海馬ニューロンの分散培養法について 森 靖典 生命科学研究科・ 膜輸送機構解析分野 (福田研究室) e-mail: [email protected] トピックス ・海馬ニューロン分散培養法 ・私たちの研究室での研究内容(膜輸送について) 1 分散培養による神経細胞の観察 利点 ・軸索、樹状突起の観察が容易 ・ほぼ単一の神経細胞を得ることが可能 (海馬から摘出した場合は90%以上が興奮性の錐体神経 (pyramidal neuron)) ・遺伝子導入が容易(リポフェクション法) ・神経が成熟するまで長期培養できる→シナプス(軸索と樹状突起の接合部)の 観察も可能 etc.... 欠点 ・細胞が移動しない→層構造などの研究には不向き ・グリア細胞が存在しないので、グリア細胞による影響がわからない ・ディッシュ上の現象と、実際の脳内での現象で違う場合もある ・ニューロンが分散された状態なので、実際の神経回路は構築できない etc.... 2 海馬ニューロン分散培養法の 大まかな流れ 1.海馬の摘出 ↓ 2.海馬をトリプシン処理 ↓ 3.細胞をディッシュへ ↓ 恒温室内で培養 Gary Banker (Oregon Health and Science University) http://www.ohsu.edu/xd/research/centersinstitutes/neurology/jungers-center/research/bankerlab.cfm (Kaech S and Banker G 2006) (Banker GA and Cowan WM 1977) 摘出した海馬からニューロンを培養する方法は古くから確立されている なお、この手法は別名 Banker Methodとも呼ばれている 3 海馬ニューロン分散培養法で 使用する道具 ・実体顕微鏡 実体顕微鏡 (M50, Leica) ・解剖ばさみ ・No5ピンセット etc... 4 1.海馬の摘出 1.海馬の摘出 ↓ 2.海馬をトリプシン処理 ↓ 3.細胞をディッシュへ ↓ 恒温室内で培養 (Viesselmann C et al 2011) 胎生16.5日目のマウスから脳を取り出し海馬を摘出する (この時期の大脳では神経幹細胞が豊富に存在する) 5 2.海馬のトリプシン処理 1.海馬の摘出 ↓ 2.海馬をトリプシン処理 ↓ 3.細胞をディッシュへ ↓ 恒温室内で培養 (Viesselmann C et al 2011) トリプシン処理とピペット操作による物理的な力で 組織から細胞を引きはがす 6 3.細胞をディッシュへ 1.海馬の摘出 ↓ 2.海馬をトリプシン処理 ↓ 3.細胞をディッシュへ ↓ 恒温室内で培養 ガラスが入っているデッシュに細胞をまく (顕微鏡下での観察のため) (Viesselmann C et al 2011) 3日後にAraCという薬剤を加えて、神経以外の細胞を殺す (AraCは分裂する細胞特異的に影響するが、神経細胞は非分裂なので影響はない) 7 神経細胞の発生の様子 1.海馬の摘出 Stage 1 ↓ (0 hour) 2.海馬をトリプシン処理 ↓ 3.細胞をディッシュへ ↓ Stage 2 恒温室内で培養 (6 hour) Stage 3 (24 hour) まだ神経突起を伸ばしてい ない状態 神経突起を伸ばし始める。 ただし、軸索、樹状突起の 運命決定はまだなされていない 神経突起が一本の軸索と 数本の樹状突起に決定される (Dotti CG et al 1988) 8 軸索と樹状突起の伸長の様子 1.海馬の摘出 ↓ 2.海馬をトリプシン処理 ↓ 3.細胞をディッシュへ ↓ 恒温室内で培養 http://www.youtube.com/watch?v=EP4yeyD8ktY 軸索と樹状突起では突起の伸長パターンが異なる 9 神経細胞への遺伝子導入 共焦点レーザー顕微鏡 (FV-1000, Olympus) Lipofectamine 2000(リポフェクション法の試薬)を用いて GFP遺伝子を導入して、共焦点レーザー顕微鏡による観察した画像 GFPにより神経の形態観察技術が飛躍的に向上した 10 成熟した神経細胞でのシナプス観察 プレシナプス; 軸索側、シナプス小胞の集積 ポストシナプス; 樹状突起側、スパインと呼ばれる キノコ型の突起が形成され そこに受容体が集積 21 DIV (day in vitro) ポストシナプスマーカー プレシナプスマーカー (Okabe S et al 1999) 樹状突起マーカー 合成像 11 膜輸送とは?-小胞について小胞:様々な物質や膜タンパク質が存在している膜 (小胞内物質:神経伝達物質 、ホルモン、メラニン、etc) (膜タンパク質:トランスポーター、受容体、etc) 小胞(膜)は必要に応じて、 細胞内の様々な場所に輸送される 12 膜輸送に関する研究 -小胞(膜)の輸送の仕組みを調べる- Stenmark H (2009) Nat. Rev. Mol. Cell Biol 10:513-525 国内には様々な交通手段があるのと同様に、 細胞内には小胞を運ぶために様々な交通手段がある ↓ 私たちは、細胞の交通事情を研究しています 13 神経細胞の交通事情は? receptor , etc neurotransporter , etc 軸索には神経伝達物質の放出 に関わる分子が選択的に 運ばれる。 一方、樹状突起には神経伝達 物質の受容体分子が選択的に 運ばれる ↓ そのメカニズムは? 神経細胞における選択的な輸送メカニズムは、 まだ明らかになっていない部分が多い! 14 軸索もしくは樹状突起特異的な輸送メカニズム の解明に向けて モデル receptor , etc 東海道新幹線 東北新幹線 neurotransporter , etc 軸索もしくは樹状突起への特異的な輸送に関わる分子が 存在するのではないだろうか? 15 参考文献 Banker GA, Cowan WM (1977) Rat hippocampal neurons in dispersed cell culture. Brain Res. 126:397-342 Kaech S, Banker G (2006) Culturing hippocampal neurons. Nat Protoc 1:2406-2415 Dotti CG, Sullivan CA, Banker GA (1988) The establishment of polarity by hippocampal neurons in culture. J. Neurosci 8:1454-1468 Okabe S, Kim HD, Miwa A, Kuriu T, Okado H (1999) Continual remodeling of postsynaptic density and its regulation by synaptic activity. Nat. Neurosci 2:804-811 Viesselmann C, Ballweg J, Lumbard D, Dent EW (2011) Nucleofection and Primary Culture of Embryonic Mouse Hippocampal and Cortical Neurons. Journal of Visualized Experiments ・田中秀和 海馬ニューロンの培養 日薬理誌 第119巻 163-166頁 2002年 ・岡戸晴生、他 脳・神経研究プロトコール-細胞培養から機能解析へ 79-85頁 羊土社 1997年 ・脳・神経研究の進めかた 羊土社 1998年 ・京都大学・大学院薬学系研究科・生体分子認識学分野・ラボプロトコル・海馬神経初代分散培養法 http://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/biochem/kaiba.htm ・東京医科歯科大学・大学院・病体代謝解析分野・実験プロトコル・海馬神経初代分散培養法 16 http://www.tmd.ac.jp/med/mmch/protocol/1-6.html
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