無道床橋りょう調整型タイプレートの試験敷設及び乗り心地 - 土木学会

土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
Ⅳ-217
無道床橋りょう調整型タイプレート の試験敷設及び乗り心地改良
東海旅客鉄道㈱
正会員
若林 靖浩
東海旅客鉄道㈱
加藤 利春
1.はじめに
東海道新幹線では、乗り心地の向上を目指し、さまざまな取り組みを行ってきた。昭和 61 年には 20m弦による軌道整
備を、平成4年の 270km/h化以降、40m弦による軌道整備を取り入れた。 そして、平成8年からは乗心地レベルを用い
た評価を導入している。
一般部、分岐器、無道床橋りょう の各区間での乗心地レベルを比較すると、これまでの取り組みにより、一般部および
分岐器の乗り心地は大きく改善されてきた。一方で、無道床橋りょう の乗り心地は依然として改善の余地が残っており 、
乗心地レベル(dB)
最も良好な一般部の乗心地レベルに比べ約3dB の差がある。(図-1)
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乗り心地を考慮した軌道整備を実施するためには、1mm単位の高い施工精
度が求めら れる。現在、一般区間では、復元原波形データから計画した移動
量に基づいてマルタイによりつき固めを行っており、分岐器では、調整型床板
87
84
のコマ(図-2)を使用して軌道整備を実施している。これらにより、一般区間、
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分岐器区間の軌道整備では、高い仕上がり精度を実現しているが、無道床橋
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りょう では、1mm精度の施工を実現できていないのが現状である。
一般部
分岐器
無道床
図-1 一般部と無道床橋りょうの
2.新型タイプレートの検討
乗心地レベル(平成 20 年)
上記課題を解決するため、東海道新幹線の分岐器区間で実績のある分岐
器調整型床板の導入を検討した。分岐器調整型床板はネジクギの打ち替え
を必要と せず、0mm~4mmの4 つのコマを入れ替えることで、1mm単位
偏心コマ
偏心コマ
偏心コマ
0ミリ用
の精度を確保している。しかし、この分岐器調整型床板を無道床橋りょう に
1ミリ用
導入することを想定した場合、「 必要移動量の確保ができない」 、「 千個単位
2ミリ用
のコマが必要となる」 といった幾つかの問題点があがったため、分岐器調整
TS型ネジクギ
型床板の再穿孔を不要と する構造を残しつつ、調整機能に重点をおいて新
3ミリ用
図-2 分岐器調整型床板
しいタイプレート の開発を行った。
3.新型タイプレートの開発
(1)溝型タイプ調整用ラックの採用
調整機能の構造は、分岐器フロント ロッド の調整機構にヒント を得た。 フ
2mm
4mm
ロント ロッドの調整部は、ト ングレール側とフロント ロッド側に溝のついた部
材があり、 かみあった溝をずらすこと で位置を調整する。同時に、溝のか
み合わせにより転換力を伝達している。同様に、床板の調整部には、列車
の横圧に耐えることと1mm単位の調整を求められること から、溝型の調整
調整用ラック
タイプレート
※上下反転で2mmピッチの調整
図-3 調整用ラック試作品①
機能を新型タイプレート に適用することとした。
(2)調整機構の開発
試作品①:溝型タイプの調整機構(以降、調整用ラック)試作品を製作し
上 ラ ッ ク:上 下 面 の 溝の ズ レ 2m m
た(図-3)。これは、溝を刻んだラックをかみ合わせることで調整を行うも
上 ラック
のである。横圧試験の結果、列車横圧に対する耐力を考慮すると、調整
用ラックの溝と溝のピッ チは4mm以上必要であること がわかった。 そこで、
上下面の溝をずらし、調整用ラックの上下面を反転することで調整量の精
度を上げることとした。しかし、上下面の溝を2mmずらしても2mm単位の
調整量しか確保できない。
下 ラッ ク
タイプ レ ー ト
下 ラ ッ ク:上 下 面 の 溝 の ズ レ 1mm
※ 上 ラ ック 上 下 反 転 で 2m m の 調 整
※ 下 ラ ック 上 下 反 転 で 1m m の 調 整
1m m ピ ッチ の 調 整
図-4 調整用ラック試作品②
キーワード:無道床橋りょう 軌道整備 調整型タイプレート 乗心地レベル
東海旅客鉄道㈱ 新富士保線所 静岡県富士市川成島字西住環添 740-1 TEL0545-60-5971
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土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
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上ラック中心
試作品②:試作品②(図-4)は、タイプレート 自体の溝をなくし、2
上ラック
上ラック
mm、上ラックには上下面2mmずらした溝を設け、上下の調整用
下ラック
ラックを相互に上下反転して組み合わせること で1mm~4mmま
で1mm単位での調整が可能である。しかし、上ラックのナットと接
する面に溝があるため、受圧面が減少し、上ラック上面の山に過度
の圧力が加わり つぶれる可能性があるため、さらなる改良が必要と
b
a
枚の調整用ラックを使用する構造とした。下ラックには上下面に1
タイプレート
c
d
上ラック中心からの溝のズレ(a-b) :2mm
※上ラック左右反転で2mmの調整
1mmピッチの調整
下ラック端からの溝のズレ(c-d):1mm
※下ラック左右反転で1mmの調整
なった。
図-5 調整用ラック試作品③
試作品③:受圧面積の減少を防ぐため、 ナットとの接触面となる上ラック上
部の溝をなくしたのが試作品③(図-5)である。これは上下ラックの溝を左右
非対称に切り、上下2枚の調整用ラックを左右反転させることによる調整を可
能とした。下ラックの溝のずれを 0.5mm、上ラックの溝のずれを1mmとし、
下ラックを反転させることで1mm、上ラックを反転させることで2mm、上下の
ラックをともに反転さ せることで3mmの調整を行うこと ができる。また、調整
用ラック1山の移動で4mm移動するため、こ れらの組合せにより、1mm単
位で±8mmまでの調整を行うことが可能となった。
図-6 新型タイプレートの外観
以上を検討した結果、試作品③を採用した。完成した新型タイプレート の外
観を図-6に示す。 ネジクギには分岐器調整型床板に使用されているTS型
締結装置緩解
新タイプレート挿入
調整用ラック設置
ネジクギを用いた。TS型ネジクギは一度敷設すると上部のナット の着脱のみ
ネジクギ緩解
鋼パッキン挿入
TS型ネジクギ緊締
で各部材を取り外すこと ができ、タイプレート 自体を移動することができる。これ
旧タイプレート等撤去
締結装置緊締
軌道検測
により ネジクギ穴の再穿孔が不要になるため、支持力の低下やマクラギの劣化
込栓打込み
軌間整正
を防ぐこと ができる。また、鉄道総研に依頼して、新型タイプレート の耐横圧性
マクラギ上面整正
ネジクギ穴穿孔
や耐久性など必要な試験を行い、 いずれも良好な結果を得た。
図-7 敷設作業のフロー
4.新型タイプレートの本線試験敷設
R=2,500、C=200 の曲線橋りょう において、本線への試験敷設を実施し
た。試験敷設時のフロ ーチャート を図-7に示す。 カント 区間での正確なネ
ジクギ穴穿孔を実現するため、2種類の専用治具(図-8,図-9)を開発し、
延長 41mにわたり敷設した。
図-8 専用治具① 図-9 専用治具②
5.新型タイプレートによる軌道整備
狂い量:(mm)
新型タイプレート を敷設後、原波形より算出した移動量(最大5mm)を用
4
いて軌道整備を行った。
原波形通り(左)
5
3
施
工
始
点
施
工
終
通り原波形1月第1(左)
点
橋
梁
終
点
通り原波形1月第2(左)
2
この新型タイプレート を使用した通り整正作業は、 ネジクギの打ち替えが
1
0
-1
不要で、調整機能により整正が容易になったため、従来法に比べ作業時間
-2
-3
-4
が約1/3となり、大幅な作業時間の短縮を実現した。
-5
図-10 は施工前後の原波形(通り)である。原波形(通り)は施工後に大きく改
図-10 施工前後の通り狂い(原波形)
善しており、新型タイプレート による軌道整備は十分な仕上がり精度を確保できると
乗心地レベル(dB)
いえる。また、乗心地レベルも 90.2dB から 86.3dB へ大きく改善した。(図-11)
施工前
おわりに
本研究で開発した新型タイプレート により、無道床橋りょう区間においても、仕上
がり精度と施工性に優れた軌道整備方法が確立した。試験敷設区間の乗り心地は
90.2dB
施工後
86.3dB
現在も良好な状態を維持している。今後、新型の調整型タイプレート を全線へ展開
し、東海道新幹線のさらなる乗り心地向上に取り組む。
3.9dB良化
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87
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図-11 乗心地レベルの比較
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