(様式4) 平成25年度研究実績報告書(研究助成) 平成 26 年 公益財団法人 長岡技術科学大学技術開発教育研究振興会理事長 4 月 2 日 殿 所属機関 木更津工業高等専門学校 職名(所属) 氏名 助教 (機械工学科) 小川登志男 1.研究課題名 Ni-Ti超弾性合金の水素脆化特性に及ぼす水素の存在状態の影響 2.研究成果 1) 背景 Ni-Ti超弾性合金は、口腔内という特殊な環境下で歯列矯正用ワイヤーや歯根治療用器具として用いられている。一方で、口腔内で使用中のNi-Ti超弾性合 金が突然破折するという事例が従来報告されている。その破折原因の1つとして、歯磨き粉や歯面塗布剤に含まれているフッ化物の影響による水素脆化が考え られている。しかしながら、Ni-Ti超弾性合金がフッ化物含有環境下で水素脆化を起こすことは知られているものの、その水素脆化機構については更なる調査 が必要である。そこで本研究では、Ni-Ti超弾性合金がフッ化物含有環境下で吸収した水素の存在状態に着目し、水素の存在状態と水素脆化特性との関係につ いて調査した。 2) 実験方法 試料には直径0.50 mmのNi-Ti超弾性合金線を用いた。溶液にはpH 5.0、容量50 mlの0.2% APF溶液 (実際に臨床で歯面塗布剤として使用されている溶液) を 用いた。50 mmの長さに切り出した試料を室温で試験溶液に一定時間浸漬させた後、試験溶液から試料を取り出した。浸漬後の試料を室温にて大気中に放置 し、一定時間時効させて試料中の水素の存在状態を変化させた後、各種試験・解析を行った。 3) 実験結果 Figure 1にas-polished 材、浸漬まま材および240時間室温時効材の応力-ひずみ曲線を示す。as-polished材に比べて、浸漬まま材の引張強度は著しく低下 した。一方、浸漬後に240時間室温にて時効させると、引張強度がas-polished材と同等まで回復した。この実験結果は、水素吸収したNi-Ti超弾性合金を室温 で時効させることで、水素脆化を回避出来ることを示唆している。また、破面観察の結果、浸漬まま材は断面減少を伴わない脆性破面を示したのに対し、240 時間室温時効材はas-polished材と同様に断面減少を伴った延性破面を示した。室温時効による引張強度の回復は、時効中の水素化物の分解及び試料表層から の水素濃度分布の変化に起因していると考えられた。 これらの研究成果は、Ni-Ti超弾性合金の水素脆化特性が、合金中の水素の存在状態によって大きく変化することを示すものであり、生体材料としてのNiTi超弾性合金の材料設計において極めて重要な知見である。今後は、本研究の遂行により得られた成果をまとめて、学会発表および学術雑誌への論文投稿を 予定している。 (a) 1400 (b) 1400 1200 800 600 Stress (MPa) Stress (MPa) 1000 1000 800 600 1000 800 600 400 400 400 200 200 200 0 0 0 0 5 10 15 20 Strain (%) 25 30 (c) 1400 1200 1200 Stress (MPa) 1600 1600 1600 0 5 10 15 20 Strain (%) 25 30 0 5 Figure 1 応力-ひずみ曲線 (a) as-polished材、(b) 浸漬まま材、(c) 240時間室温時効材 3.助成金使用内訳(助成額 備品費 消耗品費 旅費 7,560円 103,640円 0円 その他の経費 88,800円 200,000 円) 10 15 20 Strain (%) 25 30
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