新製品開発アイデア発想法の紹介(その 3)

連 載
技術
マーケティング
入門 変革期の設計者が
身につけるスキルとノウハウ
第9回
新製品開発アイデア発想法の紹介(その 3)
経営システム研究所 冨田 茂* *とみた しげる:社長コンサルタント
〒 533 0033 大阪市東淀川区東中島 1 19 4 住友生命新大阪東口ビル 12 階
TEL(06)6320 1858 FAX(06)6320 1859 URL http://www.ksk-consulting.com/
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今月号では,アイデア発想法の紹介(その 3)と
日本刀でヒゲ剃りを作れば,耐久性の高いヒゲ
して,シーズデマンド発想法,コアコンピタンス
剃りができる…そんなアイデアが多い。技術的に
×マーケットトレンド発想法,差別化商品起点発
は可能であるが,販売価格やコストを考えると,
想法を紹介する。何れも使い勝手のよい発想法と
製品化の可能性は絶望的である。
なっているので,是非とも試していただきたい。
⑵ 製品に対するニーズがない
アタッチメントを付け替えると乗用車がヘリコ
プターにもなる…誰が買うのか?この問題で失敗
シーズデマンド発想法
する新製品も後を絶たない。
⑶ 製品としての概念が世の中に存在していない
シーズデマンド発想法とは,開発技術者が一般
はじめてコンピュータがビジネスの会計分野で
的に新規性の高い新製品を発想するときに用いて
世に出た時は,パンチカードシステムという名前
いる方法である。しかし,残念なことにその成功
であった。穿孔した 80 桁の会計仕訳カードを,
率は非常に低いのである。
ソート,マージ,作表機,会計機,合計穿孔機と
数年前に,ある重工業メーカーの全ての新製品
いった機械群によって処理する装置として売り出
アイデアをスクリーニングしたことがある。一つ
されたのである(作表機,会計機の部分で,簡単
の開発テーマについて,A4 で 5 ページ程度の起
なプログラミングができた)
。
案書が作成されており,それがキングファイルで
膨大な量の会計伝票を仕分け科目ごと集計しつ
3 冊分あった。約 150 種類程度だったと記憶して
つ,縦集計と横集計が合わなければ一から計算を
いる。
やり直す面倒な仕事をなんとかしたいというオフ
これを片っ端から,新製品として成立するか否
ィスニーズと,パンチカードシステムという製品
かという視点でチェックしていったのであるが,
概念とが,お客様の頭の中でイメージ結合できた
結局残った起案書はゼロであった。私が,
「心苦
から,この機械は売れたのである。IBM マーケテ
しいのですが,一件もありません」とご依頼者に
ィングの勝利であったと言えよう。もしこの時に,
申し上げたところ,
「私もそう思っていました」
コンピュータシステムという名前で売り出されて
と,淋しそうな笑顔が返ってきたのを思い出す。
いたら,ビジネスオフィスでの顧客ニーズと製品
技術的に可能であることと,新製品が売れるこ
イメージとが,お客様の頭の中で結合できず,売
とは,おのおの別の判断軸の上にある。このため,
技術者が新規性の高い新製品を発想しても,実際
れなかったに違いない。
新規性の高い新製品が失敗する理由の一つは,
に売れる新製品にはならないことが多いのである。
製品概念と市場ニーズとが,お客様の頭の中で結
その主な理由は以下の 3 点である。
合できず,お客様がその新製品に興味を示さない
⑴ 製品化したときにコストが合わない
ことから発生することが多い。普及品の場合には
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機 械 設 計