第9節 固有値 定理 B を n 次正方行列とする.このとき,次は同値である. (1) Bx = 0 を満たす x ̸= 0 が存在する. (2) |B|=0 ∵ |B| ̸= 0 ⇐⇒ B は正則(逆行列が存在する) ⇐⇒ 『Bx = 0 □ x = 0』 =⇒ 固有値と固有ベクトル A : n 次正方行列, x ̸= 0 : n 次(列)ベクトル, λ : 定数 Ax = λx (1) を満たすとき,λ を A の固有値といい,x を A の固有値 λ に対する固有ベクトルと いう. 例 A= 2 1 とする。このとき,λ = 3 は行列 A の固有値であり,x = −3 6 A の固有値 λ = 3 に対する固有ベクトルである。実際, 2 1 1 1 = 3 = λx Ax = −3 6 1 1 1 は 1 が成り立つ。 (1) を変形すると Ax = λx = λIx より, (λI − A)x = 0, (x ̸= 0) (2) となる.ここで,B = λI − A とおいて,定理を適用すると |λI − A| = 0 を得る.この方程式 (3) を行列 A の固有方程式という. したがって,固有値とその固有ベクトルを次の手順で求めることができる. 1 (3) (イ)行列 A の固有値 λ を固有方程式 (3) の解として求める. (ロ)(イ)で求めた固有値 λ に対する固有ベクトル x を連立方程式 (2) の解と して求める. 例 2 次正方行列 A = 2 1 −3 6 解 固有方程式は λ − 2 −1 |λI − A| = 3 λ−6 の固有値と固有ベクトルを求めよ. = (λ − 2)(λ − 6) + 3 = λ2 − 8λ + 15 = (λ − 3)(λ − 5) = 0 よって,A の固有値は λ = 3, 5 である. 固有値 λ = 3 に対する固有ベクトルを x = x とおくと,連立方程式 (2) より y (3I − A)x = 0 0 1 −1 x = 0 3 −3 y 第1行と第2行は同値であるから,この連立方程式は x−y =0 ここで,x = s とおくと,固有値 λ = 3 に対する固有ベクトルは x 1 x = = s , (s ∈ R, s ̸= 0) y 1 と表されるベクトル全体(自由度 1)である. 1 【検算】s = 1 の場合,x = であるが 1 Ax = 2 1 1 = 3 = 3 1 = 3x 1 3 1 −3 6 1 となるから,確かに x = は固有値 λ = 3 に対する固有ベクトルである. 1 2 □ 固有値 λ = 5 に対する固有ベクトルを x = x とおくと,連立方程式 (2) より y (5I − A)x = 0 3 −1 x 0 = 3 −1 y 0 第1行と第2行は全く同じものであるから,この連立方程式は 3x − y = 0 ここで,x = t とおくと,固有値 λ = 5 に対する固有ベクトルは x 1 x = = t , (t ∈ R, t ̸= 0) y 3 と表されるベクトル全体(自由度 1)である. 1 【検算】t = 1 の場合,x = であるが 3 2 1 1 5 1 = = 5 = 5x Ax = −3 6 3 15 3 1 となるから,確かに x = は固有値 λ = 5 に対する固有ベクトルである. 3 例 解 2 次正方行列 A = □ 11 4 −2 5 固有方程式は λ − 11 −4 |λI − A| = 2 λ−5 の固有値と固有ベクトルを求めよ. = (λ − 11)(λ − 5) + 8 = λ2 − 16λ + 63 = (λ − 7)(λ − 9) = 0 よって,A の固有値は λ = 7, 9 である. 固有値 λ = 7 に対する固有ベクトルを x = x とおくと,連立方程式 (2) より y (7I − A)x = 0 0 x −4 −4 = 0 y 2 2 3 第1行と第2行は同値であるから,この連立方程式は x+y =0 ここで,x = s とおくと,固有値 λ = 7 に対する固有ベクトルは x 1 , (s ∈ R, s ̸= 0) x = = s −1 y と表されるベクトル全体(自由度 1)である. x 固有値 λ = 9 に対する固有ベクトルを x = とおくと,連立方程式 (2) より y (9I − A)x = 0 −2 −4 x 0 = 2 4 y 0 第1行と第2行は同値であるから,この連立方程式は x + 2y = 0 ここで,y = t とおくと,固有値 λ = 9 に対する固有ベクトルは x −2 , (t ∈ R, t ̸= 0) x = = t y 1 と表されるベクトル全体(自由度 1)である. 1 例 解 −1 1 3 次正方行列 A = −2 −1 2 −4 −5 6 の固有値と固有ベクトルを求めよ. 行列式の多重線形性より,固有方程式を求めると次のようになる. λ−1 1 −1 1 −1 −1 1 −1 λ |λI − A| = 2 λ + 1 −2 = 0 λ + 1 −2 + 2 λ + 1 −2 4 5 λ−6 5 λ−6 4 5 λ−6 0 −1 1 −1 λ + 1 −2 = λ −4 + 0 λ + 3 5 λ−6 0 9 λ − 10 = (λ − 1)(λ − 2)(λ − 3) = 0 4 よって,A の固有値は λ = 1, 2, 3 である. x 固有値 λ = 1 に対する固有ベクトルを x = y とおくと,連立方程式 (2) より z (I − A)x = 0 0 1 −1 x 0 2 2 −2 y = 0 4 5 −5 z 0 この連立方程式を掃き出し法を用いて解くと, 2 2 −2 0 0 1 −1 0 2 2 −2 0 −→ 0 1 −1 0 −→ 4 5 −5 0 4 5 −5 0 1 1 −1 0 −→ 0 1 −1 0 −→ 0 0 0 0 1 1 −1 0 1 1 −1 0 0 1 −1 0 −→ 0 1 −1 0 4 5 −5 0 0 1 −1 0 1 0 0 0 0 1 −1 0 0 0 0 0 すなわち,この連立方程式は y−z =0 x = 0, ここで,y = s とおくと,固有値 λ = 1 に対する固有ベクトルは x 0 x = y = s 1 , (s ∈ R, s ̸= 0) z 1 と表されるベクトル全体(自由度 1)である. 0 【検算】s = 1 の場合,x = 1 であるが 1 1 −1 1 Ax = −2 −1 2 −4 −5 6 0 0 1 = 1 = x 1 1 5 0 となるから,確かに x = 1 は固有値 λ = 1 に対する固有ベクトルである. 1 □ 同様に,固有値 λ = 2 に対する固有ベクトル x は, 1 x = s 0 , (s ∈ R, s ̸= 0) 1 と表されるベクトル全体(自由度 1)であり,固有値 λ = 3 に対する固有ベクトル x は, 1 x = s 1 , (s ∈ R, s ̸= 0) 3 と表されるベクトル全体(自由度 1)である. 5 例 解 1 −1 3 次正方行列 A = 4 5 −2 10 5 −2 の固有値と固有ベクトルを求めよ. 固有方程式は λ − 5 −1 1 |λI − A| = −4 λ − 5 2 −10 −5 λ + 2 λ − 5 −1 + = λ −4 λ − 5 λ − 5 −1 0 λ − 5 −1 1 = + −4 λ − 5 0 −4 λ − 5 2 −10 −5 λ −10 −5 2 λ−5 −1 1 −2λ + 6 λ − 3 0 −2λ −3 0 −2λ + 6 λ − 3 = λ{(λ − 5)(λ − 5) − 4} + −2λ −3 = λ(λ2 − 10λ + 21) + −3(−2λ + 6) − (λ − 3)(−2λ) = λ3 − 8λ2 + 21λ − 18 = (λ − 3)2 (λ − 2) よって,A の固有値は λ = 3, 3, 2 である. 6 x 固有値 λ = 3 に対する固有ベクトルを x = y とおくと,連立方程式 (2) より z (3I − A)x = 0 −2 −1 1 x 0 −4 −2 2 y = 0 −10 −5 5 z 0 第1行と第2行と第3行は同値であるから,この連立方程式は −2x − y + z = 0 ここで,x = s, y = t とおくと,z = 2s + t である.従って,固有値 λ = 3 に対する固有 ベクトルは x 1 0 x = y = s 0 + t 1 , (s, t ∈ R, (s, t) ̸= (0, 0)) 2 1 z と表されるベクトル全体(自由度 2)である. 前の例と同様に,固有値 λ = 2 に対する固有ベクトル x は 1 x = u 2 , (u ∈ R, u ̸= 0) 5 と表されるベクトル全体(自由度 1)である. 7
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