ネプツニウム化合物の純良単結晶育成とフェルミ面 東北大学金属材料研究所 青木 大 強い放射能のために取り扱いが難しく、これまで厄介者(?)と思われてきたプルトニウム (Pu)やネプツニウム(Np)などの超ウランが、低温の物性研究を通して最近にわかに注目を集 めている。例えば、PuCoGa5、PuRhGa5では異方的超伝導が実現している。3種類の円柱状フェ ルミ面がバンド計算から予想されており、超伝導との関係が議論されている。しかし、このよう なフェルミ面の存在は実験的に確かめられていない。超ウラン化合物の電子状態を実験的に明ら かにすることは非常に重要であるが、これまでの物性研究の例は少ない。その理由は、超ウラン 元素が強い放射能を伴うために、厳しい規制のもとに置かれていること、そのためにグローブ ボックスや試料の密封化など特殊な装置や技術を必要とすることなどによる。 私たちは、NpO 2 を原料とした水溶液電解法によるNp金属の調製を行い、フラックス法で NpTGa5 (T=Fe,Co,Rh,Ni,Pt)、NpGe3、NpIn3、NpFe4P12、NpO2の純良単結晶を育成した(図 1参照)。この内、NpTGa5(T=Co,Rh,Ni,Pt)、NpGe3、NpIn3について超ウラン化合物で初め てドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果観測に成功し、フェルミ面と5f電子状態を明らかに した。 NpGe3はAuCu3型立方晶の結晶構造を持つ。ほとんどのネプツニウム金属間化合物は磁気秩序 を示すが、その中でもNpGe 3 は例外的に低温まで磁気秩序を持たない常磁性体である。図2は NpGe 3 のdHvA振動数の角度依存性である。5種類のdHvAブランチが観測され、いずれも主要 フェルミ面に対応する。このうち、ブランチβはほとんど角度依存性を持たず、球状フェルミ面の 存在を示している。これらの結果は、5f電子を遍歴としたバンド計算ときわめて良く一致する。 バンド計算との比較によって、ブランチδ1、δ2は球状電子フェルミ面のベリー軌道に対応し、ブ ランチλ1、λ2は同じ球状フェルミ面から<100>方向に伸びたネック部分に対応することが分かっ NpCoGa5 10 mm NpGe3 NpO2 1 mm 図1: Np化合物の単結晶の写真 た。また、ブランチβは球状電子フェルミ面の中 に空いた中空の球状ホール面に対応する。サイク δ2 NpGe3 ロトロン有効質量は2.6∼16m0と大きく、Npの5f δ1 電子が遍歴して重い電子状態を形成していること が分かった。磁化率は50K付近で山を持ち、重い 108 電 子 系 に 特 徴 的 な 振 る 舞 い を 示 す。 こ れ は 、 β dHvA効果で観測された大きなサイクロトロン質 量と矛盾しない。 λ2 NpRhGa5はTN=36Kにネール点を持つ反強磁性 体である。重い電子系超伝導体CeTIn5 λ1 (T=Co,Rh,Ir)、PuTGa 5 (T=Co,Rh)と同じ HoCoGa5型正方晶の結晶構造を持つ。q= (0,0,1/2)の磁気構造を持ち、磁気モーメントは低 温で正方晶の[110]方向を向いてる。dHvA効果の 7 10 -30 <110> 実験は、この反強磁性状態のもとで行なわれた。 図3はNpRhGa5のdHvA振動数の角度依存性であ 0 30 60 <100> <111> Field Angle (deg) 90 <100> る。α、β、γ、δの主要ブランチはいずれも1/ cosθの角度依存性を示し、4種類の円柱状フェル 図2: NpGe3のdHvA振動数の角度依存性 ミ面の存在を示している。これはq=(0,0,1/2)の磁 気構造を反映して、薄い磁気ブリルアンゾーンを 15 形成しているためだと考えられる。サイクロトロ NpRhGa5 ピン分極、軌道分極を取り入れた5f遍歴電子モ デルに基づくバンド計算できわめて良く説明で きる。Npの5f電子は、NpGa 3 の層を2次元的に 遍歴して重い電子状態を形成している。 本研究は、山上浩志、本間佳哉 、塩川佳伸、 山本悦嗣、芳賀芳範、中村彰夫、 徳永陽、酒井 宏典、神戸振作、池田修悟、摂待力生、大貫惇 睦各氏との共同研究である。 参考文献 D. Aoki et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 519. D. Aoki et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 1665. D. Aoki et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 2608. D. Aoki et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 74 (2005) 2149. dHvA Frequency (x107 Oe) ン質量は9 12m0と大きい。これらの結果は、ス 10 " ! #$ 5 & % '2 '1 & '2 0 90 60 30 0 30 60 90 30 [110] [001] [100] [110] Field Angle (deg) D. Aoki et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 74 (2005) 2323. D. Aoki et al.: J. Phys.: Condens. Matter 17 (2005) L169. 図3: NpRhGa5のdHvA振動数の角度依存性
© Copyright 2025 ExpyDoc