http://utomir.lib.u-toyama.ac.jp/dspace/ Title Place

 Place-related neuronal activity in the monkey para
hippocampal gyrus and hippocampal formation du
ring virtual navigation
Title
Author(s)
古谷, 陽一
Citation
Issue Date
2014-03-26
Type
Article
Text version
URL
http://hdl.handle.net/10110/12993
Rights
http://utomir.lib.u-toyama.ac.jp/dspace/
ふるや
よういち
氏 名
古谷 陽一
学 位 の 種 類
博士(医学)
学 位 記 番 号
富医薬博乙第 50 号
学位授与年月日
平成 26 年 3 月 26 日
学位授与の要件
富山大学学位規則第 3 条第4項該当
学 位 論 文 題 目 Place-related neuronal activity in the monkey parahippocampal
gyrus and hippocampal formation during virtual navigation
(仮想空間移動課題におけるサル海馬体および海馬傍回ニューロ
ンの場所応答性)
論文審査委員
(主査)
教
授
鈴木 道雄
(副査)
教
授
田村 了以
(副査)
教
授
西田 尚樹
(副査)
教
授
奥寺
敬
(紹介教員) 教
授
嶋田
豊
論
文
内 容
の
要
旨
[目的]
げっ歯類の海馬体には、場所細胞が存在し、空間認知・記憶に関与する認知地図
の神経基盤であることが示唆されている。一方、霊長類の海馬体および海馬傍回ニ
ューロンは、いずれも場所細胞様の応答を示すことが報告されている。しかし、両
ニューロンの応答性の違いについては、詳細が明らかにされていない。また、げっ
歯類の場所細胞との比較も不明である。本研究では、霊長類の海馬体および海馬傍
回ニューロンの空間応答性の違いを明らかにするため、仮想空間移動課題を行って
いるサル海馬体および海馬傍回ニューロンの空間応答性を比較・解析した。
[方法]
2匹のサルを用い、それぞれのサルをモンキーチェアに座らせ、スクリーンの前
に置いた。サルには、1)前方スクリーンに仮想空間を投影し、ジョイスティック
を操作することにより、仮想空間内の報酬領域に侵入してジュース報酬を獲得する
仮想空間移動課題(VN課題)、および、2)スクリーン上に円形報酬領域を設置し、
ジョイスティックを操作して、スクリーン上のポインターを報酬領域に侵入させる
ことによりジュース報酬を獲得するポインター移動課題(PT課題)を訓練した。VN
課題では、仮想空間の中心部に低い壁で囲まれた移動可能領域および報酬領域を設
定し、その外に種々の建造物を設置した。さらに、種々の建造物と移動可能領域の
相対的位置関係は同じであるが、大きさの異なる3つの仮想空間(大型、コントロ
ール、および小型)からなる3種類のVN課題を訓練した。課題訓練後、サル頭蓋骨
に頭部固定用のU-フレームを埋め込んだ。手術回復後、これら課題中のサル海馬体
-1-
および海馬傍回にガラス被覆タングステン微小電極を刺入してニューロン活動を
記録した。
空間応答の解析では、空間応答をガウスフィルターで処理後、空間自己相関を用
いた空間スケール(場所サイズに相当)を算出した。また、個々のニューロンの空
間応答についてモンテカルロ・シミュレーションを行い、空間応答分布がランダム
な分布と有意に異なるニューロンを有意場所ニューロンと定義した。3 仮想空間に
おける空間応答の類似性は相関係数で比較した。さらに、3 仮想空間においてそれ
ぞれの場所ニューロンが符号化している空間情報量を算出し、海馬体および海馬傍
回間で比較・解析した。空間的手掛かり刺激に対する応答の解析では、個々の場所
ニューロンの建造物、サルの向き、および移動可能領域の壁に対する応答性[選択性
指数(特定物に対する最大応答と平均応答の比率)、空間手掛かり刺激の情報量]を
算出し、海馬体および海馬傍回間で比較・解析した。行動(空間移動)に対する応
答性の解析では、移動方向および回転角度に対するニューロンの応答性を解析した。
[結果]
海馬体および海馬傍回から234個のニューロン活動を記録し、そのうち170個がVN
課題、61個がPT 課題で場所応答を示した。場所ニューロンの割合は、海馬体より
海馬傍回で有意に高かった。また、有意場所ニューロンの占める比率は、PT課題よ
りVN課題で有意に高かった。空間応答性については、1)3仮想空間における場所応
答の類似性が、海馬傍回より海馬体で有意に高かった、2)小型仮想空間における
場所ニューロンの空間スケールは、大型およびコントロール仮想空間より有意に小
さかった。一方、空間的手掛かり刺激に対する応答性については、選択性指数およ
び空間手掛かり刺激の情報量のいずれにおいても海馬体より海馬傍回で有意に高
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かった。移動行動に対する応答性については海馬傍回と海馬体で有意差は認められ
なかった。さらに、海馬体および海馬傍回を吻側および尾側に分けて場所ニューロ
ンの空間情報量および空間手掛かり刺激の情報量を比較した結果、いずれの情報量
においても尾側海馬傍回では、吻側および尾側海馬体ならびに吻側海馬傍回より有
意に高いことが明らかになった。
[総括]
海馬体および海馬傍回では、場所ニューロンの空間応答性および空間手掛かり刺
激に対する応答性が異なることが明らかになった。1.海馬体では、場所ニューロン
の空間類似性が海馬傍回より高く、空間応答の大きさ(空間スケール)は仮想空間
の大きさに依存していた。これら結果は、霊長類の場所ニューロンはげっ歯類の場
所細胞と同様の特性を有することを示唆しており、霊長類においても海馬体が、外
界空間中心的座標系に基づいて視方向非依存性に符号化された認知地図を再現し
ているという仮説を支持する。2.空間的手がかり刺激への選択的応答性は尾側海馬
傍回で他領域より高かった。これは、尾側海馬傍回が、風景の幾何学的特徴を自己
中心的座標系に基づいて視方向依存性に符号化しているというヒトの非侵襲的研
究に神経生理学的基盤を与えるものである。一方、最近の行動学的研究により、空
間移動では、外界空間座標系および自己空間座標系の両系を用いて認知空間におけ
る自己の居場所を更新することが示唆されている。本研究により、外界空間中心的
座標系(海馬体)および自己中心的座標系(海馬傍回)の両者による相補的空間認
知機構が明らかになった。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨
【目的】
げっ歯類の海馬体には、空間内のある特定の場所でのみ活動が亢進するニューロンであ
る場所細胞(place cells)が存在し、空間認知・記憶に関与する認知地図の神経基盤である
ことが示唆されている。霊長類では、海馬体および海馬傍回ニューロンがいずれも場所細
胞様の応答を示すことが報告されているが、海馬体と海馬傍回ニューロンの応答性の違い
について、詳細は明らかにされていない。また、これらとげっ歯類の場所細胞との比較は
十分に行われていない。
本研究で古谷陽一君は、霊長類の海馬体および海馬傍回ニューロンの空間応答性の違い、
ならびに、げっ歯類の場所細胞と霊長類の場所関連ニューロンの異同を明らかにするため
に、仮想空間移動課題を行っているサルの海馬体および海馬傍回ニューロンの空間応答性
を比較・解析した。
【方法】
2 匹のサルを用い、以下の 2 つの課題の訓練を行った。
1)仮想空間移動課題(VN 課題)
:前方スクリーンに仮想空間を投影し、ジョイスティッ
クを操作することにより、仮想空間内の報酬領域に侵入してジュース報酬を獲得する。仮
想空間の中心部に移動可能領域および報酬領域を設定し、その外に種々の建造物を設置し
た。建造物と移動可能領域の相対的位置関係は同じであるが、大きさの異なる 3 つの仮想
空間(大型、コントロール、および小型)からなる 3 種類の課題を用いた。
2)ポインター移動課題(PT 課題)
:スクリーン上に円形報酬領域を設置し、ジョイステ
ィックを操作して、スクリーン上のポインターを報酬領域に侵入させることによりジュー
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ス報酬を獲得する。
課題訓練後、サル頭蓋骨に頭部固定用の U-フレームを埋め込み、これらの課題中のサル
海馬体および海馬傍回にガラス被覆タングステン微小電極を刺入してニューロン活動を記
録した。
空間応答の解析では、空間応答をガウスフィルターで処理後、空間自己相関を用いた空
間スケール(場所サイズに相当)を算出した。また、個々のニューロンの空間応答につい
てモンテカルロ・シミュレーションを行い、空間応答分布がランダムな分布と有意に異な
るニューロンを有意場所関連ニューロンと定義した。3 仮想空間における空間応答の類似性
は相関係数で比較した。さらに、3 仮想空間においてそれぞれの場所関連ニューロンが符号
化している空間情報量を算出し、海馬体および海馬傍回間で比較した。空間的手掛かり刺
激に対する応答の解析では、個々の場所関連ニューロンの建造物、サルの向き、および移
動可能領域の壁に対する応答性[選択性指数(特定物に対する最大応答と平均応答の比率)
および空間手掛かり刺激の情報量]を算出し、海馬体および海馬傍回間で比較した。移動
行動に対する応答性の解析では、移動方向および回転角度に対するニューロンの応答性を
比較した。
【結果】
海馬体および海馬傍回から 234 個のニューロン活動を記録し、そのうち 170 個が VN 課
題、61 個が PT 課題で場所応答を示した。場所関連ニューロンの割合は、海馬体より海馬
傍回で有意に高かった。また、有意場所関連ニューロンの占める比率は、PT 課題より VN
課題で有意に高かった。空間応答性については、1)3 仮想空間における場所応答の類似性
が、海馬傍回より海馬体で有意に高かった、2)小型仮想空間における場所関連ニューロン
の空間スケールは、大型およびコントロール仮想空間より有意に小さかった。一方、空間
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的手掛かり刺激に対する応答性については、選択性指数および空間手掛かり刺激の情報量
のいずれにおいても海馬体より海馬傍回で有意に高かった。移動行動に対する応答性につ
いては、海馬体と海馬傍回で有意差は認められなかった。さらに、海馬体および海馬傍回
を吻側および尾側に分けて、場所関連ニューロンの空間情報量および空間手掛かり刺激の
情報量を比較した結果、いずれも尾側海馬傍回において有意に高かった。
【総括】
本研究で古谷陽一君は、サルの海馬体および海馬傍回では、場所関連ニューロンの空間
応答性および空間手掛かり刺激に対する応答性が異なることを明らかにした。すなわち、
①海馬体では、場所関連ニューロンの空間類似性が海馬傍回より高く、空間応答の大きさ
(空間スケール)は仮想空間の大きさに依存すること、また②空間的手がかり刺激への選
択的応答性は、尾側海馬傍回で吻側海馬傍回や海馬体より高いことを示した。以上のこと
から、本研究はこれまで明らかでなかった霊長類の海馬体および海馬傍回ニューロンの空
間応答性の違いを示した点で新規性があり、霊長類の場所関連ニューロンはげっ歯類の場
所細胞と同様の特性を有し、霊長類においても海馬体が、外界空間中心的座標系に基づい
て視方向非依存性に符号化された認知地図を再現していることを示唆した点などから医学
における学術的重要性が高い。また、ヒトの空間認知や記憶に関する非侵襲的研究の神経
生理学的基盤として臨床的発展が期待できる。
以上より本審査委員会は、本論文を博士(医学)の学位に十分値すると判断した。
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