シカ、イノシシの有効活用について

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シカ、イノシシの有効活用について
調査者:寄居林業事務所
担当部長
見富
篤
(前秩父農林振興センター林業普及指導員)
(1)事例の概要
ア
場
所
秩父郡内
イ
時
期
平成18年4月~平成20年3月
ウ
当事者
エ
内
猟友会員、商工会、食肉加工業者等
容
秩父地域では、野生獣類による農林業被害が発生している中で、毎年多くの件数の
有害鳥獣捕獲が行われている。
有害鳥獣捕獲実施については、地域の猟友会に依頼して行われているが、弾代等猟
友会員の負担が大きく、会員の厚意によるところが大きい。
猟友会では、会員の減少、高齢化が進んできており、将来有害鳥獣捕獲や獣類の増
加に伴う頭数調整の実施が危ぶまれている。
この よう な中で 、野 生獣 類(シカ、イ ノシシ)を利用した 商品を開発し 地域の特産 品
として活用することにより、野生獣類の適度な捕獲を促進し、農林業への被害の低減
と地域振興を図ることを目的にした活動が行われている。
(ア)野生獣肉利用にあたって許認可等の整理
a
有害鳥獣捕獲による捕獲獣の利用規制
有害鳥獣捕獲による捕獲獣の処分については、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に
関 する 法律(鳥 獣保護 法)に基づ き県で定め た「鳥獣保 護事業計画」 において定 め
られている。埼玉県では、平成19年度までは(第9次計画)、処分方法は基本的に
埋設又は焼却処分することとなっており、有害鳥獣捕獲による捕獲獣を利用する
こ と は で き な か っ た 。 平 成 20年 度 か ら の第 10次 計 画で は 、「 商 業 目 的 の 利 用 に
つ い て 検 討 す る など 、 資 源 の 有 効 活 用を 図 るも の とす る 。」と さ れ、 有 効利 用 へ
の道が開かれた。
b
精肉、食肉加工品としての利用への規制
野生のシカ、イノシシは「と畜場法」の対象ではなく、食品衛生法上の獣畜に
は該当しない。このため、法的に肉の安全性を指導、検査するシステムがないた
め、安全性の確保については事業者が自主的に行うしかない。
また、野生獣肉を食肉や加工品として販売するためには、食肉としての処理に
ついては食品衛生法に基づく食肉処理業の許可が、精肉の販売にあたっては食肉
販売業の許可が、加工品の製造には食肉製品製造業の許可が必要である。
(イ)地域の関係者との情報交換
平 成 18年 度 に 地 域 の 猟 友 会 、 森 林組 合 、 農 業 協 同 組 合 、 行政 機 関 に よ り 、 捕 獲
による獣害防止対策についての意見交換会、検討会を開催し、次のような意見等が
出された。これらの意見から捕獲獣類の地域特産物としての利活用が獣害対策の一
つの方策であると考えられる。
- 22 -
主な意見
・
有 害鳥 獣 捕獲 は 、ほ と んど 猟友 会のボ ラ
ンティアで弾代等の負担が大きい
・
獣 類の 捕 獲に 対 して 一 般の 方か らのイ メ
ージが悪く活動しづらい
・
猟 友会 会 員は 、 捕獲 し ても 獲物 の処分 に
困っている
・
狩 猟免 許 を新 た に取 る 人が 少な く、狩 猟
者 の 高齢 化 や減 少 が進 み 、将 来有 害鳥獣 捕
獲ができなくなる
獣害防止対策意見交換会(H18.7)
・
捕獲獣類の加工施設があれば、肉の有効利用ができる
・
捕獲獣類の受け入れ施設があると、捕獲が促進される
( ウ)シカ、イノシシ加工品の試作・PR
シカ・イノシシ肉加工品の地域の新たな特産品としての可能性を検証するととも
に、野生獣類を資源として活用する機運を高めるため、加工品の試作・試食PRを
行った。このPR活動により、野生獣類を食用にすることや狩猟に対するイメージ
の向上につながった。
主な試作品の概要は次のとおりである。
a
鹿ジャーキー
試作手順(制作期間3日)
・
鹿肉をスライスし調味液(醤油、赤ワイン等)に一晩つけ込む
・
肉を調味液から出して、低温で一晩乾燥させる
・
燻煙装置に肉を吊して60~70℃程度に加温して2時間乾燥させる
・
1時間程度燻煙する
試作結果
鹿肉は脂肪分が少ないため、肉自体はあっさりした
味わいである。臭みはないがビーフジャーキーのよう
な独特の旨みには欠けている。乾燥度合いによりジャ
ーキーの硬さが変わるが、よく乾燥させた方が日持ち
はよいと思われる。試作ではスジ肉も使用したが燻煙
の効果かスジが気にならなくなった。試食では酒のつ
まみにはよいと好評であった。
b
鹿ジャーキー試作品
猪チャーシュー(煮豚風)
試作手順(制作時間3時間)
・
猪ブロック肉を凧糸で成型
・
フライパンで焼いて焼き色を付ける
・
煮汁(醤油、ショウガ、ネギ、日本酒等)に入れて約2時間煮る
- 23 -
試作結果
バ ラ肉 、ロー ス肉 を使 用し たもの は脂 肪分 が
多 く 、 旨 み が で て いて 好 評で あ った 。 野生 肉 の
臭 み も 気 に な る 程 では な かっ た 。食 感 、見 た 目
も 使 用 し た 肉 の 部 位で 様 々で あ り、 そ の部 位 に
あ っ た 調 理 方 法 が 必要 で ある 。 また 、 血抜 き が
不 十 分 な 肉 や 冷 凍 保存 期 間の 長 い肉 は 色合 い が
悪く臭みが強くでた。
c
猪チャーシュー(煮豚風)試作品
猪チャーシュー(焼豚風)
試作手順(制作時間2時間30分)
・
猪ブロック肉を塩でもむ
・
調味液(醤油、砂糖、酒、ネギ、ショウガ)に1時間以上漬け込む
・
漬け 込んだ 肉を 取り 出し 、オー ブン によ り
初 め 200℃ 、 そ の 後 180℃ で 調 味 液 を 絡 め
ながら合計40分程度焼く
試作結果
焼 豚風 チャー シュ ーで は、 煮豚風 より 野生 肉
の 臭 み が な く 、 調 味液 に 入れ る 砂糖 の 効果 で 、
表 面 が 赤 く 染 ま り 見た 目 にも き れい で 非常 に 好
評であった。
d
猪チャーシュー(焼豚風)試作品
鹿ハム
試作手順(制作期間12日)
・
調味液を作る(水、塩、砂糖、香辛料)
・
鹿ブロック肉を調味液に入れ、冷蔵庫で10日間漬け込む
・
調味液から肉を取り出し、流水で3時間程度塩抜きをする
・
肉の水分を拭き取り、ガーゼでと凧糸で成型する
・
成型した肉を外気で1時間乾燥させる
・
燻煙装置に入れ、燻煙せずに70℃程度で1時間加温乾燥したあとに、2時
間燻煙(サクラ)する
・
燻煙後大鍋に入れ70℃程度で1時間30分ゆでる
・
流水で20分さらし、水気を切って冷蔵庫で1晩寝かせる
試作結果
断面の周辺部分は濃い茶色、中心部分は濃い赤であった。臭みはなく、あっ
さりして生ハムに近い食感で好評であった。通常食べ慣れたポークハムとは見
た目、食感ともにちがったものとなった。鹿ハムと同時に豚ロース肉でも同じ
やり方でハムを作ったがそれとの比較でも食感、見た目は、全く違った独特の
ものとなった 。なお 、発色剤( 亜硝酸ナトリウム 、硝酸カリウム )については 、
食肉製品製造業の許可が必要なため使用しなかった。
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つけ込んだ肉を整形
し、外気で乾燥
2時間燻煙したもの
70℃ で 1 時 間 3 0 分 ゆ で 、
一晩寝かせて出来上がり
(エ)燻煙装置の試作
ジャーキー、ハムなどの試作に使用するためと飲食店等で燻煙装置を導入する際
の参考としてもらうため、ドラム缶を使った燻煙装置を製作した。
a
試作品の構造
ドラム缶は蓋付きの物を使用し、食材を吊す棒を掛けるため鉄筋をドラム缶の
内 側 に 2列 に 5段 溶 接 し た 。 ド ラ ム缶 側 面 に 、 食 材 を 出 入 りさ せ る 扉 を 切 り 抜 い
て加工し、側面の底近くに加温用の電熱器を設置するための扉を付けた。ドラム
缶の蓋にサーモスタットの温度センサーを取り付け、温度計を差し込む穴を加工
した。扉の隙間には燻煙と熱気が逃げないよう耐熱テープで目張りをした。
燻煙用に加工したド
ラム缶
ドラム缶内部に鉄筋を
溶接
サーモスタット
ふたの部分に温度セン
サー(左側)と温度計
(中央)をセット
使用時には段ボールで
保温
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b
ドラム缶燻煙装置制作経費
品目
形式
数量
単位
単価
金額
ドラム缶加工品
鋼製内側焼き付け塗装
1
本
19,141
19,141
サーモスタット
SMS205N
1
台
7,500
7,500
温度計
DYS-02
1
個
2,100
2,100
電熱器
SURE製300W/600W
2
台
3,118
6,236
二口タップ
1
個
130
130
延長コード
1
本
850
850
その他
一式
計
c
1,500
37,457
使用結果
ドラム缶自体は鉄板なので断熱効果が少なく中の温度が上がりにくいため、電
気 コ ンロ (600W )2台 を使 用し た。ま た、 断熱 効果を 高め るた めド ラム缶 の回 り
を段ボールで囲った。
ドラム缶内の温度を70℃まであげるのに約30分要したが、その後の温度変化
は少なく燻煙装置として充分使用できるものとなった。
一度にハムで2kg(生肉換算)の燻煙ができた。
燻煙を開始すると、内部の温度が上昇しはじまるため、この時点で温度が上が
りすぎないよう注意する必要がある。
(オ)荒川商工会での商品開発
平成19年9月に荒川商工会が事務局となって、
「鹿肉を利用した商品の研究・開発委員会」が
発足した。委員会は、旅館・民宿経営者、猟友
会会員、精肉業者、県機関等で構成され、鹿肉
を使った商品について検討・開発が行われた。
これ に より 鹿 肉加工 品の 商品 化のめ どが 立っ た。
a
商品の開発の方針
・
野生鹿の多量な安定供給は、現状では見込めないため、お土産品ではなく、
旅館、民宿、飲食店で使ってもらい、集客のためのメニューとしてもらう。
・
鹿を処理した場合、すじ肉等が多く出るためこれらを原料とした加工品を開
発する。
・
肉の歩留まりをよくするため肉の加工の際に発生する細かい肉を利用した商
品の開発が必要である。
・
鹿肉加工品を旅館等で利用してもらうためには、手間をかけずに調理できる
ようにする必要がある。
b
開発商品
・
鹿肉の天ぷら種
旅 館・民 宿、 そば 屋等で 天ぷ らの 中の 1品として 出せるように 鹿スジ肉等 を
成型しボイルした鹿肉加工商品。
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天ぷら種用鹿加工肉
鹿加工肉の天ぷら
・鹿ジャーキー
・鹿レトルトカレー
鹿肉を調味液につ
け、乾燥させてから
サクラチップで燻煙
鹿肉を天ぷら種用
に成型するときに
でる細切れ肉を使
ったカレー
・鹿ステーキ
ステーキ用に味付
けした鹿肉
(2)調査者のコメント
農林業に被害を及ぼすシカ、イノシシを地域の特産品として利用することは、獣害
対策と地域振興の両面で有効であるが、秩父地域においてシカ、イノシシの利用を広
めるためには、次のような課題がある。
・
獣類の処理については、食品衛生法により許可を受けた食肉処理施設で行う必
要があるが地域には野生獣を専門で扱う事業者がなく、処理量が限られている。
今後、地域の特産品として広めるためには、処理施設の拡充や新設が必要である。
・
野生獣肉を食肉として利用するためには、安全性確保のための処理マニュアル
が必要である。法的には規制を受けていないため、他県では、県等でマニュアル
を制定している例がある。当面それらを参考として自主的な管理が必要である。
・
野生獣を捕獲し安定供給するシステムがないため、行政、獣害対策の受益者、
猟友会等が協力して、処理施設の拡充に合わせた供給システムを構築する必要が
ある。
有効な獣害防止対策がなかなかない中で、対策の基本は適正な生息密度と生息環境
の管理により野生獣の利用が図られながら人と野生獣とのよい共生関係が生まれるこ
とが理想といえる。これらの課題をクリアーして野生獣肉の利用拡大が人と野生獣と
のよい共生関係を作り出すきっかけになることを期待したい。
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