一般大学生における絶対音感・相対音感課題の遂行

一般大学生における絶対音感・相対音感課題の遂行
相対音感の基礎的研究への Pilot Study
細谷
周史
(帝塚山大学心理学部)
キーワード:相対音感、絶対音感
Absolute and relative pitch task performances in nonmusical undergraduate students
Norifumi HOSOYA
(Department of Psychology, Tezukayama Univ.)
Key Words: relative pitch, absolute pitch
目 的
絶対音感とは、単独の音の音高を、他の音高を比較参照す
ることなしに音楽的音高名で即座に同定することができる能
力(Takeuchi & Hulse, 1993;宮崎(2004)の引用による)を
指す。一方で、音階や調性などの音高の枠組みの中で音の高
さを相対的にとらえる能力の基礎にあるのが相対音感である
(宮崎, 2004)。相対音感のみを保持する者は、絶対音感保持
者のように絶対的な音高を同定することはできないが、基準
音を呈示されればその基準音からの相対的な音高関係をとら
え、その後呈示される任意の音高を同定できると考えられる。
本研究では音楽を専門的に学んでいない一般大学生に対し、
絶対音感および相対音感に関する課題を実施し、両課題の成
績から特に相対音感の有無の判断可能性について検討した。
両課題について、呈示音ごとの平均正答数を図 1 に示す。
RP 課題において B2・C3・D3 の正答数が AP 課題と比較して高
くなっていた。
考 察
RP 課題での成績向上は、主に基準音である C3 と同じ音高
および音高において両隣に位置する B2・D3 の同定率が高いこ
とに集約される。すなわち高 nAP・低 nAP の両群とも、基準
音と同じか極めて近い音高なら同定できるが、それ以外の音
高を同定することはできなかった。
絶対音感研究において、絶対音感非保持者と相対音感のみ
の保持者は明確に区別されないことが多い。本研究では試み
として、絶対音感非保持者であっても相対音感保持者ならば
遂行できる可能性のある課題として RP 課題を設定したが、本
研究の結果からは AP 課題と RP 課題の遂行成績から相対音感
保持者を特定する指標とはなり得なかった。展望として、本
研究で使用した課題の精査を含め、相対音感の有無を判断で
きる指標の更なる探究、およびそれが相対音感の基礎を解明
する一端となることが期待される。
方 法
実験参加者 大学生 25 名(男性 13 名、女性 12 名、平均年
齢 20.84 歳)が実験に参加した。実験参加者のうち、楽器経験
が皆無または 1 か月以下の者は 11 名であり、楽器経験のある
14 名の楽器経験年数は平均 7.95 年(範囲 3~15 年)であった。
絶対音感(AP)課題 実験参加者の眼前のスピーカーから音
を呈示し、その音の音楽的階名を回答させた。呈示する音は
引用文献
ピアノ音であり、C2~C5 の 3 オクターブ内・白鍵のみの 22
A. H. Takeuchi and S. H. Hulse (1993) Absolute pitch.
音をランダム順に単音呈示した(22 音×2 回=44 試行)。実
Psychological Bulletin, 113, 345-361.
験参加者はド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シのラベルが貼られ
宮崎謙一 (2004) 「絶対音感」はどこまで分かったか? 日本
たパソコン用キーボードの任意のキーを押して回答し、回答
音響学会誌 60(11), 682-688.
の際にはオクターブは無視した。回答の正誤についてのフィ
ードバックは与えなかった。
表 1 群ごとの AP 課題・RP 課題正答数
相対音感(RP)課題 各試行の最初に C3 のピアノ音を基準
音として呈示後に比較音を呈示し、実験参加者に比較音の階
平均正答数(SD)
楽器経験
名を回答させた。比較音の詳細および実験参加者の回答方法
AP 課題
RP 課題
n
(年)
は AP 課題と同じであった。
手続き 実験参加者をディスプレイの前に座らせ、インフ
AP 群
41.75 (3.86)
42.25 (2.06)
4
8.19
ォームドコンセントの後、課題の説明を行った。ディスプレ
高 nAP 群
20.70 (3.86)
25.40 (5.62)
10
7.45
イ上には課題内容や 1 試行ごとの作業などのガイドを表示し、
低 nAP 群
9.36 (2.20)
13.82 (4.38)
11
0.37
実験参加者はガイドに従って AP・RP 両方の課題を順に遂行し
た。まず AP 課題を実施し、1 分程度の休憩をはさんで RP 課
題を実施した。両方の課題が終了した時点で実験終了とした。
結 果
実験参加者のうち、絶対音感保持者(AP 課題正答率 60%以
上、以下 AP 群)は 4 名であった。AP 群は AP 課題・RP 課題と
もに正答数が非常に高かった(表 1)。AP 群を除いた実験参加
者について、AP 課題正答率が 30%以上の実験参加者を高 nAP
群、30%未満を低 nAP 群とし、2(群)×2(課題)の分散分析を
実施したところ、群にかかわらず RP 課題の正答数が有意に
AP 課題より高かった。また高 nAP 群が低 nAP 群より有意に課
題成績が高かった。