Title 条件表現について Author(s) 三谷, 由美子 Citation 百舌鳥国文. 8, p.61-76 Issue Date URL 1988-10 http://hdl.handle.net/10466/13972 Rights http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/ 条件表現について 谷由美子 1.はじめに 2 . いわゆる「一般条件」の従来の位置づけと,その問題点 3 . 接続形式の意味・用法について 4 .i 仮定条件Jの諸特徴 5 .i 仮定条件」の特徴の変容について ( 1 ) 仮定条件Jの特徴の変容と,いわゆる「一般条件」化 ( 2 ) i 仮定条件Jの特徴の変容と, i 事実的条件」化 r 6 . おわりに 1.はじめに まず,最初に,条件表現を, r 二つの事態が何らかの因果関係によってむすび つけられるものである」と,広く捉えておくことにする。たとえば,次のような 例をあげることができる。 (1)風が吹けば,桶匡がもうかる r ところで,従来,条件表現は,伝統的に「仮定条件j, 確定条件Jといった 分類がなされることが多かった o 本稿で問題にするのは,次の( 2 ) のような例は, r , 確定条件」のいずれとも認められにくいが,その理由 典型的な「仮定条件j は何かということと,また,特に,典型的な「仮定条件」とは,どのような関 係にあるか,といったことである。 ( 2 ) a . この橋は,大雨が降れば,流される。 b . あたしが,何か相談すると,ノわマはいつでも私がいって欲しいと思うと おりの返事をしてくれる o r 悪漢追放せよ J なお,ここで扱うのは,現代語の条件表現のうち,順接的なものである。特に, r r トj ,r , . . . _ , パ j,r , . . . _ , タ ラj ,r , . . . _ , ナ ラj ,r , . . . _ , カ ラJ ,r ,..._,ノデ」といった形式によっ て表されるものを,対象とした o また,個々の形式の特徴は,今回は,あまり問 題にしないこととした。 2 . いわゆる「一般条件」の従来の位置づけとその問題点 -76 ー ( 1 ) r 従来の伝統的な「仮定条件j, 確定条件」という分類において,用例( 2 )のよう ないわゆる「一般条件」が,どのように位置づけられてきたのか,といった点に ついて,概観しておくことにする。 まず,結果から示すと,大きく,次の三つの場合に分けられる o いわゆる「一般条件」は, r r 1 . 仮定条件」の側に位置している 2 . 確定条件」の側に位置している 3 .r 仮定条件j ,r 確定条件」の中聞に位置している それでは,いくつかの説について,具体的に少しみていく。 r まずt 1 . 仮定条件」である,とされているもののーっとしては,松下大三 郎1 9 2 8 がある。松下 1 9 2 8によると, は , r 現然仮定j(いわゆる「一般条件Jに相当) r 未然仮定Jとともに「仮定条件Jである,とされている f 現然仮定Jは t o その理由として, r 未然仮定Jと同様に,条件節の事態の現実世界等における成立, 不成立については述べず,実際に成立するか,しないかには係わりなく,仮に, 存在,成立する場合について表現するものである,ということが,あげられてい る。さらに, この二者は,条件節の事態を,存在,成立した, または,するものと して事実的に述べる「確定条件」と対立するものである, とされている。〈注 1~ r 次に, 2 . 確定条件」である,とされているものとしては,阪倉篤義 1 9 5 8が r 一般」と略 r 確定」である, ある。〈注 2~阪倉1958においては,いわゆる「一般条件j ( 以下, す場合もある, r 仮定j,r 確定」も向。)は r 仮定」ではなく, t とされている o しかし,その理由については,述べられていないので,よくわか らない。 r r しては,鈴木義和 1 9 8 6がある 0 < 注3 ) > 鈴木 1 9 8 6によると,いわゆる「一般」は, . 仮定条件j, 確定条件」の中間である,とされたもののーっと 最後に, 3 r 「仮定j, 確定」の両者の意味をあわせ持ち,その中間に位置するものであると されている。つまり,いわゆる「一般」は, r 既然の事実関係の集積と未然の事 態関係への予想を含むもの j(鈴木 1 9 8 6 .p 6 0 )であるというわけである。たとえ 3 ) (この家は)大雨が降ると,雨漏りがする,の場合であれば,過去において ば( 「大雨が降って雨漏りがした」ということを何度か経験し,未来においてもこの 事態の起こることを予想する,ということである。 一般条件Jがどのように位置づけられ 以上,従来の研究において,いわゆる f てきたかを,概観した。 ( 2 ) -75 ー それでは,なぜ,このように位置づけが揺れてきたのかを,少し,考えてみる ことにする。 r 仮定j ,r 確定」といったカテゴリーの規定そのものが暖昧で あったということがいえる。多くの場合, i 仮定j,r 確定Jは , i 来定j,i 既定」 まず,第一に, といったことと混同されたりしながら,漠然ととらえられてきたようである。し たがって, r 確定」とは, i 仮定」とは,といったことがはっきりしないまま,そ れぞれの例を,いずれかにあてはめようとしたために,いわゆる「一般」の位置 づけも揺れてしまったようである。また,カテゴリーについても,従来のように, 不連続に哉然とわかれるものとして捉えるのではなく,それぞれのカテゴリーの 典型的なものと,典型から外れていくものの関係,また,典型的なものは,それ ぞれどのような位置関係をもっているのか,といったことも考えていかなければ ならないであろう。〈注 4 > 二番目に,位置づけを暖昧にした理由として,いわゆる「一般」は,形態的に 「仮定」にきわめて近い場合が多い,ということが考えられる。したがって,そ の条件文が, i 仮定」であるか,それともいわゆる「一般Jであるかを判断する には,文中の要素を中心とした文法的特徴のみでは困難な場合が,しばしばある。 3 . 接続形式の意味・用法について 以下に示すように,形式の意味・用法は多様である o したがって,さまざまな 意味・用法の中には, r 二つの事態が何らかの因果関係によって結びつけられて いる」といった条件表現的な意味が希薄になったり,変容しているものも存在する。 ここで,形式の意味・用法の一部を概観しておくことにするが,意味・用法分 類は,条件表現そのものが明らかにされることと並行して進められなければなら ないので,分類は暫定的である。したがって,ここでは, i 二つの事態が何らか の因果関係によって結びつけられている」といった条件表現的なものと,その条 件表現性が希薄になっているものを,大雑把に分類するにとどめる。 1.主としてコト的内容でかかわっている a . 条件表現的用法 7. i 仮定条件的J ( 4 ) もし金賞をとれたら君に何かプレゼントしよう。「ローマ午前零時」 t 守 8uz ( 3 ) ( 5 ) あんまり親切にすると,新入生になめられるぞ。「サイゴンから来た 妻と娘」 r 〈注 5)> イ. 予定的」 ( 6 ) おう,ひと風呂浴びたら行くよ。「男はつらいよ 柴文」 ウ.いわゆる「一般条件的」 ( 7 ) トロロあおいというやつは,切って花びんにさすと非常に早くしおれ r 黄色い花J るのです。 ( 8 ) この子は私の顔さえ見れば絵を描かせたがる。 r 冷えきった街」 ( 9 ) 喉もと過ぎれば熱さを忘れる ω 自分が薬害一つだせば,夏子はどんなところにもやってきた。「愛と 死J r ω ところが少し行ったとき嘉十は,さっきの休んだところに手拭いを忘 エ. 事実〈確定)的J れてきたのに気がつきましたので,急いでひっかえしました。「鹿踊 りのはじまり J ω 良質なチョコレートですから, '28C以上でやわらかくなります。 0 Q 3 } 髪の毛が見る聞に白くなり,クシを入れると髪の毛がぼろぼろと抜け た 。 「戦火と混迷の日々」 b . 従属節の付加成分化 r . ω 淳一は,手袋をはめると,思い切って裏門へ近付いて行った r 盗み 7. 様態」 o は人のためならず」 r Q 5)泰子さんは,マキを握りしめると,夢中でへびの頭を一撃した o 戦 火と混迷の日々」 r イ. 時 」 Q 6 ) あと三十分したら,煉平が迎えにいく。 「青が散る」 m 数日たつと,花が散りはじめて,私は花吹雪というものをはじめて経 r 北国抄」 験した。 l l . 主として「コト的内容Jにはかかわらない〈注 6)> Q 8 ) 夜になって疲れてきて,窓の外を見ると,美しい月夜だった。「北国抄」 ω 大げさにいうなら,芸術的な創造衝動のようなものにね。「ヴァイキング ( 4 ) -73 ー の祭り J (2(D簡単に言ってしまえば,小乗仏教国には,たとえば, r 護国寺」などとい r 戦火と混迷の日々」 う寺名をつける発想はない。 。。ある推定によると,ー缶あたりニ合 ( 0 . 3 6リットル)弱という数字が出て いる。 それでは,分類について少し;触れておく。まず, 1とEの違いは,主節と従属 節が,主に「コト的内容」において係わりをもっているか,いないか,である。 たとえば, nの場合の「コト的内容においてあまり係わりを持たない j とは,つ ぎのようなことである。 ωを見てもわかるように,主節の事態「美しい月夜だっ た」は,従属節の事態「窓の外を見ると Jが,成立しても,しなくても,存在し ている。つまり,従属節の事態の成立,不成立に係わらず,主節の事態は成立し ており,従属節は主節に対して, r コト的レベル」より,少し外のレベルで係わっ ているのである。 I.については, aとbに大きく分けて考えた。 a . は,以下で扱う条件表現 的なものであるが,これは, r 二つの事態が何らかの因果関係によってむすびつ けられている」といった意味を持つものである。 b . は,従属節が,条件節とし て働いている,というよりむしろ,他の成分としての働きをしつつあるものであ る。ここにあげたのは, r 様態 J ,r 時」と言った意味を表すものである。「様態」 は,しばしば従属節の部分が,付帯状況を表す は , r -テJにおきかえられ, r 時」 r -した時点J等におきかえられる。 以上,形式の意味・用法のいくつかを大雑把に分類した。ここで,意味・用法 を概観したのは,形式の意味・用法と条件表現そのものは,当然のことではある が,同一ではないことを確認した上で,その形式の中心的用法である「条件表現 的なもの」を手がかりに,条件表現そのものについて,考えていく出発点とする ためである o 4 .r 仮定条件Jの諸特徴 既に少し触れたが,いわゆる「一般条件」の位置づけが揺れてきた理由として, r 仮定条件」などのカテゴリーの規定が暖 昧であったこと,また,いわゆる「一般条件」の多くは,その形態が, r 仮定条 つぎのようなことを考えた。それは, 内 4 t 司 ( 5 ) 件」にきわめて近く,文中の要素以外にも発話の状況等を考慮しなければ,意味 が決定しにくい場合もある,ということなどである。 そこで,まず,条件表現の中でも「仮定条件jの特徴について明らかにしてお くことにする。そして, i 仮定条件」を中心に,その特徴が変容すると,他のど んな条件表現へ移行しやすいか,といったことも少しみておきたいと思う。 それでは, i 仮定条件」について,その特徴をいくつかあげることによって, 少し考えてみよう。 大雑把に言うと, i 仮定条件Jとは, i ある事態が話し手の設定する世界に仮に 成立するものとして提示され,その事態と因果関係をもちながら,別のもう一つ の事態が成立することを表現するものである。Jということができる o したがっ て,その事態は,話し手の設定する仮定的世界において,仮に成立するものとし て表現されるものであるから,現実世界等における成立,不成立については不定 である。また,現実世界において実現し,さらにそれか灘認された事態は通常, 仮定設定されることはない,などといったことも言える o では,以下に,まとめて,典型的な「仮定条件」の文法的特徴をいくつかあげ ておくことにする。 ① テンス的意味は仮定的未来である 〈注 7 ' > ②基本的に,条件,帰結関係はー図的である ③描かれる事態は,通常,未実現.未確認である ④現実世界などにおける事態の成立,不成立については不定である 具体的に少し例文をあげて,①向ベ~についてみておこう。 まず,① テンス的意味は仮定的未来である,という点についてであるが, 「仮定条件」では,そこに描かれる事態は,仮定された世界に発話時以降に存在, 成立するものとして表現されているわけであるから,テンス的意味は,仮定的な 「未来」となる o 例をあげておこう。 ( 4 ) もし金賞を取れたら,君に何かプレゼントしよう。 (引の文末は, i -しよう」といった「意志のモダリティ」であり,テンス的意 味は「未来」である o また, i 仮定条件」では, i 仮定設定」のはたらきを変容さ せずに,特定の時聞をさししめす過去の「タ形」にすることは,通常,できない。 特定の「過去」といった時に存在,成立した事態は,しばしば確認された事態で ( 6 ) -71ー i 仮定設定」されにくい。(③を参照)それを「タ形」にした場合は i 僕は, 昨日宿題を忘れた」のような通常の「過去を表すタ」の意味ではなく, ( 4 ) のように「反実 あ り , t 仮想Jのモダリティを帯びることによって変容した「タ Jの意味となる。〈注 8)> ( 4 ) '金賞をとれたら,君に何かプレゼントした(のに)。 次に,②条件,帰結関係が一目的である,という点についてであるが,条件, 帰結関係均三繰り返されるものとして表現されると, i 法則性J ,i 一般性Jといっ たものを帯びてくる。典型的な「仮定条件Jの場合は,話し手が,ある事態を仮 に成立するものとして,発話時以降の仮泊守世界のある時点に設定するものであっ たo しかし,二つの事態が繰り返されると,その結びつき全体を, i 法則的 J , 「一般的Jなものとして捉えて表現することになる。 ( 5 ) あんまり親切にすると,新入生になめられるぞ。 ( 5 )I 親切にすると,いつも新入生になめられる。 次に,③描かれている事態が未実現,未確認の事態である,という点につい てである。たとえば,次例2 2)のように,そこに描かれている事態が,具体的な 過去の時点に存在,成立し,それが確認されたものである場合は, i 仮定設定J されることは,通常,ない。 ( 22 ) 昨日,紀伊半島に台風 1 0 号が上陸した。 多数の家屋が浸水した o また,特に,条件節の事態が「事実的」であると確認された場合, i 仮定性j は変容する。 最後に,④現実世界等における事態の成立,不成立については不定である, という点についてである o すでに何度か述べたように,典型的な「仮定条件」は, ある事態が話し手の設定する仮定的世界において,存在,成立するものとして表 現されるものである。したがって,基本的には,現実世界等において,事態が存 在するか, しないか,といったことについては述べていない。 ( 4 ) もし金賞をとれたら,君に何かプレゼントしよう。 この場合も,実際に「金賞をとれる/とれない」といったことについては,述 。 、 べていな L 以上,① ④の「仮定条件」の特徴について,簡単にみてきたわけであるが, ① ④のそれぞれは,互いに関連しあって存在しているものである。典型的な 「仮定条件文」とは,これらの文法的特徴をそなえたものであるが, このような -70 ー ( η 特徴をそなえて「仮定条件Jとして,その文が認められるためには,文脈,発話 の状況などといったことも,しばしば関係してくる。 ところで, これらの特徴を,痩失,または,変容すると,典劉旬な「仮定条件J は,典型からはずれ,さらには, r 事実的条件j ,いわゆる「一般条件」などといっ たものに移行していくようである。 それでは,特徴の変容と,他の条件表現化について,次の 5 . で少しみておく ことにする。 5 .r 仮定条件」の特徴の変容 既に述べたように,典型的な「仮定条件Jは,ある事態が,存在,成立するこ とを,発話時において設定するものである。したがって,典型的な「仮定条件」 は,① テンス的意味は仮定的未来,②一回的な条件,帰結関係,③描かれ る事態は未実現,未確認,④現実世界等における事態の成立,不成立の不定性, といった文法的特徴をもっている o ( 1 ) r 仮定条件」の特徴の変容と,いわゆる「一般条件」化 それでは, r 仮定条件」の特徴が変容し, r 一般条件」イヒする場合の一例につ いて,みていくことにする。 そのまえに,いわゆる「一般条件」を,ごく大雑把に捉えておくと, i 従属 節の事態が成立すると,特定の具体的な時を超えて,主節の事態も成立すると いうように,二つの事態が,一般的,法則的に関係づけられるものである。」 ということになる。 したがって,いわゆる「一般条件」化にかかわる「仮定条件Jの特徴として は,①,②が特に,関係、がある。そこで,特徴①,②が,文中の様々な要索の 付加や変化によって変容し,いわゆる「一般条件J化する場合について,具体 的にいくつかみてみよう。 ① 「テンス的意味は仮定的未来」が変容する場合。 テンス的意味に係わる文中の要素としては,テンス形式「ル形・タ形」の ほかに, i 時の副詞j ,i 主文末のモダリティ j ,i 総称的主語」などがある。 こういった要紫の付加,変化を一つの要因として,主文末のテンス的意味が, ( 8 ) -69 ー 「仮定的未来」から「テンスレス j ,i 広げられた現在(過去) jへと変容する。 それによって, i 仮定条件性」が変容し,いわゆる「一般条件 J化する。以 下で,具体的に少しみておく。 。 イ. i 主文末のモダリティ」 3 ) 緊猿し;過ぎると,失敗するものです o ( 2 4 ) スランプを乗り越えたら,前よりもうんと進歩しているものだ o i 背 が散る」 ( 25 ) 怖い映画を見ると,必ずといっていいほど夢を見たものである。「ヒッ チコック J i ルモノダ」は, i 一般通念,常識Jといった意味を表す。 i -タモノダ」が, i 回想」といった意味を表す。このような,モ ( 2 3 )( 2 4 )の , ( 2 5 )は , i テンスレス j, i 広げられ i 仮定的未来Jとは,なりにくい。 ダリティに包まれた文のテ Yス的意味は,通常, た現在j ,r 広げられた過去」となり, 時の副詞J ロ. i t l 6 ) 最近,稔は苑枝の顔を見ると,嬉しそうな微笑を浮かべる。 ( 2 カ当時,金がなくなると,ふっとこの底のことを思い出した o ( 2i j ¥( 2 乃の下線部の副調は,それぞれ「現在Jまたは「過去」の一定の期 間を表す o それによって,テンス的意味は, i 仮定的未来Jを表しにくくなっ ている。 ハ. i 総称的主語J ( 7 ) トロロあおいというやつは,切って花びんにさすと非常に早くしおれ るのです o ( 2 8 ) 骨肉の情愛というものは,一度その道を曲げられると,恐ろしい憎悪 に変わってしまう o r 鹿鳴館」 ( 29)水は百度になると沸騰する 下線部の,これらの主語は,個別的な事物ではなく,その種全体などを一 般的にさす「総称的Jなものである。たとえば, ( 7 )であれば,その文は, 「トロロあおい」という植物の性質について述べるものである o このように, 「総称的主語」に立つものの,属性,性質などを規定する文になると,それ -68 ー ( 9 ) は,特定的な時聞に存在する事態の叙述ではないから,文末のテンス的意味 は「テンスレス Jとなりやすい。しかしながら, i 総称的な主語」をもっ条 件文であれば,必ず,その文のテンス的意味が, i テンスレス Jになるとい うわけではない。 i 主語」に限らず,文中の成分の語義的な意味の, i 特定性j,r 一般 また, 性」によっても,文末の「テンス的意味」が,影響を受けると恩われる場合 がある。 。。男は美人を見れば,うっとりする o l 3 0 ),男は夏子を見れば,うっとりする o 下線部の, r 美人」と「夏子Jを比べた場合,たとえ「夏子」が「美人J の一人であったとしても,通常, 了解されるのは, i 男がうっとりする対象」として, 自然に i 美人Jの方である。従って,倒'よ咲3伽方が, r 男一般」 の「性質(傾向 ) jを表しているものであると理解されやすい。このように, 文中の成分の語競的な意味の特徴が,我々の社会通念,常識と言ったものと 関連して,その文の「テンス的」意味に係わってくることがある。 ② 「一回的な条件,帰結関係 j,が変容する場合。 条件,帰結関係が一回的である,といったことに変容をあたえる文中の要 i 頻度の副調j,r 複数の主語」などがある o こうした要素の付 加,変化を一つの要因として,条件,帰結関係が, i:繰り返し性Jを帯びて 素としては, くる。 r イ. 頻度の副詞」 ~1) 私はいつもこうなのだ。むしゃくしゃしてくると,私は毎度,母をい i 虹J じめるのだ。 ( 3 2 ) 緊張し過ぎると,よく貧血を起こすのよ。 r ヴァージン・ロード J ( 3 3 ) 子供の頃,私は動物園の園長になりたかった o 今でも,仕事で海外に 出て,飛行機の乗り継ぎなどで時聞が余ると,たいがい土地の動物園 i サイゴンからきた妻と娘」 に車を飛ばす o ( 2 ) あたしがなにか相談すると,パパはいつでも,あたしがいってほしい と思うとおりの返事をしてくれる o r r r 悪漢追跡せよ」 r 以上は,それぞれ「毎度j, よく j, たいがい j, いつでも」といった ( 1 0 ) -67- 「頻度の副詞Jを含む。こういった「副調」を含むことによって,二つの事 態の関係は,一回的でなく,繰り返し的に成立するといった意味を帯びてく る 。 ロ. r 主語(ガ格)の複数化」 ( 3 4 ) みんなが僕にあうと,それを言うよ。 r 銀河鉄道の夜J r ~5) あそこへいくと,知らんまにみんな路舵になってしまう o 青が散る」 ( 3 6 ) 男たちは,慣れると必ず自分の子供のことを話したがる。 r 声」 @乃食いつめて転がりこんだ連中は,何かの拍子で金や仕事が手に入ると, ふらりと姿をけしてしまう。 r サイゴンの一番長い日 J イ.では,おもに同一主体によって,二つの事態が繰り返されるものであっ たo ロ.の場合は,ある集合 < r みんな j ,r 男たちム r . . . . . .連中 Jなど)に 属する別々の主体によって,条件,帰結関係が繰り返されるものである。 以上,主として,文中の要素の変化や付カ日を一つの要因として, r 仮定条 件Jの文法的特徴が変容し,いわゆる「一般条件」化する場合のいくつかに ついて,みておいた。 ところで,すでに少し触れたように,いわゆる「一般条件」の多くは, r ぞれしめすような要素がない場合には,一文のみでは, r 仮定条件」と「一 「仮定条件」と形態的に近く,文中に「仮定条件性j , 一般条件性」をそれ 般条件」の区別がつきにくいことがある o たとえば,次にあげる例は,どち らであるかわかりにくいであろう。 @砂金を払えば出国できる。 。 ( 3 9 ) どぎつい実例を二,三ならべれば,それだけ原稿のパンチも効く。 0 ) 田舎なら,塩とヌクマムさえあれば,そうお金がなくても暮らせる。 このような場合は,文脈や,発話の状況なども考慮しなければ意味が決ま りにくい。 ここでは, r 文脈」が, r 仮定条件性j,r 一般条件性Jの決定に係わってい る場合についての例をあげておく。 r イ. 文脈」 ( 4 1 ) ソラマメに似た木の実があった。熟すと、青い実の皮が黒くなり、中 -66- ( 11) r 戦火と混迷の日々 J に白い果肉が固まる o ( 4 2 ) 子供の頃,よく縁日で釣ったことがある o 口に針を引っかけて暴れる 奴を首尾よく引っぱり出せば,コイや金魚ととりかえてくれる。「サ イゴンから来た妻と娘」 それぞれ,ともに直前の文を受けて, ( 4 2 ) では, やりとりよ臼 O では, r 子供の頃の縁日一般での i ソラマメという植物の性質Jといったものを表現す る文であると理解されや寸い。 以上, i 仮定条件」の特徴の変容によって,いわゆる「一般条件」化する 場合のいくつかをみた。 ( 2 ) i 仮定条件」の特徴の変容と, i 事実的条件(確定条件 ) J化 次に, i 仮定条件」のどういった特徴が変容した場合, i 事実的条件」化する かといったことについてみておくことにする。 その前に, i 事実的条件」を,ごく大雑把に捉えておくと, i 従属節の事態杭 主節の事態の原因,理由として事実的に表現されるものである o 特に,通常, 従属節の事態の,現実世界等における存在,成立については,成立するもの, または,しないもの,として,事実的に表現されている」ということになる。 したがって, i 事実的条件J化に係わる「仮定条件」の特徴としては,特に, ③描かれる事態は未実現,未確認,④現実世界等における事態の成立,不 i 仮定条件」と同ーの 形式で表現されていながら,特に,条件節の事態が. r 事実性 Jを帯びつつあ 成立の不定性,といったことが,関係ある。ここでは, るものの,帯びているものについて,少しみておくことにする o 通常, i 仮定条件Jであると理解される文の,条件節の事態が「事実性」を 帯びる場合としては,その事態が, r 過去,または,現在に,既定的,具体的 に存在,成立した事態であると確認されたものJである,といったニュアンス を,何らかの状況で帯びる場合がほとんどである o その例として,イ. i 発話 の場面と内容との同時性J ,ロ. i 指示語による既定性」の二つを,あげておく。 発話の場面と内容との同時性」 イ. i ( 4 3 ) お嬢さんでなくなったときの夏子を考えたら,俺は哀しくなるなァ。 「青が散る」 F同 u a u ( 12 ) 。のとにかく貝谷の心中を思うと,俺は涙がでるなァ。 i 11 j 白砂さすがは安斎やぞォ。強い相手と戦わせると,実力がはっきり出てくる i なァ。 1 1 j ( 4 的おまえにそんなふうに泣かれると,ノむマも悲しくなっちゃうじゃないか。 「バンコクの妻と娘」 制ベ~6) は,その条件文中に描かれている事態(この場合は条件節,帰結節 i 未実現,未確認の事態Jではない。発話時と同時,または,直 前に,その場面に存在,成立している事態である。与のを例にとると, i お嬢さ んでなくなったときの夏子を考えたら Jという条件節の事態は,発話時の話し 手の心的動作を表現しており, i 俺は悲しくなるなァ。」といった主節の事態も ともに)は, 同様に発話時の話し手の心情であると,理解される 0 ( 44 )(45)μ6 ゆ場合も同じ ように,条件節の事態は,発話時に自の前で,存在,成立していることなどで あり, ロ. r 仮定性」は希薄化し, r 事実的条件」化していると言える。 r 指示語による既定性J ( 4 7 ) r 北ベトナムの再建は,急ピッチで進んでいると聞くが」とたずねると, 「あれだけ B52 の爆撃でやられれば,都市の再建には何年もかかる。J ~8)í危ない。主主主ところ走ったら,うしろから狙い射ちにされるじゃない の 。 」 これらも,イ.とほぼ同様に,条件節の事態が「既定的,具体的に実現した と確認されたJ解釈されるものである。 以上,ごく,簡単にではあるが, i 仮定条件」の特徴が変容し,同韻詩句条件J 化する場合の例をみた。 6 . おわりに いわゆる「一般条件Jは,従来の,伝統的な,条件表現のカテゴリーである r 「仮定j, 確定Jの典型には,入れにくいものとして問題になってきた。 r i 仮定j, 確定Jの対立を,奥田 1 9 8 7等にしたがって, 「仮定的j,r 事実的」と呼ぶことにした o それは, r 仮定j,i 確定Jは,時間的な 関係を表すニュアンスの強い「未定j ,i 既定」といったものと混同される恐れが ところで,本稿では, あるからである。もちろん, r 仮定的Jと「事実的Jは , r 未定j,r . 既 定Jといっ -64- ( 1 3 ) たことと無関係ではない。しか.しながら,むしろ, i 仮定的J ,i 事実的 J .はその 事態がどのような世界のものとして叙述されているのか,という「世界の捉え方 の対立」といった側面から,分類したい。つまり, する世界における事態の関係の叙述」であり, i 仮定的」は, i 話し手の設定 r 事実的」は, r:現実世界等におけ る事実的な事態の関係の叙述」であるといった,対立として,基本的に,捉えた いと思う。 それでは,すでに, 4 .5 . などで述べてきたことを,簡単にまとめて,いわ ゆる「一般条件Jの位置づけを, r 仮定条件Jとの関係で,行っておきたいと思 つ 。 「仮定」と「一般Jのそれぞれの典型の共通点は,ともに,既定的かっ特定的 な事実であると確認された事態をはじめとする, 的な事態」の関係の叙述ではなく, i 存在,成立が確認された事実 i 条件節の事態の現実世界などにおける成立, 不成立について不定であるもの Jの叙述である,ということである o 一方,差異としては, i 仮定」が,未実現,未確認の特定的な事態を,話し手 が発話時以降の仮定的未来に設定することによって, i 未来Jといったテンス的 i 一般」は,二つの事態の関係が個別的な関 係をこえて,法則的,繰り返し的に表現されるものであることによって, i テン スレス J ,i 広げられた現在(過去) Jといったテンス的意味を持つものであった o 意味を持つものであったのに対し, したがって, i 仮定」と「一般」の差異は,テンス的意味が「仮定的未来」とな るか,非個別的,一般的時を表す「テンスレス」等になるか,といった点である o すなわち,いわゆる「一般条件」の典型的なものは, どのように位置づけられるかというと, r r 仮定条件」に対して, r 不定性」において共通し,テンス的意 味に現れるような「特定性J , 一般性」といった点で,異なっているといえる。 注 注1 松下19~ p . 5 3 5~536 注2 阪倉 1 9 5 8 , p . 1 0 7参照。 注3 対象は接続助詞「と Jである o 注4 参照。 r プロトタイプ論」といった考え方に基本的にしたがっている o 注5 高橋 1 9 8 7 c,書照。 注6 高橋 1 9 8 3 ,参照。高橋の「内的な関係」と「外的な関係Jのうち, r:外的な関係J au ( 1 4 ) 。 円 にほぼ相当する。 r 未来」と言っても,言い切り,終止の「ル形」が,基本的に表す意味からは, 注7 「条件節」を含むことによって,ずれていると考えられる。 注8 高橋1 9 邸 , 重 量 照 。 例文の出典は次のとおりです。 近藤紘一 「サイゴンから来た妻と娘」 文春文庫 " r 戦火と混迷の日々 J 1 1 " 「バンコクの襲と娘」 1 1 仁木悦子 「悪漢追跡せよ J r 赤と自の賭け」所収 講談社文庫 r 粘土の犬」所収 " 「黄色い花J " 「冷えきった街」 " 1 1 原田泰子 「北国抄」 角川文庫 筈見有弘 「ヒッチコック」 講談社現代新書 「宵が散る」 文春文庫 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜J 新潮文庫 赤川次郎 「ずァージン・ロード J 田辺聖子 「虹J 講談社文庫 瀬戸内晴美 r うたかた」所収 「 声J r 幸福J所収 武者小路実篤 「愛と死j 新潮文庫 輝 宮本 1 1 " 参考文献 松下大三郎 1 9 2 8 『改撰標準日本文法J 賢 1 9 5 1 『現代語の助調・助動調』 永野 章 三上 1 9 5 3 『現代語法序説』 砂 三尾 " 1 9 5 8 『話しことばの文法』 法政大学出版局 3 「国語学J3 阪倉篤義 1 9 5 8 「条件表現の変遷」 宮島達夫 講座現代語J6 1 9 6 4 「パとトとタラ Jr 山口尭二 1 9 6 9 「現代語の仮定条件法J 1 1 鈴木重幸 " 1 9 8 0 秀英出版 万江書院(復刊くろしお出版) 『続・現代語法序説』 /1 中文館(復刊勉誠社) r 古代接続法の研究』 明治書院 2 月増刊号 「月刊文法J1 明治書院 1 9 7 2 『日本語文法・形態論』 むぎ書房 言語の研究』 1 9 7 9 「現代日本語の動詞のテンス J r -62- むぎ書房 ( 1 5 ) 惇 1 9 7 3 久野 南不二男 1 9 7 4 r 日本文法研究』 r 現代日本語の構造』 大修館書庖 1 1 r 幼児語の形態論的な分析』 秀英出版 1 9 8 3 r 動詞の条件形の後置詞化J問。用語の研究』 明治書院 1 9 8 5 r 現代日本語動詞のアスペクトとテンス』 秀英出版 1 9 8 7 a b c r 動詞」そのしその 2 . その 3 r 教育国語」邸. 8 9 .9 0 高橋太郎 1 9 7 5 1 1 r 接続助詞「と」の用法と機能:(1) J 1 9 7 9 ar 発見の「と J J 東外大「日本語学校論集」 1 9 7 9 br 接続助詞「と」の用法と機能( 3 ) J 東外大「日本語学校論集J 豊田豊子 1 9 7 8 1 9 8 2 .1 9 8 3 1 1 r 1 1 r 日本語教育J 3 6 J( 4 ) .( 5 ) r J9. 1 0 1 1 森田良行 1 9 8 0 r r と,ば,たら,なら」の用法の調査とその結果J r 日本語教育J5 6 r 基礎日本語』 角川書底 毛利可信 1 9 8 0 r 英語の語用論』 大修館書庖 r 明治密院 1 9 8 5 仁田義雄 1 鎚 o 語最論的統語論』 r 「文の骨組J 応用言語学講座J1 11 1 9 邸 1 1 1 9 8 6 .r現象描写文をめぐって」 1 9 8 7 寺村秀夫 1 9 8 1 1 9 8 4 r 条件づけとその周辺」 r 日本語の文法』下 大蔵省印刷局 r 日本語のシンタクスと意味Jn くろしお出版 r" r ト,テ,タラについて」 1 9 邸 r r てJ ,r 連用形J ,r と. Jの分布」 錦5 abc r 条件づけを表現する 言語学研究会構文論 1 松田開史 1 1 1 9 8 4 , グループ 1 9 8 6 柴谷方良 1 9 8 5 " 「日本語学J5-2 っきそい・あわせ文(1)吋4 ) J r 主語プロトタイプ論」 J6-9 「大谷女子大国文J1 4 r 1 1 J 「教育国語J 8 1 .8 2 ,8 3 .8 4 「日本語学J4-10 北大「国語国文研究J4-10 野村真木夫 1 9 , 邸 「日本語総称文の語用論的考察」 茂 1 9 邸 『日常言語の推論』認知科学選書 2 東大出版会 r 接続助調「と」の用法と意味」 r 条件づけを表現するっきそい・あわせ文 3 神大「国文論叢J1 坂原 鈴木義和 1 9 8 6 奥田靖雄 1 9 8 6 その体系性をめぐって J 益岡隆志 1 9 8 7 a u ( 1 6 ) r プロトタイプ論の必要性J 「教育国語J8 7 「言語J16-12
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