スカラー場

8.1 回転
1
8.1 回転
¶
回転
³
定義 8.1 空間のベクトル場 F = F1 i + F2 j + F3 k に対して F の 回転 (curl), curlF を次のように定義し
ます.
µ
curlF = ∇ × F =
∂F3
∂F2
−
∂y
∂z
¶
µ
i+
∂F3
∂F1
−
∂z
∂x
¶
µ
j+
∂F1
∂F2
−
∂x
∂y
¶
¯
¯ i
¯ ∂
k = ¯¯ ∂x
¯ F1
j
∂
∂y
F2
¯
k ¯¯
∂ ¯
∂z ¯
F3 ¯
µ
´
問 8.1 F = z i + x2 j + 2y k の回転を求めよ.
F = (F1 , F2 ) のとき,このベクトル場によって点 A (xA , yA ), B(xA + ∆x, yA ), C(xA + ∆x, yA + ∆y),
D(xA , yA + ∆y) からなる四辺形 ABCD をどれだけ回転させられるか調べてみます.
まず,点 A (xA , yA ) での水平方向の成分は F1 (xA , yA ).点 D (xA , yA + ∆y) での水平方向の成分は
F1 (xA , yA ) +
∂F1
(xA , yA )∆y
∂y
∂F1
(xA , yA )∆y が正のとき,四辺形 ABCD は時計回りに回
∂y
∂F2
(xA , yA )∆x が正のとき,四辺形 ABCD は反時計回りに
転します.また,点 A,B での垂直方向の成分の差
∂x
∂F1
∂F2
回転します.よって ∥curlF ∥ = ∂x − ∂y はベクトル場 F が四辺形に与える回転力の大きさとなり,その力の
∂F2
∂F1
方向は右ねじの法則より四辺形に垂直な方向 k(
−
) となります.これが curl の名前の由来です.この
∂x
∂y
ことから ∇ × F = 0 のときベクトル場 F は渦なしとなります.
この 2 つの値の差,つまり, 水平方向の成分の差
例題 8.1 F が保存場ならば, ∇ × F = 0 を示してみましょう.
解 F が保存場より, F = ∇f となる f が存在します.よって curlF を求めると
¯
¯ i
¯ ∂
∇ × F = ∇ × ∇f = ¯¯ ∂x
¯ fx
j
∂
∂y
fy
¯
k ¯¯
∂ ¯
∂z ¯ = (fzy − fyz )i + (fxz − fzx )j + (fyx − fxy )k = 0
fz ¯
定理 8.1 任意のスカラー場 ϕ と任意のベクトル場 A について次の式が成り立つ.
∇ × (∇ϕ) = 0,
∇ · (∇ × A) = 0
例題 8.2 r = xi + yj + zk, r = |r| とし,ω を定ベクトルとする.次の等式を証明せよ.
(1) ∇ × r = 0
(2) ∇ × (ω × r) = 2ω
¯
¯
j
k ¯
¯
∂
∂ ¯ = ( ∂z − ∂y )i + ( ∂x − ∂z )j + ( ∂y − ∂x )k = 0
∂y
∂z
∂z
∂x
∂y
∂y
∂y
∂z ¯
¯
y
z ¯
¯
¯
¯
¯
j
k ¯
¯ i
¯
¯
(2) w = w1 i+w2 j+w3 k とすると,w ×r = ¯¯ w1 w2 w3 ¯¯ = (w2 z −w3 y)i+(w3 x−w1 z)j+(w1 y −w2 x)k.
¯
¯
¯ x
y
z ¯
¯
¯
¯
¯
i
j
k
¯
¯
¯
¯
∂
∂
∂
¯ = 2w1 i + 2w2 j + 2w3 k = 2w
したがって,∇ × (w × r) = ¯¯
¯
∂x
∂y
∂z
¯
¯
¯ w2 z − w3 y w3 x − w1 z w1 y − w2 x ¯
¯
¯
¯ i
¯
∂
(1) ∇ × r = ¯¯ ∂x
¯
¯ x
スカラー・ポテンシャル
2
ベクトル場 A がポテンシャル ϕ を持てば,A = −∇ϕ であるから,定理 3.2 によって,∇×A = −∇×(∇ϕ) = 0
となります.逆はどうでしょうか.
定理 8.2 全空間で定義されたベクトル場 A について ∇ × A = 0 ならば,ベクトル場 A はポテンシャルを持つ
Z
((2x + yz) i + zx j + xy k) · dr を求めてみましょう.ただし, C は点 (1, 0, −1) から点 (2, −1, 3)
例題 8.3
C
に至る曲線.
¯
¯
i
¯
¯
∂
¯
解 ∇ × (2x + yz) i + zx j + xy k = ¯
∂x
¯
¯ 2x + yz
j
∂
∂y
zx
¯
¯
k ¯
Z
¯
∂ ¯ = 0 より,
((2x + yz) i + zx j + xy k) · dr = 0
∂z ¯
C
¯
xy ¯
ベクトル・ポテンシャル
ベクトル場 A に対して,
A=∇×p
となるベクトル場 p が存在するとき,ベクトル場 A はベクトル・ポテンシャル p を持つといいます.ここで,ベ
クトル場 A がベクトル・ポテンシャル p を持つならば,定理 3.2 より,∇ · (∇ × p) = 0 となるので,∇ · A = 0
が成り立ちます.逆はどうでしょうか.
定理 8.3 全空間で定義されたベクトルば A について,∇ · A = 0 ならば,ベクトル場 A はベクトル・ポテン
シャルを持つ.
演習問題を解くために,新たな記号を導入します.ベクトル場 A = a1 i + a2 j + a3 k とナブラ ∇ の形式的内積
A · ∇ = a1
∂
∂
∂
+ a2
+ a3
∂x
∂y
∂z
は演算子です.これをスカラー場 ϕ とベクトル場 A に作用させると,
∂ϕ
∂ϕ
∂ϕ
+ a2
+ a3
= A · ∇ϕ
∂x
∂y
∂z
∂A
∂ϕ
∂A
+ a2
+ a3
(A · ∇)A = a1
∂x
∂y
∂A
(A · ∇)ϕ = a1
と表すことができます.
公式
∇(A · B) = (B · ∇)A + (A · ∇)B + B × (∇ × A) + A × (∇ × B)
とその証明.
演算子 ∇ を含んだ式を処理するには,∇ を
∂
∂
∂
∂x i + ∂y j + ∂z z
とおいて,∇ を作用させ,その後ベクトル代数で
学んだ,スカラー 3 重積,ベクトル 3 重積を用いて処理する.
¶
µ
∂B
∂B
∂B
+j×
+k
A × (∇ × B) = A × i ×
∂x
∂y
∂z
∂B
∂B
∂B
∂B
∂B
∂B
= (A ·
)i + (A ·
)y + (A ·
)k − (A · i)
− (A · j)
+ (A · k)
∂x
∂y
∂z
∂x
∂y
∂z
上の式で A と B を入れ替えると,
B × (∇ × A) = (B ·
∂A
∂A
∂A
∂A
∂A
∂A
)i + (B ·
)y + (B ·
)k − (B · i)
− (B · j)
+ (B · k)
∂x
∂y
∂z
∂x
∂y
∂z
この 2 つの式を加えると,
A × (∇ × B) + B × (∇ × A)
= ∇(A · B) − (B · ∇)A − (A · ∇)B
したがって,
∇(A · B) = (B · ∇)A + (A · ∇)B + B × (∇ × A) + A × (∇ × B)