1 番外編:ベクトル場の発散と回転 (ver2)

1 番外編:ベクトル場の発散と回転 (ver2)
ベクトル場の発散と回転について説明します。
参考文献:薩摩順吉, 物理の数学(この本がなくても、このノートは読めます。)
1.1 ベクトル場
定義 1.1. 2 次元のベクトル場とは、平面の各点に対して 2 次元のベクトルが定まってい
るもののことです a 。3 次元のベクトル場とは、空間の各点に対して 3 次元のベクトルが
定まっているもののことです。
a
地球の地面で風が吹いている状況を想像してほしい。簡単のため、ある時刻の地球の地面の風の様子を考
えますし。風はベクトルで表現できることに注意する。ここで(物理的な事実を無視して)地球の表面は
平面だと仮定します。以上の設定のもと、平面の各点に対して、ベクトル(風)が対応します。これはベ
クトル場の例になります。
例題 1 以下の2次元のベクトル場を図示せよ。
(1) v(x, y) =
[ ]
2x
[
2y
2y
[
. (平面の点 (x, y) に対してベクトル
]
]
2x
が対応するベクトル場)
2y
[
]
2y
. (平面の点 (x, y) に対してベクトル
が対応するベクトル場)
−2x
−2x
[ ]
[ ]
2
2
(3) v(x, y) =
. (平面の任意の点 (x, y) に対してベクトル
が対応するベクトル場)
0
0
(2) v(x, y) =
解答例. 図 1, 2, 3 を参照。
補足 1.2. ベクトル場の表現方法 i =
[ ]
1
0
,j =
れぞれ
(1) v(x, y) = 2xi + 2yj
(2) v(x, y) = 2yi − 2xj
(3) v(x, y) = 2i
と書ける。
1
[ ]
0
1
と置くと、例題 1 のベクトル場はそ
図 1 (1) のベクトル場の絵
図 2 (2) のベクトル場の絵
図 3 (3) のベクトル場の絵
2
1.2 やりたいこと
関数 y = f (x) の局所的な形は、その微分 y ′ = f ′ (x) =
∂f
(x) を通して解析できるの
∂x
であった。
今回やりたいことは、ベクトル場の局所的な性質を教えてくれる「微分」を定義するこ
とです。関数の場合と違って、ベクトル場に対しては2種類の「微分」が定義できます。
(発散と回転)
1.3 2次元のベクトル場の発散
定義 1.3. 2次元のベクトル場 v = v(x, y) =
[
]
u(x, y)
の発散とは
v(x, y)
∂v
∂u
(x, y) +
(x, y)
∂x
∂y
のことです。英語の divergence の頭文字をとって div v と書きます ab 。
a
正確に書くならば div (v(x, y)) ですが、習慣上、div v と書きます。v はベクトル場 v(x, y) の略記で
あることをお忘れなく。
b つまり平面の点 (x , y ) に対して
0 0
∂u
∂v
(x0 , y0 ) +
(x0 , y0 )
∂x
∂y
を対応させるのが発散です。
例題 2 以下の2次元のベクトル場の発散を求めよ。
(1) v(x, y) =
[ ]
2x
[
(2) v(x, y) =
(3) v(x, y) =
2y
.
2y
−2x
[ ]
2
]
.
0
3
解答. (1)
dvi v =
∂(2x) ∂(2y)
+
= 4.
∂x
∂y
(2)
dvi v =
∂(2y) ∂(−2x)
+
= 0.
∂x
∂y
(3)
dvi v =
∂(2) ∂(0)
+
= 0.
∂x
∂y
注. 上の2次元のベクトル場の発散は、平面の点によらず一定である。
[
例題 3 2次元のベクトル場 v(x, y) =
x2
]
の発散を求めよ。
y2
解答.
dvi v =
∂(x2 ) ∂(y 2 )
+
= 2x + 2y.
∂x
∂y
注. 上で計算したように2次元のベクトル場 v(x, y) =
[ ]
x2
y2
の発散は dvi v = 2x + 2y
であり、一定ではない。(例えば x = 2, y = 1 では 6、x = 3, y = 2 では 10 となる。)
1.4 偏微分
偏微分は既知とする。
定理 1.4. ときどき使う定理 (教科書 p21) (何度でも微分できる)2 変数関数 f (x, y) を
考える a 。このとき
∂2f
∂2f
(x, y, z) =
(x, y, z)
∂x∂y
∂y∂x
a
例えば f (x, y) = x3 + y 2 + xy + 2 とか。大学の授業で扱う 2 変数関数は、ほぼ全部このタイプ。
4
例題 4
r = r(x, y, z) =
√
x2 + y 2 + z 2 に対して次を証明せよ。
( )
∂ 1
−x
(1)
= 3
∂x r
r
( )
−3x
∂
1
= 5
(4)
3
∂x r
r
( )
−y
∂ 1
(2)
= 3
∂y r
r
( )
∂
−3y
1
(5)
= 5
3
∂y r
r
( )
−z
∂ 1
(3)
= 3
∂z r
r
( )
∂
−3z
1
(6)
= 5
3
∂z r
r
解答.
略
1.5 3 次元のベクトル場の発散



u(x, y, z)


定義 1.5. 3 次元のベクトル場 v = v(x, y, z) = 
 v(x, y, z)  の発散とは
w(x, y, z)
∂u
∂v
∂w
(x, y, z) +
(x, y, z) +
(x, y, z)
∂x
∂y
∂z
のことです。英語の divergence の頭文字をとって div v と書きます。
例題 5
以下で定義されるベクトル場 v の発散(dvi v のこと)を求めよ。ただし、a は定数, c
 
x
√
 
, r = r(x, y, z) = x2 + y 2 + z 2 とする。
を定ベクトル, r = 
y
 
z
(1) v = ar,
(2) v = c × r,
(3) v =
5
r
,
r3
(4) v =
c
,
r
 
ax
 

解答例. (1) 3次元のベクトル場 v = ar = 
ay  の発散は
az
dvi v =
∂(ax) ∂(ay) ∂(az)
+
+
= 3a.
∂x
∂y
∂z
 
c1
 

(2) c = 
c2  と置く。すると
c3

[
c2
y
] 

 det


c
z
3




    


[
]
c1
x
    
c1 x 





−
det
3次元のベクトル場 v = c × r = 
×
=
 の発散は、

c
y
 2   

c
z
3


c3
z





[
] 


c1 x


det
c2 y
∂
dvi v =
∂x
(
[
c2
det
c3
y
z
])
∂
+
∂y
(
[
c1
− det
c3
x
z
])
∂
+
∂z
(
[
det
c1
c2
=0.

(3) 3次元のベクトル場 v = v =
x/r3



r
y/r3  の発散は
=


r3
z/r3
∂ (x)
∂ (y)
∂ (z)
+
+
∂x r3
∂y r3
∂z r3
(
) (
) (
)
1
x2
1
y2
1
z2
=
−3 5 +
−3 5 +
−3 5
r3
r
r3
r
r3
r
dvi v =
(x2 + y 2 + z 2 = r2 を使う。)
=0
6
x
y
])
 


c1
c1 /r
 


 と置く。3次元のベクトル場 v = c = c2 /r の発散は
(4) c = 
c
2
 

r 
c3 /r
c3
∂ ( c2 )
∂ ( c3 )
∂ ( c1 )
+
+
∂x r
∂y r
∂z r
c1 x c2 y c3 z
=− 3 − 3 − 3
r
r
r
c·r
=− 3 .
r
dvi v =
1.6 内積と発散
3次元のベクトル場の発散は、ベクトルの内積の理論と形式的に似ている。
 
 
a1
b1
 
 

 
3 次元数ベクトル a = 
a2 , b = b2  の内積は次のように定義されているのでした。
a3
b3
a · b = a1 b1 + a2 b2 + a3 b3 .


∂
 ∂x 
 


 
u(x, y, z)
 
 ∂ 


 とベクトル場 v =  v(x, y, z)  をあたかも数ベクトルの
ここで作用素 *1 ∇ = 
 ∂y 


 
 
w(x, y, z)
 
 ∂ 
∂z
ように扱って、
∇·v =
∂
∂
∂
(u(x, y, z)) +
(v(x, y, z)) +
(w(x, y, z))
∂x
∂y
∂z
と定義します。すると、ベクトル場 v を「微分」している雰囲気が表現されます。つまり
*1
演算子とも言う。
7
ベクトル場 v の「微分」とは ∇ · v のことである
と理解するのです。この立場は初学者が理解しにくくなる反面、発散というものをより深
く理解できます。また、計算が見通しよくできる等の利点があります。
1.7 外積と回転
 
 
a1
b1
 
 

 
3 次元数ベクトル a = 
a2 , b = b2  の外積は次のように定義されているのでした。
a3
b3
[
] 

a2 b2

 det a3 b3


 

   


[
]
a
b
−
a
b
a1
b1
2
3
3
2

a1 b1 
 

a × b = a2  × b2  := 
− det a3 b3  = a3 b1 − a1 b3


a1 b2 − a2 b1
a3
b3



] 
[


a1 b1
det
a2 b2

∂
 ∂x 
 


 
u(x, y, z)
 
 ∂ 


 とベクトル場 v =  v(x, y, z)  をあたかも数ベクトルのように扱って、
∇=
 ∂y 


 
 
w(x,
y,
z)
 
 ∂ 

∂z


∂
 det  ∂y
 ∂



∂z





∂

 ∂x

∇ × v := − det  ∂


∂z





∂


 ∂x
 det  ∂
∂y

v(x, y, z) 

w(x, y, z)



 


∂v
∂w

(x, y, z) −
(x, y, z)
 
∂z

  ∂y

 



u(x, y, z)   ∂u
∂w

 =  (x, y, z) −
(x, y, z)


∂x
w(x, y, z) 

  ∂z

 
  ∂v

∂u
 
(x,
y,
z)
−
(x,
y,
z)

∂x
∂y
u(x, y, z)  

 
v(x, y, z)
8
と定義します。
定義 1.6. ベクトル場 v の回転とは ∇ × v のことであり rot(v) と書く。
注:rot(v) は、ベクトル場 v の各点の「回転具合」をベクトルで表現したものである。
従って、rot(v) はベクトル場である。
注:div(v) は、ベクトル場 v の各点の「湧き出し具合」を実数で表現したものである。
従って div(v) は、各点に実数が対応したものになる。(スカラー場と呼ばれる。)
1.8 発散と回転に関する性質
定理 1.7. 3次元のベクトル場 v に関して次が成り立つ。
div(rotv) = 0.
証明. 定義に従って何も考えずに計算するだけ。


∂v
∂w
 ∂y (x, y, z) − ∂z (x, y, z)






∂u
∂w


div(rot v) = div  (x, y, z) −
(x, y, z)
 ∂z

∂x




 ∂v

∂u
(x, y, z) −
(x, y, z)
∂x
∂y
(
)
∂v
∂ ∂w
(x, y, z) −
(x, y, z) +
=
∂x ∂y
∂z
(
)
(
)
∂ ∂u
∂w
∂ ∂v
∂u
(x, y, z) −
(x, y, z) +
(x, y, z) −
(x, y, z)
∂y ∂z
∂x
∂z ∂x
∂y
( 2
)
∂ u
∂2u
=
(x, y, z) −
(x, y, z) +
∂y∂z
∂z∂y
( 2
) ( 2
)
∂ v
∂2v
∂ w
∂2w
(x, y, z) −
(x, y, z) +
(x, y, z) −
(x, y, z)
∂z∂x
∂x∂z
∂x∂y
∂y∂x
= 0.
注:任意のベクトル場 v の回転(rot v) の発散は 0 ということ。
9
1.9 このノートで説明しなかったこと
3次元のベクトル場の発散が、どのような意味を持つ量であるのかは説明しなかった。
(教科書 p96 参照)また、ガウスの定理(教科書 p112) を勉強すれば、3次元のベクトル
場の発散の意味はより深く理解できる。また3次元のベクトル場の回転が、どのような意
味を持つ量であるのかも説明しなかった。
10