日本型年功制を例にして 人が働く理由 ある程度の歴史を持った(つまり、生き延びてきた)日本企業の 人事システムの本質は、給料で報いるシステムではなく、次の仕 事の内容で報いるシステムだったということである。仕事の内容 がそのまま動機づけにつながって機能してきたのであり、それは 内発的動機づけの理論からすると最も自然なモデルでもあった。 他方 日本企業の賃金制度は 動機づけのためというよりは 他方、日本企業の賃金制度は、動機づけのためというよりは、 生活費を保障する観点から平均賃金カーブが設計されてきた。 この両輪が日本企業の成長を支えてきたのである。それは年功 序列ではなく、年功ベースで差のつくシステムだった。 高橋伸夫 東京大学 大学院経済学研究科 教授 2015年1月8日 高橋伸夫著 『虚妄の成果主義』(増補版 ちくま文庫, 2010) 高橋伸夫著 『〈育てる経営〉の戦略』(講談社, 2005) http://www.bizsci.net/ 今こそ原点に立ち返り、従業員の生活を守り、従業員の働き に対しては次の仕事の内容と面白さで報いるような人事シス テム「日本型年功制」を再構築すべきである。 1 2 合格者は正規分布をしていない 1. 目の前の事実を丁寧に観察するこ とから始めよう 「エース級社員」と「ダメ社員」はすぐに分かる 固定席vsドングリの背比べ ドングリにも未来はある 「誰でも課長になれる」 本当に正規分布しているのか 予算制約があるのに客観評価? 「成果主義は成果向上に効果がある」と 「成果主義で総人件費が抑制できる」は 両立しない あてはまる項目の□にチェックしてみよう。 3 2. きちんと採用していれば 大多数の人には差を つけること自体が徒労 3.客観的=無責任 給料で解決 するなら、 ワーク・モチ ベーション論 など不要 客観で責任回避をする上司 「差をつけないと」症候群 給料に差をつけるほどに差のない人々 点数を逆算するのが自然になる まともな会社では、すぐにセレモニーと化し た成果主義 セレモニーでも看板は下ろした方がいい 5 Copyright (c) 2015 Nobuo Takahashi. 4 数年だったら 数字なんて いくらでも 作れちゃう 毎年査定 1年以内に「成果」の 出るよう仕事ばかりをするようになる 目標の達成度 低めの目標を掲げる 客観指標 ピンポイントで狙う 評価項目明示 「三遊間ゴロ」は拾わない 「客観指標を使った目標」の設定に根拠なし その無責任ぶりが部下に伝染した 6 1 5. 「また君と一緒に仕事がしたい」 4. 評価と成果は別物という 当たり前の事実 CSR* 本当の評価とは ビジネス・プランや 資金よりも、それを 任せられる人材が 決定的 【蛇足】自己アピー ルは疲れる の基礎 責任をとる 「俺の目は節穴じゃない」 上司がち んと見ていてくれればこそ 上司がちゃんと見ていてくれればこそ 「士は己を知る者のために死す」 「嫌いだから左遷する」 と言ってくれた方がマシ * CSR: Corporate Social Responsibility (企業の社会的責任) 定期異動という 強力なツール 満足 退出願望 離職率 A 61% 26% 5% B 31% 60% 20% C 62% 29% <1% D 48% 59% 5% E 42% 54% <1% F 60% 40% 5% 高橋伸夫(1997)『日本企業の意思決定原理』東京大学出版会, p.40. 7 6. 金銭的報酬の迷信 金のインパクトが仕事の喜びを奪う 人は金のみのために働くにあらず 期待理論の考え方 検証可能? 行為 (仕事) 期待 1次の結果 手段性 (成果) 8 第一次世界大戦後、ユダヤ人排斥の空気が強い米国南部の小 さな町で、一人のユダヤ人が目抜き通りに小さな洋服仕立屋を 開いた。すると嫌がらせをするためにボロ服をまとった少年たち が店先に立って「ユダヤ人! ユダヤ人!」と彼をやじるようになっ てしまった。困った彼は一計を案じて、ある日彼らに「私をユダヤ 人と呼ぶ少年には10セント硬貨を与えることにしよう」と言って 人と呼ぶ少年には10セント硬貨を与えることにしよう」と言って、 少年たち一人ずつに硬貨を与えた。戦利品に大喜びした少年た ちは、次の日もやってきて「ユダヤ人! ユダヤ人!」と叫び始めた ので、彼は「今日は 5セント硬貨しかあげられない」といって、再 び少年たちに硬貨を与えた。その次の日も少年たちがやってき て、またやじったので、「これが精一杯だ」といって今度は 1セン ト硬貨を与えた。すると少年たちは、2日前の1/10の額であるこ とに文句を言い、「それじゃあ、あんまりだ」と言ってもう二度と来 なくなった。 2次の結果 (報酬) 創始者ブルームの卓見 9 10 7. 「仕事の報酬は次の仕事」の五つの意味 (1)社内競争によって仕事そして処遇に差がつく (2)人事は論功行賞ではなく適材適所で 「特別な力量が求められ、失敗すると会社にとっても大変なことになるよう な重要な仕事には、それを任せられるだけの優れた人材を。しかし、誰で 要 事 、そ 優 。 、 も努力すればできるような仕事には普通の人材を、そして、どうでもいい 仕事にはどうでもいい人材を当てるのです。」 (3)仕事の報酬が給料では互換部品に成り下がる (4)成果配分の方法は賃金だけではない (5)隠された投資が「仕事を任せられる人」を育てる 11 Copyright (c) 2015 Nobuo Takahashi. 12 2
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