位相空間

2014 年度 幾何学演義 II 演習(担当:小西)
はじめに
この演義では,1. 位相空間,2. 基本群,3. ホモロジー論,4. 多様体論の演習を行いま
す.基礎事項(例えば基本群の定義など)を確認する問題と具体的な計算(円周 S 1 の基
本群の計算など)を行う問題を中心に出題します.
授業の進め方は,あらかじめ配布した問題を希望者が黒板で発表するということにし
ます.また例年とは少し異なりますが小テストも行いたいと考えています.進み具合によ
るのではっきりとは言えませんが,今のところ位相空間で1回,基本群で1回,…,計4
回のつもりです.小テストを行うときは,その前の週の授業で告知します.
成績は,発表した問題数と小テストの成績で評価する予定ですが,細かいことはまだ決
めていません.
解答を発表するときには,聞いている人に分かりやすいプレゼンテーションをこころが
けてください.
(1) 記号は矛盾のないように.
(2) 証明はキーポイントや流れが分かるように整理して説明.
(3) 黒板は読みやすく書く.
問題の間違い,誤植等に気づいたら知らせていただけると有難いです.どうぞよろしく
お願いします.
1. 位相空間
位相の定義. X を空でない集合とする.X の部分集合の族(すなわち X の部分集合全体
のなす集合の部分集合)O は,次の条件を満たすとき X の位相であるという:
(1) X ∈ O, ∅ ∈ O
(2) O1 , O2 , . . . , Ok ∈ O ならば O1 ∩ O2 ∩ . . . ∩ Ok ∈ O
(3) {Oλ | λ ∈ Λ} を O の元からなる集合系とすれば (Λ は添え字の集合)、
Oλ ∈ O .
λ∈Λ
O の元を開集合という.開集合の補集合のことを閉集合という.また,x ∈ X に対し x
の近傍とは x ∈ O となる開集合のことを指す.
位相 O を与えられた集合 X を位相空間といい,(X, O) で表す.また位相 O を省略して
「位相空間 X 」のように書くことが多い.
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Y が位相空間 X の部分集合のとき,Y の開集合を X の開集合と Y の共通部分として定
義することで Y に位相が定まる.これを相対位相という.特に断らない限り,位相空間
の部分集合は相対位相によって位相空間であるとみなす.
Rn の通常の位相. 特に断らない限り、Rn (n ≥ 1) には次のような位相を考えるものと
する:
O ⊂ Rn が開集合 ⇔ O の任意の点 x に対し,B(x, ) ⊂ O となる > 0 が存在する.
ただし x ∈ Rn と正の実数 r に対し、B(x, r) = {y ∈ Rn | |y − x| < r} . Rn の通常の位相
と言えばこの位相のことを指す.
Cn については,自然な全単射 Cn → R2n , (z1 , . . . , zn ) → (Re z1 , Im z1 , . . . , Re zn , Im zn )
によって Rn と同一視すると,Rn の通常の位相から Cn にも位相が定まる.特に断らない
限り Cn はこの位相によって位相空間とみなす.
連続写像の問題.
1.1. (1) 位相空間の間の連続写像と直積位相の定義を述べよ.
(2) 写像 Rn × Rn → Rn を f (x, y) = x + y(ベクトルの和) で定める.Rn × Rn の位相を直
積位相とするとき,f は連続写像であることを示せ.
1.2. (X, O) を位相空間,写像 Δ : X → X × X を Δ(x) = (x, x) で定める.
X × X の位相を直積位相とする.
(1) Δ は連続写像であることを示せ.
(2) 閉写像の定義を述べよ.また,Δ が閉写像であることと,(X, O) がハウスドルフ空間
であることは同値であることを示せ.
1.3. (1) 2 つの位相空間が同相であることの定義を述べよ.
(2) r を正の整数とする.Rn の開球体 B(0, r) = {x ∈ Rn | |x| < r} は Rn と同相であるこ
とを示せ.
補足 1.1. n = m ならば Rn と Rm は同相でない.これはホモロジー論を使って証明でき
る (問 3.12).
連結性.
1.4. (1) 位相空間が連結であることの定義,位相空間の連結成分の定義を述べよ.
(2) 位相空間 X の連結成分を U, V , U = V とする.このとき U と V の共通部分は空集合
であることを示せ.
(3) Rn は連結であること,また R の閉区間 I = [0, 1] は連結であることを示せ.
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1.5. 位相空間の部分空間が連結であるとは,相対位相によって連結であることをいう.
(1) 連続写像による連結部分空間の像は連結であることを示せ.
(2) X = {(x, y) ∈ R2 | xy = 0} は R と同相でないことを示せ.
(ヒント:仮に X から R への同相写像があるとすると X \ {0} の連結成分の像はどうな
るか?)
1.6. (1) 位相空間が弧状連結であることの定義を述べよ.
(2) U, V を位相空間 X の連結成分で U = V とする.U の点 a と V の点 b をつなぐ道は存
在しないことを示せ.
(3) 位相空間が弧状連結ならば連結であることを示せ.
1.7. 連結であるが弧状連結でない位相空間の例を挙げよ.
コンパクト性.
1.8. (1) 位相空間 X の部分集合 A がコンパクトであることの定義を述べよ.
(2) f を位相空間 (X, O) から (X , O ) への連続写像とする.A が位相空間 (X, O) のコン
パクト集合ならば,像 f (A) は位相空間 (X , O ) のコンパクト集合であることを示せ.
(3) Rn の閉球体 B(0, r) = {x ∈ Rn | |x| ≤ r} は Rn と同相でないことを示せ.次の定理を
使ってよい.
定理 1.2. Rn の部分集合 A がコンパクトである必要十分条件は A が有界閉集合であるこ
とである.
可算公理の問題.
1.9. X = R2 とし,B = {[a, b) × [c, d) | a < b, c < d} を開基とする位相を O とする.
(1) 第1可算公理を述べよ.(X, O) は第1可算公理を満たすか?
(2) 分離位相の定義を述べよ.部分集合 A = {(x, y) ∈ X | x + y = 1} の相対位相は分離
位相であることを示せ. (3) 第2可算公理を述べよ.(X, O) は第2可算公理を満たすか?
商空間の問題.
1.10. (X, O) を位相空間,Y を集合,f : X → Y を全射とする.
O(f ) = {O ⊂ Y | f −1 (O) ∈ O}
とおく.
(1) (Y, O(f )) は位相空間であることを示せ.
(O(f ) を f により定まる Y の商位相,(Y, O(f )) を f により定まる (X, O) の商空間とい
う.)
(2) f は (X, O) から (Y, O(f )) への連続写像であることを示せ.
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1.11. R に関係 ∼ を x ∼ y ⇔ x − y ∈ Z で定める.
(1) ∼ は同値関係であることを確かめよ.
(2) 同値関係 ∼ による商集合を R/Z と書く.f : R → R/Z を商写像,O(f ) を f によって
定まる R/Z の商位相とする.(R/Z, O(f )) は (S 1 , O1 ) と同相であることを示せ.ただし
S 1 = {(x, y) ∈ R2 | x2 + y 2 = 1} で O1 は相対位相とする.
1.12. X = Cn+1 \ {0} = {(z1 , . . . , zn+1 ) ∈ Cn+1 | (z1 , . . . , zn+1 ) = (0, . . . , 0)} とする.
(z1 , . . . , zn+1 ) = (αw1 , . . . , αwn+1 ) を満たす 0 でない複素数 α が存在するとき,(z1 , . . . , zn+1 ) ∼
(w1 , . . . , wn+1 ) と定めるとこれは X 上の同値関係である.この同値関係による X の商空
間を n 次元複素射影空間といい,CPn と書く.(z1 , . . . , zn+1 ) の同値類を [z1 : . . . : zn+1 ]
と書く.
n+1
X から 2n + 1 次元球面 S 2n+1
| |z1 |2 + · · · + |zn+1 |2 = 1} への連
= {(z1 , . . ., zn+1 ) ∈ C
z1
続写像 f を f (z1 , . . . , zn+1 ) = |z|
, . . . , zn+1
で定める.ただし |z| = |z1 |2 + · · · + |zn+1 |2 .
|z|
(1) 合成写像 π|S 2n+1 ◦ f は π と一致することを示せ.ただし π : X → CPn は商写像で,
π|S 2n+1 : S 2n+1 → CPn は S 2n+1 ⊂ X とみたときの π の制限である.
(2) CPn はコンパクトであることを示せ.(ヒント:問 1.8 と定理 1.2 を使う.)
群. 空でない集合 G 上に2項演算が与えられていて次の条件を満たすとき,G を群とい
う.(2項演算を · と書くことにすると)
(i) 結合法則:g1 · (g2 · g3 ) = (g1 · g2 ) · g3
(ii) 任意の g ∈ G に対し e · g = g · e = g が成り立つ e ∈ G(単位元) が存在する.
。
(iii) 各 g ∈ G に対し,g · g −1 = g −1 · g = e を満たす g −1 ∈ G(g の逆元) が存在する.
単位元のみからなる群を自明な群という.任意の2元 g, h について g · h = h · g が成り立
つ群を可換群という.
整数全体の集合 Z は和によって可換群となる.同値関係 x ∼ y ⇔ “x − y が n で割りきれる”
による商集合 Z/nZ も和によって可換群となる.ゼロでない複素数全体の集合 C× = C\{0}
やゼロでない実数全体の集合 R× = R \ {0} は積によって可換群となる.また 1 の n 乗根
全体の集合 μn は C× の部分群である.Z/nZ と μn は同型で,n 次巡回群と呼ばれる.
群作用と G 空間. G を群,X を位相空間とする.G の任意の元 g に対し X から X への同
相写像が定まっていて (この同相写像による x ∈ X の像を g(x) と書こう),
(gh)(x) = g(h(x))
かつ
e(x) = x
を満たすとき,G は X に作用するという.位相空間 X と G による群作用の対を G 空間
という.
位相空間 X に群 G が作用するとき,点 x ∈ X に対し x を固定する G の元全体 {g ∈ G |
g(x) = x} を点 x のイソトロピー群といい,Gx と書く.任意の点 x ∈ X で Gx = {e} のと
き G の X への作用は自由であるという.
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1.13. (X, G) を G 空間とする.群 G に離散位相を与えたとき,α(g, x) = g(x) で定める写
像 α : G × X → X は連続写像であることを示せ.(離散位相を持つ群を離散群という.)
1.14. (X, G) を G 空間とする.関係 ∼ を x ∼ y ⇔ ∃ g ∈ G, y = g(x) と定める.
(1) ∼ は同値関係であることを確かめよ.(この同値関係による商空間を X/G と書く.)
(2) 問 1.11 で出てきた R/Z は Z 作用による R の商空間であることを説明せよ.
(3) 問 1.12 で出てきた複素射影空間 CPn も群作用による X の商空間であることを説明せ
よ.また CPn は群作用による S 2n+1 の商空間でもあることを説明せよ.
(4) 問 1.12 での複素射影空間の構成において複素数 C を実数 R に置き換えてやれば,全
く同様にして実射影空間 RPn が構成できる.実射影空間は群作用による Rn+1 \ {0} の商
空間であることを説明せよ.また,RPn は S n への群作用による商空間でもあることを説
明せよ.
距離空間の問題.
1.15. (1) 集合上の距離 (または距離関数) と,距離空間の定義を述べよ.また距離によっ
て位相が定まることについて説明せよ.
(2) 閉区間 [a, b] 上の有界な実数値関数全体の集合を B[a, b] とする.(つまり [a, b] 上の関
数 f が f ∈ B[a, b] となるのは,|f (x)| ≤ K (∀ x ∈ [a, b]) となる正の実数 K が存在すると
きである.) f, g ∈ B[a, b] に対して
d(f, g) = sup {|f (x) − g(x)| | a ≤ x ≤ b}
と定義する.d は集合 B[a, b] 上の距離であることを示せ.
補足 1.3. Rn の通常の位相はユークリッド距離 d(x, y) = |x − y| によって定まる距離空間
としての位相に他ならない.
1.16. (X, d) を距離空間とし,d : X × X → R を
d(x, y)
1 + d(x, y)
d (x, y) =
で定める.
(1) d も X の距離であることを確かめよ.
(2) (X, d ) の開集合系は (X, d) の開集合系と一致することを示せ.
距離空間の完備化の例として p 進数体 Qp を構成しよう.
1.17. p を素数,c0 を 0 < c0 < 1 を満たす実数とする.有理数 α に対し,その p 進付値
|α|p を次のように定義する.
⎧
⎨0
|α|p =
⎩c
0
(α = 0)
a
(α = 0)
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ただし α = 0 のときの右辺の a は
α = pa
c
b
(a, b, c ∈ Z, b, c は p で割りきれない)
によって決まる整数とする.
(0) p = 3 の場合に有理数を 5 個以上挙げてその p 進付値を計算せよ.
(1) p 進付値は次の性質を持つことを示せ.
(i) |αβ|p = |α|p |β|p ,
(ii) |α + β|p ≤ max(|α|p , |β|p ) .
(2) 写像 d : Q × Q → R を
d(α, β) = |α − β|p
で定める. d は Q 上の距離であることを示せ.d のことを p 進距離という.
1.18. 前問により,(Q, d) は距離空間である.距離空間の完備化の理論をあてはめて (Q, d)
の完備化を構成しよう.
有理数列 (α0 , α1 , . . .) が,任意の正数 に対して次の条件 ∗ 満たすとき n0 が存在すると
き (n0 は に依存してよい),p 進基本有理数列であるという.
∗ |αm − αn |p < (∀m, n ≥ n0 )
F を p 進基本有理数列全体のなす集合とし,F 上の関係 ∼ を次で定める.p 進基本有
理数列 (αn ) = (α0 , α1 , . . .), (βn ) = (β0 , β1 , . . .) に対し,
(αn ) ∼ (βn ) ⇔ lim |αn − βn |p = 0 .
n→∞
(0) 有理数 α に対し,数列 (α, α, . . .) は p 進基本有理数列である.(α, α, . . .) に同値な p 進
基本有理数列(でそれ自身でないもの)を挙げよ.
(1) ∼ が同値関係であることを確かめよ.
Qp をこの同値関係 ∼ による F の商集合とする.(αn ) ∈ F の同値類を [(αn )] で表す.
(2) 写像 dp : Qp × Qp → R を
dp ([(αn )], [(βn )]) = lim |αn − βn |p
n→∞
で定めたい.dp は well-defined であることを示せ.
(3) dp は Qp 上の距離であることを示せ.
補足 1.4. (1) α → [(α, α, . . . )] という対応により,Q は自然に Qp の部分集合とみなすこ
とができる.
(2) F の和、積を (αn )n + (βn )n := (αn + βn )n , (αn )n · (βn )n := (αn βn )n で定めると,これ
らは Qp 上の和、積を誘導し,それらの演算によって Qp は体になる.Qp を p 進体という.
(3) p 進距離を Q の普通の距離に置き換えて問 1.18 と同じ構成をすると得られるのが実数
体 R である.
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ザリスキ位相. 代数幾何ではザリスキ位相という位相が用いられる.
,これは Rn の通常の
位相とは趣きの違うものである.この節では Cn のザリスキ位相 (問 1.19–1.20) と (それを
一般化した) 環のスペクトラムのザリスキ位相 (問 1.21–1.23) について考えよう.
1.19. X = Cn (n ≥ 1) とし,C[x1 , . . . , xn ] を Cn の座標 x1 , . . . , xn の n 変数多項式環とす
る.部分集合 V ⊂ X が有限個の多項式 F1 , . . . , Fk ∈ C[x1 , . . . , xn ] の共通零点集合のとき,
V は閉集合であるということにし,V = V (F1 , . . . , Vk ) と書く.
(1) n = 1 の場合の閉集合を決定せよ.
(2) F, G ∈ C[x1 , . . . , xn ] に対し,V (F ) ∩ V (G) = V (F, G), V (F ) ∪ V (G) = V (F G) が成
り立つことを示せ。 (3) F1 , . . . , Fk ∈ C[x1 , . . . , xn ] に対しこれらの生成するイデアルを I とすると,a ∈ Cn に
対して a ∈ V (F1 , . . . , Fk ) ⇔ G(a) = 0(∀ G ∈ I) が成り立つことを示せ.(イデアルの定義
は下の「環とイデアル」に書いてあります.)
(4) 部分集合 O ⊂ X が閉集合の補集合であるとき O は開集合であるということにし,X
の開集合全体のなす集合を O とする.O は X の位相を与えることを確かめよ.これを Cn
のザリスキ位相という.(ヒント:ヒルベルト基底定理を使う.)
1.20. Cn 上に問 1.19 のザリスキ位相を考える.
(1) n = 1 のとき C の開集合を決定し,空集合でない任意の2つの開集合は共通部分を持
つことを示せ.(問 1.19 (1) の結果を使ってよい.)
(2) ザリスキ位相に関して Cn はハウスドルフでないことを示せ.
環とイデアル. R を空でない集合とし,R に2つの2項演算:和 + と積 · (· は省略して
a · b = ab と書くことが多い) が与えられていて次の5条件を満たすとき,R を 1 を持つ可
換環という:
(i) 和 + に関して可換群である.
(ii) 積 · に関して結合法則をみたす:a · (b · c) = (a · b) · c.
(iii) 和と積が分配法則をみたす:a · (b + c) = a · b + a · c, (a + b) · c = a · c + b · c.
(vi) 積が交換法則をみたす:a · b = b · a
(v) 任意の a ∈ R に対して a · 1 = 1 · a = a を満たす 1 ∈ R が存在する.
整数全体の集合 Z は普通の和と積によって 1 を持つ可換環になる.これを有理整数環という.
また正の整数 n に対して複素数係数上の n 変数 x1 , . . . , xn の多項式全体の集合 C[x1 , . . . , xn ]
は多項式の和と積によって 1 を持つ可換環となる.これを C 上の n 変数多項式環という.
1 を持つ可換環 R の部分集合 I が和に関して部分群になっていて (x, y ∈ I ⇒ −x + y ∈ I
をみたしていて) かつ x ∈ I, a ∈ R ⇒ x · a ∈ I を満たすとき I を R のイデアルという.
a1 , . . . , an ∈ R に対し,{x1 a1 + · · · + xn an | x1 , . . . , xn ∈ R} はイデアルである.これを
a1 , . . . , an で生成されたイデアルといい,(a1 , . . . , an ) と書く.
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1 を持つ可換環 R 上に,イデアル I によって同値関係 ∼ を a ∼ b ⇔ a − b ∈ I で定め
ると,R の和と積から商集合 R/ ∼ に和と積が引き起こされ,R/I も 1 を持つ可換環とな
る.これを剰余環といい R/I と書く.
1.21. R を 1 を持つ可換環とする.R の素イデアル全体のなす集合とする.これを Spec R
と書き,環 R のスペクトラムという.(ただし環 R 自体は素イデアルとはみなさない.)
(1) 素イデアルの定義を述べよ.
(2) 環 R が次の場合に Spec R を決定せよ.
(i) R = Z(有理整数環),
(ii) R = C[x](1変数多項式環),
(iii) R = C[x]/(x2 )(イデアル (x2 ) による C[x] の剰余環).
(ヒント:(i)(ii) は Z, C[x] ともに単項イデアル整域であることを使う.)
1.22. R を 1 を持つ可換環とする.
(1) R の部分集合 B に対し
V (B) = {p ∈ Spec R | p ⊃ B}
とおく.I を B によって生成されるイデアルとすると,素イデアル p に対し p ∈ V (B) ⇔
p ⊃ I であることを示せ.また R の部分集合の族 Bλ (λ ∈ Λ) と B, B ⊂ R に対し,
(i)
V (Bλ ) = V
Bλ , (ii) V (B) ∪ V (B ) = V (I ∩ I )
λ
λ
が成り立つことを示せ.ただし I, I はそれぞれ B, B によって生成されるイデアルで,I ∩I はその共通部分(これもイデアル)である.
(2) Spec R の部分集合 V が V = V (B), B ⊂ R と書けるとき V は閉集合であるという.
Spec R の部分集合 O が閉集合の補集合であるとき,O は開集合であるといい,開集合全
体のなす集合を O とする.O は X に位相を定めることを確かめよ.これを Spec R のザ
リスキ位相という.
1.23. ザリスキ位相に関して
(1) Spec Z の閉集合を決定せよ.
(2) Spec Z はハウスドルフか?
(3) Spec Z はコンパクトか?
参考文献
[1] 内田伏一,数学シリーズ「集合と位相」,裳華房
[2] 桂利行,大学数学への入門1「代数学I群と環」,東京大学出版会 (群,環,イデアルの定義等)
[3] Shafarevich, “Basic Algebraic Geometry 1,2”,Springer (スペクトラムについて)
[4] 河田敬義,岩波講座基礎数学「代数学 vi 数論 III」,岩波書店 (p 進体の構成について)