11 フーリエ変換の応用2:波動方程式の初期値問題

大阪大学基礎工学部 2014 年度後期 数学 C 講義ノート
11 フーリエ変換の応用2:波動方程式の初期値問題
この節では,次の波動方程式の初期値問題を考える.
 2
∂ u
∂2u


(x, t) − c2 2 (x, t) = 0,
x ∈ R, t ∈ R,
2
∂t
∂x

 u(x, 0) = f (x), ∂u (x, 0) = g(x), x ∈ R.
∂t
(P)
この方程式は無限に長い理想的な弦の振動をモデル化したものである.ここで u = u(x, t) は弦の変位を表す
未知関数,c > 0 は弦の振動(波)の伝播速度を表す定数,f = f (x), g = g(x) はそれぞれ初期位置と初期速
度を表す既知の関数である.
この問題をフーリエ変換を用いて解いてみよう.まず,f = 0 とおいた問題を考える.
 2
2

 ∂ w (x, t) − c2 ∂ w (x, t) = 0, x ∈ R, t ∈ R,
2
∂t
∂x2
∂w

 w(x, 0) = 0,
(x, 0) = g(x), x ∈ R.
∂t
(P′ )
この解をフーリエ変換を用いて求めよう.後で見るように,この問題 (P′ ) の解が求まれば,一般の問題 (P)
の解をすぐに求めることができる.
まず方程式にフーリエ変換を施すと,w
ˆ は,次の常微分方程式の初期値問題の解となる.
 2
ˆ

 ∂ w
(ξ, t) + c2 ξ 2 w(ξ,
ˆ t) = 0,
ξ ∈ R, t ∈ R,
∂t2
∂
w
ˆ

 w(ξ,
ˆ 0) = 0,
(ξ, 0) = gˆ(ξ), ξ ∈ R.
∂t
(11.1)
第一式の常微分方程式の一般解は,
w(ξ,
ˆ t) = C1 cos(cξt) + C2 sin(cξt)
の形で与えられる(C1 , C2 は定数).そこで初期条件を満たすように C1 , C2 を決める.まず上式を t で微分
して
∂w
ˆ
(ξ, t) = −C1 cξ sin(cξt) + C2 cξ cos(cξt).
∂t
従って t = 0 とおくと,
0 = C1
gˆ(ξ) = C2 cξ
となる.これより,C1 = 0, C2 = gˆ(ξ)/(cξ) と取ればよい.以上より,
w(ξ,
ˆ t) =
sin(cξt)
gˆ(ξ)
cξ
を得る.後はこのフーリエ逆変換を計算すればよいのだが,ここで次の補題を用いる.
補題 11.1.
{
χ[−ct,ct] (x) =
1, −ct ≤ x ≤ ct,
0, それ以外
1
とおく(このような関数を区間 [−ct, ct] の定義関数とよぶ.このとき,
√
F[χ[−ct,ct] ](ξ) =
2 sin(cξt)
π
ξ
が成立する.この両辺をフーリエ逆変換して,
F −1
[
√
]
sin(cξt)
π
(x) =
χ[−ct,ct] (x)
ξ
2
が成立する.
証明は例 8.2 と同じであるから省略する.
注意 11.2. 関数 sin(cξt)/ξ は R 上で絶対可積分な関数ではないので,実はフーリエ逆変換の定義が問題とな
る.しかしここではそれはあまり気にせずに,上の補題を認めることにする.実際にはこの関数のフーリエ逆
変換は,R 上の広義積分
F −1
[
]
∫ R
sin(cξt) ixξ
sin(cξt)
1
(x) = lim √
e dξ
R→∞
ξ
ξ
2π −R
として定義される.この意味で上の補題は確かに成立する.
これより,
]
sin(cξt)
gˆ (x)
w(x, t) = F
cξ
(
[
] )
1
1 −1 sin(cξt)
=√
F
∗ g (x)
ξ
2π c
( √
)
1
1 π
=√
χ[−ct,ct] ∗ g (x)
2π c 2
∫ ∞
1
=
χ[−ct,ct] (x − y)g(y)dy
2c −∞
∫ x+ct
1
=
g(y)dy
2c x−ct
−1
[
となって,
w(x, t) =
1
2c
∫
x+ct
g(y)dy
x−ct
を得る.これで初期値問題 (P′ ) の解が求まった.
次に,f ̸= 0 の場合,すなわちもとの問題 (P) の解を求めよう.そこで上で求めた解の形の時間微分
v(x, t) :=
∂
∂t
(
1
2c
∫
)
x+ct
f (y)dy
x−ct
を考えると,これは波動方程式
∂2v
∂2v
(x, t) − c2 2 (x, t) = 0
2
∂t
∂x
を満たす.さらに簡単な計算で
v(x, t) =
1
(f (x + ct) + f (x − ct))
2
2
と求まる.これをさらに時間微分すると,
∂v
c
(x, t) = (f ′ (x + ct) − f ′ (x − ct))
∂t
2
となり,これより v は t = 0 において
v(x, 0) = f (x),
∂v
(x, 0) = 0
∂t
を満たすことが分かる.つまり v は
 2
∂2v
∂ v



(x, t) − c2 2 (x, t) = 0, x ∈ R, t ∈ R,
2
∂t
∂x

 v(x, 0) = f (x), ∂v (x, 0) = 0, x ∈ R.

∂t
の解である.よって,
u(x, t) = v(x, t) + w(x, t)
とおけば,この u が (P) の解となる.さらに上の v, w の表示から,u は
u(x, t) =
1
1
(f (x + ct) + f (x − ct)) +
2
2c
と表されることが分かる.これはダランベールの解とよばれる.
3
∫
x+ct
g(y)dy
x−ct