サッカード眼球運動の計測に基づく覚醒水準の定量評価の試み

サッカード眼球運動の計測に基づく覚醒水準の定量評価の試み
○植野彰規、内川義則
東京電機大学 理工学部 電子情報工学科
An approach to quantification of alertness level based on measurement of saccade
Akinori UENO and Yoshinori UCHIKAWA
Department of Electronic and Computer Engineering, Tokyo Denki University
1.はじめに
筆者は、先進安全自動車等への応用を念頭に、
サッカード(saccade: SC)の特性変化からヒトの
覚醒水準を推定可能であるか検討してきた。過去
の研究において、SC 動特性が脳波の振幅や主観
的覚醒水準と強い相関を有することを定量的に
示している[1][2]。今回、数列比較課題中の覚醒変
動に伴う SC 動特性の変化と、視知覚能との関係
について解析を試みたので報告する。
2.実験方法
6 名の被験者に数列比較課題を課し眼球運動を
計測した。数列には 20bit の 2 進数(1, 0 の割合
が 0.5)を 2 組用いた(図 1)。中央の円図形を中
心に 1 と 0 が点対称に配置されている。ただし、
ある bit だけ 1, 0 が左右で反転している。被験者
には数列呈示を合図に中央から外側へ向かって
左右の数列を比較し、1 と 0 が反転している bit
を見つけ出した後、中央円図形を固視するよう指
示した。
1 回の試行 30s を 4 回繰り返し 1set とし、
各被験者に対して 11set ずつ実験を行った。
20 bit
20 bit
11011100111001110011
11001110111100111011
⎧
⎫
V std ( A) = V0 ⎨1 − exp⎛⎜ − A ⎞⎟ ⎬ ・・・・・・・・・・・・ (1)
k v ⎠⎭
⎝
⎩
Vn =
Vp
Vstd
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (2)
3.2 視知覚能指数の算出
課題中の回転角度データから左右方向の最大
値をそれぞれ求め、数列の何 bit 目に相当するか
計算した(NR, NL)。また、課題に要した時間 Tcmp
を求め、式(3)より視覚情報取得量(Bit Rate for
Visual Perception: VRBP)を算出した。なお Di は
試行中に発生した i 番目の SC の継続時間である。
BRVP =
NR + NL
Tcmp − ∑i =1 Di
・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)
n
4.実験結果
表 1 に SC パラメータと BRVP の相関係数を示
す。Vp/D おいて被験者 5 名で 0.6 以上の正の相関
が得られており、過去の成果と合わせると、覚醒
水準が低下し SC 速度波形の尖度が低下すると、
単位時間あたりに目から取得している視覚情報
量が低下することが示された。
表1
SC パラメータと BRVP の相関係数
Subject
mean Vp/D
mean Vn
T.I.
0.90**
0.85**
H.K.
0.75**
0.72**
A.K.
0.62**
0.46**
J.S
0.67**
0.55**
3.解析方法
Y.F.
0.61**
0.56**
3.1 SC パラメータの算出
眼球運動モニタの出力電圧を回転角度に変換
し、微分により角速度を算出した。角速度に対し
て±25deg/s の閾値を設け、閾値を超えた部分を
SC とした。各 SC について、振幅(A)、最高速
度(Vp)と継続時間(D)の比(Vp/D)を求めた。
また、式(1)を用いて被験者別に、振幅 A におけ
る標準的な最高速度(Vstd)を求めた。Vstd と Vp
の比から相対最高速度(Vn)を算出した(式(2))。
試行毎に Vp/D と Vn の平均値を求めた。
T. S.
0.39**
0.41**
-10deg
図1
0deg
the false pair
+10deg
数列比較課題の試行時に呈示する視標の例
* p < 0.05, ** p < 0.01
5.まとめ
数列比較課題中の覚醒変動に伴う SC 特性の変
化と視知覚能の関係について定量的に解析した。
参考文献
[1] 植野ら,信学論, J81-DII, 6, pp.1411-1420, 1998
[2] 植野ら,信学論, J83-DII, 4, pp.1172-1179,2000