福岡大学工学部 福岡大学工学部 電気機器応用研究室 電気機器応用研究室 准教授 松本洋和 による共振周波数と L2 の積,つまり I. はじめに ܴୠ ൌ ߱ܮଶ 福岡大学工学部電気機器応用研究室は 2011 年に創 で表されることを明らかにしました[1]。負荷が整流回 設され,電気機器とパワーエレクトロニクスを軸に研 路を含む直流回路で構成される場合についても,提案 究を進めています。現在は主に する解析式を使用することによってその境界を求める ・非接触給電技術の研究開発 ことができます[1]。Rb=L2 の関係は,補償器選定の際 ・モータの駆動装置の研究開発 に使用できるほか,例えば 2 次側(受電側)を直/並列 を行っています。 切換え可能な回路とし,その回路の切換え判定に使用 することで幅広い出力領域で良好な送電効率を持つ力 II. 非接触給電技術の研究 率補償装置を実現することができます[1]。 A. LC 力率補償器の検証 B. LCL-LC 補償器の提案 力率補償器は,非接触給電のコイルによる漏れイン 並列補償器にさらにインダクタ L を追加した LCL 補 ピーダンスを打ち消すための回路であり,主に送電効 償器(図 3)は,LC 補償器に比べて構造は若干複雑に 率の向上を目的として設置されます。シンプルな構成 なりますが,より高い送電効率を実現できることが知 のために良く使用されているのが,非接触トランスに られています。その理由として LCL 補償器を適用する 共振コンデンサを 1 つ接続した回路(LC 補償器)であ ことで入力インピーダンスを高くできることと,さら り,直列(series)補償器と並列(parallel) 補償器の 2 つの に負荷力率が 1 である時,LCL 補償器の入力力率も 1 回路方式があります(図 1)。図 2 はこれら 2 つの回路 にできることが挙げられます。一方,ダイオード整流 方式の送電効率の比較を示したものです。負荷の抵抗 回路を介して直流負荷が接続される時,そもそも整流 R が Rb より小さい時は直列補償器が高い効率を持ち, 回路の入力力率が 1 ではないため,理想の特性を引き 逆に大きい時は並列補償器の方が有利であることを示 しています。この様な特性は以前より知られていたの ですが,その境界である Rb がどの様な値になるかは, 実際に実験を行って確認しなければなりませんでした。 私達の研究の結果,図 1 の様な抵抗負荷の場合,送電 電力に関係なく自己インダクタンス L2 と補償器の C2 図1 図2 LC 共振を利用した力率補償器: (a)並列補償器と(b)直列補償器 LC 共振補償器の送電効率 図3 LCL 補償器 図4 LCL-LC 補償器 図5 1 LCL 補償器と LCL-LC 補償器の効率比較 福岡大学工学部 図6 三相非接触トランスの等価回路図 図7 等価変換した三相非接触トランスの回路図 図8 平面形三相非接触トランス 図9 円形三相非接触トランス 電気機器応用研究室 出せなくなる欠点がありました。私達は LCL 補償器に LC フィルタを接続した LCL-LC 補償器(図 4)を提案 し[2],直流負荷に接続された場合でも,力率の低下を 最小限に抑えることに成功しています。さらに LCL-LC 補償器は,LC フィルタが有する高調波低減効果のため にピーク電流を抑制でき,非接触トランスに電力を供 給するインバータの損失低減も可能です。図 5 は,図 3 と図 4 のそれぞれ回路におけるインバータを含む送 電効率の実験結果を示したものです。LCL-LC 補償器は LCL 補償器より高い効率を示していることが分かりま り,解析がより容易になりました。特に,力率補償器 す。また横軸は,ギャップを挟んで上下に設置した 1 で使われるコンデンサの静電容量を最適値に設定する 次側(送電側)と 2 次側コイルの水平方向の位置ずれ ことが容易になりました。 (x2=0 で位置ずれなし)を示していますが,LCL-LC 図 8 は,プリント基板を使って作成した三相非接触 補償器は位置ずれに対して効率の低下を抑制できるこ トランスです[7]。複数のコイルを並べることによって [3] とが分かります 。 受電側のポジションフリーなシステムを実現していま C. 三相非接触トランスの提案 す。従来の単相コイルを並べた場合,あるコイルは隣 従来の非接触トランスは単相コイルで構成されてい にあるコイルの磁界を弱めるため,トランスが発生す ます。一方,私達は三相のコイルで構成される三相非 る磁界の総和は小さくなってしまいます。一方,三相 接触トランスを提案し,研究開発を行っています [4]-[9] 。 トランスでは隣り合うコイルが互いに磁界を強め合う 図 6 は三相非接触トランスの等価回路を示しています。 ため,結果として単相トランスに比べて受電部の位置 三相トランスは 1 次側コイル-2 次側コイル間だけでは による送電電力の変動を抑制できる上に,良好な送電 なく,各次の相コイル間にも影響を及ぼし合う(相互 効率を持つことが確認されています[7]。 図 9 は三相コイルを円形状に配置したトランスです インダクタンスが発生する)ため,数値計算を用いず 。三相トランスの強みは,1 相当たりの電流を低減で 解析を行うことは困難でした。私達は,この回路を単 [9] 相トランスと同じ構成(図 7)に等価的に変換できる きることによる大電力送電の容易さが挙げられます。 [4]-[6] 。これにより,従来の単相 特に力率補償器内の共振電圧を,単相トランスに比べ トランスと同様に三相トランスを扱うことが可能とな て大きく低減できることは,大電力送電に有利に働き こと明らかにしました 2 福岡大学工学部 図 11 (a) 図 10 (b) 有限要素法による磁界解析:(a) 3D モデルと(b)解析結果 電気機器応用研究室 一般的な昇圧機能を付加したモータ駆動装置 図 12 大容量充電デバイス Ccp を付加したモータ駆動装置 図 13 チャージポンプ回路を使用したモータ駆動装置 ます。図の三相トランスは 2 層構造となっており,下 層のコイル配置を上層とは 180°ずらし,またコイルを 逆巻にしています。これにより,回転方向の位置ずれ 時にも安定した送電を行えることを確認しています[9]。 本研究開発は有限要素法による磁界解析(図 10)や, 回路の数値シミュレーション,等価回路を用いた理論 解析及び,トランスや駆動回路を作成して実施するパ ラメータ測定や実験などを行うことで進めています。 パ回路によって vcp に充電されることによって,電圧 III. モータの駆動装置の研究開発 vdc は vcp 分だけ昇圧されます。Ccp が安定して電圧を保 モータ駆動装置の研究開発では,主に昇圧機能を付 持できることにより,チョッパ回路はモータの瞬間的 加したモータの駆動装置の開発を行っています。図 11 な出力にとらわれず動作することができます。従って は一般的な昇圧形のモータ駆動装置の回路図になりま チョッパ回路には高い応答性は必要ありません。さら す。インバータに供給する電圧 vdc をインダクタとスイ には,チョッパ回路がモータ出力に対して平均的に電 ッチ等から構成されるチョッパ回路を使って昇圧しま 力を供給することで,駆動装置の入力電力のピークカ す。この回路は,低圧のバッテリーを電力供給源する, ットを実現できます[11]。 例えば電気自動車などのモータ駆動装置として用いら 図 13 はチョッパ回路の代わりにチャージポンプ回 れています。チョッパ回路で vdc を連続的に制御できる 路を昇圧機構として用いた回路です[13]-[15]。この回路の ことが利点ですが,モータの加減速中に vdc を一定に保 メリットの一つは,重くかさ張るインダクタを使用し つためには高い応答性が求められます。 ないことです。チャージポンプ回路の動作にはスイッ 図 12 は私達が提案するモータ駆動装置の一つであ チの状態によって 3 つの電圧レベル(vnc-vcp,vnc, vnc+vcp) り,チョッパ回路に大容量充電デバイス Ccp を追加し を出力するモードがあります。一般的にモータ駆動に た構造になっています[10]-[12]。Ccp としてバッテリーや 必要な電圧は速度とトルクが低い時は低く,逆にそれ 電気二重層キャパシタ等が考えられます。Ccp がチョッ らが高くなれば駆動電圧は高くなります。従って駆動 3 福岡大学工学部 (a) 従来のチョッパ回路を用いたモータ駆動装置 電気機器応用研究室 (b) 提案するチャージポンプ回路を用いたモータ駆動装 図 14. モータ駆動実験結果 電圧に応じてチャージポンプ回路の動作モードを切り めています。 替えればよいことになります。ここで重要なことは, 文 チャージポンプ回路が電圧 vnc+vcp を出力する時に Ccp は放電されるのですが,チャージポンプ回路が vnc-vcp を出力する際に Ccp はその放電電力分を事前に充電で きることです。つまり低速時に Ccp を充電することで, 高速時の昇圧動作に備えることができます。これを実 現するためのチャージポンプ回路の動作はインバータ と協調させて行われます。具体的には空間ベクトル変 調を基にした制御があります[13]-[14]が,より扱いが容易 なキャリア比較による PWM 方式を基にした制御法も 提案しています[15]。Ccp としては電解コンデンサも適用 できますが,バッテリーや電気二重層キャパシタも適 用できます。この場合,例えば[16]-[17]で提案しているモ ータのインダクタンスを使った Ccp の充電法を用いれ ば,一定に保たれた vcp の下でモータを駆動可能です。 図 14 は図 11 で示す従来の駆動回路と図 12 で示す私達 が提案している駆動回路によるモータの加減速運転の 実験結果を示しています。Ccp には電気二重層キャパシ タを使用しています。モータ速度 N やモータ電流 id,iq の比較により,提案回路の駆動性能は従来の回路と同 等であることが分かります。一方,提案回路の方は低 速時から高速時にかけて電圧 vdc が 3 段階に分けて上昇 していることが分かります。この様に提案回路は必要 に応じて電圧 vdc を調整できるため,インバータ内のス イッチング時のロスを低減でき,従来の駆動回路に比 べて優れたモータ駆動効率を有します[14]-[15]。 本研究開発は数値シミュレーションを行うと共に実 際に駆動回路を作成し実験で動作を検証することで進 4 献 [1] “Switched Compensator for Contactless Power Transfer System,” IEEE Trans. Power Electron. (accepted). [2]「非接触給電におけるダイオード整流器用力率補償回路」,電学論 D, 132,3,pp. 454-455 (2012). [3]「フルブリッジダイオード整流器に接続された非接触給電システムの ための力率補償器」 ,電学論 D,133,6,pp. 618-626 (2013). [4]「相間相互インダクタンスを考慮した 3 相非接触給電システム」 ,電 学論 D,130,8,pp. 1039-1040 (2010). [5]「短ギャップ 3 相非接触給電システムの位置ずれに対するロバスト 性」 ,電学論 D,130,12,pp. 1378-1379 (2013). [6] “Model for a Three-Phase Contactless Power Transfer System,” IEEE Trans. Power Electron., vol. 26, no. 9, pp. 2676-2687 (2011). [7] “Comparison of Characteristics on Planar Contactless Power Transfer Systems,” IEEE Trans. Power Electron., vol. 27, no. 6, pp. 2980-2993 (2012). [8] “Trifoliate Three-Phase Contactless Power Transformer in Case of Winding-Alignment,” IEEE Trans. Ind. Electron., vol. 61, no. 1, pp. 53-62 (2014). [9]「 二 重 構 造三 相 非 接 触 トン ラ ン ス の 提案 と 検 討」, 電学 論 D, (accepted). [10]「電気二重層キャパシタを用いた昇圧形モータドライバの提案」 ,電 学論 D,129,2,pp. 230-231 (2009). [11]「電気二重層キャパシタを用いた昇圧ドライバの実験による検証」, 電学論 D,129,11,pp. 1126-1132 (2009). [12] “Charge Strategy in Boost Motor Driver With EDLCs,” IEEE Trans. Power Electron., vol. 25, no. 9, pp. 2276-2286 (2010). [13] “A Boost Driver With an Improved Charge-Pump Circuit,” IEEE Trans. Ind. Electron., vol. 61, no. 7, pp. 3178-3191 (2014). [14]「力行運転時にも充電可能なチャージポンプ回路を有する昇圧ドラ イバ」,電学論 D,134,2,pp. 229-238 (2014). [15] “Variable-Form Carrier-Based PWM for Boost-Voltage Motor Driver With a Charge-Pump Circuit” IEEE Trans. Ind. Electron. (accepted). [16]「モータを介した EDLC 昇圧ドライバ充電法の提案」 ,電学論 D, 129,8,pp. 854-855 (2009). [17] “Charge Characteristics by Exciting-Axis Voltage Vibration Method in Boost Driver With EDLCs,” IEEE Trans. Power Electron., vol. 25, no. 8, pp. 1998-2009 (2010).
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