二相ステンレス鋼の静的引張特性 と中性子線・放射光実験 - SPring-8

第10回 SPring-8 金属材料評価研究会
2015.2.6 研究社英語センタービル
二相ステンレス鋼の静的引張特性
と中性子線・放射光実験
兵庫県立大学 大学院 土田紀之
姫路市「しろまるひめ」
True stress or work-hardening rate (MPa)
鉄鋼材料の「高強度化」と「省資源化」
3500
Plots: Measured
Lines: Calculated
3000
2500
2000
1500
1000
500
296 K, 3.3x10-5 s-1
0
0
0.05
0.1
0.15
True strain
予測計算
0.2
0.25
X線・中性子線回折実験
試料の準備
引張試験
各検討項目のリンク+産学・学学連携
応力-ひずみ曲線
組織
強化機構
真応力-ひずみ曲線
(破断直前まで)
応力 (MPa)
公称応力-ひずみ曲線
引張強さ
温度
ひずみ速度
予測計算
降伏応力
(0.2%耐力)
均一伸び
全伸び
0.2%
さらに優れた特性
変形挙動の解明
材料設計・開発
ひずみ
二相ステンレス鋼
• オーステナイト(γ)とフェライト(α)が約1:1の二相組織
• 優れた耐腐食性,強度特性
• 化学プラント,ガス輸送ラインパイプ,海上プラット
フォーム
1. 汎用二相ステンレス鋼
2. スーパー二相ステンレス鋼
3. 省資源型二相ステンレス鋼
高強度化
変形挙動の中身に関する検討
(優れた機械的特性,強度-延性バランスの理由)
真応力(σ)
二相鋼の引張変形挙動
硬質相(Hard-phase)
B
各相(γ相, α相)の変形挙動
「不均一変形挙動」
が重要な鍵
粒応力
相応力
T
二相(Dual-phase)
放射線
(放射光・中性子線)
A
粒応力
軟質相(Soft-phase)
B’
II
 res
相応力
T’
硬質相は「引張」
真ひずみ(ε)
粒応力 同じ相における結晶
粒間の変形差
I
 res
A’
相間(γとα)の不均一
変形差
軟質相は「圧縮」
目
的
1. 省資源型二相ステンレス鋼の静的引張特性を
調査し,
2. 放射光実験とその場中性子回折実験により,
二相ステンレス鋼の引張特性と加工硬化挙動
を相間,結晶粒間の不均一変形の観点より考
察する.
1. オーステナイト相とフェライト相の変形
不均一変形
挙動の違い(相応力)
応力分配
2. 各相における結晶粒群の変形挙動の違い
(粒応力)
組織形態
各相の体積率,化学成分および結晶粒径
実験方法
Table S32101とSUS329J4Lの化学成分 (mass%).
C
Si
Mn
P
S
Ni
Cr
Mo
Cu
N
S32101 0.022 0.57
4.96 0.022 0.0004 1.51 21.22 0.33
0.23 0.217
329J4L 0.018 0.49
0.69 0.028 0.0005 6.95 24.88 3.04
0.17 0.133
(S31260)
熱延前加熱:1180℃, 3.6ks
熱延:168mm → 5mm, 550℃巻き取り
熱延板焼鈍:1050℃, 30s
冷間圧延,冷延板焼鈍:1050℃, 30s
(S32101: 3mm, SUS329J4L: 2mm)
実験方法
1. 組織
・光学顕微鏡観察
・X線回折実験 (変形前・後の体積率計算)
2. 静的引張試験
・ギア駆動式引張試験機
・平行部幅5 mm,平行部長さ25 mm
・296 K, 3.3x10-4 s-1
・破断まで,ひずみを加えた試験片(白色X線用)
10
15
5
25
R5
55
実験方法
3. 不均一変形挙動
10
5
【白色X線回折実験】
・SPring-8 BL14B1
・エネルギー分散法 (2θ=10˚)
・予めひずみを加えた試験片
を数本ずつ準備し,回折実
験を行った.
Intensity (ct)
(220)
(400)
10
S32101変形前
(310)
(222) (321)
4
(420)
10
3
10
2
(200)
40
60
80
100
120
140
Diffraction energy, E (keV)
【その場中性子回折実験】
・日本原子力研究開発機構 RESA
・角度分散法 (波長:1.9Å)
・引張変形(~10-4 s-1)を加え,
各[hkl]結晶粒群の回折プロファイルを測定した
・γ(111),γ(200),γ(311), α(110), α(200), α(211)
白色X線・中性子回折と「格子ひずみ」
格子ひずみ εhkl : 回折面の法線方向の垂直ひずみ
(a) 特性X線(λ), 中性子線
回折面法線
(b) 連続X線(λ1…..λn), 白色X線
λ
λ2
2θ3
2θ
λ1
2θ2
λ3
格子面間隔 d
 hkl
0
 Ehkl
d d  d 0 Ehkl



d0
d0
Ehkl
2θ1
組織観察
(a) S32101
(b) SUS329J4L
ND
ND
TD
RD
TD
RD
30 μm
30 μm
S32101
SUS329J4L
平均結晶粒径
6.4 μm
4.2 μm
体積率 (γ:α)
51:49
39:61
応力-ひずみ曲線
(a) 公称応力-ひずみ曲線
(b) 真応力-ひずみ曲線,加工硬化率
(a)
SUS329J4L
S32101
800
Nominal stress (MPa)
True stress or work-hardening rate (MPa)
1000
600
400
200
Tensile properties
S32101
329J4L
σ0.2 (MPa)
553
620
σB (MPa)
812
856
εU (%)
33.5
24.8
δ (%)
0
0
0.1
0.2
60.4
296
0.3
-4 -1
37.3 s
K, 3.3x10
0.4
Nominal strain
0.5
0.6
0.7
3000
(b)
2500
2000
S32101
1500
SUS329J4L
1000
500
296 K, 3.3x10-4 s-1
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
True strain
S32101鋼は均一伸びが優れており,
それは高い加工硬化率と関係している
0.25
0.3
S32101とSUS329J4Lの機械的特性
S32101
SUS329J4L
0.2% proof
stress (MPa)
553
<
620
Tensile strength
(MPa)
812
<
856
Uniform
elongation (%)
33.5
<
24.8
Elongation (%)
60.4
<
37.3
強度は329J4L,伸びはS32101の方が優れていた
引張強さと均一伸びの関係
100
10,000
30,000
50,000
Uniform elongation (%)
80
引張強さと均一伸び
の関係(=強度-延性バ
ランス)で見ると,
S32101はSUS329J4L
よりも良く,安定
オーステナイト鋼
(SUS310S) 並 み の 強
度-延性バランスだと
言える
70,000
Fe-30Mn(TWIP)
SUS301L
SUS304
SUS316L
60
SUS310S(50m)
40
High N steel
SUS430
20
0
S32101
SUS310S(1.5m)
SUS329J4L
SUS329J1
0
200
400
600
800
Tensile strength (MPa)
1000
1200
白色X線(放射光)実験
SPring-8(BL14B1)を用いて予めひずみを加えたS32101鋼
とSUS329J4L鋼の「残留格子ひずみ」を測定した.
試験片
BL14B1外観
拡大
予めひずみを加えた試験
片を数本ずつ準備し,そ
れらを写真のように設置
し,回折実験を行った.
25
15
5
10
R5
55
t3
その場中性子回折実験
RESA (日本原子力開発機構)
引張試験機
角度分散法
検出器
2θ
反射ビーム
波長
測定面
1.9Å
γ(111),γ(200),γ(311)
入射ビーム
α(110), α(200), α(211)
引張変形を加え,各[hkl]結晶粒群の回折プロファイルを得た
二相鋼の応力-ひずみ関係と「不均一変形」
真応力(σ)
(各相・各結晶粒の変形)
Hard-phase
B
粒応力
【その場中性子回折実験】
相応力
T
変形中の各結晶粒の強度が
「格子ひずみ」として示される
Dual-phase
A
粒応力
→ 粒応力
【白色X線回折実験】
変形途中で除荷した時の各相の残留応力は,
Soft-phase
「残留格子ひずみ」として示される
B’
→ 粒応力,相応力
II
 res
T’
硬質相は「引張」
I
 res
A’
相間(γとα)の不均一変
形差
相応力
真ひずみ(ε)
粒応力 同 じ 相 に お け る 結 晶
粒間の変形差
軟質相は「圧縮」
1. どちらが硬質相か?~残留格子ひずみ
γ (austenite)
α (ferrite)
0.002
(b) S32101  phase
(a) S32101 phase
0.0015
S32101
SUS329J4L
(S31260)
Residual Lattice plane strain
0.001
0.0005
引張(硬質)
0
-0.0005












圧縮(軟質)
0.002
-0.001
(c) SUS329J4L  phase
(d) SUS329J4L  phase
0.0015
0.001






0.0005
引張(硬質)
0
-0.0005
-0.001
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0
0.25
0.05
True plastic strain






0.1
0.15
圧縮(軟質)
0.2
0.25
2. 相間の応力差 ~相ひずみ
0.0015
Phase strain
(S32101)
(329J4L)
0.001
0.0005
引張(硬質相)
(S32101)
0
圧縮(軟質相)
(329J4L)
-0.0005
-0.001
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
True plastic strain
S32101は変形途中でγとαの強度が逆転している
3. 各相での結晶粒間の応力差~粒応力
0.01
(a) S32101
(b) SUS329J4L P1
P2(YS)
Solid : γ phase
Opened: α phase
0.008
Lattice plane strain
P1
P2(YS)
200
211
311
0.006
200
200
200
211
0.004
0.002
110
111
311
110
111
0
-0.002
0
100
200
300
400
500
600
Applied stress (MPa)
700
0
800
100
200
300
400
500
600
700
800
Applied stress (MPa)
P1まで
弾性変形領域 (γ, αどちらも弾性変形)
P1~P2
弾塑性変形領域 (γ, α一方が弾性,一方が塑性変形)
P2以降
塑性変形領域 (γ, αどちらも塑性変形)
3. 各相での結晶粒間の応力差~粒応力
(a) オーステナイト
(b) フェライト
0.01
(a) austenite
(b) ferrite
0.008
Lattice plane strain
200(S32101)
200(329J4L)
0.006
200(329J4L)
200(S32101)
0.004
110(329J4L)
0.002
0
-0.002
110(S32101)
111(S32101)
111(329J4L)
0
100
200
300
400
500
600
Applied stress (MPa)
700
0
800
100
200
300
400
500
600
700
800
Applied stress (MPa)
1. どちらもγ相の粒応力が大きい
2. さらにγ相の粒応力を比較すると,S32101の方が大きい
3. 格子ひずみ差=応力分配=加工硬化挙動と関係
S32101鋼の優れた均一伸びの理由
1
マクロな
応力-ひずみ関係
高い加工硬化率
変形中にγ相が硬質相になり,
α相との応力差(=相応力)も大
(相間の変形差)
きくなる
相応力
2
不均一
変形挙動 粒応力
(各相の加工硬
化挙動)
3 組織
α相よりも大きく,329J4L鋼
のγ相よりも大きい
γ相の体積率
(S32101: 51%, 329J4L: 39%)
平均結晶粒径