% である。研究関係従業者の構成を表5に示す。﹁研究者﹂ は研究関係従業者全体の五割強にすぎず、残りを﹁研究 補助者﹂、﹁技能者﹂、﹁研究事務その他﹂が占めている。 次に、研究所 研 土 1 16 42 2 10 1 2 の度 6 パ の組織図上の位 催頻 34 (0−65) 3,04 4点尺度 回件 会社数 回/年 を反映した結果 とみられる。 社長または担 当役員が主催す る研究開発の会 議についても調 査したところ ︵表7︶、この ような研究開発 のトップ会議は 三四一社がもっ ており、その開 催の頻度で最も 研究開発組織のワーキングの特質については、表8、 回の頻度である。 回、つまり月一 多いのは年二一 表9、図4、図5の縞果が得られている。 3,19 社内他部門との緊密なコミュニケーシ目ン 主催 置で最も多かっ ︶開 計 員の 6 たのは、﹁社長 ’7 12 2 43 64 86 09 役議 当会 −担当役員−研 担の ︵発 4 0 4 3 1 究所 ﹂1 の二三四 2 4 5 0 3 長開 社究 社である︵表6︶。 研究開発部門内での緊密なコミュニケーシ目ン 研究開発組織にとっては、弾カ的で柔軟な組織のあり 重視度 (s.d。) 7 0 1 2 3 4 = 一 6 これは一時の中 表8 研究開発組織の活性化 方がとくに求められる。研究開発組織の硬直化を防ぎ、 345 会社数 央研究所ブーム 表 一橋論叢 第八十八巻 第三号 (44) 3,28 (O.64) 3,12 (O.73) 部門管理者間の接触 臨時的なチームの編成 3,08 (O−62) 2,62 (〇一79) 2,60 (O.η) 2,22 (0−93) 担当者が一緒にシフト(移動) 2,11 (O−80) 専門のコーディネーター(統合担当者) 2.01 (O−S6) 常設の委員会 4点尺度 およぴ経営トヅ 内、社内他都門、 のは、研究部門 重視されている かるうえで最も その活性化をは 企業が最も重視して 全プロセス︵アイデアから販売にいたるまで︶のなかで、 この部門間トランスファーに関連するが、製品開発の れを補完する直接的接触が多いようである。 者︶﹂は、日本の現状では稀であって、むしろ文書とそ でよく用いられる﹁専門のコーディネーター︵統合担当 査﹂、⑦の﹁製品化﹂ ②の﹁市場の予備調 ﹁アイデア収集﹂、 わかれるのは、①の 在と将来とで見方が 要と答えている。現 マの決定﹂が最も重 将来も、﹁開発テー り、現在も、そして は図4のとおりであ をきいてみた。縞果 要な段階はどこか、 れぱ戦略的に最も重 いる段階、言い換え 3位1点〕の平均値 プとの緊密なコ 数字は重視度スコア(1位3.点。2位一2点 }半 O.1多6 有意 ミュニケーショ ンである︵表8︶。 それに対して、 ﹁褒賞制度の整 # ユ% 有意 2.O 1.5 1.O O.5 開 発 段 階 備﹂や﹁組織改 革﹂はあまり重 視されていない。 トランス7アーを円滑にするために回答企業がよく用い つであるが、研究開発部門から製造およぴ販売部門への 都門間の技術トランスファーは近年の最大関心事の一 トヅプまたは事業部長の陣頭指揮 ているのは、第一に﹁担当者レベルの接触﹂であり、第 ⑧販 売 担当者レペルの接触 仕様書,図面,文書類の整箪 二に﹁仕様書、図面、文書類の整備﹂であり、そして第 ** 使用頻度(昌一d.) 三に﹁部門管理者間の接触﹂である︵表9︶。アメリカ 一’ ⑦製晶化(設計,製造〕 、・’ ⑥市場調査・販売計画 .・1 ‡ 申* 一.■ 現在 非* ’’ ’I一:I ④開発テーマの決定 ⑤研究開発 *‡ .将来 ①アイデア収菓 ②市場の予備調益 非 表9部門間トランスファー 図4製品開発プロセスで最も重視している段階 ③技術的可能性の調査 現在と将来の差の有意性 346 つかずのものであり、それゆえにこそ、将来それらを重 なるということである。これらの段階は現在ほとんど手 アイデアの収集や市場動向の正確な把握のほうが重要に る傾向がある。実際の設計・製造よりも、むしろ新レい れども、反対に⑦の製品化段階は、将来、より軽視され などで、①と②は、それを重視する傾向が将来強まるけ なかから、新しいテーマを発見し、それを研究開発の課 本企業は営業第一線を通じた顧客との日常的相互作用の ティング都門﹂と﹁顧客﹂が占めていることである。日 あるが、注目すべきは二番手、三番手を﹁販売・マーヶ 開発部門﹂がトヅプにくるのは当然予想されるところで を重視しているかをきいた結果が、図5である。﹁研究 イニシアチブを発揮し率先垂範して事業をリードしてい 題にしているのである。他方、﹁社長および常務会﹂が比 さて、それ くアメリカ型の経営者とは異なるのである。むしろ、緊 視しようとい では、新しい 密な対人関係の形成を通じて組織の統合をはかり、それ う傾向も強い 研究開発プロ によって研究開発を方向づけていこうとするのが、日本 のかもしれない。日本のトヅプ・マネジメントは、革新 ジェクトのア 型のトツプであり、それゆえにこそ、彼ら自身が重要な 較的低く位置づけられているのは、日本企業に特有のも ィデァを、日 テーマ.ソースになることは一般的ではないのであろう。 のであろう。 本企業はどこ テーマ・ソー のであろうか。 われわれのデータもまた、大学・研究機関の影響が日本 ことは一般にもしぱしぱ指摘されていることであるが、 学.研究機関﹂、﹁挙会﹂の評価の低いことである。この 図5から読みとれるもう一つの興味ある事実は、﹁大 スとしてどの ではきわめて小さいことをはっきりと示している。 から得ている ような憎報源 347 日本企業の研究開発 (45) ’ 社長および常務会 研究開発部門 販売・マーケティング部門 2.O 1.5 1.O O.5 情報源1テーマ・ソース〕 図5 どの情報源を重視しているか 製造部門 中聞販売業者 原料供給会社 同業他杜 顧 客 新聞・雑誌・単行本 特許公報 犬学・研究機関 学 会 数字ほ重要度スコァ(1位3点,2位2点I3位1点)の平均値 ㈲ 管理システム 度ふれることにしよう。 。 組織特性に関する以上 の分析からほぽ一貫して を与えるものである。そのなかには、人事管理システム、 計数管理システム、目標管理システムなどが含まれるけ 頻繁な直接的コミュニケ 価に関連して、評価の厳しさ、評価の焦点、評価結果の 評価するか、という問題である。ここでは研究開発の評 た。研究開発で最も難しいのは、その活動をどのように れども、この調査では、研究評価システムに焦点を合せ ^螂︺ ーシ目ンが、日本企業の 活用度の三つを調査した。 浮かぴ上がってくるのは、 研究開発組織で重要な役 まず研究評価の厳しさの程度であるが、われわれはそ 割を果していることであ 3,12 (O.68) 3,10 (0.72) 競合他社の動向 自社保有技術との関連性 3,08 (O.71) 2,98 (O.66) 潜在マーケットの大きさ 技術の新しさ,革新性 2,93 (O.67) 2,90 (O.69) 開発期間 2,87 (O.65) 毅資利益率 2.79 (0。η) 披術の潜在カ(ポテンシ ャリティ)の犬きさ 2.79 (O.70) 技術の難易度 2,62 (0.64) 開発費用 ノ 2.60 (0.72) れを次の四つの段階の別にきいている。ω研究着手時の 経営戦略への適合性 自社マーケヅトの関連性 る。メンバーの間の頻繁 重視度 (S.d.) な接触は組織の活性化と 技術トランス一ファーに寄 与し、メンバーと顧客と の直接的相互作用はテー のか、という点である。この点については、後にもう一 いは、何らかのマネジェリアルな努カを反映したものな ニケーシヨンが、日本人の民族的特性によるのか、ある マ発掘に貢献している。問題はこのような活発なコ、、、ユ 5点尺慶 管理システムとは、最も一般的には、複数の職務およ 4点尺度 図6評価の厳しさ ぴ組織ユニツトを連結し、作業の仕方に具体的な方向性 表10重視する評価項目 第三号 (46) 第八十八巻 一橘論叢 348 (47) 圓本企業の研究開発 評価、②研究過程での中間評価、㈹実用化︵企業化︶移 じみLの良さが重視されるのであり、またマーケティン 潜在カ︵ポテンシャリ 重視する評価項目の第一に﹁経営戦略への適合性﹂をあ 戦略の見直し﹂に活用する程度が最も高い。この発見は、 グ・ノウハウを生かせるかどうかが、評価の文字通りの ティ︶の大きさLとい を評価結果に基づいて変える例は少ないようである。ひ げた前出の表10のデータと斉合しており、納得のできる ﹁自社マーケヅトとの とたびテーマとして立てられたからには、安定的な資源 った技術自体の固有の 関連性﹂といった項目 配分を保証し、評価結果によってそれを簡単に変えたり 結果である。また、﹁特定のテーマの改廃﹂に活用する が、評価項目として一 はしないというのが、日本企業の平均像なのであろう。 属性よりも、﹁経営戦 般に重視されている。 この事実は、売上や利益に左右されずに一定水準の研 程度も高い。しかしながら、﹁各テーマヘの資源配分﹂ 日本企業においては、 究開発費を投入するという、既にみた日本企業の戦略ポ 略への適合性﹂およぴ 戦略との一貫性や﹁な 349 行前の評価、ω成果の事後的評価。調査緒果は図6のと 4点尺度 試金石なのである。﹁開発費用﹂、﹁投資利益率﹂、﹁開発 (O.92) おりであり、実用化移行前の評価が最も厳しく、成果評 (0−78) 2.59 期間﹂といった定鐙的・客観的データはそれほど重視さ 2,64 各テーマヘの資源配分 価がそれに次いで厳しい。他方、研究潜手時や研究中途 研究所の業績評価 れていないが、このように定量化され形式化された思考 (0.76) には、厳しい評価はほとんどなされていないのが実状で 2,79 が背後に退くのも、日本企業の特色なのかもしれない。 (O・ア4⊇ 担当グループの業績評個 ある。 2,87 評価システムに関連して第三に調査したのは、評価結 (O.74) 研究者個人の業績評価 第二に調査したのは評価の焦点であり、評価項目とし (O.72) 3,O0 問題である。表uに示すように、評価結果は﹁研究開発 3,17 特定のテーマの改廃 果をいかなる側面に、どの程度活用しているか、という 研究開発戦略の見直し て何を重視するかを、表10の11項目についてきいてみた。 活用度 (s.d一) その表にみられるとおり、﹁技術の難易度﹂や﹁技術め 表11評価緒果の活用度 R&D管理者 専門知識 3,74 熱 意 3,68 統率カ 熱 意 3.73・ 推進カ 3,43 先見カ 3,85 独創性 3,68 忍耐カ 3,32 推進カ 3,85 忍耐カ 3,47 専門知識 3,32 広い知識 3.ア1 分析能カ 3,33 独創性 3,24 愛社精神 3,46 3,09 経 験 3.19 分析能カ 3.42 の高いバーソナリティ次元を、上位六項目まで示した表 る。ここでは、もう少 保にあるとよくいわれ ギは、優秀な人材の確 研究開発の成功のカ ω個人属性 わめる能カ、つまり先見力である。研究開発管理者には、 く統率カと、新しいテーマの将来における可能性を見き 究開発管理者にとって重要なのは、研究者をまとめてい せていく熱意であり、推進カであり、忍耐カである。研 はなく、むしろ既存の知識とか技術を粘り強く組み合わ 術者にとって重要なのは、そうし・た専門知識や独創性で めていく上で不可欠な科学的な専門知識である。開発技 である。この表で興味ぷかいのは、重視度が最も高いパ リシーと斉合しており、 し立ち入って、研究者、 さらに強い愛社精神も要求される。彼は会杜の価値に一 研究開発の一貫性・持 開発技術者、および研 体化し、その価値を自ら体現することによって、一人ひ ーソナリティ次元が研究者、開発技術者、研究開発管理 究開発管理者に必要な とりの研究者を会社の目標に結ぴつける紐帯にならなく 続性への強い志向性を 能力、資質、価値、志 てはいけないのである。 者の三者の間でまったく異なることである。 向性の中身をみていこう。個人の能 カ 、 資 質 、価 値 、 志 このように、研究者、開発技術者、研究開発管理者の うかがわせるものであ 向性は、しぱしぱパーソナリティという言葉で総称され 三者の間で、重要なバーソナリティが異なるということ すなわち、研究者にとって最も重要なのは、研究を進 ている。われわれは、パーソナリティとして何が重視さ る。 れているかを一六のパーソナリティ次元について、研究 は、研究開発に唯一最善のバーソナリティは存在しない 数字は皿視度スコァ(4点尺皮)の平均値 者、 開 発 技 術 者 、 研 究 開 発 管 理 者 の 別 に 調 査 し た 。 3,87 ということを意味する。望ましいバーソナリティは、そ 表12期待されるパーソナリティ 調査結果は表12に要約されている。その表は、重視度 順位 研究者 開発技術者 先見カ 第三号 (48) 第八十八巻 デ橘論叢 350 (49) 日本企業の研究開発 研究者の評価方法 数字は皿視度スコア(1位3点12位2点。3位1点)の平均値 発技術者を管理 は、研究者や開 い。そのために は、容易ではな を配置すること ナリティの人間 さわしいバーソ ⑤経営トヅプの稜極的関与・理解 ④ 自社の技術蓄穣 ③経営戦略、研究開発戦略の明確化 ②研究リーダーの指導カ ① 研究者・技術者の優秀性 FSは、次の五つに集約できるようである。 は図7のとおりであり、日本企薬が考える研究開発のK を日本企業が何であると考えているかを調査した。結果 さて以上においては、研究開発に必要な個人属性を詳 歴史的に増われた独特の風土・気風 の職務内容に応じて変わるということであり、各職務に 研究開発体制・組織のあリ方 細にみてきたが、日本企業は実際にも、優秀な研究者と 経営戦略,研究開発戦略の明確化 はそれにふさわしいバーソナリティの人間が必要だとい 経営トッブの積極的関与・理解 指導カに富む研究リーダーの確保こそ、研究開発の成功 研究リーダーの指導力 うことである。優秀な研究者や優秀な開発技術者は、必 投下資金最 のカギだと考えているようである。われわれは、研究開 研究者・技術着の優秀性 ずしも優秀な研究開発管理者ではないからである。し 自社の技術蓄櫛 ■ O,25 O.50 O.75 1.00 1,25 発のKFS︵目2句碧庁o易︷含ω;8窃−成功のカギ︶ 者にシフトさせ ヅプの関与が重要になる。さらに、自社の技術蓄積も欠 すなわち、研究者と研究リーダーに人を得ることが最 を確立すると同 かせない。 る一定のスイヅ 時に、一貫した これらの項目のなかで、①と②は日本企業においては、 も重要であり、その上で戦略による明示的方向づけとト 長期的人材育成 チング・ルール に努める必要が 長期にわたる一貫した努カの結果としてのみ得られるも 冨︶ のであり、また④が長期的努カの成果であることは、言 あろう。 351 ■ かし、職務にふ 図7成功のカギとなる要因 成功させる要因 第三号 (50) 第八十八巻 一橘論叢 開発の成否のカギを握ると考えているのである。 手段・施策よりも、長期的な一貫した努カこそが、研究 うまでもない。このようにみると、日本企業は短期的な 第一線を通じた顧客との[口常的相互作用が、重要なテー 強調されているだけではない。日本企業においては営業 的接触である。このような頻繁な相互作用は、組織内で マ・ソースになっているのである。 ヶーシ冒ンを促し、集団凝集性を高めて、あいまい性状 頻繁な直接的相互作用は組織メンバーの間のコミュニ 以上、前項では日本企業の研究開発の平均的な特色を 況下におけるメンバーの不安を除去することができる。 三 日本企業の研究開発の強みと弱み 様々な側面からみてきた。われわれは研究開発戦略、組 直接的相互作用こそ独創性を刺激するカギであると主張 する論者もいるほどなのである。 ^∬︺ 織、評価システム、個人属性にかかわる多様な変数をと りあげてきたが、重要なのは、それぞれの特色が梱互に 頻繁な直接的相互作用が、研究開発に対して決定的に重 その第一は、日本企業においては組繊メンバーによる があるといえよう。 . ある。ここでそれを整理・要約すれぱ、次の四つの特色 定の一貫した特色を日本企業がもっているということで ウハウの蓄稜と人材の確保およぴ育成を重視している、 配分をその都度変えるという傾向は弱い。長期的技術ノ 究評個基準である。評価結果に応じて各テーマヘの資源 られる。経営戦賂との一貫性やなじみの良さが重要な研 えぱ、研究費総額は従来の支出水準を重視した形で決め .強い志向性が、日本企業にはみられることである。たと 第二に指摘できるのは、一貫した長期的研究開発への 要な役割を果たしているということである。研究開発部 等々のファインディングは、日本企業が短期的・機動的 独立ではなく密接に関連しており、複数の概念を貫く一 門内、社内他部門、およぴ経営トヅプとの緊密なコミュ 向づけを重視していることを示している。 な研究開発の展開よりも、むしろその一貫性と長期的方 るキー.ポイントであり、都門間の技術トランスファー このような長期的志向性は、おそらく米国企業とは対 ニケーシ目ンは、日本企業の研究開発組織を活性化させ を促進するのも、撞当者およぴ都門管理者レベルの直接 352 (51) 目本企業の研究開発 さて以上の特色は、日本企業の大きな強みになってい チプを発揮し、重要なテーマ・ソースになるというケー ると同時に、特有の弱点にもなっていると思われる。そ 照的なもゆであろう。晩示的戦賂プランニングに基づき︷ が、米国企業の一般的なやり方であると恩われるからで れを順番に列挙していこう。 スは、日本では決して多くないのである。 ある。 ω 頻繁な直接的相互作用は質の高い憎報伝達を促し、 研究開発の方向づけの修正・変革・再定義を繰り返すの 日本企業の研究開発にみられる第三の特色は、研究開 トとの関達性が一般により重視されている。日本企薬は 的戦略に支えられたものではないために、いたずらに現 成果の一貫した追求と蓄穣を可能にするが、それは明示 ω 研究開発における日本企業の長期志向性は、研究 創造性を刺激するけれども、対人間の直接的相亙作用に 徹底して技術の種子を追求しそれを開花させるというよ 状を肯定したり、従来の資源配分を機動的に修正するこ 二ーズ志向において追求されていることである。この点 発の一貫性が主にマーケティング・ノウハウを重視した りも、むしろ顧客との日常的接触のなかから時間をかけ とを不可能にする。 のみ依存すると、可能な相互作用の範囲が限られてしま て確立してきた自社マーケヅトとの関連性のほうを重視 ㈹ 二ーズ志向の研究開発は、市場動向への迅速な対 は、費用配分比率が、既存技術についても、新技術につ するのであろう。 応を促し、既存市場の深耕に役立つけれども、独創的な い、研究開発活動をグローバルに展開することができな 最後に、経営トヅプのイニシアチブが、自らの創意と シーズの探索およぴ掘り起こしを後退させ、技術的ブレ いても、ともに既存マーケットで顕著に高いことによっ アイデアに基づくのではなく、むしろ組織の統合担当者 ークスルーや飛躍的な研究成果の獲得を困難にする。 い。 としてのコーディネーター的役割によウていることも、 ω 多数のメンバーが多様なアイデア・情報をミキシ て示される。また、研究評価についても、自社マーケヅ 日本企業の大きな特徴であろう。この点についてはデー シーズ タが隈られているけれども、トヅプ自らが革新イニシア 353 一橋論叢 第八十八巻 第三号 (52) 表13低業繊企業と比較した萬業繊企業の特性 S 戦 略 S1従来の支出水準をそのまま用いる傾向は弱い。 S2既存市場・既存技術への投資が多く,新市場・新技術への投資が少ない。 (戦略志向性の特質には顕著な差はない) ○ 組 織 01研究者や研究補助者の構成比率に大きな差はないが,r研究事務その他」 のカテゴリーの人々が多い。 02 組織活性化の手段としてr人事交流・配置転換」をきわめて璽視している。 03製晶開発の金プロセスのなかでは,研究段階と開発段階そのものよりも, アイデア収集段階をより重視している。 04 「社長およぴ常務会」と「同業他社」,「顧客」がテーマ・ソースとしてよ り重視されている。それに対して,フォーマノレ・ソース(特許公報.新 聞・雑誌挙会,犬挙等)を重視する傾向は弱い。 05憎報ミキシングが活秦(計画的人材ローテーシ目ンを実施している,専門 分野・キャリアの違う混成部隊の編成が中心である) 06 内部昇進の傾向が弱い(研究者の多くが生え抜きとは限らない,社外から の研究スタヅフの補充により檀極的である)。 C 管理システム C1研究評個が金体に厳しい。なかでも研究過程での中閲評価を厳しく行なっ ている。 (評価の焦点,評価結果の活用度には,大きな差はない) P 個人属性 (顕著な差はない) か評企繍を 業な価業変ま前 綬る シ と数 つ節 変差ス の を た ま 数異テ間導 く で にがムに入考の はあ’研し慮分 ’る個究’し析 研か人開低てで 究を属発業いは 開み性の綬な企 発てに戦企い業 実いお略.業。間 纏こい’とこの よ う て組高 こ業 り。’織業で績 も い ’綴業差 必 を 四 高 成 長 企 業 と な減れ も す ら の る。の る よ う で努強 あ カ み に な ろ こ を る う そ よ 低 。 ’ り 成 日 一 長 企 業 さ 要削 こ れ 本層 企強 業化 の に し 比 較 最弱 も み が合 プ1努 ン に ン はにのカバ取グ ぴも強を1りさ こ そカ得の組せ り れな る 参む な 、がリの加とが 組発1が意いら 織撞ダ容識うテI がさ1易を1ヨ1 慣れシで強本マ 性ずヅあ化のを に’プるしや決 よ無が反’り定 つ責必面一方 し て任要’致は’ 支体な ト し ’研 配制場ツたメ究 354 (53) 日本企業の研究開発 がら、中間にかたまっている一七五社をカツトして、残 −タを、主な指標として採用した。GSLの分布をみな 去五年間の売上成長率︵GSL︶という客観インディケ 企業業綬の全体にかかわる変数を考慮することとし、過 ースについては、﹁社長および常務会﹂が重視されてい 計画機能が強調されているのかもしれない。テーマ・ソ いる。既述のように、高業綬企業では研究開発の企画・ 段階そのものよりも、アイデア収集段階をより重視して る。製品開発の全プロセスのなかでは、研究段階と開発 ^茄︶ りの二三九社を低業綾企業︵GSLの小さい企業︶二一 る。っまり、高業績企業ではトヅプ・リーダーシヅプが り重視されているが、その反面、特許公報、新聞・雑誌、 より前面に出ている。また﹁同業他社﹂と﹁顧客﹂がよ 三社圭目同業瀬企業︵GSLの大きい企業︶一一六社とに 二分すると、低業綾企業に比較して高業綾企業には次の ような特色があることが見出された︵表H︶。 ^〃︺ 学会、大挙等の7オーマル・ソースは重要とみられてい 重要な憎報源になっているのであろう。 の直接的接触や頻繁な相互作用が、高業績企業ではより このように、市場や顧客との関係においても、対人間 ない。 まず研究開発戦賂に関して、高業綬企業では研究費総 額の決定に際し、従来の支出水準をそのまま用いる傾向 が相対的に弱く、それだけゼロベース的思考が重視され ている。また、既存市場・既存技術への投資が多い半面、 新市場.新技術への投資が少ない。このことから、高業 的深耕を中心にしていることがわかる。 文章をあげ、その正しさを五段階尺度できくことによっ めに、われわれはさらに、組織の典型的特性を叙述する 組織の構造およびプロセスの全般的特徴を調査するた 組織特性では、研究者や研究補助者の構成比率に大き て定量化するという方法も用いた。その結果、高業綬企 績企業は現在の市場と既に保有している自社技術の徹底 な養はないが、﹁研究事務その他﹂のカテゴリーの人々 計画的に人材ローテーシヨンを実施し、また専門分野・ 業には次のような二つの特徴が認められた。その第一は、 ーに従事しているのかもしれない。研究組織の活性化の キャリアの違う混成部隊の編成が中心であるという特徴 が多い。それらの人々は研究開発の企画、計画、レビュ 手段として、人事交流・配置転換をきわめて重視してい 355 一橋論叢 第八十八巻 第三号 (54) ネジャーによる意識的努カの展開を反映したものと思わ めものではない。それらの背後には、ある一貫した論理 いがあることが明らかになっ光。この違いは互いに独立 高業繍企業と低葉績企業の平均像の間にはっきりした違 以上の比較から、戦略、組織、評価システムに関して、 れる。第二は、杜外からの研究スタッフの補充に対しよ が合まれているように思われる。 である。これらは、活発な情報ミキシングのための、マ り積極的であるという特徴である。高業緕企業のほうが 研究開発の弱みを、何らかの形で克服しようとしている 第一に、高業繊企業は日本企業が一般的にもっている 内部昇進の傾向が弱いというこのフ7インディングは注 目に値する。日本企業の高度成長は、研究開発における 次に評価システムでは、評価の厳しさが顕著に高く、 いる。﹁研究事務その他﹂のカテゴリーの人々が多く、 いるのではなく、よりゼロ、・べース的な思考を重視して ようである。高業繍企業は従来の支出水準をそのまま用 なかでも研究中途での中間評価を厳しく行なっている。 研究企画や評価機能が強調されているようである。製品 れない。 外都からの積極的な人材導入に支えられてきたのかもし しかし、評価の焦点と評価結果の活用度には、ほとんど を入れるといった措置は適当でないと高業績企業は考え テーマを改廃したり資源配分を変えたり、人員配置に手 自体が重要であって、何を評価するかとか、評価の結果、 く行なっている。これらの特徴は、研究テーマの探索、 が一般に厳しく、なかでも研究過程での中間評価を厳し 重要なテーマ・ソースになっている。さらに、研究評価 もアイデア収集段階をより重視している。経営トヅプが。 開発の全プロセスのなかで、研究開発段階それ自体より ているのかもしれない。 的・選択的に資源配分を行なうという研究開発の﹁戦略 評価、研究の企画機能を強調し、それに基づいて重点 差がない。つまり、明示的に厳しく評価すること、それ 最後に個人属性に関しては、その金項目について、高 こうした戦略性は日本企業の研究開発に最も欠けていた 性﹂を、高業績企業が追求していることを示唆している。 業績企業と低業繍企業との間に有意差は認められない。 パーソナリティに対する期待の内容は、業績のいかんを 間わ ず 、 す べ て の 企 業 に 共 通 で あ る と い え よ う 。 356 ものであり、高業繍企業はまさにそうした弱みを意識的 けではなく、日本企業の将来の婆を示唆するものかもし 業の平均像は、低業綾企業との業綬差の説明に役立つだ まOU畠鶉−昌O︷H8ゴ昌−OOqさ=曽膏§♪<O−1HOOω一旨 ︵1︶ Oまo、訂oぎ−峯二..−⋮oぎ戌昌巨H邑鶉市q印自o れない。 に克服しようとしているのである。 第二に、高業績企業は弱みを克服すると同時に、日本 企業の研究開発における強みを、より一層強化しようと しているようである。高業績企業は既存市場・既存技術 への投資が多く、現在の市場と保有技術の徹底的深耕を ︵2︶寄聾σ一8員界ω1一、宗争邑曇S;昌。く塁旨旨 司〇一︺昌凹qH署♪o勺−solsひー 望H冒蜆里目︷H■O冨“ユ島一>自>蜆器窃目O算O︷まOω冨孟O︷ 中心にしている。組織活性化の手段として人事交流・配 置転換を重視している。人材ローテーシ目ンや混成部隊 旨o>貝、巨内o昌さ勺・彗p声肉量昌げ胃αq︵&m.︶一箏§− §、売−§“§§§ぎミ﹄oミざミ昂§︷§県oミ、§“ の編成を通じて、異質な情報のミキシングを意識的には かっている。さらに、市場における顧客や競合他社との ︵3︶ より包括的な文献レビューについては、大滝精一﹁﹃技 き§ミ軸翁♪ω彗軍彗g閉8軍gy−ミo〇一宅勺−昌㎞−∼ω9 術革新マネジメント﹄研究の新展開﹂﹃尊修経営学論築﹄、 接触のなかから、有望な研究テーマを開拓しているよう である。これらの特徴は、日本企業における一貫した研 第=⋮号︵一九八二年三月︶、一五一i一八○頁を参照。 ﹄⋮一〇−−巳㌣岩葛一勺や含−志. o︷−邑嘉ま巴旨昌きまo自一、箏§§ざ簑完§膏§くo−.oop ︵6︶>ま昌算耳一老こ.彗o−.声阜華σ9河=霊葦量 昌S軋HS詩、e雨ミミoS−>OO−蜆o目ーオo巴o︸−].0Noo,O︸曽勺甘〇十や ︵5︶ 内o津o、・−︸一〇祭§辻き§ミb、ミ§き㍗皇祭§多 饒き§、§、o§掌一里H片毒畠8岩ミ一勺やs−s. 昌ξh≧︵葦︶ニミ§・邑ぎぎ婁§§ざ9§零§軋 試〇一>夷o−>弓句﹃巴蜆巴o︷一−oω>吊勺葭OU纈“P、ぎωオo91 ︵4︶射o亭彗戸界彗O声旨昏巴一二睾市句籟O震く亭 究努カの累稜的な展開や、直接的相互作用を中心とする 組織の高度の情報プロセシング能カを示唆するものであ. る。日本企業の一般的な強みとしてもしぱしぱ指摘され てきたこれらの特性を、高業綾企業はより一層展開し、 その強みをさらに強化しようとしているのである。 以上を要約すると、高業績企業は、研究開発に関して、 日本企業に広くみられる弱みを克服し、同時にその強み をより一層強化しようとしている。このような高業績企 357 日本企業の研究開発 (55) 第三号 (56) 第八十八巻 一橋論叢 ︵7︶ 穴彗津Oぎ>し戸..掌Oω茸黒晶くー↓8;〇一〇賢O昌− 昌茎oP、串ミ§ミ㎞婁§婁ぎき§二巳︸1>自o・畠二湯9 勺やα−NH. ︵8︶ 加謹野忠男・野中郁次郎・榊原清則・奥村昭博﹁目米 一年、 一一−三四頁。 企業の戦略と組織﹂﹃組織科学﹄、第一五巻第二号、一九八 ︵9︶ 本研究の一都は既に次で紹介した。梯原清則﹁技術革 新のマネジメント﹂﹃ピジネス・レピユー﹄第二九巻第三 ︵甘︶ 固定的な労働市場によツて課せられる制約の存在に注 ︵∬︶ 野中郁次郎﹁組織文化とマーケティング戦略﹂﹃マー 意されたい。 ケティングジャーナル﹄一九八二年一月、一−一〇貢。 ︵16︶ 当該企業の過去五年間における売上高時系列データに、 成長曲線喜1ーぎ雨曾︵仰はま年次の売上高、9は成長率︶の て、その企業の売上成長率︵GSL︶とした。 回帰によるあてはめを行なって得られる回帰係数9をもっ その他に、回答者の認知に基づく主観インディケータも 用いたが、客観インディケータとの相関が低かった︵平均 ︵〃︶ 以下では、平均値の差の検定で統計的有意差の認めら O・〇九︶ので、主な指標とはしなかった。 ︵10︶ ︸o︷o’O.老一−芭目oU‘ω9岩目ρ色−吻、、s膏簑 、o、§ミ“s 号、一九八一年、五二−五七頁。 §ミ﹄§ミぎミ9§意叶3峯霊戸Hミo。︵奥村昭博・榊原 ︵専修大挙専任議師︶ ︵一橘大挙助教授︶ れたものに言及している︵一〇%水準、両側検定︶。 清則・野中郁次郎訳﹃戦略策定﹄千倉書房、一九八O年︶。 ︵11︶ 五五年度実繍の費用配分比率の集計結果である。 ︵η︶ 研究関係従業者の構成については、総理府統計局﹁科 学技術研究調査﹂の定義に即して回答を求めている。 ︵13︶ 伊丹敬之﹃経営戦略の論理﹄目本経済新聞社、一九八 ○年。 358
© Copyright 2024 ExpyDoc