最重症型関節リウマチ(ムチランス型)の発症および進展に関わる遺伝子の検索 京都大学大学院医学研究科 臨床免疫学 助教 大村浩一郎 研究目的:関節リウマチ(RA)は全身関節の慢性的な炎症による関節の痛みと破壊、変形をきた す疾患であるが、ごく軽症ですむ患者から、治療に反応せず重度の関節破壊をきたす重症型の患者 までさまざまである。この重症化に関わる遺伝子を見つけることを本研究はめざした。なお、同研 究は現在進行形であり十分な結果がまだ出ていないことから、本報告書では本研究の中で得られた 結果の中で、いずれも重症化に関わるとされる HLA-DRB1 遺伝子と RA 特異抗体である抗 CCP 抗体の関係について日本人を用いた新たな知見が得られたので、それを主に報告する。 研究方法:京都大学、国立病院機構相模原病院、道後温泉病院の 3 施設において RA 患者 1897 例 から DNA の収集を行った(重症型 78 例、軽症型 64 例を含む)。それぞれの患者の遺伝子多型を 網羅的に DNA チップ(Illumina HumanHap 300)を用いて決定。重症型-軽症型間の各遺伝子多 型の頻度の差を検定するため関連解析を行った。また、HLA-DRB1 遺伝子多型のタイピングを WAKFLowⓇキットと Luminex システムにて行い、 抗 CCP 抗体の検出は MESACUPⓇCCP ELISA キットにて行った。RA と関連の見られる HLA-DRB1 には共通した配列が見られ shared epitope (SE)と呼ばれる。HLA-DRB1*0101, *0102, *0401, *0404, *0405, *0408, *0413, *0416, *1001, *1402 を SE とした。 研究結果:まず重症化に関わる遺伝子検索の途中報告であるが、重症型 RA78 例、軽症型 RA64 例を選出し、DNA チップにて遺伝子多型(SNP)タイピングを行った。不適切検体や不適切 SNP を排除した後、各群間での多型頻度の偏りを Fisher 検定により p 値を求めた。p 値の低いものか ら上位 20 SNPs を抽出すると染色体 chr1, 2, 3, 4, 8, 9, 12, 13, 19 に限られており、HLA を含 む chr6 は上位 20 位には入っていなかった。ただし、最も低い p 値でも 1.09x10-5 と 30 万 SNP を 対象にすると偶然の確率で出現する程度であり十分有意とはいえなかった。 次に重症化との関連が従来より指摘されている HLA-DR(SE)と抗 CCP 抗体の関係につ いて、200 名の抗 CCP 抗体陽性 RA 患者、122 名の抗 CCP 抗体陰性 RA 患者、570 名の健常人を用い て、抗 CCP 抗体と SE の関連を調べた。表1に示すように健常人を対象としてみた場合、SE をもつ と抗 CCP 抗体陽性 RA になるリスクは上昇(double SE で 7.1 倍、single SE で 4.9 倍)するが、抗 CCP 抗体陰性 RA になるリスクは上らない(double SE で 0.86 倍、single SE で 1.2 倍、有意差なし)。 表1 抗CCP抗体陽性、陰性RAとshared epitope (SE)との関連 Control (n=570) No (%) SE(+/+) Anti-CCP Ab(+) RA (n=200) No (%) OR (95%CI) 23 (4) 24 (12) 7.1 (3.7-13.4 ) SE(+/-) 167(29 SE(-/-) 380(67 120(60 56(28 4.9 (3.4-7.0) 1.0 Anti-CCP Ab(-) RA (n=122) No (%) OR (95%CI) 4 (3) 41(34) 77(63) 0.86(0.30-2.6) 1.2(0.80-1.8) 1.0 CCP: cyclic citrullinated peptide, OR: odds ratio, 95%CI: 95% confidence interval, SE: shared epitope また、SE が RA の重症化に関わっているかどうかを検討するために、最重症型(ムチランス型) RA と軽症型 RA の間に SE 利用率の差があるかを検討した。表2に示すように、抗 CCP 抗体陽性 RA の中では SE 利用率に有意な差は認められず、SE 自身は重症化には関わっていない可能性が示され た。 表2 Shared epitope (SE) と重症型RA、軽症型RAとの関 Control No (%) Anti-CCP Ab (+) RA mutilans mild Anti-CCP Ab (-) RA mutilans mild SE(+) 190 23 21 1 0 SE(-) 380 9 9 1 4 Mutilans; severest form of RA,having >= 3 joint s of Larsen’s X-ray grade V deformity Mild; mild form of RA staying at Steinbrocker’s X-ray stage 1 or 2 for over 10 years SE: shared epitope 考案:重症型、軽症型 RA の症例数が少ないため、重症化に関わる遺伝子検索において十分有意な p値を得られた遺伝子多型は今回みつからなかったが、今後新たな患者セットを用いて、関連が推 定される上位 SNP の検定を行っていく予定である。 また、今回得られた HLA-DRB1 (SE)と抗 CCP 抗体の関連についてはすでに Caucasian にお いて同様の報告がされているものの、欧米人においても十分なコンセンサスにいたっておらず、ま たアジア人においてはその真偽を示す報告自体がなかった。 今回我々は欧米人での報告を追認する 結果となり、さらにはここでは示さなかったが、抗 CCP 抗体陰性 RA の診断を厳密に行った上でも 同様の結果が得られたことは RA という疾患が2つの異なるサブセットからなることが明らかとな り興味深い。事実抗 CCP 抗体陽性群に重症例が多いことはこれまでにも繰り返し報告されており、 それを遺伝子的に裏付けた形である。 最後に、 貴財団からの研究助成金により本研究を成し遂げることが出来ましたことを心よ り深謝いたします。
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