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選択行為の公理化について
松山, 敬左
一橋研究, 15: 27-34
1968
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/6699
Right
Hitotsubashi University Repository
選択行為の公理化について
松 山 敬 左
は じ め に
消費者行動の基礎論としての選択理論は,Pareto以来多くの理論家の関心の的になって来た.その結果,
選択理論は,不確定下における問題に,未解明な部分が残るだけで,ほぼ完全な理論体系となって来たとい
えるかも知れぬ.少なくとも,不確定性を考える必要がなく,選好の順序を問題にするような場合には,一
見すると,もはや疑問の余地の少しもない完全な理論体系として整ったといえるだろう.それらの点は,多
くの識者が一致して認めることであろう.
しかし,最も簡単なケースでも,べどの程度のことを仮定して,どの程度のことがいえるのか?〉と厳密
に考察すると,かなりあいまいな点が残されている.あいまいさの生ずる原因は,一つは,あまりに厳密な
論理の追求をすると,理論体系から経済学的な意味内容が失なわれ,形式論理の追求自体が目的になって行
く恐れがある点にあろう.いま一つの理由は,選択理論を公理系として組立てて行く場合に,公理または公
準として採用する仮定が,人によって少しつつ異なる点にあるかも知れぬ.がそれ以上に,何かあいまいで,
はっきりしない点が,多くの論文にあるように見えるのは私のドグマであろうか? これについて云々する
余裕は今ない.問題なのは,
Wの任意組合せXに対して定義された実数値関数U(X)しが存在し,財のある組合せXユが,別の組合せ
X2よりも選好されるときはU(X1)>U(X2)となり,X1とX2が無差別な場合にはU(X1)=U(X2)とするこ
とができる.、
という命題を,厳密に保証する点にある.これが可能な場合,選択理論の基礎がためができたといえるだろ
う・上記のような関数Uがはたして存在するか,また存在するとそれはどうような性質を持つかという問題
になると,多くの理論はかなりあいまいである.
以上の点を考えて,私は消費者行動の基礎論としての選択理論を,私なりに公理系として組立てようと思
った.そのために,ここではさしあたり,不確定性を考える必要のないcaseで,しかも選好の順序関数を考
えるとV’う最もsimpleでV・いつくされて来た問題を,反省しなおそうと思う.ただ,私に与えられたspace
の関係で,無差別曲面の存在を証明することができなかった.この問題については機会を改めて,論じたい
と思う.さらに多くの定理に証明を与える余裕がなかったことも書いておきたいと思う.・ただ,割愛した証
明は,多くの場合自明なものが多い.また,多くの定理は,それ以前に出て来た定理を用いて証明できるよ
うな形で,並べてある.
1
まずわれわれは,選択行為を公理化しよう.公理化を行なう理由は,V・うまでもなく,tautologyに似た
27
議論を避けるためであり,数学的に困難な問題を避けるためである.この場合,公理として採用する仮定の
数を,可能な限り少なくし,かつこれを一般化しなくてはならない.が最も重要なことは,この公理化が,
あくまでも経済学的な意味付けから行なわれなくてはならぬということである.これは,ここでは云々する
のは無意味なほど当然なことである.
m種の財の数量をそれぞれの座標軸とするようなm次元のvector空間Xを考える.Xの任意の点をX=(x1,
x2,……, Xm)とするとき, x1は第1財の数量に対応し, Xmは第m財の数量に対応するとしておこう.さら
にnon−negativeな実数の全体の作る集合をR+とおくとき, Xは一駕tには,直積空間(R+)m=R+×R+…×R+
と表現される.ここでわれわれは次の仮定と定義とを行なう.
仮定1−1),消費者の選択は,空間Xに含まれる点に対して行なわれる.
定義1−1),i)x2の方が,の方ようも選好されるとき,前者が後者よりも選好の順序が高v・と呼び, X1>
X2またはX2<X1と表現する.
ii)xユとx2とが同程度に選好されるとき,両者は無差別だと呼び, x1∼x2と表現する.
iii)X1>X2又はX1∼X2が成立するとき, X、≧X2又はX2≦X1と表現する.
更に,経済学的な意味から,次の仮定を選択の公理として導入することには,ほとんど疑問の余地がない・
仮定1−2),集合Xは,関係〉,∼に対して全順序集合を作る.従って次のことが成立する・
i)X1, X2εXに対し, X・>X2,X1∼X2, X・<X2の関係のうちの1つがかならず成立する.しかも,こ
の内の2つ以上が同時に成立することはない.
ii)関係∼は,同値律を満す.
iii)関係くは,移動律(推移律)を満す.
仮定1−3),XεX,ε>0,整数i(1≦i≦m)をとる.そしてvector ei=(0,…,0,・e,0,…,0)を定義す
る.ただし,eiはi−th elementがeで,あとはすべて0であるようなvectorである.すると,(x+ei)
>Xが成立し,X−eiεXのときは,(X−ei)<X<(X+ei)が成立する・
仮定1−4),X、, X2εXをとり,X1<X2であるとしょう.X1,X2と任意の整数に対し,ヨε1>0,ヨε2>0,
X1<(X2−e2i),(X1+eli)<X2を満足するようにできる.ここでvector eli, e2iは,仮定1−3)で定
義したvectorと同様なもので, i−th elemementがe1又はe2で他はすべて0からなるvectorであるとして
おく.
仮定1−5),X1, X2εX, X1<X2であるとして,任意に整数i(1≦i≦m)をとる,すると,ヨe>0, X2く
(X1十ei)とできる.
仮定1−6),X1, X2εX, X1∼X2とする.すると任意の実数μに対して,
μ(μ一1)<0−→X1∼X2<(μX1十(1一μ)X2);μ(μ一1)>0→(μX1十(1一μ)X2)<X1∼X2
が成立する.さらに,μ(μ一1)=0の場合には云々する必要はないであろう.
以上に述べた仮定のうち,仮定1−4)は,もっぱら数学的な理由から導入したものであるが,残りの仮定
は,何らかの形で選択理論で前提されて来れものである.もっとも,このように明確に公理と考えて,無証
明で用いることには多少の抵抗があるかも知れぬ.あるいは,また別の仮定を公理として前提し,より一般的
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な理論体系を作ることが可能であるヵ・も知れない.これらの問題については,ここで云々する余裕はない.
が,ここで特に強調したいのは,これらの仮定が極めてあたりまえの事柄だという点である.
H
(1)で前提した仮定により,どのような結論が出てくるかを,ここでは考えよう.
定理H−1)i),x1, x2をとる.すると, x1<(x1+x2),x2〈(x1+x2)が成する.
ii)xεxと,正数μに対して,μ>1←→x<μx,μ<1←→x>μxが成立する.
定理H−2),X1, X2εX, X1<X2とする.すると,且ε>0,[X−X21<εを満足するXに対して, X1<Xとな
る.
定理H−3),{Xli},{X2i} (i=1,2,…,n,…)という2組の点列が与えられてV・るとして,全てのiに
ついて,Xli≧X2i(i=1,2,……)がV・えるとする.ここで更に, lim Xli=X1, lim X2i=X2であるとし
よう.すると,x1≧x2が成立する. i→)° i→刃
系H−3),2組の点列{xli},{x2i}(i=1,2,……)が与えられていて,全てのiにつv・てxli∼x2i(i=
1,2,……)がV・えるとする.さらに,lim Xln=X1, lim X2n=X2がいえると, X1∼X2である.
n→⊃o n−→つo
定理ロー4),又={X;XεX,X≧X1}とおく.すると晃はXにおける閉集合である.また,又2={X;
XεX,X>X1}とおく.するとX2はXにおける開集合である.
定理H−5),X1<X2とする.するとλを十分大きくとると, X2〈λX1とすることができる.またμを十分小
さくとると(μ>0),μX2<X1とすることができる.
定理n−6),X1>X2とする.すると集合 {λ;λεR+,λX2≧X1}はR+における閉集合であり,集合{μ;
μεR+,X2>μX1}は, R+における開集合である.
定理n−7),X1<X2とする.するとλが一意的にきまって,λX1∼X2とできる.あるV・はμが一意的にきま
って,X1∼μX2とすことができる.但し, X1‡0である。
(証明) ここでは,前半だけを証明しておく,まず∠F{λ;λεR+,X2≦λX・}によって∠1を定義する・
すると,∠1は閉集合である.次に42として,∠1に属さなV・実数の全体からなる集合をとる・すると,λ、
U∠2=R,∠1n刀2=φであり,λ1ε11,λ1<vλ2→λ2ελ1;μ1ε∠2,μ1>vμ2→μ2ε∠2;v2ε4, vμεZ2→μ<λであ
るから,切断(42,」1)により,λ*がきまることがわかる.しかも,λ1がclosedであることにより,λ*ε∠1
が簡単に証明される.さて次に,λ3={λ;2εR+,X2<λX、}によって∠3を定義し,λ3に属さない実数の全
体の作る集合を44としよう.この場合も,切断(∠4,刀3)により実数λ**がきまり,2**ε∠4がV’える・メ2自λ4
であるからλ*≦λ**であり,ゐ∈λ1である故にλ**≦λ*であるから,λ*=λ**である.また,λ*εムnZ4
であるから,λ*x1∼x2となる.なお,λの一意性につv・ては,定理H−1)−ii)より簡単にv’える.
さて,XoεXを任意にとり,それを固定すると, XεXに前定理のλが, X∼λ(X;Xo)Xoを満すようにき
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まる.このλは,XとXoによって決定される関数λ(X;Xo)であり,これについて考えのがこの論文の主要
な目的であが,さしあっては,次の自明な性質を示しておこう.
定理n−8),i)X1∼X2←→λ(X1;Xo)=λ(X2;Xo)
ii)VXεX,λ(X;Xo)>O
iii)X∼Xo←→λ(X;Xo)=1
iv)X1>X2←→え(X1;Xo)〉λ(X2;Xo)
関数λのより厳密な研究は後で行なうとして,ここではもう少し選択理論の内容を吟味しておこう.
定理1−8)空間Xの中に任意の直線gをひく.ここでg上に任意の点X1をとると,g上でX1と無差別な点は他
にたかだか1個しか存在しなV・.特にgが原点(0,……,0),を通る場合には,X1としてどのような点を
とったとしても(X1εg),それと無差別な点をg上に選ぶことはできなV・.
定理H−9),vX1, vX2,εX, X1<X2→宜X3εX, X2<X3<X2
定理H−10),文をXの中のある有界な集合とする.すると適当に点X*(εX)を選ぶと,VXε又, X≦X*と
することができる.文が閉集合ならば,X*ε5【であり,文がconvex setならば, X*はXの中で一意的に
きまる.
(証明) 文が閉集合の場合を証明すれば,定理の前半はでてくる・故にここで文が有界な閉集合の場合を
証明しておく.まず,|Xo l≠0となるXoをXの中に任意にとり,それを固定する・VXεXに対して,関数
λ(X;Xo)の値を定めると, X∼λ(X;Xo)Xoとすことが可能である.λ*=Sup.λ(X;Xo)によってλ*
XεX
をきめると,VXεXに対して, X≦λ*Xoを満足する.Supの意味から,Xの中に点列X1, X2……をとって,
λi=λ(Xi;Xo)→λ*(i→)。),Xi∼λiXoとすることができる. Xは有界な閉集合であるから,点列{Xi}
から点列Xn1, Xn2,……をえらび, Xni→X*(i→)。)とすることが可能である.このX*に対して,
X*譲,λ*=λ(X*;Xo)が成立する.さて, X*がXの内点であったとする.すると9e>0,(1+e)
X*ε文とできる.(1+e)>1であるから,(1+e)X*>X*となり,矛盾が生じる.またXがconvexで
ある場合,X*が一意的にきまるののは,仮定1−6)より明らかである.
系H−10)−i) 財の価格p・,p2,……,伽が与えられ,かつ消費者の所得Yが与えられてv・るとする.す
ると,これらの条件のもとで,この消費者の選好の順序が一番高い点を,かならず選ぶことができる.っ
まり,有界で閉じた凸集合;文={(X1, X2……,Xm);X1≧0, X2≧0,……, Xm≧0, Y≧Σpτ脇}を考
えると,Xの中に,ある点X*=(X1*, X2*,……Xm*)があって, VXεX, X<X*(X≠X*)を満足する
ようにできる.しかも,点X*は,条件Y=Σp蕊*を満足する.
系H−10)−ii)、x1,vx2εx, x1≠x2とする.すると,ある適当な実数μ*(o<μ*<1) をきめると,
0≦μ≦1なる全てのμに対して,μ≒μ*ならば,(μX1+(1一μ)X2)<(μ*X1+(1一μ*)X2)を満足す
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るようにできる.特にX1∼X2が成立するとすると,ある適当な実数μ*(0<μ*<1)をえらべば,全ての
μに対して,(μXl+(1一μ)X2)<(μ*X1+(1一μ*)X2),μキμ*を成立するようにできる,
定理H−11),XoをXの任意の点とする.すると集合,{X;Xo≦X, XεX},{X;Xo<X, XεX}はとも
にconvex setである.
(証明)Xo={X;Xo≦X, XεX}とおく.vX1,∀X2εXoとすると, Xo≦X1, Xo≦X2が条件よりいえる.
この場合,X1∼X2が成立するか, Xユ<X2又はX1>X2のどちらか一方が成立するかである. X1∼X2→
1≧∀μ≧0,μX1+(1一μ)X2>X1,.’.μX1+(1一μ)X2>Xoがいえる.次に, X1<X2とすると,0く
ヨλ〈1,X1∼λX2がいえる.また1≧vμ≧0,(μX1十(1一μ)λX2)≧X1≧Xo,(μX1十(1一μ)X2)〉(μX1十
(1一μ)λX2)が\・える. V・ずれにしても,−X1, VX2εXo,1≧μ≧0→(μX1+(1一μ)X2)εXoヵζいえ
る.これは,Xoがconvexであることを示してV・る.
定理n−12),X2>X1とする.さらに0<μ〈1なる全てのμに対して, X2>(μX1+(1一μ)X2)が成立す
るものとする.定理H−9)によれば,X2>X3>X、を満足するX3が存在するが,このX3に対して,μを
一意的にきめて,μ*(0<μ*<1)とするとき,X3∼(μ*X1+(1一μ*)X2)とすることができる.
(証明) まず,このようなが存在したとしても,2つ以上存在しないことをいう.定理n−8)によれ
ば,2つの異ったμ*について定理の命題が成立しないことをいえばよい.今,μ*,μ**があって,X3∼
(μ*Xl+(1一μ*)X2)∼ (μ**X1+(1一μ**)X2)となったとしよう.ここで,μ**<μ*と仮定しても
一般性は失なわれない.今μ<0なる適当な数(’.㌧=μ**=/(μ**一μ*))をえらぶと,レ(μ*X1+(1
一μ*)X2)十(1一の (μ**X1+(1一μ**)X2)=X2となるから,仮定1−6)により, X2〈(μ*X1+
(1一μ*)X2)となるが,これは定理の条件に反する.
さて,ここで,定理の本題を証明しよう.X2>X3>X1であるから,定理H−2)により,正数μを十分
0に近くとると,(μXl+(1一μ)X2)>X3とすることが可能である.従って,集合M={μ;X3≦(μ
X1+(1一μ)X2),1≧μ≧0}はμ=0以外の点を含む.またMの定義より, Mが上に有界であることがわ
かる.ここでμ*=Sup Mとすれば0<μ*<1となることも確かめられ, Mが閉集合であることも定理n−
6)等より確かめられるから,μ*εMがV・える.従って,X3≦(μ*X1+(1一μ*)X2)でなくてはならなV・.
V・ま,X3<(μ*X1+(1一μ*)X2)だったとしよう.定理n−2)により,μ*に十分近く1>μ**〉μ*を満
足するμ**があって,X3<μ**Xユ+(1一μ**)X2とできる.これは,μ*=Sup Mに反する.従って, X3
∼(μ*X1+(1一μ*)X2)がV・えなくてはならなV・・
系H−12),X1<X2とする.ここで, X2>X3>X、を満足するX3を任意にとる.μを適当にμ*(0<μ*<1)
ときめると,X3∼(μ*X1+(1一μ*)X2)とできる.
(証明)系H−10)−ii)によれば,μをある適当なμo(o≦μo≦1)ときめると, o≦μ≦1なる全てのμに
対して,μ≠μoなるかぎり,(μoX1+(1一μo)X2)〉(μX1+(1一μ)X2)とできる.X2≦(μoX1+(1一
拘)X2)であるから,(μoX、+(1一μo)X2)とX1に対して,定理H−12)を適用すると,あるμ**に対
して,X3∼(μ**X1+(1一μ**)(μoX1+(1一μo)X2))とできる.ここで,μ*=μ**十(1一μ**)μoと
すれば,1一μ*=(1一μ**)(1一μo)であり,0<μ*<1である.このμ*を使えば,μ**Xi+(1一μ**)
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(μOX1十(1一μo)X2)=μ*X1十(1一μ*)X2となる.
定理H−13),X2>X1であるとする.更に,0<μ≦1なる全てのμに対して, X2>(μX1+(1一μ)X2)が
成立したとする・すると,0≦μ2<μ1≦1ならば,(μ、X1+(1一μ1)X2)<(μ2×1+(1一μ2)X2)が成立す
る.
(証明)いま仮に,0≦μ2<μ1≦1に対して,(μ1×1+(1一μ1)X2)∼(μ2×1)+(1一μ2)X2)だったと
しょう.F一μ2/(μ1一μ2)<0とすれば, X2=レ(μ1×1+(1一μ1)X2)+(1一μ)(μ2×1+(1一μ2)
X2)となる.従って,仮定1−6)により, X2<(μ1X・+(1一μ1)X2)となり,定理の条件に矛盾する.
次に,(μ1×1十(1一μ1)X2)〉(μ2×1+(1一μ2)X2)だったとしよう.定理H−12)によって,レを適
当にえらべば,(μ1×1十(1一μ1)X2)∼(り(μ2×1+(1一μ2)X2)+(1−∋X2)とできる.つまり,
レ(μ2×1十(1一μ2×2))十(1一レ)X2=レμ2×1十(1一りμ2)X2で,0<レμ2<μ2<μ1であるから,これが矛
盾である.
系H−31) X2>X1であるとする.すると,あるμ*を適当にえらべば,0≦μ*≦μ2≦μ1≦1ならば,(μ1×1
十(1一μ1)X2)<(μ2×1+(1一μ2)X2)であり,0≦μ2<μ1≦μ*ならば,(μ2×1十(1一μ2)X2)<(μ1
×1十(1一μ1)X2)となる.
ここで,いま一度,関数λ(X;Xo)を考えることにしよう
補助定理H−14)−i)関数λ(x;Xo)は,原点(o,……,o)と点Xoとを結ぶ半直線上で連続である.
補助定理n−14)−ii)X2>x・とする・更に, o<μ≦1なるすべてのμに対して, X2>(μx1+(1一μx2)
が成立したとする.ここでXの中にXoをとり,それを固定して,関数λ((μX1+(1一μ)X2;Xo)を考
える,と2は〔0;1〕という区間で連続である.ただし関数λは,(μX1+(1一μ)X2)∼(μX1+(1一
μ)X2);Xo)Xoを満足するように,定義されたものである.
(証明)定理n−13)によれば,0≦μ1〈μ2≦1ならば,(μ1×1+(1一μ1)X2)〉(μ2×1+(1一μ2)X2)
であるから,λ((μ1×1十(1一μ1)X2),Xo)〉λ((μ2×1十(1一μ2)X2);Xo)となる.従って,関数λは区
間〔0;1〕で,μについての単調減少関数である・任意のμoに対し,λが右から連続となることをいう.い
ま,任意に正数εが与えらているとしょう.μ*一μo>0となるある適当なμ*が存在して,λ(μo)一λ(μ*)
〈εがいえたとすれば,λの単調性より,μ*〉μ〉μoなる全てのμに対して,0<λ(μo)一λ(μ*)<εがい
えることになる.ただし,λ(μ)=λ((μX1十(1一μ)X2);Xo)と略記した.μ亡μo>0となるμ1を任
意にとろう.0<λ(μo)一λ(μ1)〈εのときは,μ1=μ*とすればよV・.一般には,0<λ(μo)一λ*<εを
満足するλ*を任意にとる.λ(μo)〉λ*〉λ(μ1)としておく.このλ*に対して,関数の2意味から,(μoX1
+(1一μo)X2)〉λ*Xo>(μIX1+(1一μ1)X2)がV・える.従って定理H−12より,0〈り<1なるレを適
当に選べば,λ*Xo∼{り(μoX1+(1一μo)X2)+(1−∋(μ1×1+(1一μ1)X2)}={(レμo+(1一レ)μ1)
X1+(り(1一μo)+(1一の(1一μ1×2)}とすることができる.ここで,μ*⇒μo+(1一り)μ1とおけば,
μ1>μ*〉μoで,λ*Xo∼(μ*X1+(1一μ*)X2)を満足することになる.つまり,λ*=λ(μ*),0<λ(μo)
一λ(μ*)<εを満足する2*が確かに存在する.従って,λは任意の点で右から連続である.同様に,λが
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区間〔0;1〕の任意の点で左から連続であることがいえる。
補助定理H−14)−iii)vX1, vX2εx, X・≠x2とする.任意にxo(εx)をとり,それを固定して関数λ((μ
X1十(1一μ)X2);Xo)を考えると,これは〔0;1〕なる区間で,μの連続関連でる.
(証明)系n−10)−ii),補助定理n−14)−ii)にょる.
定理H−14)XoをXに任意にとり,それを固定する・次に,任意にXをXにとり,関数λ(Xi;Xo)を, X1∼λ
(X1;Xo)Xoとなるように定義する・ここで, Xを任意の方向からX1にちかづけたとしても,λ(X;Xo)
は2(X1;Xo)に収束する.
ここで,関係えにつY・て考えなおしてみよう.えはXの任意の点Xに対して定義されており,任意の方向
から連続である.さらにλは,X1∼X2←→λ(X1;Xo)=λ(X2;Xo);X1>X2←→λ(X1;Xo)〉λ(X2;
Xo)という重要な性質を持っている.このことは関係∼,〉を実数値関数により,関係=,〉におきかえ
ることが可能であることを示している.この意味で,λを選好順序関数としての性質を持つものと考えてよ
い.われわれは,関係∼,〉によって関数λを構成した.逆にXで定義された実数値関数λが考えられてい
るとすれば,2により関係,∼,〉を構成することが可能である,いずれにしても,今まで述べて来た選好
順序に関する仮定や定理は,選好順序関数によって,別の形で述べることが可能である.それらの問題につ
いては,ここでは割愛しておく.
定理n−15)X1,X2, XoをXの中に任意にとる・すると,え(λ(X1, X2)X2;Xo)=λ(X1;Xo)が成立す
る.特に,λ(え(X1;X2)X2;X1)=1が成立する.
定理n−16)Xの任意の点Xo, Xo*を選んでそれを固定する.すると, Xの全てのXに対して関数λ(X;Xo)
とλ(X;Xo*)が定義される.λ(X;Xo*)の持つ基本的な性質は,2(X;Xo)のそれらと同じである,
さらに,次の自明なことがいえる・つまり,X1とX2を任意の点とするとき,次の諸定理が証明されるの
である.
i) λ(X1;Xo)=λ(X2;Xo)←→え(X1;Xo*)=λ(X2;Xo*)
ii) λ(X1;Xo)>2(X2;Xo)←→λ(X1;Xo*)〉λ(X2;Xo*)
iii) λ(Xo;Xo*)=1←→2(Xo*;Xo)=1←→Xo∼Xo*
vi) λ(X1;Xo)〉え(X2;Xo)←→λ(X1;X2)>1←→λ(X2;X1)<1
われわれの関心は,選好の順序にあるのであって,λそのものにあるのではない.その点については,こ
こで云々する必要もないであろう.ここで,次の定義を行なう.
定義H−1)Dm(X・)={X;X∼X1, XεX}で集合Dm(X1)を定義する・Dm(X1)を,無差別曲面
と呼ぶ.
もちろん,集合Dm(X1)が, m次元vector空間Xの曲面になることは,証明を要することである.が,
その問題については,別の機会に論じたいと思う.ただ,ここでは,次の事実が成立することを述べておく
にとどめておこう.
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定理H−17) Dm(X1)={X;λ(X;Xo)=λ(X1;Xo), XεX}={X;λ(X;Xo*)=λ(X1;Xo*),
XεX}が成立する.ここで,λ(X;Xo),λ(X;Xo*)etcは,定理n−16)と同じものである.さらに,
{X;X>X1, XεX}={X;λ(X;Xo)〉λ(X1;Xo), XεX}={X;λ(X;Xo*)〉λ(X1;Xo*),
XεX}etcが成立する・
定理n−18)i)X1∼X2←→Dm(X1)=Dm(X2)
ii) X2εDm(X1)←→X1εDm(X2)
iii)X2三Dm(Xl)←→X1ξDm(X2)←→Dm(X1)nDm(X2)=φ
vi)侮={X;λ(X;Xo)=a, XεX}とおく.すると, a≠b←→∠a n Zb=φ, X=U∠a, etcが成
aεR+
立する.
以上の点は,証明の必要はないであろう.これらは,無差別曲面は互に一致するか,それとも互に交わら
ないかのどちらかであるというような言葉で知られているものである.また定理n−18)により,Xが無差
別曲面によって,ミ類。に分割されていることがわかる.
皿
残された問題は,前にもふれたように,集合Dm(X1)が,曲面になることを証明することと,λと同じ
性質を持っ関数uの全体の作る集合σの構造を見ることである.例えばuεσ←→X1>X2のとき,u(X1)>
u(X2)であるとしておく,実数を変数とする単調増加関数の全体をLとするとき, Vuεひ,’・1εL→luεσ
であることが簡単にわかる.さらに,びが束であることも証明されるが,それらの問題は,ここでは割愛し
よう.
最後にこの論文を書くにあたってV・ろV・うとsuggestionをくれた寺西重郎君(本学藤野ゼミ)と大藪和
雄氏(香川大学講師)の両君に感謝の意を表わしておきたい.なお,参考文献としては,特にないが,以下
のものから多くのことを学んだ.
久武雅夫,ミ価格理論ミ《現代経済学全集一第3巻》,東京,1955.数学注
久武雅夫,ミ価格理論の基礎ミ東京,昭和39年,
久武雅夫,ミワルラスr純粋理論』。東京,昭和30年,
二階堂副包,ミ現代経済学の数学的方法ミ東京,1960・
和田貞夫,、点集合と経済分析ミ(大阪府立大学経済研究叢書,第三冊),大阪,昭和35年.
Hicks, J. R,⑦゜Value and Capital,,, London,1946
Hicks,」. R,“A Revision of Demand Theory,,, London,1956
Blackwell, D., and Girshick, M. A.,⑦⑦Theory of Games and Statistical Decisions,,,
New York,1954.特にChapter 4.
Markowitz, H. M.,⑦¶Portfolio Selection,,, New York,1959. Chapter X∼XII.
その他2∼3の欧文を参考にした.
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