Part 3

剛体の運動
5
剛体は、前節で説明した質点系の特別な場合に相当する。つまり、質点系を構成する任意の 2 つ
の質点間の距離が一定に保たれる場合、これを剛体と呼ぶ。この点において、前節での質点系の運
動についての説明はそのまま剛体の場合にも当てはまる。
5.1
剛体の自由度と運動
剛体中に含まれるすべての点を決めるために必要なパラメータの数が、剛体の自由度に等しい。
前節の説明によれば、質点系全体の運動を表すためのパラメータの例として、重心を定義した。剛
体についても同様に 3 個の重心の位置座標を定義し、それを自由度と見なすことができる。これ
は、剛体の並進運動に関する自由度である。
質点が n 個含まれる質点系の場合、重心の自由度を除く内部自由度は 3n − 3 となるが、質点間
の距離が一定である剛体の場合の内部自由度は 3 個だけで決まる。
剛体の自由度
並進運動
回転運動
6
3
3
表 1: 剛体の自由度とその内訳
5.2
固定軸の周りの回転
まず始めに、重心を通るある軸の周りの回転運動について考えてみる。固定軸の方向を z 軸と
する。剛体中に含まれる質点の座標と質量を (xi , yi , zi )、mi としたとき、角運動量の z 成分は以
下のように表される。
Lz =
∑
mi ri2
i
dθ
dθ
=I ,
dt
dt
I≡
∑
mi ri2
(5.1)
i
ただし、極座標を用いて xi = ri cos θi , yi = ri sin θi と定義した。剛体の場合、すべての角度 θi
の時間変化は同じである。上の式に現れる定数 I を、慣性モーメント(moment of inertia) と呼ん
でいる。角速度が一定で ω に等しい場合、角運動量は Lz = Iω で与えられる。並進運動の場合,
運動量 p と速度 v の比 p/v は質量を表す。角運動量と角速度がそれぞれ運動量と速度に対応する
と考えれば, 回転運動の慣性モーメント I は, 質量 m に対応すると見なされる。
次の簡単な例として、ある軸の周りを回転する質量 M の剛体の運動について考えてみる。座標
軸として x 軸を鉛直下方にとり、y 軸と z 軸は水平面上にとり、回転軸は z 方向であるとする。
剛体全体の運動としては、その重心座標の運動を考えればよい。その場合、z 軸と剛体の重心まで
の距離を ℓ とすれば、重心を安定点から角度 θ 回転させたときの力のモーメントの z 成分 N は、
次のように求められる。
N = Rx Fy − Ry Fx = −M gℓ sin θ
(5.2)
Fx = M g, Fy = 0, Rx = ℓ cos θ, Ry = ℓsinθ
ここで、z 軸からの重心座標の x, y 成分を Rx , Ry とおき、重心に作用する力の成分を Fx , Fy と
おいた。剛体の z 軸周りの慣性モーメントを I とおけば、回転の運動方程式、つまり角運動量の
z 成分の温度変化は次式によって求められる。
I
d2 θ
= −M gℓ sin θ
dt2
28
(5.3)
この式は、単振り子の運動を記述する式と数学的に等価であることが分かる。ただし、振り子のひ
もの長さを L とすれば、両者の間に次の対応が成り立つ。
M gℓ
g
=
,
L
I
5.3
∴ L=
I
Mℓ
(5.4)
任意の軸の周りの回転
剛体が、ある角速度ベクトル ω を軸として、その周りを回転している場合について考えてみる。
剛体を構成する各部 i の位置ベクトルを ri とすれば、その回転速度はベクトル積 ω × ri で与え
られる。したがって、全角運動量は各部 i すべての角運動量の和として次の式で表される。
∑
∑
L=
mi ri × (ω × ri ) =
mi [ri2 ω − (ω · ri )ri ]
i
Lα =
∑
i
Iαβ ωβ ,
(5.5)
β
Iαα =
∑
2
mi (ri2 − riα
),
Iαβ = −
∑
i
mi riα riβ = Iβα
i
例として x 成分の場合を以下に示す。
∑
mi [(x2i + yi2 + zi2 )ωx − (ωx xi + ωy yi + ωz zi )xi ]
Lx =
i
=
∑
mi [(yi2 + zi2 )ωx − xi yi ωy − xi zi ωz ] = Ixx ωx + Ixy ωy + Ixz ωz
i
Ixx =
∑
mi (yi2 + zi2 ),
Ixy = −
∑
i
mi xi yi ,
Ixz = −
i
∑
(5.6)
mi xi zi
i
角運動量の各成分と回転速度成分との関係は、慣性モーメントの値によって決まる。慣性モーメン
トは一般にはテンソル (行列) と見なされ、角運動量と角速度ベクトルの関係を、行列の形で表す
こともできる。

Lx


Ixx
Ixy
  
Ly  = Iyx
Lz
Izx
Iyy
Izy
Ixz

ωx

 
Iyz  ωy 
Izz
ωz
(5.7)
慣性モーメントの行列は、実対称行列 である。その成分がすべて実数であり、非対角要素に関し
て Iαβ = Iβα (α ̸= β) が成り立つからである。その場合は行列を対角化でき、固有値がすべて実
数であり、異なる固有値の固有ベクトルは互いに直交することが知られている。固有値は、次の行
列式の値がゼロとなる条件を満たす I の値によって決定される。
Ixx − I
Ixy
Ixz Iyx
Iyy − I
Iyz = 0
Izx
Izy
Izz − I (5.8)
この行列の固有値 I1 , I2 , I3 のことを、主慣性モーメント (principal moment inertia) と呼ぶ。また、
これらに対応する固有ベクトル、ei (i = 1, 2, 3)、のことを慣性主軸 (principal axis of inertia) と呼
ぶ。慣性主軸を用い、回転ベクトル ω と (5.5) が次のように表される。
ω = ω1 e1 + ω2 e2 + ω3 e3 ,
L = I1 ω1 e1 + I2 ω2 e2 + I3 ω3 e3
(5.9)
ここで注意すべき点として、回転ベクトル ω と角運動量 L の方向が、一般には異なるということ
である。慣性モーメントの固有値の全てが等しい場合、つまり I1 = I2 = I3 が成り立つ場合にの
み、両者の方向が一致し、ω ∝ L が成り立つ。
29
慣性楕円体
慣性モーメント Iαβ が与えられたとき、3 次元空間において、次の式で表される楕円
体を、慣性楕円体と呼んでいる。
∑
Iαβ xα xβ = Ixx x2 + Iyy y 2 + Izz z 2 + 2(Ixy xy + Iyz yz + Izx zx) = 1
(5.10)
αβ
慣性主軸に対応する固有ベクトルを座標軸とする座標系においては、上の方程式は以下の形に表さ
れる。
I1 x 2 + I2 y 2 + I3 z 2 = 1
5.3.1
(5.11)
連続体の場合の慣性モーメント
剛体内で質量が連続的に分布すると見なされる場合、剛体を微小な体積 dri に分割し、そのそ
れぞれが次の式を満たすものとして質量密度 ρ(r) を定義することができる。
mi = ρ(ri )dri
(5.12)
質量 mi は、微小体積内に含まれる質量である。その場合、(5.5) の慣性モーメントは積分を用い
∫
∫
て表される。
Iαα =
ρ(r)(r −
2
Iαβ = −
rα2 )dr,
ρ(r)rα rβ dr = Iβα
(5.13)
座標軸を慣性主軸と同じ方向にとった場合について、簡単な質量分布の
• 質量分布が x, y 平面内に限られるとき
∫
∫
2
Ixx = ρ(r⊥ )y dr⊥ , Iyy = ρ(r⊥ )x2 dr⊥ ,
∫
Izz = ρ(r⊥ )(x2 + y 2 )dr⊥ = Ixx + Iyy ,
dr⊥ = dxdy
(5.14)
• 質量分布が z 軸上に限られるとき
∫
ρ(z)z 2 dz,
Ixx = Iyy =
Izz = 0
(5.15)
• 半径が a で長さが b である一様な質量密度 ρ をもつ円柱
円柱の軸を z 軸とする。円柱の全質量を M としたとき、M = (πa2 b)ρ が成り立つ。まず、z
軸の周りの慣性モーメントは、円柱座標系 (r, ϕ, z) を用いて次のように求めることができる。
∫
∫
b/2
Izz = ρ
dz
∫
b/2
∫
2π
dxdy(x2 + y 2 ) = ρb
a
r2 · rdr
dϕ
0
0
(5.16)
1
1
= 2πρb a4 = M a2
4
2
同様に、Ixx = Iyy の値も以下のように求めることができる。
∫
Ixx = ρ
∫
dr(y 2 + z 2 ) = ρ
∫
a4
2 b3
+ ρb · π
=M
= ρπa ·
3 8
4
(
2
30
∫
b/2
−b/2
1 2
1
a + b2
4
12
)
∫
b/2
z 2 dz + ρ
dxdy
dz
−b/2
y 2 dxdy
(5.17)
5.4
回転軸の方向が一定である剛体の運動
第 5.2 節において、回転軸の方向が不変であり、その軸が空間的に固定されている場合について
説明した。この節では、同様に軸の方向が不変であるが、その軸が空間的に移動する場合の簡単な
例題について説明する。
回転軸の方向を一定に保ちながら (z 軸方向と仮定)、同時に並進と回転運動を行う質量が M の
剛体について考えてみる。ただし、剛体の回転軸が重心を通るものとする。剛体全体に対して外
部から力 F = (Fx , Fy , 0) が作用し、重心周りの回転に対する力のモーメントが N であるとする。
この場合、並進運動と回転運動のそれぞれに関して以下の方程式が成り立つ。
M
d2 xG
= Fx ,
dt2
M
d2 yG
= Fy ,
dt2
IG
d2 θ
dω
= IG 2 = N
dt
dt
(5.18)
重心座標を xG , yG を用いて表し、IG は慣性モーメントを表す。回転角として θ を用い、ω = dθ/dt
が回転速度を表す。この場合、剛体全体の並進運動と重心の周りの回転運動を分離することができ
ると仮定した。したがって、それぞれの運動は外力 F と力のモーメント N によって決まる。
回転しながら斜面を落下する円柱
次に図 4 に示すように、回転軸の方向を一定に保ちながら斜
面を回転しながら降下する円柱の運動を考えてみる。
y
x
R
F
Mg
α
図 4: 斜面を落下する円柱
問題を簡単にするため、円柱が斜面上を滑らずに運動すると仮定する。その場合、円柱の半径を
a とし、軸の周りの回転角を θ とおけば、円柱の斜面上の移動距離 x と回転角との間に次の関係
が成り立つ。
˙ x
x = −aθ, x˙ = −aθ,
¨ = −aθ¨
(5.19)
円柱の重心の並進運動と、回転運動についての運動方程式は以下の式を用いて表される。
Mx
¨ = −M g sin α + F, M y¨ = R − M g cos α = 0
1
I θ¨ = aF, I = M a2
2
(5.20)
剛体に対する斜面の抗力を R とおいた。上の慣性モーメント I については、(5.16) の結果を用い
た。(5.19) の関係を用い、角運動量の運動方程式に対応する (5.20) の 2 行目の最初の式の右辺に
現れる F を、次のように書き換えることができる。
F =
1 ¨ 1
1
I θ = M aθ¨ = − M x
¨
a
2
2
(5.21)
この結果を (5.20) の 1 行目の最初の式の右辺の F に代入すれば、x についての次の微分方程式と
その解が得られる。
2
x
¨ = − g sin α,
3
1
x = − (g sin α)t2
3
31
(5.22)
上の結果は、重力加速度 g の値が 2/3 になった場合の質点の運動と等価である。
このような結果が得られた理由について、エネルギー保存則に基づいて考えてみる。この場合の
摩擦力が物体の移動に関与せず、したがって仕事に寄与しないため、この系ではエネルギーの保存
則が成り立つと考えられる。回転運動を伴う今の場合、系の運動エネルギーは以下に示す並進運動
と回転運動のエネルギーの和として表される。
EK =
1
M x˙ 2 ,
2
ER =
(
)2
x˙
1 ˙2
1
1
I θ = M a2 −
= M x˙ 2
2
4
a
4
(5.23)
両方の和は、実質的に全質量が 3/2 倍になった質点系の運動と等価である。このエネルギーの値
が、摩擦力がなく、質量が 2M/3 の質点系のエネルギーが同じであると考えると、系の重力加速
度の値は 2g/3 であるとする必要がある。
5.5
固定点の周りの運動
この節では、剛体がある 1 点で固定され、その点の周りを自由に回転できる場合の運動につい
て説明する。したがって、剛体の回転軸の向きは一定ではなく、時間と伴に変化する。こまのよう
に、回転軸上にある一点だけが空間的に固定されていても、その軸の方向は自由に変化することが
できる。
5.5.1
回転座標系
原点を固定した状態で、ある慣性系 S に対して角速度 ω で回転している系 S′ について考えて
みる。このとき、系 S において定義されたベクトル A が次の式で表されているものとする。
A(t) = Ax (t)ex + Ay (t)ey + Az (t)ez
(5.24)
このベクトルは、系 S′ においても同様に以下の式で表される。
A′ (t) = A(t) = Ax′ (t)ex′ (t) + Ay′ (t)ey′ (t) + Az′ (t)ez′ (t)
(5.25)
このベクトルの各座標成分の時間変化は、それぞれの座標系で以下のように表される。
dA(t)
dAx
dAy
dAz
=
ex +
ey +
ez
dt
dt
dt
dt
dAx′
dAy′
dAz′
dex′
dey′
dez′
=
ex′ +
ey ′ +
ez′ + Ax′
+ Ay′
+ Az′
dt
dt
dt
dt
dt
dt
(5.26)
上の第 2 式の右辺が系 S′ の場合の速度を表す。上の式の系 S′ の単位ベクトルの時間変化は、以
下の式に従う。
dei
= ω × ei , i = (x′ , y ′ , z ′ )
(5.27)
dt
これを (5.26) に代入すれば、回転する座標系における角運動量ベクトル L(t) の時間変化を表す次
の式が得られる。
dL(t)
dL′ (t)
=
+ ω × L′ (t)
(5.28)
dt
dt
上の式に現れる回転ベクトル ω は、静止系から見た角速度である。したがって、ある瞬間で回転
座標系と一致する静止座標系で見た場合の方程式と見ることができる。
32
上の (5.28) の ω を回転系における成分を用いて次式のように表すこともできる。
ω = ωx ex + ωy ey + ωz ez = ωx′ ex′ + ωy′ ey′ + ωz′ ez′
ω × L′ (t) = (ωx′ ex′ + ωy′ ey′ + ωz′ ez′ ) × [L′x (t)ex′ + L′y (t)ey′ + L′z (t)ez′ ]
= [ωy′ L′z (t) − ωz′ L′y (t)]ex′ + [ωz′ L′x (t) − ωx′ L′z (t)]ey′
(5.29)
+ [ωx′ L′y (t) − ωy′ L′x (t)]ex′
つまり、(5.28) を次のように表すことができ、回転系における変数だけを用いて運動を記述するこ
とができる。
5.5.2
dL′ (t)
dL(t)
=
+ ω ′ × L′ (t)
dt
dt
(5.30)
オイラーの運動方程式
前節の (5.30) 式の右辺で、座標軸を慣性主軸の方向にとった回転系を考えると、この系の角運
動量ベクトルと回転ベクトルが、対角化された (5.9) 式を用いて表される。したがって、力のモー
メント N が存在する場合の (5.30) は、次の式で表される。
dω1
− (I2 − I3 )ω2 ω3 = N1
dt
dω2
I2
− (I3 − I1 )ω3 ω1 = N2
dt
dω3
− (I1 − I2 )ω1 ω2 = N3
I3
dt
I1
(5.31)
これを、オイラーの運動方程式と呼んでいる。
まず、外力の影響を受けない場合についての保存則について考えてみる。上の (5.31) のそれぞ
れの行の両辺に ω1 , ω2 , ω3 をかけて和をとると、次の式が成り立つ。
1 d ∑ ( 2)
Ii ωi = [(I2 − I3 ) + (I3 − I1 ) + (I1 − I2 )]ω1 ω2 ω3 = 0
2 dt i=1
3
(5.32)
つまり、次式で与えられる回転運動のエネルギー T の値が保存することがわかる。
T =
1
(I1 ω12 + I2 ω22 + I3 ω32 )
2
(5.33)
同様に (5.31) の左辺のそれぞれの行に Ii ωi (i = 1, 2, 3) をかけて和をとれば、ω1 ω2 ω2 に比例する
項の次の係数の値がゼロとなる。つまり、角運動量の 2 乗振幅 L2 = I12 ω12 + I22 ω22 + I32 ω32 の値が
不変であることを確認することができる。
I1 (I2 − I3 ) + I2 (I3 − I1 ) + I3 (I1 − I2 ) = 0
(5.34)
実際には、この場合の角運動量は方向も含めて保存する。
次にオイラーの運動方程式を用い、I1 = I2 が成り立つと仮定した場合の回転軸の時間変化につい
て調べてみる。この場合、(5.31) の最後の式の右辺がゼロとなることから、ω3 の値は一定となる。
dω3
= 0,
dt
∴ ω3 = ω0 = const.
(5.35)
これを (5.31) に代入し、ω1 と ω2 に関する次の方程式が得られる。
dω1
= λω0 ω2 ,
dt
dω2
= −λω0 ω1 ,
dt
33
λ=
I1 − I3
I1
(5.36)
これらの方程式の解も、新たな変数 ω+ = ω1 + iω2 の導入によって以下のように求まる。
dω+
= −iλω0 ω+ , ω+ = ae−iθ e−iλω0 t ,
dt
∴ ω1 = a cos(λω0 t + θ), ω2 = −a sin(λω0 t + θ)
(5.37)
つまり回転ベクトル ω が、慣性主軸の z 方向の周りを一定の角速度 λω0 の回転運動をすること
がわかる。また、 I1 − I3 の符号によって回転の向きが異なることもわかる。
5.5.3
ポアンソーの表示
図 5 に示すように、剛体の固定点 O を原点とする回転楕円体を考えてみる。剛体がこの点の周
りを回転すると、楕円体も剛体にくっついて回転することから、楕円体の運動によって剛体の運動
を知ることができる。このような表示をポアンソーの表示と呼ぶ。
ある時刻における剛体の回転ベクトルを ω = (ω1 , ω2 , ω3 ) とし、このベクトルの方向と回転楕円
−→
体の交点を P = (x0 , y0 , z0 ) とおく。ベクトル OP (x0 ,y0 ,z0 ) と回転ベクトル ω の方向が一致する
ので、次の関係が成り立つことがわかる。
x0
ω1
=
,
r0
ω
y0
ω2
=
,
r0
ω
z0
ω3
=
r0
ω
(5.38)
−→
ただし、r0 はベクトル OP の長さを表す。一方、点 P が楕円体上にあることから、(5.38) の関係
を楕円体の定義 (5.11) に代入することから次の式が成り立つ。
r02
(I1 ω12 + I2 ω22 + I3 ω32 ) = 1
ω2
(5.39)
剛体の運動エネルギーを表す (5.33) を用い、上の式から次の関係が得られる。
√
ω = r0 2T
(5.40)
−→
したがって角速度 ω は、ベクトル OP の長さ r0 に比例する。
L
ω
P
p
r0
θ
O
図 5: 剛体の運動と回転楕円体
34
次に、楕円体上の点 P において、楕円体と接する接平面の方程式を求めてみる。まずこの接平
面に直交するベクトルは、以下のように求められる。つまり、(5.11) の楕円体を定義する式の左辺
に現れる関数を ϕ(x, y, z) と定義すれば、ϕ(x, y, z) = 1 を満たす点 P における勾配、つまりベク
トル ∇ϕ(x, y, z) = 2(I1 x0 , I2 y0 , I3 z0 ) によって与えられる。接平面上の任意の点を Q = (x, y, z)
−→
とすれば、ベクトル PQ が勾配の向きと直交するための条件として、次の接平面の方程式が導か
れる。
I1 x0 (x − x0 ) + I2 y0 (y − y0 ) + I3 z0 (z − z0 )
= I1 x0 x + I2 y0 y + I3 z0 z − (I1 x20 + I2 y02 + I3 z02 ) = 0
(5.41)
点 P が楕円体上にあることから、上の式で I1 x20 + I2 y02 + I3 z02 = 1 が成り立つ。角運動量の成分
に関する (5.9) の定義と (5.38) の関係を用い、(5.41) 式はさらに次のように書き換えられる。
r0
(I1 ω1 x + I2 ω2 y + I3 ω3 z)
ω
(5.42)
r0
= (Lx x + Ly y + Lz z) = 1
ω
−−→
上の結果は、平面上の任意の点のベクトル OQ と L の内積が常に一定の値であることを意味し、
I1 x0 x + I2 y0 y + I3 z0 z =
したがって L が接平面と直交することがわかる。
角運動量 L と回転ベクトル ω の成す角度を θ 置けば、点 P における接平面の条件 (5.42) を用
−→
いてベクトル L と OP の内積が次の式で与えられる。
Lx x0 + Ly y0 + Lz z0 = Lr0 cos θ =
ω
r0
原点 O からの接平面の距離 p について、次の結果が成り立つ。
√
2T
ω
=
p = r0 cos θ =
r0 L
L
(5.43)
(5.44)
上の最後の式で、(5.40) の関係を用いた。上の右辺は保存量を用いて表されているため、距離 p は
時間によらず一定である。
この結果によれば、原点 O を始点とする角運動量ベクトル L と垂直で距離が p である平面に、
楕円体が常に接触しながら運動する。そこで、この平面のことを 不変平面(invariable plane) と呼
ぶ。言い換えると、剛体の回転ベクトル ω が、点 O を頂点とする円錐の錐面を描きながら運動す
る。またこの円錐面のことを、ハーポルフォード錐面 (herpolhode cone) と呼ぶ。一方、前節 5.5.2
の結果によれば、回転ベクトル ω は、慣性主軸の周りに回転運動も行うが、この時に点 P が楕円
体上に描く軌跡のことをポルホード (polhode) と呼んでいる。以上をまとめると、外力の存在しな
い場合の剛体の運動は、次の 2 つの回転運動の重ね合わせとして記述される。
• 回転ベクトル ω の角運動量ベクトル L の周りの回転
• 慣性主軸の周りのベクトル ω の回転
5.6
オイラー (Euler) 角
1 つの回転を指定するために、3 個のパラメータが必要が必要であることが知られていてる。い
ろいろんパラメータの取り方があるが、その中でもオイラー角がもっとも有用であると考えられて
いる。3 個のオイラー角を α, β, γ と置くと、一般に回転を以下の 3 回の回転の逐次実行によって
定義される。
35
1. z 軸の周りにまず角度 α の回転を行う。この操作により、元の座標軸の単位ベクトルが新た
なベクトル (e1 ′ ,e2 ′ ,e3 ′ ) に変換されるが、e3 ′ = e3 が成り立つ。
 
 ′
e1
e1
 ′
 
e2  = R1 (α) e2  ,
e3
e3 ′

cos α

R1 (α) = − sin α
0
sin α
cos α
0

0

0
1
(5.45)
2. 次に変換後の y 軸、つまり座標ベクトル e2 ′ の周りに角度 β の回転を行う。この結果、単
位ベクトルは (e1 ′′ ,e2 ′′ ,e3 ′′ ) に変換される。この場合は、e2 ′′ = e2 ′ が成り立つ。

e1 ′′


e1 ′


 
 ′′ 
e2  = R2 (β) e2 ′  ,
e3 ′′
e3 ′
cos β

R2 (β) =  0
sin β
0
− sin β


0 
cos β
1
0
(5.46)
3. 最後に変換後の z 軸、つまり e3 ′′ 軸の周りに角度 γ の回転を行う。これによる変換後の単
位ベクトルを (i,j,k) とすれば、k = e3 ′′ が成り立つ。
 
 ′′ 
i
e1
 
 ′′ 
 j  = R3 (γ) e2  ,

cos γ

R3 (γ) = − sin γ
e3 ′′
k
sin γ
cos γ
0
0

0

0
(5.47)
1
以上の3つの変換をまとめて1つの変換として表した場合、基底ベクトルの間の変換を、行列
R(α, β, γ) = R3 (γ)R2 (β)R1 (α) を用いて次のように表すことができる。
 
 
i
e1
 
 
=
R(α,
β,
γ)
j
e2 
k
e3
ただし、行列 R の成分は以下のように与えられる。

cos γ cos β cos α − sin γ sin α
cos γ cos β sin α + sin γ cos α

− sin γ cos β cos α − cos γ sin α − sin γ cos β sin α + cos γ cos α
sin β cos α
sin β sin α
(5.48)

− cos γ sin β

sin γ sin β 
cos β
(5.49)
オイラー角の回転に対応する角速度は、それぞれの回転軸 e3 , e2 ′ , e3 ′′ = k 方向の回転ベクトル
の合成として、次のように表される。
˙ 2 ′ + γk
ω = αe
˙ 3 + βe
˙
(5.50)
上の式の右辺の始めの 2 項の単位ベクトル e2 ′ = e2 ′′ と e3 = e3 ′ は、(5.47) と (5.46) を利用して
以下のように求めることができる。
 
 ′′ 
 
 ′
 ′′ 
i
e1
i
e1
e1
 
 ′′ 
 
 ′
 ′′ 
=
R
(−β)R
(−γ)
=
R
(−β)
=
R
(−γ)
,
j
e
e
j
e
 
 2 
 
 2
 2 
2
3
2
3
e3
′′
k
e3
′
e3
′′
(5.51)
k
したがって、基底ベクトル i, j, k を用いて次のように表すことができる。
e2 ′ = e2 ′′ = sin γ i + cos γ j,
e3 = e3 ′ = − sin β cos γ i + sin β sin γ j + cos β k
36
(5.52)
この結果を (5.50) に代入すれば、剛体の回転ベクトル ω の基底ベクトル i, j, k についての成分
(ω1 , ω2 , ω3 ) が以下のように求まる。
˙
ω = α(−
˙ sin β cos γ i + sin β sin γ j + cos β k) + β(sin
γ i + cos γ j) + γk
˙
= (−α˙ sin β cos γ + β˙ sin γ)i + (α˙ sin β sin γ + β˙ cos γ)j + (α˙ cos β + γ)k
˙

  
ω1
−α˙ sin β cos γ + β˙ sin γ

  
ω2  =  α˙ sin β sin γ + β˙ cos γ 
ω3
α˙ cos β + γ˙
(5.53)
次に、外力の存在しない場合について、慣性系に対する剛体の運動について調べてみよう。点 O
の周りの角運動量が保存されるため、その一定となる値を L とし、向きを z 軸方向にとる。また、
x, y 方向をこれに垂直になるようにとる。剛体系の座標を慣性モーメントの主軸方向にとり、慣性
モーメントについて I1 = I2 が成り立つものとする。主軸方向の角運動量を用い、それらを角速度
成分を用いて、I1 ω1 , I1 ω2 , I3 ω3 と表せば、(5.53) を用いてこれらの値を以下のように表すことが
できる。

 
 

−L sin β cos γ
I1 ω1
I1 (−α˙ sin β cos γ + β˙ sin γ)

 
 

I1 ω2  =  I1 (α˙ sin β sin γ + β˙ cos γ)  =  L sin β sin γ 
I3 ω3
I3 (α˙ cos β + γ)
˙
(5.54)
L cos β
上の最後の列ベクトルは、角運動量が k 方向にあるとした場合の回転系における成分 (回転ベクト
ル ω との方向余弦) を表す。
式 (5.54) の第 1 成分に sin γ をかけた値と第 2 成分に cos γ をかけた値の和として、次の式が成
り立つことがわかる。
I1 β˙ = 0
(5.55)
つまり、角度 β の値が時間に依らずに一定となり、したがって (5.54) の第 3 成分 ω3 が一定の値
ω0 となり、前節 5.5 の (5.35) と同じ結果が得られる。一方、式 (5.54) の第 2 成分に sin γ をかけ
た値と第 1 成分に cos γ をかけた値の差から、α˙ に関する次の結果が得られる。
I1 α˙ sin β = L sin β,
L
Lz
I3
=
=
ω0
I1
I1 cos β
I1 cos β
∴ α˙ =
この結果を用い、(5.54) の最後の式が次のように書き換えられる。
(
)
(
)
(
)
L
1
1
I3
γ˙ =
− α˙ cos β = L
−
cos β = −
− 1 ω0 = −ω⊥
I3
I3
I1
I1
(5.56)
(5.57)
したがって、α と γ の時間変化が次のように求まる。
α=
L
t + c1 ,
I1
γ = −ω⊥ t + c2
(5.58)
つまり、剛体の回転速度 ω は、主軸ベクトル k の周りを一定の角速度 ω⊥ で回転する。角度 α に
ついては、(5.53) と (5.54) を用いて同じ結果が得られる。
(I1 ω1 )ω1 + (I1 ω2 )ω2
= L sin β[cos γ(α˙ sin β cos γ − β˙ sin γ) + sin γ(α˙ sin β sin γ + β˙ cos γ)]
(5.59)
= Lα˙ sin2 β
I12 (ω12 + ω22 ) = L2 sin2 β,
∴ α˙ = L
I1 (ω12 + ω22 )
L
=
2
2
2
I1 (ω1 + ω2 )
I1
角速度 α˙ は z 軸、すなわち保存する角運動量の方向の周りの回転を表す。
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