まめができたので遅れました。

まめができたので遅れました。
青木ユイ&Sakura
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︻小説タイトル︼
まめができたので遅れました。
︻Nコード︼
N8201CI
︻作者名︼
青木ユイ&Sakura
︻あらすじ︼
指にまめができた松田留美は、ある事情で仲良しの西本由香にマ
カロンをおごることになる。
それだけではなく、同じクラスの男子の照南・久保・緑田の3人に
もマカロンをおごることになってしまう。
そんな留美の恋愛コメディー。
1
0 登場人物紹介&この小説を読むときの注意
るみ
∼登場人物紹介∼
まつだ
松田 留美 身長 147cm 誕生日 6月20日
中学1年生の明るい女の子。ちょっぴりM。
意外と照れ屋さんで、友達からは可愛がられている。同じクラス
の照南とは、よくケンカをしている。 クラスの中心的な存在で、
よく叫ぶし、よく笑う。男子に負けないくらい足が速い。
人の恋愛話を聞くのは好きだけど、自分の事になるとすぐに誤魔
化す。
ゆか
<i138584|11078>
にしもと
西本 由香 身長 158cm 誕生日 3月3日
中学1年生で留美と同じクラスのおっとりした女の子。天然で方
向音痴。Mのくせにたまに舞良をいじるし、しかも本人はいじって
いるのに気が付かないという怖いヤツ。
恥ずかしがり屋で人見知りで、口癖は﹁ごめん﹂。
運動音痴でもあり、心配するのが癖のようになっている。
まいら
<i138586|11078>
ひがしの
東野 舞良 身長 153cm 誕生日 2月14日
2
中学1年生で留美たちと同じクラスのおしゃれで大人っぽい女の
子。テキパキしてて、面倒を見るのが得意。美人。
レルミーア
留美たちのクラスメイトの緑田と付き合っている。恋愛のスペシ
ャリスト。
みんなの人気の店、lermiraの店長の愛娘。
<i138587|11078>
しょうなん つばさ
照南 翔 身長 162cm 誕生日 10月29日
中学1年生で留美たちと同じクラスの男子。留美をからかうのが
日常茶飯事の出来事で、50m走を留美と競うと同じくらいになる
から嫌がっている。
趣味はサッカーと留美の頭を叩いて身長を縮ませること。基本的
にドSで、明るい。
そうし
留美とキャラがかぶるので、留美も照南も嫌がっている。
りょくだ
緑田 相思 身長 155cm 誕生日 5月12日
中学1年生で留美たちと同じクラスの男子。舞良と付き合ってい
る。
これも留美と同じくらいの速さで走る。照南達と仲がいい。
SにもMにも属さない。好きなスポーツは野球で、エース︵仮︶。
けんじ
照れ屋な方だけど彼女の前ではちゃんとしてます。
くぼ
久保 賢二 身長 152cm 誕生日 7月31日
中学1年生で留美たちと同じクラスの男子。恋愛系には主に興味
がない︵ようなそぶりをしている︶。
3
いじられるのは嫌だけどドM。何回も言ってもいいくらい、いじ
られるのは嫌い。
嫌いな食べ物はピーマン。ピーマン1個食べるよりいじられる方
が嫌らしい。
超甘党で、由香と気が合う。照南達と仲がいい。そしてヘタレ。
その他、色んなキャラが出てきます。
∼この小説を読むときの注意∼
この小説は実在する人物をもとにしたフィクションです。
一週間に一回のペースで投稿していますので、月設定が現実と異
なる場合があります。
目標は連載1年以上ですので、進級させるつもりですが、進級す
る時期もかなり後になってしまう可能性があります。ご注意くださ
い。
4
0.1 端キャラ紹介
∼端っこ系キャラ紹介∼
︿男子﹀︵順番はバラバラです︶
あのう
ゆうと
︻安納小学校︼
さきかわ
先川 有人
よしき
足が速い。基本的に誰かといる。
やまはら
山原 吉輝
ゆうじ
ちょっとおくびょう。可愛がられるタイプ。
ふかい
深井 友治
しょうご
アニメが好き。常に単独行動。
いけむら
池村 将悟
こうき
超天然。肌が白くて目が細い。
ひらの
平野 聖
たくや
クラスのムードメーカーらしき人物。背が高い。
ひのはら
日野原 巧也
なんかクール。平野と同じく背が高い。平野と合わせてジュース
たいき
とポテト。
いずみ
泉 大輝
ネガティブ思考の男子。卓球が人生の全て。
5
こさと
たける
小里 武瑠
空手5段の男子。誰もケンカを売ろうとしないが、そもそもケン
たくみ
カには何の接点もない。
のぎ
乃木 拓実
自称シェフ。自称じゃなくてもシェフ。とりあえずシェフで、家
がイタリア料理店。
いのう
なおと
︻稲生小学校︼
まつしま
松島 直斗
ゆうり
すごく明るい。みんながため息つくほど明るい。
つじ
辻 優里
たけし
頭がいい。名前だけ見られると絶対に女子だと思われる。
おおにし
大西 潔
かいと
くうきよまない
深井と仲がいいが、一緒に行動しているわけではない。アニメ好
き。
くすき
楠木 海斗
はやと
ノー天気な男子。KY。
ごとう
後藤 早時
たいち
背が高い。楠木と対立する。
ふじもと
藤本 大智
ポジティブな男子。泉とは仲がいい。
6
みなもとつばさ
源 翼
珍しい僕っ子男子。さらに超ヘタレ。照南と仲がいい。
︿女子﹀︵同じく順番はバラバラで50音とかいう気の利いたや
り方ではありません︶
あのう
のぞみ
︻安納小学校︼
いまみや
今宮 望海
ゆみ
美人でしっかりしている。頭がいい。
あめたに
雨谷 優実
ゆりか
望海と仲がいい、すごいしっかり者。後期の学級委員。
たに
谷 祐里香
りな
清楚でおしとやか。さらに和やかで、めちゃくちゃいい子。
きむら
木村 莉那
あん
祐里香と仲がいい。頭もいいし可愛い。
えぐさ
江草 杏
ゆり
ほわほわしている。穏やかな性格。
こばやし
小林 悠理
なみ
おとなしい。本を読むのが趣味。
おおすぎ
大杉 菜未
めちゃくちゃかわゆい女子。クラスの女子全員が愛している。
7
さわの
はるか
澤野 春花
背が高くてスタイルがいい。読者モデルでたまに授業を抜ける。
かりん
︻稲生小学校︼
うえの
植野 香林
れいか
噂を流すのが結構好きな女子。噂を聞くのも好き。
みむら
美村 麗華
あいり
超お嬢様で前期学級委員。字が綺麗。
こたに
小谷 愛梨
まな
足がめちゃくちゃ速い。リレーでは毎年活躍中。
きしざき
岸崎 真奈
さわ
愛梨と仲がいい。愛梨と同じく足が速い。
やすかわ
安川 佐和
Mでいじられキャラ。可愛い。そしてクラスの女子全員のアイド
ル。
8
1 まめ︵前書き︶
友達との合作です。
毎週金曜日に投稿するのでよろしくお願いします。
2015年1月10日 最初に文章入れました。
9
1 まめ
4月25日金曜日。ほんのりピンク色の桜が、あたしたちを見守
ってるみたい。暖かな春日和。今日は晴天。
こうして今日も、あたしの長い長い一日が始まるのです︱︱︱︱。
・・
﹁ったぁ∼い⋮⋮!﹂
指にまめが出来た。
何なのこれ、気持ち悪い!!
﹁せんせ∼、ばんそーこー﹂
あたしはそう言って先生の元にいく。
先生から絆創膏をもらったあたしは右手の人差し指にはりつけた。
ったく、痛い⋮⋮。
なんでこんなことを⋮⋮。
・・
・・
今あたしたちは美術の授業で木を小刀で切っている。
それで、まめができてしまった。
うぅ、くやしいっ⋮⋮。
しかも、手を切って血がブシャーじゃなく、まめができるなんて
さぁ⋮⋮。
・・
小刀のばかやろぉーっ!
許さないっての!!
・・
あたしは指に出来たまめと戦いながら必死に木を切る。
﹁っつあったぁ∼っ!!﹂
あたしはまた叫ぶ。
痛い⋮⋮。
痛いよぉ⋮⋮。
﹁留美、どうしたの?﹂
穏やかな声が聞こえてくる。
﹁由香∼! 聞いてよぉ、ここにまめができちゃったー﹂
10
そうやって二人で笑っていると、チャイムが鳴った。
﹁はい起立﹂
先生の声の後に続いて、学級委員の美村さんが言う。
﹁気をつけ、礼﹂
するとみんなはダルそうに﹁ありがとーございましたぁー﹂と、
そろわない叫びをあげる。
あたしはいすを机の方に押し込むと、由香に声をかけた。
﹁由香ー! 一緒に帰ろっ﹂
由香は振り向いて笑顔でうなずく。
﹁うんっ!﹂
はぁー、階段きつい⋮⋮。
・・
ここの学校、なんでこんなに一段一段高いわけ?
しかもまめ痛いし⋮⋮。
﹁はぁー﹂
あたしはため息をつく。
って、声に出したら由香に気付かれるっ⋮⋮!!
由香、心配性だから、ヤバいかも。
﹁どーしたの?﹂
ほら、やっぱり。
由香は心配そうにあたしの顔を覗き込む。
あたしは笑いながら言った。
﹁何でもない⋮⋮ってか、階段きついね﹂
﹁そう? 私は全然平気だけど⋮⋮。留美、体調悪いんじゃないの
? 大丈夫?﹂
そんな由香の優しい声に、あたしはまた笑う。
﹁大丈夫だって! 由香ってば、心配しすぎ!﹂
そう言っても、由香はまだ心配していて﹁無理しないでね?﹂と
告げた。
由香ってば、本当に優しいなぁ。
11
おせっかいなところもあるけど、そーゆー由香、好きなんだよね。
ゆっくり階段を上っていると、次の授業が始まるチャイムが鳴っ
た。
﹁やっば! 急ご、由香!!﹂
そう叫びながら走る。
﹁あっ、待ってよ留美∼﹂
後ろから由香の声が聞こえるけど、かまわない。
急がないと!
次英語なんだよね⋮⋮。
しかも英語の先生って、超怖いんだよね。
﹁留美ってばぁ!﹂ 由香が叫び声をあげる。
﹁ごめん由香! 先行くね!﹂
そう言って全速力で階段を上って、廊下を走る。
後から、由香の怒ったような声が聞こえてきたけど、一応謝った
のは聞こえたっぽいから、あたしは遠慮せず走った。
﹁はぁっ⋮⋮すみません、遅れましたぁ⋮⋮っ﹂
教室に着いた頃には当たり前のようだけど、授業が始まっていた。
先生に睨まれる。
ひぃ⋮⋮こわっ。
そんなに怒らなくてもいいじゃん。
謝ってんだからさぁー。
そのとき、後ろからドアを開ける音が聞こえてきた。
﹁すみませんっ! 遅れました﹂
息を切らしている由香の背中を撫でていると、先生の冷たい声が
聞こえる。
﹁なぜ遅れたのですか﹂
じろっと睨まれて、足がすくむ。
﹁えっ⋮⋮と﹂
由香が困っている。
12
・・
そのとき、右手の人差し指に痛みを感じた。
あっ⋮⋮まめ?
・・
あたしはそれに気が付くと、叫んだ。
﹁まっ、まめができたので遅れました!﹂
13
2 マカロンのlermira
教室が静まり返る。
視線が突き刺さる。
﹁は?﹂
・・
誰かがつぶやいた瞬間、教室中が笑いに包まれた。
しょうなんつばさ
﹁まめってなんだよ﹂
クラスメイトの照南翔が言うと、続けてみんなも笑いだす。
﹁もうっ! 本当やしっ﹂
あたしはイライラしながら席に着いた。
由香はと言うと、相変わらずはあはあ言ってる。
だいぶ疲れたんだね⋮⋮。
あたしのせい?
とりあえず心の中で謝りながら、教科書を取り出して、真面目に
﹁Let's
practice
practice
together.﹂
together.はいっ﹂
授業を受けることにした。
﹁Let's
意味は一緒に練習しましょう⋮⋮。
ふぅ、英語って疲れる。
教科書の英文をノートに写したり、単語練習をしたりしていると、
チャイムが鳴った。
やっと終わったー!
﹁由香∼!﹂
号令が終わってすぐ由香の元に走っていく。
﹁もう、留美ってばひどいんだから。先にいくなんていひどいよっ
!﹂
レルミーア
由香はむくれながら言った。
﹁ごめんごめん。Lermiraのマカロン。おごってあげるから
許して☆﹂
14
すると由香は一瞬で笑顔になった。
﹁ほんと!? いいの!? なら20個で♪﹂
﹁え゛っ﹂
あたしが驚いていると、楽しそうに由香が笑った。
﹁うっそぴょーん!﹂
﹁もーっ!! あたしおごらないよっ!?﹂
そう言うと由香の前の席の照南が﹁俺もおごってー﹂と言ってき
た。
﹁はぁ∼?﹂
意味分かんない!
なんか男子たちが集まってくるし⋮⋮。
﹁久保もそーしんもいこーぜ﹂
くぼけんじ
りょくだそうし
げっ、久保と緑田も来んの!?
久保賢二と緑田相思っていう、照南と仲いい男子たちを誘われる
と困る。
この3人が集まるとうるさいんだよね⋮⋮。
まあ、あたしもそれなりにうるさいんだけど。
﹁じゃあみんなでいこぉよ!﹂
うっ、由香めー!
あたしに全部おごらせる気!?
﹁んじゃ、決定な! 今日授業午前だけやし、1時にlermir
aに集合な!﹂
もう行くこと決定なの!?
どうせあたしのおごりだろうし⋮⋮。
そういえば、今日午前中だけだったっけ、授業。
ラッキー☆
って、ラッキーでもないのか⋮⋮。
おごらなくちゃだしね。
もう、約束破っちゃおうかな。
でも、そうすると由香が女子ひとりになっちゃうし⋮⋮。
15
﹁ってか、何人分払うのー!?﹂
﹁俺と久保とそーしんと西本とお前やから、5人分!﹂
うっ、高い!
マカロンって、一個150円位するだろうから、5人分で⋮⋮7
50円かぁ。
あたし、食べないでおこうかなぁ。
金欠になりそうやし。
﹁あたし食べないでおこうかなぁ﹂
あたしがつぶやくと、由香は﹁え∼﹂と言って来る。
﹁せっかくだし、留美も食べなよ!﹂
そっかなぁ⋮⋮。
まあ、今日くらいいいかな。
﹁じゃ、1時な!﹂
照南に念を押されて、あたしは渋々うなずきながら席に戻った。
もう1時間、数学があって終礼。
﹁起立、礼﹂
﹁さようなら﹂
よっし、今日は掃除ないからさっさと帰れる!
﹁由香! 帰ろ﹂
﹁うんっ!﹂
由香は柔和な笑顔をあたしに向けながら微笑む。
﹁も∼、由香のせいで金欠になっちゃうじゃん。どうしてくれんの
ぉ∼﹂
﹁てへぺろ﹂
由香は笑う。
﹁てへぺろじゃないよ、もう﹂
そんなことを言っていると、いつの間にか家の前に来ていた。
﹁じゃあ、12時40分くらい来てね!﹂
﹁オッケー。バイバイ!﹂
﹁バイバイ!﹂
16
あたしは由香に手を振ると家の中に入った。
﹁ただいま⋮⋮お母さーん、お昼は?﹂
﹁そこにあるおにぎりでも食べて﹂
ちぇー、また残り物の煮物?
それと塩おにぎりって⋮⋮適当なんだから。
まあいいけど。
お姉ちゃんたちはまだ帰ってきていないみたいだし。
﹁ごちそうさまっ﹂
あたしはおにぎりを押し込むと立ち上がって行く用意をし始めた。
携帯、財布、それくらいかな。
よしっ!
準備を済ませて時計を見ると、もう43分を指していた。
やっばい! 由香もう来てるよね⋮⋮。
﹁行ってきまーす!﹂
﹁いってらっしゃい﹂
お母さんの声を背中で聞きながら玄関のドアを開ける。
﹁あ、由香! ごめん待った?﹂
﹁大丈夫!﹂
やっぱり由香は優しいなぁ⋮⋮。
﹁じゃっ、いこっか!﹂
﹁うん!﹂
あたしたちはいろいろしゃべりながら、lermiraに向かっ
て歩き出した。
17
3 マカロンロン♪
あたしたちはlermiraに着いた。
﹁男子まだだねー﹂
あ、同時。
﹁ハモったねー!﹂
﹁だねー﹂
そんな話をしていると、男子たちがやっとやってきた。
﹁もーおっそい! どんだけ待たせる気!?﹂
すると照南が笑いながら言う。
﹁1時間﹂
﹁ウザっ!﹂
思わず叫ぶと﹁じょーだんやって!﹂とまた照南が笑い出した。
うっざぁ⋮⋮。
﹁由香、男子ウザいよね﹂
﹁ふぇっ!? え、あー、えっと、う、ん?﹂
あれ? いつもなら由香、うなずくのに⋮⋮。
しかも、なんか疑問系だし。
ま、いっか。
﹁由香、さっさと入ろ﹂
﹁えっ、うん⋮⋮﹂
由香はそうつぶやきながら、後ろを何度も見る。
後ろには男子しかいないのに、どうしたんだろう?
﹁由香、大丈夫?﹂
﹁な、何もないよ! 留美は気にしないでよ∼っ!﹂
﹁は⋮⋮?﹂
全然意味分かんない。
由香、おかしいよ。
﹁あっ、ほら留美!!﹂
18
まいら
由香が指差す方を見ると、知った顔が見えた。
﹁舞良!﹂
舞良はクラスメイトで、このlermiraの店長の愛娘。
パティシエとパティシエールが親ってわけ。
甘いものが好きで女子力が高いおしゃれな女の子で、うちらの友
達。
﹁まーいーらーっ!﹂
由香が舞良の方に走っていった。
もう、由香ってばぁ⋮⋮。
﹁あれ、由香!? ってか、なんかみんな来てるし⋮⋮ありがと﹂
舞良はレジに向かいながらそうつぶやく。
舞良の着てるロリータ風なエプロンがとってもかわいい。
﹁いーなぁ、その服かわいい﹂
由香が舞良の着ている服を見ながらつぶやく。
確かに、とってもかわいい。
これはうらやましいかも⋮⋮。
﹁さっさとマカロン買えよなー﹂
男子たちがぶつぶつ文句を言ってくる。
ウザい⋮⋮。
ってか、男子がマカロンって⋮⋮。
﹁えーっと、どういうことか分からないけど、マカロンなら半額に
しとくよ?﹂
えっ!?
﹁いっ、いいの舞良!? ありがと! 神! 天使! 乙女! 女
神! ラブ!!﹂
﹁あははっ、ありがと﹂
あたしの意味不明な言葉にも笑顔で返してくれる舞良を見て、あ
たしは感動した。
うれしぃ⋮⋮。
19
﹁まいらぶ?﹂
そんなことを言っていると、照南があたしの足を踏んできた。
﹁ったぁ∼。やめろって!﹂
﹁遅いっつーの﹂
文句を言われてむかつく。
なんなの照南!
ほんっとウザい!
﹁じゃあ、何にするの?﹂
舞良が聞いてくる。
﹁俺らはチョコ3つずつな﹂
3つ!? あたしに買わせようとして⋮⋮!!
﹁えー俺は鶉味がいいかな⋮⋮﹂
鶉味!?
あぁ、こいつのあだ名鶉卵とかだったっけ。
﹁何言ってんの相思。そんな味あるわけないでしょ?﹂
舞良が言う。あたしも続けて言った。
﹁そうそう。大体鶉味とか、絶対マズイに決まってんじゃん!﹂
すると緑田は﹁俺の仲間をけなしやがって⋮⋮﹂とかつぶやく。
意味分かんない。なにが俺の仲間よ。
﹁で、留美と由香は?﹂
﹁あっ、私はチョコ2つで!﹂
由香はうれしそうに言った。
でも、その後は男子の方をじっと見ている。
なんなの由香⋮⋮。
﹁んじゃあ、あたしはバニラとフランボワーズで﹂
フランボワーズ、好きなんだよね。
﹁オッケー! チョコ11個とバニラとフランボワーズね!﹂
そう言うと舞良はお母さんの方に走っていった。舞良、家のお手
伝いするなんて、えらいなぁ⋮⋮。
﹁あっ、緑田手伝ってくれば? 付き合ってるんだし﹂
20
あたしが言う。
﹁えっ、お前ら付き合ってんの!?﹂
久保が驚いている。知らなかったんだ⋮⋮。みんな知ってるのに。
久保って時代遅れ。
緑田は﹁仕方ねーな﹂とつぶやきながら席を立って舞良の方に行
こうとした。
でも、そのとき舞良がこっちに来たから、緑田は恥ずかしそうに
また座った。
21
4 恋バナ
﹁ねえ、恋バナしよっ﹂
あたしはそう言ってみんなの顔を見る。すると照南が一番に賛成
した。
﹁最初は久保だろ﹂
えっ、久保って恋愛とか興味なさそうなのに、意外とあんのかな
ぁ⋮⋮。
﹁えっ、俺!?﹂
なんか驚いてる。
﹁久保おるやろ?﹂
﹁えっ、いんの!?﹂
あたし知らなかった⋮⋮時代遅れ!?
あれ、由香顔赤い。
﹁由香、熱ある? だいじょぶ?﹂
﹁えっ、大丈夫だし﹂
うーん、やっぱ今日の由香、ちょっと変。
﹁おまたせ﹂
さっき舞良は来たはずなのに、しばらく黙ってたみたい。
美味しそうなマカロンを大量にのせた皿をテーブルに置いてくれ
た。
﹁カップル登場﹂
﹁うるさいっ!﹂
舞良と緑田が怒り出す。
﹁息ぴったりだね﹂
﹁ね﹂
由香と一緒に言っていると、照南がつぶやく。
﹁お前らやばいやろ﹂
﹁何が!?﹂
22
そんな話をしながらマカロンを食べていると、いつの間にか体育
祭の話になった。
﹁そういえば俺らのクラス打ち上げやるってさ﹂
﹁え、ホント!? やったぁ!﹂
あたしはすかさず反応して飛び上がる。
﹁お前盛り上がりすぎやろ﹂
久保が口を挟んでくる。そういえば、それってどこでやるんだろ
う?
あたしがそう思ったとき、緑田が﹁どこでやるん?﹂と言った。
﹁あたしもそれ思ってた∼﹂
言いながらマカロンを口に放り込む。
フランボワーズおいしぃ!! あまあま?
﹁カラオケらしいで﹂
﹁マジで!? よっしゃあ!﹂
思わず大声で叫ぶ。
﹁留美うるさいって﹂
舞良が言う。
あ、ここお店の中だっけ。すると舞良のおかあさんが店の奥から
やってきた。
﹁新作のケーキ、味見していかない?﹂
そしたら由香と久保が立ち上がって﹁ケーキ!﹂と叫んだ。
﹁お前らってそういうキャラやったっけ?﹂と照南が不審そうに言
う。
久保って甘党なんだ? 初耳。
﹁だってケーキだよ!﹂
由香が叫んだ。
﹁だからここお店⋮⋮﹂
舞良が注意するけど、聞かない。
﹁そーやで、ケーキやで! だってほら、ケーキ! ケーキやで!
23
分かる!? ケーキやで!﹂
ケーキケーキうるさいなぁ、もう。
﹁ケーキ連発しすぎ!﹂
舞良が言う。
あたしたちはそのとたん笑いだした。
舞良のお母さんたちが迷惑そうに見てたけどね。
﹁そういえば、体育祭の競技って何があるっけ?﹂
あたしが聞くと、久保が答える。
・・
﹁リレーとか玉入れとか綱引きとかやろ?﹂
・・
﹁えっ、綱引きとかまめできるじゃん﹂
あたしがつぶやくと照南は﹁またまめかよ﹂と言ってつっこんで
くる。
﹁別にいーでしょ!﹂
文句を言うと由香も﹁その話は忘れて!﹂と叫ぶ。
やっぱり由香は私の味方!
﹁みんなは何出るの?﹂
舞良がきく。
﹁俺ら全員4×200mリレーで、アンカーが俺﹂
また照南が答える。
すると由香が﹁あと一人は誰なの?﹂と聞いた。
﹁あぁ、あと一人は先川だぞ﹂
緑田がつぶやく。
アイツ速いっけ?
﹁うちらは多人多脚だよ!﹂
そうそう、あれ、じゃんけん勝ててよかった。
﹁留美はリレーも出るでしょ? クラスで一番速いんだし﹂
あたし、そんなに速いのかなぁ⋮⋮?
﹁え、お前って速いん?﹂
照南が聞いてくる。
24
﹁一応、7秒5くらいだけど⋮⋮﹂
すると久保は驚いた様子であたしを見る。
﹁そーしんと翔と同じくらいやん!﹂
﹁えっ、マジで!?﹂
ってか、久保って、人のタイムとか覚えるタイプ? キモイし。
ってか、あたし速いんだ⋮⋮。
﹁こ、この後カラオケ行かない?﹂
由香が焦りながら言う。
﹁いこいこ﹂
あたしが言うとみんな賛成したので、決定事項に。ってか、由香
なんで焦ってたんだろう?
﹁んじゃ、店出ようか﹂
あたしが言う。
﹁えっと、半額で13個だから1300円ね﹂
うわ、高い⋮⋮。
カラオケいけるかな?
金欠なりそう⋮⋮。
﹁はい、ありがと﹂
舞良は上品で大人っぽい笑顔でレシートを渡してくれた。かわい
いなぁ、舞良。
舞良は着替えてくると言って店の奥に入っていった。
﹁覗くなよ﹂
あたしは緑田に言う。
﹁の、覗かんし﹂
なにそれ、爆笑。
﹁そういえば、久保って結局好きな人いるん?﹂
﹁おらんし!!﹂
﹁えっ、でも照南がいるって︱︱︱︱﹂
﹁いるやろ!﹂
25
﹁おらんって!﹂
あーもう、意味分かんない!
訳分からんし!
﹁みんな待った?﹂
舞良が出てきた。
ピンクの長Tにデニムスカート。女子のあたしでも思うよ、かわ
いいって。
﹁じゃ、カラオケいこっか﹂
ということで、6人でカラオケに行くことになった。
26
5 由香
あたしたちはカラオケに着くと、カウンターの方へ向かった。
﹁えっと、中1が6人︱︱︱︱﹂
あたしが言いかけると、照南があたしの頭を叩きながら言う。
﹁こいつ小学生でーす﹂
ふざけんなっ⋮⋮!
﹁痛いって! っていうか、あたし小学生じゃないし! 店員さん、
こいつの事は無視でお願いします!﹂
店員さんが混乱している前で、あたしたちは大声でケンカする。
そこに由香と舞良が割って入ってきた。
﹁ケンカしないでって。追い出されるかもよ?﹂
舞良の落ちついた声に癒されて、あたしは少し声を抑える。
その瞬間、舞良があたしたちは引きはがす。舞良、力強いから痛
いよぉ∼。
﹁2人とも⋮⋮ケンカするなら、カラオケルームでしててよ?﹂
由香のまるであたしたちにケンカしてほしそうな言い草に若干引
っかかりながら、あたしたちはカラオケルームへと向かう。
それにしても、由香本当に調子悪そう。どうしたんだろう?
あたしはカラオケルームに行く途中、舞良に相談することにした。
﹁ねえ舞良︱︱︱︱﹂
あたしが今日の由香のことを説明すると、舞良はしれっと答える。
﹁今日のメンバーのだれかに恋しちゃってんじゃないの﹂
﹁恋!? 好きってこと!?﹂
あたしは思わず大きな声で叫ぶ。
すぐに舞良に押さえられたけど。
っていうか、ほんとうに舞良、目敏いんだから。
怖いくらいだよ。
27
流石恋愛のスペシャリスト!!
﹁そ、そんなの初耳だよ! 誰のことが好きなんだろっ!?﹂
﹁だから留美、声でかいって!﹂
﹁う⋮⋮ご、ごめん﹂
あたしはなるべく大きな声を出さないように心がけようと決心す
る。
それにしても由香、なんであたしたちに教えてくれなかったのか
な?
﹁ねえ舞良︱︱︱︱﹂
﹁由香は鈍感だからね﹂
﹁へ?﹂
﹁え?﹂
んん? 今、すっごくおかしいことになったような気がするんだ
けど⋮⋮。
あたしがなんで教えてくれなかったか聞こうとしたら、それの答
えらしきものが返ってきたよ?
ん? んんんっ!?
﹁ええぇぇぇぇぇぇぇえっ!?﹂
﹁うるさいってば留美ィィィィィィイィ!!﹂
﹁ごごご、ごめんなさぅ⋮⋮﹂
でも本当に不思議。さすがエスパー舞良。
すごいよ、尊敬どころか、恐怖心抱いちゃうほどだよ。怖いよ本
当、舞良、恐ろしい子⋮⋮。
﹁なに、留美﹂
﹁ひぅ、何もありません⋮⋮﹂
舞良には逆らえません。
これが絶対ルールなのです。
﹁ふぅ⋮⋮﹂
舞良がため息をついた。
﹁どうしたの?﹂
28
あたしが聞くと、舞良は語尾を濁しながら﹁えっと、ちょっとね
⋮⋮﹂と曖昧に答える。
そんな舞良を見て、あたしは問い詰める。
﹁ねえ、なに!?﹂
﹁うるさいって⋮⋮﹂
舞良はそうつぶやくけど、それ以上何も言わない。
あたしがむくれていると、聞き覚えのある半泣き声が聞こえてき
た。
﹁ひどいよ2人ともっ! 私、1人だったんだからぁ!﹂
泣きそうになっている由香を、舞良がなぐさめる。
っていうか、泣くほどのこと!?
由香って分からない⋮⋮。あたし、男子耐性あるからかなぁ。
由香は男子という生き物自体が苦手だもんね。まあ、そこが母性
本能︵?︶を擽るわけなんですが。
う∼ん、でも由香としては男子3人の中に1人でいるのは悲しい
かも⋮⋮。
﹁ごめん由香﹂
あたしは頭を下げて謝る。
舞良も謝っている。
﹁ごめんって、ね? あたしが悪かったから、泣かないで﹂
﹁うぅ⋮⋮別に、2人ともひぅ、悪くない⋮⋮ひぅっ、し、だいじ
ょひぅ、だぉ⋮⋮﹂
ひぅって⋮⋮かわいいんだけど、なんなんだろう。
﹁とりあえず早く男子のところいこっ! 待ってるかもだし、心配
してるかもだし!﹂
舞良が前を指差す。確かに、もう男子たちの姿は見当たらない。
由香、確か方向音痴だったよね⋮⋮。よくあたしたちのとこ来れ
たなぁ。成長ですね、ハイ。
気が付けば、舞良は走って行ってしまっていた。
﹁あ、私たちも行こう!!﹂
29
由香も走って行く舞良を追いかけて走って行ってしまった。
﹁待ってぇ!﹂
あたしは叫ぶ。しばらく走っていると由香を見失った。あぁもう、
これじゃあ迷うじゃん、あたし!
ってか、あたしを撒くなんて、鈍足由香︵ぶ、侮辱!! by由
香︶には普通ならできないのに、なんで見失ったんだろう?
あたしは背筋が冷たくなっていくのを感じた。
もしかしてだけど⋮⋮。
﹁あっ、留美!﹂
舞良が叫んできた。
由香の姿はない。
﹁由香は!?﹂
﹁いや、えっと見失って⋮⋮﹂
やっぱり由香、方向音痴は治ってなかったのか⋮⋮。
﹁探さなきゃ!!﹂
30
6 カラオケ
あたしと舞良は走り出す。
後ろから男子たちもついてくる。
由香、どこにいるんだろう⋮⋮。
﹁あ、いた!﹂
横にのびる分かれ道を覘いたあたしの後ろにいる舞良が言う。
﹁えっ!?﹂
あたしはバックして分かれ道を見る。
﹁由香!﹂
由香は座り込んでいた。
﹁あ、みんな!﹂ 由香はあたしたちの姿に気が付くと、立ち上が
って走ってきた。心配かけないでよ、もう。
﹁もう由香、先に行っちゃダメじゃん!﹂
あたしが由香に言うと由香は﹁舞良がいたから、大丈夫だと思っ
て⋮⋮﹂と言いながらうつむく。
うん、それは迷う由香が悪いね。だって、前を舞良が走ってて、
後ろからあたしが追いかけてたのに迷うってさ、人間業じゃないよ。
由香、恐るべし!!
﹁大丈夫か?﹂
あたしの後ろから聞いてきた照南の問いに、あたしが答える。
﹁大丈夫!﹂
すると照南は﹁お前に聞いてねーよ﹂と言ってあたしの頭を叩い
てきた。
﹁いったぁ! 身長縮むっての!﹂
﹁チビだから変わんねーだろ﹂
﹁はあぁぁぁっ!?﹂
またケンカになる。もう、ほんっとムカつく!
31
﹁バーカ!﹂
あたしが叫ぶと、今度は2回も頭を叩いてきた。もう許せない!
マジでウザい!
そう思ってあたしは照南の頭を叩く。そこからは叩き合いみたい
になってきた。
でも、あたしの方が背が低いからかなり不利。
15?くらい違うんだよね。あたしは147?だから、照南は1
62?くらい。よしっ、こうなったら奥の手を使う!!
﹁2人とも入ってよ﹂
舞良に急かされてあたしたちは305号室に入って行った。
﹁よっし!﹂
あたしは靴を脱いで机の上に乗る。
﹁ちょっと留美! やめてよ汚くなる!﹂
舞良の言葉にあたしはしょんぼりする。
そんなあたしを汚染物質扱いしなくても⋮⋮。
でもまあ、カラオケに来たんだからカラオケしなきゃね。
そう思ってあたしは机の上から飛び降りた。
﹁ってぇなバカ!!﹂
突然叫ばれて、鼓膜が破れそうになる。
照南、何なの!?
そのとき、足元に変な感触を感じた。
何⋮⋮?
あたしがそっと下を見ると、思いっきり照南の足を踏んでいた。
﹁あ、あたしだって痛かったし! 大体あんたがこんなところにい
るから悪いんでしょーが!﹂
再びケンカモード。
やっぱりこのくだりになるわけ?
ったく、迷惑なんだから。
﹁二人ともケンカはやめてよ∼﹂
由香の声に、あたしはケンカをやめカラオケに専念することにし
32
た。
⋮⋮ん? あれ?
﹁由香、あんた言ってること変わってない?﹂
﹁うぇ? そう? ごめん﹂
素直に謝る由香を見て、あたしが悪いのかと錯覚してしまう。
﹁やめてよ由香﹂
﹁えっ、ごめん﹂
また謝る⋮⋮。
﹁もう由香ってばぁ! 謝らなくていいんだってば!﹂
﹁う、うん﹂
由香はそう言った後、まるで癖のように﹁ごめん﹂と付け足した。
⋮⋮ダメだこれ。
﹁はあ⋮⋮﹂
あたしがため息を吐くと、由香が心配そうにあたしを見る。
﹁大丈夫? 留美﹂
﹁大丈夫⋮⋮﹂
このため息はあなたのせいなんですよ、由香。
そう思いながら曲を選ぶ。
やっぱ︿りり☆らら﹀かなぁ。︿星の世界﹀の曲は照南とかぶる
からなぁ⋮⋮。アイツがいなければ絶対歌うんだけど。
そのまま2時間ほど歌って、店を出た。
﹁喉痛ーい。明日は声ガラガラだなぁ、これ﹂
あたしは嘆く。ほんとうに喉がヤバい⋮⋮。
﹁じゃあね∼﹂
緑田は舞良を送って、あたしは⋮⋮照南!? 嫌だしぃ! てか
さぁ、なんで男女ペアにならなくちゃいけないわけ!?
﹁由香ー? あれ、帰っちゃったのかな?﹂
﹁久保ー﹂
横で照南が久保を呼んでいる。久保もいないんだ? あの2人、
どこ行ったんだろう?
33
そのとき、照南が﹁あれって告白じゃね!?﹂と言って細い路地
を抜けた向こう側を指差す。
﹁ん?﹂
あたしはじっと2人を見る。由香と⋮⋮久保? なにやってんだ
ろ⋮⋮?
告白かな? 必死そうだし。って、あぁ!? 由香、うなずいた
⋮⋮。
じゃ、じゃあ由香が好きだったのは久保!? いやいやいやいや、
まだ告白だと決まったわけじゃないし⋮⋮。
っていうか、マジでなんであたしと照南? 家反対だったような
⋮⋮。
ってそんなことはおいといて⋮⋮そういえばあの2人、ケーキが
好きだとかなんとかで、気が合ってたよね。
すると由香と久保があたしたちの方を見た。でも、気付かれては
いないみたい。
良かった⋮⋮。
34
先川 有人 エピソード
僕があいつと出会ったのは入学式。
最初の印象は、明るいなってだけだった。
後から分かったことは、頭がいいんだなってことと、毎日髪がは
ねてるってことくらい。
まあ、誰でも知ってるような感じだけど。
でも、僕だけが知ってることもある。
たとえば、意外と天然だってこととか。まあ、色々。
﹁先川﹂
あいつに、声をかけられた。
﹁辻﹂
辻優里。女子みたいな名前だけど、普通に男子。
そういえば去年も今年も同じクラスだった松田が、どんな女子だ
ろうっていつもの声で叫んでたな。
それも入学式。
教室に入ったあとの松田の反応⋮⋮思わず笑いそうだった。
﹁何だよ、いきなり﹂
﹁別に?﹂
辻は、女子とよく話す。しかし天才。よくキャラがつかめないや
つだけど、それなりにいいやつだ、と思う。
僕的な考えで言うと、そういう感じで。
そして、辻はバカっていう感じの。うん、全然分からへんな。
﹁由香!﹂
いつも通り、松田の声。うるさいくらいによく響く。
合唱団にでも入って大声を出してもらって、教室では黙っておい
てほしいくらいだ。
﹁有人はさ、テスト勉何してんの?﹂
山原吉輝、通称吉輝。
35
テスト勉なんか、特に特別なことはしていない。目立つのが嫌な
僕にとっては、言いたくないことだ。
︱︱︱︱家ではかなりのガリ勉なんだってことなんて。
36
辻 優里 エピソード
俺は何となく知っていた。
入学式で発表されるクラス分けの紙を見た女子が、俺のことを女
子だと勘違いするんだってことを。
小学校が一緒だった人にまでそんな扱いされたらさすがに困るけ
ど、違う学校なら、仕方ない。
というより、むしろ男子だと思った方がすごいくらいだ。
なにしろ、辻優里。優里、だぜ? あ、今のはカッコつけてたな。
うん、つまり、優里。女子だろ、普通。
親の屁理屈によると、女が生まれると信じて、というか、女だと
最後の方まで勘違いしてたため、名前がすぐに考えられなかったん
だとか。
考えろよ!! というのが俺の理屈だが、それは仕方がない。
いや、仕方なくない。
まあとりあえず、俺はそういう変な親から生まれた変なやつだっ
てことくらいが自慢話だ。
﹁先川﹂
俺が同じクラスで仲がいい先川有人に声をかけると、そいつはす
ぐに振り向いた。
﹁辻﹂
特に用があって呼んだわけじゃない。ただ、暇だっただけだ。
それが俺。あ、今もまたカッコつけたな。
﹁何だよ、いきなり﹂
﹁別に?﹂
用があったわけじゃないから、何だよと言われても、こっちもな
んでもないとしか言いようがない。
人間ってのはそういうもんだ。
﹁有人はさ、テスト勉何してんの?﹂
37
先川と仲がいい山原吉輝っていう男子が、先川に声をかける。
そろそろ俺は退室かな、と思って俺はその場を離れた。
38
山原 吉輝 エピソード
僕が稲生小の人で初めて仲良くなったのは多分、辻だと思う。
このクラスは僕たちの小学校の安納小卒の人が多いから、口下手
な僕が友達をすぐに作れたのは、結構いいことだと思う。
でも、相手が良かったんじゃないかな。
辻は、女子とも男子ともよく話す感じで、でも頭がいいっていう、
意味の分からない性格をしてるから、僕みたいな奴にも声をかけて
くれたんだと思うんだよね。
うん、それしかない。
﹁有人はさ、テスト勉何してんの?﹂
僕は有人に聞いてみる。有人は辻と同じくらい頭がいいし、足も
速いから、すごく羨ましい。
僕も、見習いたいと思っている。
しばらく考え込んでいる有人の答えを待ったけど﹁特に﹂という
期待外れの言葉が返ってきた。
じゃあ、なんであんなにテストの点数がいいんだろう?
僕は結構考えたけど、結局答えは出ずに、そのままチャイムが鳴
って席に座った。
退屈な数学の授業は、問題を解き終わってまだ解き終わっていな
い人たちを待つ時間だけが楽しいひとときだ。
窓際の席から数えて2番目の僕は、空とか、故郷の安納小が見え
やすくて、好きだ。
この席が。前と後ろ、右と左、全員女子。別にその中に好きなタ
イプの女子がいたわけじゃない。
まあ、班は仲の良い感じの男子がいたからいいけど。
そんな僕の、退屈な数学の授業だった。
39
7 カップル成立!?
久保がさりげなく由香と手をつなごうとしているのが見えた。
照南と2人で盛り上がっていると、久保が由香の手に触れる寸前
で由香が髪を耳にかけるために手を移動させた。
あーもう、いいところだったのに。
由香ってば、バカなんだから。
すると照南があたしの頭を強引に回しながら小声で言う。
﹁つないでるぞ、ほら!﹂
﹁痛いって!﹂
あたしが叫ぶと手をつないでいた2人が振り返った。こっ、今度
こそ気が付かれたーっ!
﹁バカ!!﹂
照南があたしの頭を叩いてきた。もうっ⋮⋮! ムカつくんだか
ら!
﹁る、留美?﹂
﹁翔⋮⋮?﹂
やっぱバレたっ⋮⋮! うっわ、どうしよ! このままじゃ絶対
由香に嫌わるっ!
あたしは逃げ出そうとする。
すると照南があたしの肩をつかんで言った。
﹁逃げんじゃねーよ﹂
﹁はぁ?﹂
やだしやだし! 逃げるしぃ!
﹁じゃあ2人で逃げれば︱︱︱︱﹂
﹁俺は詳しく話聞きたいんだよ﹂
﹁はぁぁ!?﹂
そんな私事にあたしをまきこむなぁ! あたし関係ないし! な
んであたしが逃げたらだめなわけ!?
40
何こいつバカじゃないの!? いや、もうここまでいくと大バカ
だ!!
あたしは心の中で叫びまくる。
﹁これ、どーゆーこと?﹂
照南が聞くと、由香は恥ずかしそうに久保の後ろに隠れた。
でも、久保は由香より背が小さいから隠れられない。
それに気が付いた由香はその場にしゃがみ込んだ。
由香恥ずかしがり屋だなぁ。もっと堂々としていればいいのに⋮
⋮。
まあ、それもある意味由香のいいところだよね。
かわいいし。守ってあげたくなるし。萌えるし。モテるし。本当
可愛いし。女神並みに天使だし! かわいいし!!
あたしが暴走していると、久保がついに照南の問いに答える。
﹁別に﹂
⋮⋮見当違いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!
裏切り者め∼!
別にって! 別にって!! 本当のこと言いなさいよ! ってか
ばれてるし!
いや、ばれてたら聞く必要もないんだけど⋮⋮いやいやいや、そ
・・
んなことは今は関係ないのです!
今は!! 頭の中で叫んでいると、笑いが込み上げてきた。
﹁頭大丈夫か﹂
そう言って照南はまたあたしの頭を叩いてくる。
しつこいっ! もう許さないし! あたしは力いっぱい照南の頭
を叩く。
﹁ってーな、バーカ﹂
﹁またバカって言った!﹂
久保と由香を放って、ケンカが始まった。
あぁ、やっぱり無理やりにでも逃げれば良かった⋮⋮。
あの時帰っていれば、のんびりしてたんだろうなぁ。さらば、の
41
んびりなあたし!
舞良もきっと楽しく緑田と帰ってるんだろうなぁ。羨ましい⋮⋮。
あたしはため息をつく。ほんっとばかなんだから。
﹁ふ、2人ともケンカはやめた方がいいんじゃ⋮⋮﹂
由香は多分外でケンカなんて恥ずかしいからやめなさいっていう
お母さん的なことを言おうと思ったんだろうけど、あたしたちは聞
いちゃいない。
ごめんなさい、由香。
﹁バーカ!﹂
﹁バカって言った方がバカなんだからね!﹂
﹁バカって言った方がバカって言った方がバカだろ﹂
﹁バカって言った方がバカって言った方がバカって言った方がバカ
でしょ!﹂
うんこれ、不毛だな。
不毛すぎるお決まりの王道パターンに久保と由香はあきれてため
息も出ねーぜって感じでため息をついていた。
42
小谷 愛梨 エピソード
・・・・
・
辻とはただの幼馴染だ。ずっとそう思っていた。というより、そ
のつもりだった。
なのに最近は違う。変な感情が湧いてきたりする。きっと、私の
気持ちが変わったからだ。
そう、きっと︱︱︱︱。
いやいや、そんなこと考えてもしょうがないじゃん。よし、部活
行こ。
﹁まーなっ! 部活いこっ﹂
私はそう言って仲良しの真奈を誘う。
﹁ちょいまち﹂
真奈からそんな返事が返ってきたから、私は﹁うん﹂と返事をし
て真奈を待った。
﹁おまた∼。ラケット見つかんなくって﹂と、真奈の声。
私はバド部︱︱︱︱つまり、バドミントン部ってこと。ラケット
を持って、真奈と体育館に行く。
今日は試合ができるんだよね。私は上手い方らしいからなんだっ
て。分からないけど。
コートに入ったら真剣そのもの。けど、今日は違った。辻のこと
を考えてボーっとしていた。
辻は自分より背の低い女子を好きで。私は辻より背が高くて。辻
が私の背を追い越してくれたら。いっそ、私が辻より背が低ければ。
︱︱︱︱こんなことにはならなかったのかな。
そんなことを考えていたら試合に負けてしまった。なんか、悔し
くない。ただ、悲しい。
まあいいや。帰る前に一度、スマッシュ打っておこう。スッキリ
したいし。
43
﹁バカみたい﹂
私はそうつぶやいて思いっきり強く打った。シャトルが壁に当た
る音が、体育館に響きわたる。
気分がスカッとした。
体育館から出ると、外は大雨だった。いつの間にこんなに雨降っ
てたんだろう?
そう思いながらも、私は構わず進む。
もう、やめよう。人を好きになるなんてバカらしいし、無意味。
頭の中ではそう考えていたけど、頬には涙が伝っていた。
44
岸崎 真奈 エピソード
﹁はあ⋮⋮﹂
私は一人、ため息をついた。最近のあの子の様子、絶対変。私の
大好きな親友。
なんでかなぁ、気になっちゃうのは。
﹁まーなっ! 部活いこっ﹂
愛梨に声をかけられて、私はパッと顔を上げる。部活⋮⋮そうだ、
今日も部活だ。
雨降ってても何があっても、体育館の部活のバド部は中止になら
ないんだ。しんど。
﹁ちょいまち﹂
私はそう言って愛梨に少し待ってもらった。ラケットどこおいた
っけなぁ∼。
あっ⋮⋮これ。私はロッカーから小さなメモを見つけた。前のや
つだ。渡せなかったやつ。
愛梨とやってる交換メモで、渡せなかったこの一枚。
やなもの見つけちゃったかも。ま、気にしないっと。私はラケッ
トを見つけ出すと握りしめたメモをゴミ箱に捨てた。
﹁おまた∼。ラケット見つかんなくって﹂
えへへ、と笑いながら私は愛梨の方に走り寄る。
﹁あははっ﹂
愛梨と私は意味もなく笑う。これでいいんだもん。そう、いい。
愛梨も好きだから、仕方ないんだ。私が諦めないと。
部活が終わった後、愛梨は一人で一発、スマッシュを打っていた。
今日の試合、負けたからかな。
私はそこまでうまくないから、端っこで打つ練習してるくらい。
45
同じ一年生なのに、全然違う。
試合にも出させてもらえないし⋮⋮。でも、これでいい。
愛梨が幸せなら。
﹁私、辻の事好き﹂
46
8 照南
なんか照南に送ってもらって無事帰宅。
まだ5時前だし、明るいから大丈夫なのになぁ⋮⋮。
あっ、そういえば明々後日体育祭だっけ!!
もぉ疲れたしぃ、やだなぁ⋮⋮。
とりあえず、シャワーでも浴びて塾の用意するか。
あたしはそう決めると早速シャワーを浴びることにした。
シャワーのお湯を浴びたとたん、あたしは﹁あっつ!!﹂と叫ぶ。
なにこれ、熱すぎっ⋮⋮!
1人で叫んでしまったのを恥ずかしく思いながら、あたしはシャ
ワーをブン投げたくなった。
⋮⋮そういえば、照南って人の好きな人とか聞いてばっかりだけ
ど、好きな人とかいるのかな?
しかも、舞良も由香も好きな人いるのに、あたしだけ⋮⋮?
なんか、置いていかれたみたいで、寂しいかも⋮⋮。
そんなことを思いながら、あたしはシャワーのお湯を止めてお風
呂を出た。
そのあとは塾の用意して塾行って帰ってきたら10時過ぎ。
もう一度シャワーを軽く浴びてパジャマに着替えると、歯磨きし
てお茶飲んで、布団に入った。
土日を満喫してその次の日の朝、あたしは眠いのを我慢しながら
なんとか起き上がり、朝ご飯のバタートーストにかじりつくと、そ
のままさっさと食べて家を出た。
行きは舞良と一緒に行っている。
由香は家が遠いから、違う人と行ってるんだって。
3人で行きたいけど、まあいいか。
学校に着いた後は日常茶飯事で毎日の恒例行事の照南とのケンカ。
47
でも飽きないのはなんでなんだろう?
まあ楽しいからいいんだけど。ほんっと、男子ってバカ。特に照
南。
その調子で体育祭当日。3人で出た多人多脚は1位。後は4×1
00mリレーだけ。あたしがでるやつ。
わくわくして集中して他の競技を見ることはできなかったけど、
良い調子みたい。
良かった良かった。しばらくすると、あたしの出番が来た。がん
ばろっと!!
1人目の美村さんが走り出した。美村さんはすっごく速い。
その次の小谷さんが走り、岸崎さんにバトンをパス。みんな速い
⋮⋮。
あたしがアンカーだけど、上手く走れるかな?不安になったけど、
応援席の方を見れば、由香と舞良が応援してくれているのが見えた。
もちろん、クラスの子みんなが応援してくれているけど。
緊張して震える足を叩いてほぐす。
﹁大丈夫、いける︱︱︱︱︱︱!!﹂
そうつぶやいて深呼吸する。
大丈夫、あたしなら︱︱︱︱ん? あたしならって⋮⋮。
あたしってそんなにすごい人じゃないはずなのに、な?
岸崎さんがあたしにバトンをパスしたときには2位。
絶対抜かす︱︱︱︱!!
あたしはそう決意して全力で走りだした。
48
9 体育祭
走る、走る、走る︱︱︱︱︱︱。
抜かせば、いける。いけるって!! あたしなら、いけるんだっ
てぇぇぇぇえーっ!!
ゴール直前、あたしは前の人を抜かしたような気がした。
ゴールした人が次々と流れ込んでくる。
﹁はあ、はぁっ⋮⋮﹂
あたしも息を切らして、必死に酸素取り込み中。
舞良と由香が応援してくれたから、かな⋮⋮。
﹁結果は、1位B組︱︱︱︱﹂
﹁よっしゃあぁぁぁっ!!﹂
あたし、リレーに出た3人、応援席のクラスメイト、男子の4×
200mリレーに出る男子たち、みんな叫んだ。
1位⋮⋮!! あたしだけじゃない、みんなのおかげ。
あたしにバトンをつないでくれた美村さん、小谷さん、木崎さん、
そして応援してくれたみんなのおかげ!!
﹁おめでとーっ!!﹂
﹁すごいねっ!﹂
舞良や由香からそう言われてあたしはうれしくなる。
﹁うん、ありがと! でもみんなが応援してくれたからだよ!!﹂
本当に嬉しい!! やったぁーって感じ。
そのあとは男子のリレー。応援頑張らなくちゃ!!
これが競技の最後。これで勝てば、総合点数で勝てるはず。
最初が先川で次が久保。今は1位だから、このままだったら行け
る!!
あっ、抜かされちゃった︱︱︱︱!? これ、ピンチじゃない⋮
⋮!?
49
そのあとの緑田も抜かせずにアンカーの照南。いけるかな⋮⋮。
でも結局ハッピーエンドな感じのぎりぎり1位!!
︱︱︱︱かと思ったら実は抜かせていなくて、なんと2位。
惜しかったなぁ⋮⋮。
もうちょっとだったのに!! まあ、打ち上げもあることだしい
いや!!
いやいやいやいや、良くないんだけどさぁ? でもまあ、良いっ
ちゃいいわけで。
でもなんか︱︱︱︱泣けてくる。
﹁うっ⋮⋮く⋮⋮﹂
あたしは嗚咽まじりに涙を流す。
﹁ちょっ、留美!?﹂
﹁う⋮⋮舞良、別になにもなっ⋮⋮﹂
心配かけたくない、かけたくないけど⋮⋮。
悲しいんだもん、負けたのが。頑張ったのに、頑張ったのに、頑
張ったのにっ⋮⋮!!!!
﹁だってさぁ⋮⋮負けたんだもんっ⋮⋮!!﹂
1位はD組。速い人を選んだかのようなメンバーばっかりいるク
ラス。
だからこそ、悔しいんだよ。B組なら勝てるかなって、何となく
信じてたから。
みんなの団結力だけが、頼りなんだって分かってたから。その団
結力が、勝利を導いてくれると信じていたから。みんなが一生懸命
なのが、分かっていたから。
だからあたしは、自然と優勝するんじゃない!? と思っていた
んだ。
結果は準優勝だったけどね。でも、結果だけじゃないはずだから。
この団結力が、いつか生かされると思ってるから。
50
みんな思っていることは違うんだろうけど、こうして体育祭は幕
を閉じた。
そしてっ、こっからが本番って言ってもいいほどの打ち上げ!!
教室に戻ると、担任の先生が教壇に立って言った。
﹁着替えて、5時までには正門前に集合してください﹂
5時までかぁ⋮⋮。
ダッシュで帰って4時半くらいに来ちゃおっと。
舞良と由香としゃべったりして待てばいいし。
﹁打ち上げ楽しみだね﹂
舞良がやわらかい笑顔で言う。
﹁うん、楽しみ。だってカラオケだもんね!!﹂
﹁うん。まあ、一昨日も行ったんだけど﹂
﹁だね∼﹂
そんな話をして盛り上がっていると、あたしはテンションが上が
りまくっておかしなことになる。
﹁留美、落ち着いて。楽しみなのは分かるけど⋮⋮﹂
由香が止めてくれて、やっとあたしの声が小さくなる。
多分めちゃくちゃ迷惑だったんだろう。
あたしの声はデカイから⋮⋮。
そういうことで、二次会・打ち上げという名のカラオケ大会、始
まります。
51
泉 大輝 エピソード
俺はなぜか、ネガティブだ。誰が見ても分かる、ネガティブ。
どうせ俺が死んでも誰も悲しまない、みたいな。うん、そう。
・・・・・
︱︱︱︱つまり、ネガティブ。
﹁泉﹂
﹁えー? あ、藤本﹂
藤本は普通すぎるポジティブだ。明るくて、俺と正反対な性格だ。
でも、一緒にいたりする。
藤本は運動は得意で、勉強は⋮⋮イマイチだったりする。俺はそ
の逆で、勉強はどちらかと言うと得意な方で、運動は苦手な方。む
しろ、イマイチ。
部活でやってる卓球だけは得意やけど、まあ、それだけ。
部員の中では、真ん中より良い方、つまり、中の上ってやつ。俺
の実力は、そんなもん。70点。
﹁今日のテスト、どうやった?﹂
今日は中間テスト。教科は国語と理科。理科は得意やけど、国語
は微妙。
まあ、もう終わったから、後は結果を待つだけやけど。
﹁そ∼なんやぁ。あー、あの問題、種子植物じゃないん!?﹂
﹁違うって! あれシダ植物だよ? ぜんぜん違う!﹂
﹁えーマジか!! 最悪∼﹂
きゃあきゃあ言ってる女子のスペースを空けるように、男子は端
に寄る。やっぱり、世の中ってゆーのは、女子が生きやすくできて
るんだな。ひどすぎるやろ。
あーめんどくせー。しかも明日、社会と英語と数学⋮⋮。全部嫌
なやつやん。
52
﹁ぅお∼い。泉、帰ってこーい﹂
耳元でそう言われて、俺は会話の途中だったことを思い出した。
﹁あ、ごめんごめん。てか、何の話やったっけ?﹂
﹁聞いてなさすぎやろ。テスト、どうやった? って聞いてたんだ
よ﹂
テストは、言うまでもなく国語ぼろぼろ、理科は70点くらい取
れるかな、って感じ。
﹁国語50、理科70で﹂
﹁え、すご!!﹂
いつの間にか話に入ってきた植野と藤本が、同時に驚く。もっと
すごいやついるだろ。
例えば、日野原とか。小学校のときだって、めちゃくちゃすごか
ったし。
﹁藤本の予想は? あと植野も﹂
﹁なんでうち藤本のおまけみたいなん!?﹂
植野は入学したときに席が近くやったからよく話す。そして、な
んか突っ込まれる。
そんな、普通な日常。
53
藤本 大智 エピソード
あ、こんちは。特にやる気ない。そんな感じだけど多分ポジティ
ブ。
どうも、藤本です。
さっそくだけど、10回あいうえおってやってみて。声は出さな
くていいよ。
﹁︵口だけ︶あいうえお、あいうえお、あいうえお、あいうえお⋮
⋮⋮⋮﹂
はいありがとうございました。だからと言って何があるというわ
けでもないのですが。
ただの口の運動です。︵わっ、こいつウザい! by留美︶
というわけで早速俺の日常を紹介していきたいと思います。
まず、登校は松島と。くだらない話して学校到着。これが8:2
0くらい。
そこからはネガティブで有名な︵?︶泉と話す。話してて、意外
と楽しかったりするのがツボだ。
んで、1時間目から4時間目までは悪魔の時間。この間は教科書
を間違えて持って来たり⋮⋮。
何の教科書を持ってきたかは秘密で。絶対笑われるしな。︵知っ
てるやつ絶対言うなよ。by藤本︶
給食は疲れた生徒を助けてくれる最高の時間。ちなみに、おっひ
∼るやすみは泉と談笑。
5時間目から6時間目はめんどい。眠い。死ぬ。
自習とかだと先生も︵俺も︶寝るし、特にめんどくさいのは国語
かな。あと数学。眠くなる教科である︵真面目に︶。まあ真面目に
面倒なのはその二つとして⋮⋮真面目じゃないこの俺!!︵笑︶が
54
なぜ普通に学校に通っているのか⋮⋮それは、法律的に行かなけれ
ばならないからだ!!
あ、なんかすいません。
というわけで、以上、俺の一日でした∼。
55
10 打ち上げ
家に帰るとあたしは急いでお母さんのもとへ行く。
﹁お母さん、お小遣い前借りさせてぇ∼﹂
突然台所に走ってきてお金を請求するあたしを見て、お母さんは
怪訝な顔をする。
﹁いいけど⋮⋮何に使うの?﹂
﹁いいんだ!? あの、体育祭の打ち上げで、カラオケ行くの!!﹂
﹁またぁ? ったくもう⋮⋮﹂
お母さんはぶつぶつ言いながら財布を探しに行った。
もう、早くしてよ∼!! 早く行きたいんだからっ。
﹁はい。1000円。あとは自分ので﹂
﹁うんっ! あ? あたし、お金持ってたかもぉ⋮⋮ま、まあいい
やっ! ありがとおかーさんっ﹂
あたしはそう叫ぶと1000円札をお気に入りの長財布に入れて
斜め掛けのショルダーバックに突っ込む。
そしていつもの水色と白のボーダーのハンカチと塾のおまけでも
らったティッシュを入れてあたしは玄関まで走る。
﹁じゃー行ってくるっ﹂
由香と舞良が待っているだろうと思ってあたしは慌てて駈け出す。
舞良と由香を見つけると走って学校まで行く。
﹁遅れてごめんっ﹂
﹁も∼待たせすぎ﹂
﹁い∼よい∼よ﹂
目をつぶっていても誰が何を言っているか分かるくらい、うちら
の典型的な会話。
そんな会話をしながら学校に着くと、ほとんどの人がもういた。
出遅れたぁ⋮⋮。
そのまま全員そろったことを確認してカラオケへ。
56
1時間半のにして、パーティールームへレッツゴー。
今度は誰も迷わずに無事部屋に到着。
そのまま歌いまくって7時で終了。
そこから食べ放題のバイキングの店に行って9時まで延々と食べ
る。
照南と緑田は肉。肉。肉。
由香と舞良と久保は主にスイーツ。
あたしはハヤシライスがあったからそれを食べて、由香オススメ
の一口ケーキをいくつか食べた。
舞良おすすめのプリンも食べたけど、ちょっとカラメルが苦くて、
口に合わず⋮⋮。
まとも
照南達が食べていた肉は硬くてだめ。
結局ハヤシライスくらいしか真面なものを食べずに終了。
そのころにはもう9時を回っていたから、迎えに来るお母さんも
いて、遠い家の子には途中まで一緒に帰る子の親とその子が家の遠
い子と一緒に帰ってあげたりして、みんなが無事に帰ることができ
るように調整して、みんなバラバラに歩き出す。
﹁解散するので2人以上で帰ってくださいね﹂
遅いよ、って突っ込みを入れたくなるセリフを言う先生。
口々に﹁バイバーイ﹂が聞こえてきて、徐々に減っていく生徒。
やばい、あたし誰と帰ろうかな。
舞良は緑田と帰るだろうし、由香は久保だもんね⋮⋮。
どうせなら一緒に帰りたいけど、お邪魔だろうし⋮⋮。
1人で帰るとか、寂しぃ∼。
付き合ってる人も好きな人もいない残念組なんて、悲しすぎるよ
⋮⋮。
﹁送る、暗いし﹂
﹁ふぇ?﹂
聞き覚えのある声に振り替えると、そこには照南がいた。
うっ、うちら残念組⋮⋮。
57
そのまま照南に手を引かれて強制帰宅。︵2人で帰りましょう♪
ってデートの帰りかよっ!? by留美︶
別に1人でもいいのにさ⋮⋮まあ、それはそれで寂しいけど、よ
りによって照南とか。
ただのウザい奴なのに。
まあ、嫌じゃない⋮⋮かも?
58
11 帰り道
﹁今日男子、おしかったね∼! みんな速かったのに⋮⋮。特に緑
田とかねー﹂
その言葉を聞いて照南はなぜか怒ったような表情を見せて﹁そう
だな﹂とつぶやいた。
なんでだろ⋮⋮? 意味分かんないし⋮⋮。
﹁あっ、もう家だし⋮⋮ってか照南、家真逆だけどいーの?﹂
あたしが聞くと、照南はあからさまにバカにしたような顔で言う。
﹁危ないし。大体こんな暗いのに、一人で帰るとか頭おかしいだろ
バカ!!﹂
ま、またバカって言ってくるなんて、サイッテー。
心配されてんのかバカにされてんのか分かんないし⋮⋮。
﹁じゃあねバイバイっ!!﹂
あたしはそう言って手を振ると家に入ろうと駈け出した。
﹁待てって!﹂
照南があたしの腕を引いた。えっ!? 何、怖いんですけど!?
また叩くのかこんにゃろ∼! こんにゃくやろ∼! あれ、言っ
てること違くなってるよーな。
﹁俺と付き合ってほしいんだけど﹂
﹁は!?﹂
意味分かんないし!? し!? 死!? いやいやいや、死んで
ねーし。
とりあえず意味不明。超絶意味不明なんですけど。夢だよね? ってかいきなりすぎ。
夢だよね!! うんっ、夢しかありえないっ!! うんっ♪
とりあえず定番王道、ほっぺたをつねる大作戦︱︱︱︱!?
﹁ったぁ∼!!﹂
﹁は!? 何やってんだよバカ!﹂
59
もうバカが口癖じゃん!? またバカっていうとか、最低。
でも、何か見たことのない顔してる。
なんてゆーか、いつものふざけた顔じゃなくて、真剣そうな⋮⋮?
あれ、じゃあやっぱり夢じゃなかったってこと?
﹁そう!! 夢じゃないんだよ、う、ええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえ
ぇぇえぇ!?﹂
どどどどど、どうしよぉ!?
﹁お前⋮⋮いきなり叫びやがって⋮⋮頭大丈夫か?﹂
﹁うっさいバカっ!!﹂
今あたしはあたしで状況整理中ッ!! これもあんたのせいっ!!
って、照南、意外と、さ⋮⋮かっこいいこともないこともないこ
ともないような気がしないこともないような気がする⋮⋮みたいな?
﹁もういい。返事、いつでもいいから。出来れば明日﹂
、そういうことか⋮⋮。
そう言って照南は走って行った。そっか、照南家反対なんだっけ
⋮⋮。
ってか、ならなんで送ってくれ⋮⋮あ゛
やだなぁ、なんか⋮⋮。
﹁あっ、照南!!﹂
あたしは照南の背中に向かって叫ぶ。
照南が振り向いた。
﹁何?﹂
﹁あ⋮⋮えっと、送ってくれてありがとっ﹂
照南は戸惑いながら﹁おー﹂って返事してまた走って行った。
﹁照南なんて、いつもウザい奴だとしか思ってなかったし、いきな
り告られても困る⋮⋮﹂
あたしは小さくなっていく照南の背中を眺めながらつぶやいた。
60
12 夜から朝にかけてあああああ∼
その日の夜、あたしはどう返事をしようか迷って、眠れなかった。
朝になってもなかなか起きれなくてさ⋮⋮眠くて眠くてたまらな
い。しんどぉ。
だらだらしながら家を出ると、もう由香と舞良が待っていた。
今日は由香も一緒に行くんだったよね。珍しい日。
今日はいっつも行ってる子が用事で休みだから、一緒に行こうっ
て言ってたんだよね。
﹁ごめん遅れたぁ∼﹂
あたしはそう言いながら2人のもとへ行く。
﹁ううん、私たちも今来たとこ﹂
今来たとこと言われて、安心していると舞良が容赦なく突っ込ん
でくる。
﹁嘘言うなって由香、もう5分以上待ってるじゃん﹂
・・・・・
5分以上って⋮⋮。由香、嘘吐きすぎでしょ。まあ、嘘も方便っ
てやつですか?
由香だから仕方ないよね、由香だから。
﹁えへへ⋮⋮ごめんっ﹂
﹁もう由香ってばぁ∼﹂
由香もいつも通り。舞良もいつも通り。でも、あたしは⋮⋮?
あたしは、動揺しちゃってるのかもしれない。今までケンカ相手
だった照南に告白されて、返事を迷って。大変すぎるでしょ、中学
生⋮⋮。
小学校は楽だったのになぁ。照南もいなかったし。
照南は幼稚園の時に一緒だっただけで、もう忘れかけてたわけだ
し。
﹁あれ? 留美顔色悪いけど﹂
舞良はそう言いながら大丈夫? と付け足す。
61
バレバレじゃん⋮⋮。さっすがエスパー、鋭い舞良。怖いくらい
に当たってますよ。
由香もあたしの顔を覗きこんで﹁大丈夫?﹂と聞いてくる。
﹁えーっとぉ⋮⋮大丈夫?﹂
あたしは回答する側なのに疑問系で返す。なんなんだろーあたし。
﹁何それ!! 大丈夫なのかどうなのか分かんないじゃん! ま、
だいじょぶそーやけど﹂
﹁それで、どーしたの?﹂
どうしたのって⋮⋮と突っ込みたくなるセリフを口にする由香。
﹁別に、眠れなかっただけだよ﹂と答えて適当にかわす。
﹁そうー?﹂
由香がじーっとあたしの顔を見る。舞良も、じーっ⋮⋮。ば、バ
レてる?
いやいやいやいや、まさかそんなはずは! あるわけないです!
⋮⋮ん? です、って⋮⋮?
ん、あれれ? なんかその、最近口調が変わってるよーな気がせ
んでもないこともないよーな気が⋮⋮するっていうかしないってゆ
ーか?
﹁えーと⋮⋮何?﹂
あたしが言うと舞良は意味ありげに﹁別にぃ∼?﹂とか言ってく
るし、由香も﹁な、何もないよ?﹂とか言って焦ってる。何をそん
な焦ることが?
やっぱ、みんなびみょーに気が付いてる⋮⋮?
いやいやいや、でもあぁ、さすがにそんなことはないに決まって
るし。
ナイナイ。ナイナーイ。ノープロブレム? ノーサンキュー? いや、意味違うんじゃ⋮⋮?
って、今はそんなことどーでもいいんだし。
誰も興味ないんやし。うんうん。だよねだよね。意味不明だよね。
とか思っていたら学校について、教室へレッツゴー。
62
教科書を机に突っ込んだら由香の席へ。
﹁でー、なにかあったんでしょ? 留美﹂
図星。悔しくない!? 屈辱だよ!! プライバシーですよ!!
﹁なっ、何もないし!!﹂
必死に言い返す。でもさすがに由香には負けます。
だって由香なんか﹁でも留美、なんか変わった気がするよ。なん
ていうか⋮⋮﹂とか言ってさ。
もうさぁ? あたしをいじるのはやめてくださいよ! いくらあ
たしでも、傷ついたりするんだからさぁ⋮⋮。
﹁大人っぽくなった﹂
舞良がつぶやく。それに対して由香も﹁あぁ!! そうだね、そ
れそれ!﹂とか言って、2人の世界へ。
あたし、置いてけぼり? またかよぉ∼。もうやだし。
﹁何なん? ほんまひどいしぃ∼﹂
﹁ごめんごめん﹂
そんな会話をしていると、由香が時計を見ながら言った。
﹁とりあえず、もうすぐ休み時間終わっちゃいそうだし、席に戻っ
た方が良いと思う、よ?﹂
まさかの疑問形⋮⋮? あたしと一緒。
すると舞良は﹁おっけーおっけー﹂ってすぐ席に座っちゃうし、
由香も机の中から本を取り出して読み始めた。朝の読書の時間もあ
るのに、由香は本好きだなぁ。
ということで、あたしも仕方なく席に着いた。
あーあ、終わるって言ったって、まだあと5分もあるっていうの
に、強制的すぎるよぉ。
2人とも、ひどいよぉ。どうしちゃったんだろ? もっと話しと
きたかったんだけどなぁ。
うぅ、悲しい。どうしよ、1人でいる時間短いから、何をすれば
いいか分かんないじゃん。
学級文庫の本でも取りにいこっかな、と思っているとチャイムが
63
鳴った。
うっ、折角の休み時間が⋮⋮。
64
池村 将悟 エピソード
俺は好きな人とか、気になる女子がいない。
友達はそれなりにいて、顔が広いというか、なんというか。
まず告白とかいうことはしたくないし、しない。告白されたらさ
れたで考えるけど、まず俺に告白してくる女子とかいんのか? み
たいな感じで。
といってもまあ、いないんだろうけど。
﹁池村ってさぁ∼﹂
そう声をかけてきたのは岸崎。席が前やから、よく話す。
大事なことだから言うけど、恋愛感情を抱いてるわけじゃないか
ら、そこ注意。
﹁何?﹂
俺は女子にかなりバカにされてる。だから、松田とかにも勝手に
椅子に座られたりとか、机に落書きされたりとかする。鬱陶しいけ
ど、仕方ないのかもしれない。天然らしいから。
俺は別にそんなつもりないんやけど⋮⋮仕方ない。
﹁天然だよねっ!!﹂
楽しそうに話す岸崎。やっぱりそう思われてんのか。
﹁そんなことないと思うねんけど﹂
少しうつむきながら言う。でも返事はない。
顔を上げると、岸崎はいなくなっていた。独りで言ってた⋮⋮っ
て、恥ず。意味わかんねー。
岸崎は小谷と仲が良くて、よく一緒にいる︱︱︱︱って、別にず
っと見てたわけじゃねーし。
﹁池村!? なんであいつ!?﹂
叫んでから、口をふさぐ松田。あいつ、声でかすぎ。てか、俺の
65
バカ
こと? あー、気にしないほうがいーやつだな、これ。︵みなさん、
これは池村の早とちりです。by留美︶
﹁ちょっと留美!!﹂
﹁う⋮⋮ごめん﹂
松田と話しているのは西本と小谷。︱︱︱︱と、岸崎。
突然いなくなったと思ったら、そっちか。まあ、別にいいんだけ
どさ。
﹁も∼留美! 聞こえちゃったかもよ?﹂
西本が松田に言う。何が? しかもすげー視線を感じるような⋮
⋮気のせい、じゃないな。
﹁とりあえず、︱︱︱︱にはばれないように行動したほうがいい!
席近いし﹂
﹁うん、分かった。ありがと、留美﹂
そういって帰ってくる岸崎。女子って、意味わかんねー。
そして、恐ろしい。︵さいってー!! by女子一同︶
66
13 返事
﹁では号令お願いしますー﹂
先生の声で、おなじみ学級委員の美村さんがハキハキとした口調
で﹁起立! 礼!﹂という。
その声に続いて、こちらもおなじみだらだらばらばら﹁お願いし
まーす﹂の声。
って⋮⋮解説するほどあたし、元気じゃないよぉ⋮⋮。
しかもなんと授業は社会なのれす!! 眠くなる授業第1位じゃ
ない?
昨日全然寝れてないしなぁぁ⋮⋮。はあぁぁぁ⋮⋮返事、どうし
よ。いままで考えたことなかったしなぁ。できれば、今日か明日だ
よね。
とりあえず今週中に返事するって言おう。
そう決めたあたしは、授業を普通にすごし、終礼が終わるとすぐ
に照南を呼んだ。
﹁照南! あたし、今まで照南のことそーゆー風に見てなかったか
らまだ頭が整理できてない⋮⋮からっ! 今週中には絶対返事する
っ!﹂
そう言って全力で走った。さあ、廊下へ。戯れる男子たちをすり
抜けて!!
うん、自分でも何が言いたいのか全然分からなかったです。ごめ
んなさい。
はぁ⋮⋮告白じゃなかったけど、人に何かを伝えるのって、めち
ゃくちゃ恥ずかしいし、緊張する。って、返事どうしよ。舞良様に
・
相談!? だめだめっ、自分で決めよう。
﹁るーみ﹂
﹁ひぅっ⋮⋮あっ、えっ、ま、舞良様⋮⋮﹂
あたしはもごもご言いながらだんだん声を小さくしていく。
67
﹁さま⋮⋮? 留美、何を言ってんですか﹂
舞良の敬語を聞いて、あたしは背筋が凍りつくような感じを体感
した。
ブラックエンジェル
﹁こわいっ、こわいよ舞良!?﹂
声が裏返る。でも舞良の黒い笑みは消えない。うっ⋮⋮こわ。
﹁留美、もしかして照南に告白でもされちゃった? んで、返事迷
ってるってとこかな?﹂
げ!? ばれてんの? 昨日の今日で!? さすが舞良様⋮⋮舞
良、だ。ほんと怖いし。エスパーだし。超能力じゃね?
﹁そ、うだよ﹂
只今廊下で立ち尽くす2人、1人赤面中なう。周りに人はいない
・
というわけなので、ほぼ大声でヤバ話中っていう究極の選択しちゃ
ってます。
﹁やっぱりね。で?﹂
舞良の問いかけに、あたしは戸惑う。
﹁で⋮⋮って﹂
・
うぅ、恥ずかしい。いとはずかしゅうていたり、的な。あれ、い
とってどういう意味だったっけな⋮⋮? ま、いっか。うん、いー
よね。
﹁で?﹂
あうぅ⋮⋮舞良様︵ブラックエンジェルver︶が怖いよ!! ﹁えーっと、返事は今週中てことで、まだ返事は決めてな⋮⋮いっ
!?﹂
パシンッとう音に驚くあたし。舞良が自分の手を叩いただけなん
だけど⋮⋮。
うーん、かなりあたし、ビビリかも?
﹁はい、ぶ∼﹂
﹁ぶー!?﹂
なんでダメなのさ!? 全然分かんない。
﹁あのね、今週中って、今日水曜ね。金曜返事ってなったら2日赤
68
面状態。照南かわいそうでしょ﹂
う⋮⋮そうかな? まあ、可哀想⋮⋮って!! あんなやつ可哀
想だなんて思わないし!!
69
14 放課後
﹁ねえ留美、今日水曜日だよ? 金曜返事ってことにでもなったら、
赤面状態が続くよ? 嫌なのは留美なんじゃないの? 明日してこ
い!!﹂
﹁え∼∼∼∼っ!?﹂
あたしは思わず叫ぶ。明日って、いくらなんでも急すぎる!! 無理!
﹁むーりーッ! 明日なんて、まだ返事も決めてないのに、無理だ
って! ば!﹂
なんとなく﹃ば﹄を付け足して言う。日本語的に変かな⋮⋮?
ま、いっか。今はそんなこと考えてても無駄なんだし!! あた
しって、バカだよね?
すると、舞良はため息をついた。
﹁バカね、留美﹂
ば、バカ呼ばわりされた⋮⋮。舞良、ひどぅし⋮⋮。
﹁もうちょっと照南の気持ち考えなさいよ。あんなカッコイイ告白
してきたんでしょ? ⋮⋮見てないけど。アイツのことだから⋮⋮
想像は出来てる。今時男子が生告するとか、めちゃいいじゃん。そ
れくらい留美の事、想ってるんでしょ。期待に応えてやりなよ﹂
期待、告白⋮⋮生告、男子、今時⋮⋮。照南ガ⋮⋮アタシヲ⋮⋮
好キ。
﹁ん⋮⋮﹂
そう、だよね。照南⋮⋮あたしのこと、想ってくれてた。
なら、あたしも、誠意を見せなきゃ⋮⋮ん? 誠意?
待て待て待て待て、誠意? 誠意!?
・・・・・・
照南に見せる、あたしの誠意⋮⋮。好きって、伝えるってこと?
あたし、照南のこと、好きなの?
ってか、あたし、うれしかったんだよね。うれしかったけど、今
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はそんな目で見れない。見たことないから。
それでも、見なくちゃならないのなら⋮⋮。あたし、嬉しかった
んだよね? なら、それなら⋮⋮きっと、大丈夫。って、何が大丈
夫なのか⋮⋮。あたし、やっぱりバカなんかもしれへん。へん。
⋮⋮そういえば、最近関西弁使ってないよな、あたし⋮⋮。お母
さんにも、わざとらしくて変って言われたし。って、それより返事
返事。
てか、由香はどこ行った⋮⋮? いやいやいやいや、だから今は
そんなことかんけーないんだって言ってんじゃんか。
あーもうやだやだやだやだ。あたし、なんなの⋮⋮? もう、ヤ
ダ⋮⋮。
何すればいいの? 何を考えたらいいの? 返事返事って、そん
なのもうやだよ。
分かんないわかんないワカンナイ。
うっ、あのシーンを思い出すと、心臓がヤバイ⋮⋮。ってことは、
あたし︱︱︱︱。
﹁しょっ、照南のことが、好き!?﹂
﹁っわ、留美!? な、なにそんな叫んでんの!?﹂
え、あたし叫んでた!? いつの間に! わ∼死んだ! はずい
! 恥ずかし死に!?
﹁え⋮⋮﹂
舞良が驚きを隠せない様子でつぶやき、どこか一点を見つめてい
た。あたしもそっちを見ると⋮⋮。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n8201ci/
まめができたので遅れました。
2015年1月30日20時36分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
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