カゴ状化合物における強相関電子物性

 カゴ状化合物における強相関電子物性
東中 隆二
首都大学東京大学院 理工学研究科
Strongly Correlated Electronic Properties in the cage compounds
Ryuji Higashinaka
Department of Physics, Tokyo Metropolitan University
これまでの強相関電子系の研究は 4f 電子またはホールを一つ含む Ce, Yb 系を中心に、磁気双極子自
由 度 に起 因 した物 性 の研 究 が精 力 的 に行 われ、量 子 臨 界 点 近 傍 で観 測 される超 伝 導 も含 め、その機 構
の理解がかなり進んできている。一方、複数の f 電子を持つ系は様々な自由度に起因した多彩な強相関
電子物性を示すことが予想されているが、通常、希土類の 4f 準位が深いため強い c-f 混成効果を示さな
い。しかし、希土類元素を取り囲むカゴ状構造を持つ物質は、局在性の強い f 電子が伝導バンドを構成す
る元素に囲まれて c - f 混成効果が増強されるため、このような強相関電子物性の舞台として、注目を集め
ており、実 際 に特 異 な超 伝 導 や多 極 子 秩 序 などの多 彩 な相 転 移 現 象 とカゴの中 の原 子 の大 振 幅 非 調 和
振動といった興味深い現象が多く見出されている。
その中で特に注目を集めているのが充填スクッテルダイト化合物 PrOs 4 Sb 12 において観測された重い電
子超伝導であり、これは初めての Pr イオン(4f 2 電子配置)をベースとした重い電子超伝導体である[1]。この
物質の低温物性は、わずかに分裂した1重項基底状態と3重項第一励起状態が支配しており、高磁場領
域 で磁 場 誘 起 の反 強 四 極 子 秩 序 相 を形 成 する。非 弾 性 中 性 子 散 乱 より、ゼロ磁 場 ではこの準 位 間 の励
起 が四 極 子 エキシトンとして振 る舞 っていることが示 され、この励 起 に寄 与 している四 極 子 自 由 度 が超 伝
導機構に寄与している可能性が議論されている。
最近、PrTr 2 X 20 (X = Zn, Al)が非磁性二重項基底状態を持ち、これまでの強相関電子系とは異なる近藤
効果、超伝導、量子臨界現象を示すことが見出された[2](図1)。これらは PrOs 4 Sb 12 に続く珍しい Pr を含む
重 い電 子 超 伝 導 体 の可 能 性 があり、注 目 を集 めている。これらの物 質 の基 底 状 態 は非 磁 性 で磁 気 双 極
子の自由度を持たないため、これまで考えられてきた磁性由来の重い電子状態とは異なる非磁性四極子
自由度により強相関電子系を形成している可能性が示唆される。また、同じ結晶系の Sm 化合物において
も強い c-f 混成効果に起因した複数 f 電子系での強相関電子系が観測されている[3,4]。これらの物質では
磁場に鈍感な相転移及び、相転移温度以下での磁場に鈍感な重い電子状態が実現している(図2)。通常
の重い電子状態は磁場印加により抑制されるが、それとは異なる振る舞いを示す。その一つの起源として、
Sm は価数揺動をしやすいため、価数揺動の自由度がこの物質で重要な役割を果たしていると考えられる。
実際、磁化率の温度依存性が Sm 3+ でも Sm 2+ でも説明できない振る舞いを見せ、XAS 測定からは中間価数
状態をとることが見出されており、価数自由度の量子臨界現象である可能性が議論されている。当日は、
これらのカゴ状化合物における強相関電子物性について、我々の研究結果を中心に紹介する。
6
6
4
PrTr2 Al20
3
2
H=0T
Ta
Nb
1
0
0.1
5
2
2
C4f /T (J/K mol-Pr)
Ti
C/T (J/K mol-Sm)
V
5
H=0T
8T
SmTa2Al20
4
SmCr2Al20
0T
3
2
SmTi 2Al20
1
6T
0T
2
4 6
1
2
4 6
T (K)
10
2
4 6
100
0
0.1
1
10
T (K)
100
図1:PrTr 2 Al 20 の C 4f /T の温度依存性
図2:SmTr 2 Al 20 の C/T の温度依存性
参考文献
[1] Y. Aoki et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 7 6 (2007) 051006.
[2] R. Higashinaka et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 8 0 (2011) SA048. 他
[3] R. Higashinaka et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 8 0 (2011) 093703.
[4] A. Yamada, R. Higashinaka et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 8 2 (2013) 123710.