和牛繁殖を中心とした耕畜連携モデル

【日本農業賞集団組織の部
愛知県代表
JA愛知東和牛部会】
中山間で築く「儲かる農業」・
「無理のない農業」
和牛繁殖を中心とした耕畜連携モデル
JA愛知東和牛部会
新城市内の53農家で組織する和牛の繁殖農家(和牛の仔牛を販売する農家)の部会。
牛の繁殖の取り組みだけでなく、同JAの肥育部会、酪農部会とともにヘルパー組織や、
コントラクター組織を設立し、地域ぐるみで畜産振興に取り組んでいます。
※ヘルパー:作業を手伝うアルバイト組織。部会員のうち、余力のある者や、地域住民が
参画しており、作業の内容に合わせて農家から給料が支払われる。
※コントラクター:大型機械を共同で保有し、貸し出す組織。
ヘルパーは多くの利用者がいなければ機能しない、コントラクターは大型機械を購入し
ても利用者がいなければ損失が出る。いずれも、3部会が合同でもつことで機能している。
今、和牛繁殖は重大な危機を迎えている!
現在、黒毛和牛市場では、宮崎県で起こった口蹄疫の
被害や、畜産農家の高齢化を背景に、仔牛不足・仔牛価
格の高騰が重大な問題となっています。肥育農家の間に
は、「このままでは廃業するしかない」という声が聞か
れるようになっています。
このような中、JA愛知東和牛部会では、儲かること、
そして無理なく経営できることを目指した活動を地域
ぐるみで実践しています。
新聞でも和牛の高騰が報道された
JA愛知東和牛部会の取り組み
(1)ET(Embryo Transfer・受精卵移植)を組織的に活用
繁殖にあたっては、ETを積極的に活用しています。これ
は、和牛の雌に人工授精した後、受精卵を体内から取り出し
て別の牛(主にホルスタイン)に受胎させるという方法。こ
の方法によって1頭の雌和牛から、年間平均6頭の和牛を生
むことができます。
(牛は種付けから9~10か月で出産します。)
従来この出産方法は繁殖農家と酪農家の間で個々に取引し
ており、一部の農家が行うものでしたが、これを組織化し、
酪農家との取引が円滑に行える体制を築いています。
ETのイメージ
(2)放牧・WCSを活用し、飼料経費を削減
JA愛知東和牛部会は稲作農家と連携し、WCS飼料を
導入しています。WCSは乾燥前の稲を刈りとり、ロール
状にラッピングしたもの。ラップのおかげで倉庫に収納す
る必要がないため、屋外に置ける優れものです。
和牛部会は平成15年にコントラクター組織を設立。コ
ントラクターがWCS用稲の大型の収穫機械を持ってお
り、これをヘルパーが操作してWCSの収穫を行います。
WCSの栽培は農薬・肥料の使用が少なく低コストであ
中身は稲わらを丸めたものです
るため、利益を大きく且つ省労力で水田を活用すること
ができるメリットがあります。
(米の単価によっては、稲WCSを栽培した方が稲作農家の手取りも大きくなります。)
このWCSは県内の一般価格約23円/kg に対し、約9円/kg で取引しています。こ
れは契約量のみ栽培することで、稲作農家にロスがないことと、大型機械をコントラクタ
ー組織で持つことで実現した価格です。
また、和牛部会では夏季を中心に放牧を行っています。放牧を行うことで、耕作放棄地
の草を和牛が食べ、耕作放棄地を解消し、その後は飼料用作物を栽培し、耕作放棄地を防
ぐ取り組みにつなげていきます。
(3)無理のない経営を目指して~ヘルパー組織の立ち上げ~
畜産業はいわゆる「3K」の経営であり、特に和牛繁殖経営は、大きい生き物を扱うた
め、力を要するうえ、危険を伴うものです。高齢化が叫ばれる中で必要なことは、
「無理の
ない農業」を確立することにあります。また、生き物を相手にする特性から、休みがない
産業とも言えます
そんな中、JA愛知東和牛部会では、ヘルパー制度を確立しています。ヘルパーは言わ
ば畜産の作業を行うアルバイト。ヘルパーが仔牛の出荷などの重労働や粗飼料づくりを代
行し、依頼者はその労働内容に合わせてヘルパーに給料を支払うという制度です。
中には旦那さんを亡くした農家もあります。そのような方が、畜産を続けていくために
は、重労働をヘルパーに委託、日常的な管理を自ら行うことで、経営を継続することがで
きます。
ヘルパーには作業に余裕のある畜産農家や、兼業農家や、トラックの運転手などが加入
しており、地域の雇用を創出することにもつながっています。
JA愛知東和牛部会の取り組みの成果
①和仔牛繁殖が危機を迎える中、「無理のない農業」を実践する体制が築けている
②地域の耕作放棄地を解消するために、和牛を巧みに使っている
③稲作農家と連携し、効率的に飼料作物を得ている。また、稲作農家にも十分な利益を
提供できている。
④中山間地にあって、ヘルパーに収入源を提供できている。
JA愛知東和牛部会のこれらの取り組みは全国的なモデルとなり得るものであり、日
本農業賞の集団組織の部に推薦しました。
以
上