思考力・表現力を育む授業を目指して

イ プ シ ロ ン 2013.
Vol 。 55,
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思考力 ・表現力 を育む授業 を目指し て
愛知県 立東浦高等学校
松 井 和 総
1 研 究 目 的
本 校 で は 学 力 の 低 い 生 徒 が 多 く 在 籍 し て い る 。小 学 校 で 学 習 す る 計 算 す ら で き な い 生 徒 が い る。
そ の た め , ど うし て も 授 業 は 計 算 中 心 に な り が ち で あ る 。 展 開 ・ 因 数 分 解 や 平 方 完 成 の や り 方 を
教え, 練習 をさせ る こと が中心 になり, 解く のに多 くの知 識を 用い る問題 に関 して は,流 す程 度
に 説 明 す る か 下 手 を す る とや ら ず に 終 わ ら せ る も の も あ る。し か し, 本 来 の 数 学 の 授 業 の 目 的 は ,
計 算 を で き る よ う に す る こ と だ け で は な い 。「 生 き る 力 」を 与 え る こ と が ,数 学 の 授 業 の ね ら い の
一 つ で あ る 。 私 も こ れ を 目 標 に し て い る。 こ の 学 校 の 生 徒 た ち に 対 し て も 思 考 力 ・ 表 現 力 を 育 て
る授業 がし たい。 そ のた めにど のよ うな授業 の方 法があ るかを研 究し たい と考 えた。
2 思 考力 ・表 現力 とは どのよ うな力 なの か
辞 書には 「思 考」「表現」 とい う言葉 につい て,以 下の よ うに 表 されてい る。
思 考…考 える こと。 経 験や知識 を もとにあ れこ れと頭 を働 かせ るこ と。
表 現…心 理的 ,感 情的, 精神 的な どの内 面的な ものを ,外面 的,感 性的 形象 とし て客観 化す るこ と。
す なわ ち思考力 と は, 考えるこ と ができ る力 ・ 経験や知 識を も とにあ れこれ と頭を 働 かせる こ
と ができ る力 で あり ,表 現力 と は,内 面的 なもの を外面的 なも のに変 化 させ ること のでき る力 ,
言い かえ ると, 考え ていた もの を言葉 に変化 させ る力 のこ とを 言 う。
3 本校生 徒の 実情
上 記で も述べ たが ,本校 生徒 の学力 は高く ない が,そ れでも バラつ き があ るため, 習熟 度別 で
ク ラス展開 をし て数 学の授 業を 行ってい る。 成績 上位 のクラ スは中 学校 で学習 した 内容 は,基 本
的な こと は定着 してい る。 中学 校の 教科書 の練習 問題は でき る程度 であ る。 成 績下位 の クラ スは
中学 校で学 習し たこ とが全 然定 着してい ない , さらに計 算す らでき ない 生徒 もい る。
4 本校 生徒 の思考力 ・ 表現力 を育む には
こ のよ うな 生徒 がい る現状で ,思 考力 ・ 表現力 を育む には どの よ うな 授業 を行っ てい けば よい
の だろ うか ??上記 の思 考力・ 表現力 の意 味か ら考え ると,そ れ らの力 を育む には ,教 師の発 問
に 対し生 徒が答 え る,考 える, その よ うな 授業 を行 うこ とが必 要で ある。 本 校生徒 は, 教師 の発
問 に対し てすぐ 「わか らない」 と答 える生 徒が多い 。そ れは ,ただ 生徒 が授業 に 参加 し てい ない
からでは なく ,教師 の発 問が難 しい ,とい うの も原因 にある だろ う。 教 師の発 問力 の向 上,そ れ
が,思考力 ・表 現力 を 育む一つ の ポイ ント であ ると考 える。
また, 本校 生徒 は, 私か授業 で板 書した 内容 を,一 生懸命 ノート に 書く。 私か 「今は 聞く時 間
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思 考力 ・ 表 現力 を育 む授 業 を 目指 し て
です よ」と言っ ても, 板 書してい るこ とを 写そ うとする。一 生懸命 ノ ートに 書く のは よい の だが,
書く だけで 終 わっ てし まっ て,一 番大切 な考 えるこ とをし ていな い。 教師 の指示 を聞 かせ る,授
業 に 参加 させ るこ とも ,思 考力 ・表 現力 を育ませ るた めに 大切な こ とであ る。
以 下は,数 学 1・A ,そ れぞれ にお い ての実 践例で ある。
5 本 校 生 徒 に 合 わ せ た 思 考 力 ・表 現 力 を 育 む 授 業 の 例 ①( 数 学 1 2 次 関 数 の 最 大・最 小 の 応 用 )
使 用 教 科 書 : 数 研 出 版 「 最 新 数 学 I 」
過程
導入
学習 内容・ 学習活 動
・前時 の復 習
10分
指導 上 の留意点
・2次 関数の最 大値・最小値 を求 めた かった ら,
グラフ をか けば よいこ とを 確認す る。
問題
長 さ 1 6 m のロ ープ で長 方 形 の 囲
い を作 りたい。でき るだけ広 い面 積
を 囲 うに は,どの ような長 方形に す
・教科 書は 閉じ させ ,問 題文 を ノート に書 かせ
る。
・問題 文を 読み, まず は方針 を立 てる。
・縦 の長 さをx m,面 積を ym2とお い て式を た
て る のだ が, 考え つく 生徒 は少 ない と 思わ れ
れ ばよい か。
るので, これ を伝 える。
【 解答 】
長 方形 の 縦 の長 さをx m とす る と,横
展開
35 分
・上記以 外 は, なる べく 生徒 に答え させ るよ う
に する。
の長 さ は(8− x)mで ある。こ こで , ・関数 の式 を立 てたあ と は, 個人学 習に 入り ,
縦 と横 の長 さは正 の数であ る から,
前 時ま でに 学習 し たこ とに 沿っ て解 答を させ
O<x <8
る。
長方 形 の面積 をym2とする と,
y =x (8 −x )よ り,
2
y = − (x − 4) +16 な ので ,
x =4 のとき ,yは 最大値 16を とる。
・ 面積 を最 大にし た かっ たら正 方形 にす れば よ
い ことを 確認 する。
・ どん なと きで も正方 形 が面積 を最 大に する こ
と を確認 する。
よっ て , 縦の 長 さが4 m, 横 の長 さ が
4 m の長方 形 ,す な わち, 正方 形 にす
れ ばよい。
まとめ
5分
・ 数 式 に 表 す こ と の よ さ を 知 る。
・ 数式 に表す こ とに よって 問題 を解 くこ とが で
き るよ うにな るこ とを実 感 させ る。
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6 研 究授 業の 考察
成 績上位 の生 徒を対 象に ,難 しい応 用問 題を扱 った。 教師 の発 問に対 して, 答え てく れる のか
とて も不 安で あっ た が,発 問に 対し て反 応を よく 示し てく れた。 授業 後 のア ンケ ート の中 に は。
「自分の 囗で説 明し あ うのがよ かった 」 と回答し てく れた生 徒がい た。 今後 もこの よ うな授業 を
積極 的に 実践し てい きたい。
授業 の 中で良 かっ たのは ,縦 の長 さをx mとお いた ときに 横の長 さ は,x を使っ てど のよ うに
表せ るの か,を 考え させ たとき であ る。少 し 時間を 与え て考え させ た後, 答え を出 させ た のだ が,
1 6-x とい う解答 と, 8 ― x とい う解答 が出た。 2つ の解答 が 出た, とい うこと と,そ れ
の考 察を させる こと ができ た, とい うのが 良かっ た と感 じ る所で ある。
し かし, 課題 も残 る。 一つ 目は発問 であ る。 例えば ,上記 の1 6-x
や, 8 ― x とい う解答 が
出 ること はある 程度予 測し て, それに 対す る発 問を考 えなけ れば ならな かっ た。 生 徒の反 応, 雰
囲気 ,板 書,な どか ら,生 徒自 らが1 6-x
の 間違い に気づ かせ て, 8 ― x が正答 だと認 識を さ
せてい けば よかっ た のに, 実際 は1 6 ― x ,8 ― xの 解答 の説明 をさせ ,どっ ち が正しい の かを
考 えさせ るに止 まっ て,最 終的 には 教師が1 6 -x が違 うとい うことを 説明し てし まっ た。
二つ 目は ,最 終的 に何を 学ん だが, 何を 目的 に授業 をすれ ばよい の か,とい うこ とを, もっ と
明確 にしな けれ ばな らな かっ た。 最終 目標 は,文 章題 は数学 の記 号を使っ て数 式に表 せ ば問題 が
解け る, とい うこと だった ので ある が,そ こに至 るま でにや るこ とが多 すぎ た。イ可を文字 で表 す
か, それに よっ て他 のも のはそ の文字 を使っ て どのよ うに表 すこ とがで きる のか, 定義 域は確認
した か,数 式は ど うなる のか, 最大値 ・最 小値を 求め るには ど うす れば よかっ たの か… などで あ
る が,一つ 一つ のこ とが, 学力 の低い 子か らみ れば難 しく 感 じる ことで あり, 授業 後に とった ア
ンケ ートで も, 何を してい たの かわ からない , と回答 してい た生 徒が何 人かい た。 その 中で 目標
を達成 す るた めには どの ように 授業を 展開 しなけ れば ならな かっ たの か,・ま た,教 科書 の問題 で
あっ たが, 問題 の設 定はこ れで よかっ たの か, 検討し てい かなけ ればな らない と感 じた。
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思 考力 ・表 現力 を育 む授 業 を 目指 し て
7 本校 生徒 に合 わせた 思考力 ・表 現力 を 育む授業 の例 ②(数 学A 図形 の性質 )
使用 教科 書:数 研出版 「最 新 数 学A 」
過程
学習 内容・ 学習活 動
・本時 以降 の授業 内容 の説明
導入
指 導上 の留 意点
・図 形の性 質 の単元 の初 回授業 を想 定。今
後の授 業 内容を 説明す る。
・平 行 線 と 線 分 の 比
展開
・文を 読み, それ を図 に表す。
・ 教科書 は閉じ させ ,黒板に 「△AB C の
辺AB,
AC
ま たは それ らの延長 上 にそれ
ぞ れ点P ,Q がある 」とかき ,ノート にそ
の図を かかせ る。
・1, 2,
3 の内 容を確 認す る。
・練習 1を解 く。
・確認 した 内容 の うち ,何 を使っ て解い た
` のかを 考 えさせ る。
8 考察
研 究授業 とし て行っ てはい ない が, 実際に 授業を 行った とき には, この よ うな感 じ で授業 を進
めた。 進学 校で は, 図形分 野の授 業は, 定理 の証明 がメイ ンで進 んでい く と思 われる が,本 校生
徒に はそ のスタイ ル は合 わない し,つい ていけ なくな る生徒 が多い と考 える。そこで 私は ,
「定理
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松 井
和
総
で 書かれ てい る文 を図に 表す こと」
「定理 を使 えるよ うにす るこ と」をメ イン に授業 を進 めてい る。
「定理で 書か れてい る文 を図 に表す こと」 では ,読解力 と思 考力 が養 える と考え る。 文 章を 読ん
で 理解し ない と図 が書け ない からで ある。「定理 を使 えるよ うにす るこ と」では ,思考力 と表 現力
を 養え る。 問題 を解 く とき の根拠 を示す ,そ の根 拠はど こから 出て きた のかを 表現 させ る。 why
を 追究 させ る のでは なく, how を追 究 させ る のであ る。
この授業 で はまず ,指 導案 め平行線 と線 分 の比に かかれて いる 図を かかせ た。文 を読 んで 図に
表す ,こ との 実践で ある。 成 績下位者 を対 象に した クラスで ある が,左 側に かいて あ る図は ,比
較的よくかけていた。ただし,「延長上」や,「それぞれ」などの言葉は,やはり難しいようであ
る。 教師 側も, 端的 に わかる説 明を 求め られてい る。
そして ,「定 理を 使え るよ うにす るこ と」の実 践は,練習 1を解 かせ るとき であ る。 ノート に解
かせ る ときに,「教科 書の 何を使っ て解 い たのか をノー トに かきな さい」と指示 をだし た。何 をし
た らよい か わから ない生 徒に 対して は, 求めたい 長 さを確認 させ ,定理 の 中でそ の長 さが含 まれ
てい る のはど れ? ?と 聞き, 自分で 根拠 を言 えるよ うに させ た。
図形 に入っ て初 めて の授業 であっ た が,感 触良かっ たが, 目標 を達成 でき ずにい る生 徒へ のフ
ォ ロー が課題 であっ た。
9 ま とめ
「物 事は疑 って か かれ」 とよく 言われ る。 だから こそ, 教科 書に載っ てい る定 理は ,本 当にそ
うな のか,な ぜそ うな るの か,検 証す るこ とが必 要になっ てく る。 そ れを するこ とに よって ,何
が正しい の かを判 断す る 目が養 われる。数 学を学 ぶ 目的 の一つ であ ろ う。し かし, 抽象 的な ので,
ど うし ても 苦手な 生徒 が出 る。本校 生徒 は,数 学 とい うものを聞い て拒 絶反 応を示 す ものが多 い。
そ うい う生 徒た ちに, 本 当か ?なぜ か? と聞い ても,取り組 も うとして も取 り組 めない。す ると,
ますま す数 学が嫌 い になっ てしま うとい う悪 循環 に陥 る。 そこ で,ま ずは 自分 でもで きる んだ,
とい う感覚 を与 えるこ と が必要 になっ てく る。 問題 が解 ける んだ, とい うこ とで数学 に対 して少
しで も前向 きに させ ない とい け ない。 だか ら重要 なのは ,なぜ そ うなる のか, より もど うや っ て
問題 を解け ばいい の か, とい うことに なる。 教科 書の知 識は成 り立っ て 当然で ある とい う前提 の
も と,そ れを使 える よ うにする ことを 主眼 におい て授業 をし なけれ ばいけ ない のであ る。 数学 の
教師 とし て物足 りない 部 分があ るが, 生徒 の実 情を考 えた結果 であ る。 ただし ,繰 り返し にな る
が,その 中で もただ 問題 演習で 終 わらせて はいけ ない。 社会 に出 て, 自律して 生き ていけ る よう
に させな けれ ばなら ない。 そ のた めに私 が提案 してい るのは ,数学 の問題 が解 ける よ うにな る授
業 のあ り方で ある。 ど うや って 解い たの か,何 を根拠 にした のか ,な ど,生 徒が問題 を 勘で答 え
させない 工夫 をして いく。 思 考力・ 表現力 を育 むた めに,こ れか らも 教材研 究に励 みたい。
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