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口頭発表 1: 反応拡散系の一般化
■近藤 滋
■興味のある/専門分野: パターン形成
■趣味・特技: 少佐コスプレ
■今後の抱負: 数理モデルを誰にでも使えるように簡単にしたい。
発表者は、これまで Turing の反応拡散系を作業仮説と
して、動物の模様形成の研究を行ってきた。その結果、
パターン形成の分子・細胞レベルのメカニズムには「拡
散」が存在しないことが解った。拡散の変わりに、細胞
から伸びる突起の長さが、パターン形成に必要な拡散速
度の違いを作り出している。従って、数学的には Turing
pattern の形成条件を満たしていると言えるが、反応拡
散モデルで表現するのは適切ではない。そこで、シグナ
ル伝達の媒体に依存しない、より一般化された Turing
model を作ったので、是非、皆さんの御意見を伺いた
い。
モデルの概要を右図で表す。
細胞間の相互作用は単に距離の関数として、任意にフリ
ーハンドで設定できるようにしてあり、その相互作用関
数に従って、各細胞に固有の値の増加、現象が計算され
る。1変数なので、ヒステリシスが発生しないので、振
動などの動的なパターンはできないが、通常の反応拡散
系で作れる定常パターンは全て作ることができる。
このモデルは、まだできたてなので、多くの皆さんのご
意見を取り入れて、育てていきたいと考えます。
口頭発表 2: 内骨格を形成する全く新しい仕組み:パーツを運んで骨格を組み上げるカイメン骨片骨格形成
■船山 典子 (京都大学大学院 理学研究科
■興味のある/専門分野: 発生生物学
生物物理学教室)
既知の内骨格形成は全て、
「始めにパターンが決まり、細胞が集合してパターンに従って軟骨などの骨格エレメントが作
られ、“その場で”骨格が形成される」という発生原理に従っている。しかし、私達は内骨格系を持つ生物であるカイメ
ンにおいて、
「骨格エレメントである“骨片”は形成された後、特殊な細胞によりダイナミックに運ばれ、運ばれた先で立
てられ骨格が組み立てられる」という、既知の仕組みとは根本的に異なる仕組みがあることを見出し、解析を進めている。
用いている実験系は、コラーゲンの殻の中に数千個の休止幹細胞集団が入った芽球を用いた淡水性カワカイメンの無性生
殖系における個体形成過程である。周りの組織から単離することで個体形成阻害因子をのぞき、低温での保存状態から室
温の培養液に移すことで、芽球からの個体形成が開始される。芽球の中の幹細胞集団が休止を解除し、殻から遊走して出
て来て、分裂•文化して、約 1 週間で芽球の殻の廻りに直径約 1.5-2 ミリ程の個体を形成する。この様な個体形成過程に
おいて、体内空間で 1 段目の骨片が立てられ、テントを支えるポールの様に、体の中から外側上皮を支える。体の成長に
従い、さらに 1 段目の骨片が立つと共にすでに立った 1 段目の骨片の先に新たな骨片が結合することで骨格が組み上げら
れ、体内空間が広がるということで骨片骨格が形成されてゆく。私達は、1 段目の骨片が立てられた位置の間隔パターン
は、等間隔ではないが全くランダムという訳ではなく、部分的にはほぼ等間隔に見えるということを見出した。当初、シ
グナル分子などによるパターンニングにより制御されているが、カイメンの体の広がり方が均等でないために等間隔に乱
れが生じているのだろうと考え解析を進めていたが、その後、骨片骨格形成過程の詳細の解析を進めた結果、この仮説と
は異なる制御機構が働いているのだろうと考えるに至っている。この骨片が立てられる位置がどの様に決まるのか、を知
りたい。私達が工夫した骨片の可視化・顕微鏡システムによる動画と解明してきた骨片骨格形成過程、現在の仮説などに
ついて話し、このような生命現象に関して、数理学的な視点からの助言・ディスカッションをいただければ幸いです。
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口頭発表 3: 生命を情報伝達システムとして捉える
■藤井 雅史(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻;黒田 T 黒田 G)
■専門: 生物物理(理論:数理モデリング、統計力学)
■趣味: 娘とのおしゃべり
■今後の抱負: カタにはまらず、色々なことをやっていきたいです
生体内では、その生命機能を維持するために、シグナル伝達・代謝・遺伝子発現や細胞分化など、多くの化学反応が行
わる。これらの反応が行われる場所の多くは、細胞や細胞内の区画化された、非常に小さな空間である。例えば、原核細
胞であれば細胞の体積は大体 1μm3 程度、真核細胞であれば細胞の大きさは 10−1000μm3 程度であり、その核は大体
1−100μm3 程度、ミトコンドリアは 0.1−1μm3 程度である。
このような非常に狭い空間内では、そこに含まれる分子の数も必然的に少なくなる。例えば、1μm3 の空間に 1mM の
濃度の分子があるとすると、その分子の個数は大体 100 個程度である。これほどまでに分子数が少ない場合、計測誤差
や外部環境の揺らぎに比べて「反応過程の揺らぎ」が大きくなる。
一方で、反応過程の揺らぎが大きいにも関わらず、生命はある程度秩序のとれた応答を示し、生命機能を維持している。
では、生命はこのように反応過程で揺らぎが大きい環境下において、どのように刺激等の入力情報を認識しているのだろ
うか?言い換えれば、反応過程の下流に伝わるまでに入力の情報はどの程度保たれているのだろうか?
この問いに対する有効な解決法として、情報工学の場で良く用いられる「相互情報量」がある。
本講演の前半では、宇田らの論文1を例に相互情報量について説明する。後半では、我々が行ってきた、神経細胞におけ
る非常に小さな区画であるスパインでの情報伝達2について発表する。
口頭発表 4: 動的遺伝子ネットワーク解析のための数理解析手法の構築
■合田 徳夫 (慶應義塾大学医学部システム医学講座 洪チーム・洪グループ)
■興味のある/専門分野: ネットワーク解析、数学(微分幾何)
■趣味・特技: 考古学、テニス
■今後の抱負: ネットワーク解析は様々な分野に応用可能だと感じています。
ヒト ES 細胞のデータを解析する準備として、NIA Mouse ES Cell Bank のデータを用いた網羅的解析手法と集合知判定
方法を開発している。データの特徴が活かせるように従来法を改良することで、転写調節因子間のネットワーク構造を推
定することが出来ている。また、DREAM プロジェクトを含めた遺伝子ネットワーク推定の動向を紹介し、NIA Mouse ES
Cell Bank のような均質なデータを用いる利点を説明する。
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S. Uda, T. H. Saito, T. Kudo, T. Kokaji, T. Tsuchiya, H. Kubota, Y. Komori, Y. Ozaki, and S. Kuroda, Science 341, 558 (2013).
T. Koumura, H. Urakubo, K. Ohashi, M. Fujii, and S. Kuroda, PLoS One 9, e99040 (2014).
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