スピンカイラリティによる異常ホール効果の摂動論的解釈 多々良 源 首都大学東京 科学技術振興機構さきがけ (PRESTO) Ye らにより指摘された、磁化が一様でなくスピンカイラリティをもつような状況で現れるホール 効果は、通常は伝導電子と磁化との結合が十分大きく伝導電子スピンはいつも磁化の方向にそろえら れているという断熱的極限で考えられており、運動量空間の Berry 位相によるものとして解釈されて いる。本講演ではこの逆の弱結合極限での異常ホール効果の現れかたについて紹介する [1]。弱結合 の場合、不純物散乱が十分にある状況では局在スピンと伝導電子の交換相互作用を摂動で扱うことが できる。この領域では、異常ホール効果は交換相互作用の非可換性から自然に現れ、その効果は実空 間でのスピンカイラリティに比例することがわかる。この結果は、局在スピンがカイラリティを持つ ときはそのスピン散乱により電荷の流れの方向の対称性が破れることによっている。スピンが slowly varying の場合には、ホール係数は良く知られた実空間でのスピンの幾何学的渦度に帰着する [2]。 この異常ホール効果の原因はスピン自由度の Josephson 効果であるともいえる。磁化の向きの異 なる 2 つの強磁性体(金属性とする) 接合を考え、磁化との相互作用を摂動的に考えると、電子は 1 → 2 と 2 → 1 の向きにはそれぞれ (S2 · σ)(S1 · σ) = (S1 · S2 ) − iσ · (S1 × S2 ) と (S1 · σ)(S2 · σ) = (S1 · S2 ) + iσ · (S1 × S2 ) という散乱振幅を受ける。つまりネットにその差 (S2 · σ)(S1 · σ) − (S1 · σ)(S2 · σ) = −2iσ · (S1 × S2 ) という量が残る。これはとりもなおさず 2 つのスピンの外積に比例したスピン流 js が存在すること を意味している。これはスピンの Josephson 効果である [3, 4, 5]。同様に3つの強磁性体の接合をつ くれば上で議論したように電荷の流れが生じることになる。 参考文献 [1] G. Tatara and H. Kawamura, J. Phys. Soc. Jpn., 71, 2613 (2002). [2] M. Onoda, G. Tatara and N. Nagaosa, J. Phys. Soc. Jpn. 73, 2624 (2004). [3] G. Tatara and H. Kohno, Phys. Rev. B67, 113316 (2003). [4] G. Tatara and N. Garcia, Phys. Rev. Lett. 91, 076806 (2003). [5] G. Tatara, phys. stat. sol. (b) 241, 1174 (2004). 1
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