平成 20 年度国立病院機構共同臨床研究 総括・分担 研究報告書* 研究

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平成
20
年度国立病院機構共同臨床研究
総括・分担
様式C-1
研究報告書*
研究分野:NHO ネットワーク共同研究 がん(一般)
研究課題名:がん診療連携拠点病院における「評価指標実施率」を用いたがん
診療の均てん化の評価に関する共同研究
主任研究者 :岡村 健(九州がんセンター)
研究の概要(構造化抄録):がん診療連携拠点病院制度は、「がん対策基本法」
の基本理念の一つ「がん医療の均てん化」を目的として整備されたが、施設間
格差、地域間格差は存在するので、これを客観的に明らかにし、対策を講じる
ことが重要である。本研究では、国立病院機構病院の中で同連携拠点病院 15 施
設を選び、厚労科研がん臨床研究「がん対策における管理評価指標群の策定と
その計測システムの確立に関する研究」
(主任研究者 祖父江友孝)が開発した
がん診療の質の評価指標(Quality Indicator:QI)の実施率を測定し、施設間格
差、地域間格差の有無やその程度を明らかにし、がん医療の均てん化を評価す
るものである。平成 20 年度は、共同研究計画書案の作成、研究者会議で検討、
計画書完成後、各施設での倫理審査委員会で審査、承認が終了した。胃癌、大
腸癌、肺癌、乳癌症例の電子登録用ファイルを整備して各施設へ配布した。デ
ータの収集、精度管理後、実施率を算出し、均てん化を評価した。症例登録数
は 4809 例であった。均てん化については、全施設において、実施率が 80%以上
の場合に均てん化と定義した。全ての項目 153 の中で、均てん化と評価された
項目は 16(10.5%)と少なく、大部分の項目において均てん化とはいえない結
果であった。施設間格差を無くし、均てん化を達成するには、各施設で QI の内
容を周知徹底して確実に実行し、実施率を向上させることが重要である。
本文
<背景と目的>
標Quality Indicator:QI」は診療内容を直接標
がん医療の均てん化達成のためには、全国の
準診療に照らして評価することを目的に作成
がん診療連携拠点病院のがん診療の質を客観
され、その実施率はがん診療の質を客観的に評
的に評価し、施設間格差、地域間格差を評価、
価する有力な方法である。本研究ではこのQI
分析して格差解消対策を講ずることが重要で
実施率を用いて全国に展開する国立病院機構
ある。厚労科研がん臨床研究「がん対策におけ
のがん診療連携拠点病院のがん診療の質を評
る管理評価指標群の策定とその計測システム
価し、施設間格差、地域間格差の有無を明らか
の確立に関する研究」(主任研究者
祖父江友
にし、その結果の分析後、対策を講じ、再評価
孝:国立がんセンター)で開発された「評価指
してがん診療の質の向上を確認することを計
画している。本研究は診療を直接評価すること
イルは、連結可能匿名化のため、「九州がんセ
を特徴とする祖父江班のQIを使用し、国立病院
ンターにおける診療情報保護の実施手順」上リ
機構のがん診療連携拠点病院が全国に展開す
スクレベル2に該当し、定められた手順に沿っ
るという特色を利用した共同臨床研究であり、
てファイルの暗号化またはパスワード設定を
がん診療連携拠点病院全体に先駆けて、モデル
行う。スクリーンセーバーを使用しパスワード
ケースとして提示することにより、わが国のが
ロックを設定した専用のコンピュータ上のみ
ん医療の均てん化に寄与できると考えられる。
で管理する。各施設で集められた連結可能匿名
<方法>
化された個票データはまとめて九州がんセン
がん診療の質の評価指標(QI)が作成されて
ターへ収集し、集計を行う。集計結果は各施設
いる 5 大がん(胃、大腸、肝、乳腺、肺)で入
へ戻すが、施設名を伴う情報は一般公開しない。
院診療した患者を対象とする。2007 年 1〜12
また報告書でも施設名は原則公表しない。
月の院内がん登録症例から入院診療情報を抽
出する。
各施設で一定の期間に診療録などからデー
タ収集された個票(電子ファイル)を収集し、
厚労科研がん臨床研究の「がん対策における
QI の項目別の実施率を算出し、各施設別に比
管理評価指標群の策定とその計測システムの
較する。全施設の QI 実施率の値の分布は正規
確立に関する研究(H18−がん臨床−一般−02
分布をとらないので、代表値として中央値を用
3)
」
(主任研究者 祖父江友孝)で開発された、
いる。QI 実施率の値が高ければ、その項目の
がん診療の質に関する Quality Indicator(QI)
がん診療の質は高いと判断され、さらに施設間
について、この QI の測定結果を収集し、各施
の値に格差がなければその項目の診療は均て
設における QI の実施率を算出し、参加施設の
ん化されていると判断される。一方、QI 実施
成績を比較する。
率の中央値が低くければ、その項目のがん診療
入院診療録の閲覧、院内がん登録・診療報酬
の質は低く、しかも施設間の格差が大きければ、
データ(DPC など)
、QI の項目について所定の
均てん化されていないと判断される。定期的に
データ収集フォーム(電子化された個票用紙)
QI の実施率を算定することで、改善対策の効
に記載する。
果を確認することができる。
各施設において診療録閲覧、院内がん登録・
均てん化の評価には、均てん化の定義が必要
診療報酬データ(DPC など)を用いた抽出の段
であるが、まだ確率されていない。そこで、均
階で、個人に対して匿名化番号を割り付け、研
てん化とは、施設間(地域間)格差が小さく、
究においてはすべてこの匿名化番号によって
質の高いがん医療が受けられるとの意味から、
専用のコンピュータで管理・処理し、連結可能
本研究では「総ての施設で QI 実施率が80%
匿名化された状態で処理を行う。データ収集フ
以上であること」を均てん化されていると定義
ォームに診療データを転記する際には氏名や
した。
連絡先、病歴番号(カルテID)などの個人情
<結果>
報は一切転記しない。対応表は施設内で鍵のか
均てん化の定義を満たしたのは、胃癌 30 項
かる場所で、院内管理者が管理する。記入済み
目中、治療前の血清腫瘍マーカーの測定と食事
のデータ収集で紙媒体を使用する場合には鍵
指導の 2 項目(6.7%)
。大腸癌では、45 項目
のかかる場所に保管し、電子化後は速やかにシ
中、術前の腫瘍生検、周術期の深部静脈血栓予
ュレッダーなどで廃棄する。電子化されたファ
防、内視鏡的摘除方法の診療録への記載の 3
項目(6.7%)
。乳癌では 43 項目中、術後化学
User’s Manual:RAND;2001
療法のサイクル数、浸潤性乳癌における HER-2
2 診療の質指標:がん対策における管理評価
検索、リンパ節陽性の浸潤性乳癌に対するトラ
指標群の策定とその計測システムの確立に
スツズマブ投与、放射線治療計画の事前記載、
関する研究班;主任研究者:祖父江友孝;平
放射線療法の完遂の 5 項目(12%)
。肺癌では
成 18〜20 年度厚生労働省がん臨床研究事業
35 項目中、TNMStage 診断の診療録記載、組織
型の病理所見への記載、最終病理診断の時期(4
週以内)、肺実質切除、化学療法の施行コース
<その他>(知的財産の取得の有無など)
数(6 コース以上)、単発性脳転移に対する手
術・放射線治療の 6 項目(17%)であった。
全体では 153 項目中、16 項目(10.5%)であ
*
った。
倫理審査委員会に提出した研究計画書を添付
<考察>
すること。
均てん化と評価された QI 項目は、どのがん
でも少なかった。特に胃癌と大腸癌では治療成
績に関係する手術や化学療法の項目で均てん
化と評価されるものはなかった。一方、乳癌と
肺癌では治療関連の項目で均てん化と評価さ
れた項目があり、両者では比較的均てん化が進
んでいると考えられた。QI 実施率算出の問題
点は、診療情報管理士の診療録を読み取る力や
探索力が重要で、診療情報管理士の均てん化も
必要である。さらに診療情報管理士のデータ収
集における労力負担をどのように解決するか
も課題である。
最終目標である施設間格差を無くし、均てん
化を達成するには、各施設において QI の内容
を周知徹底、確実に実行し、実施率を向上させ
ることが重要である。
<結語>
QI の中でも、均てん化しているものとそう
でないものとが明らかになり、祖父江班が開発
した QI の実施率を算出し、施設間で比較する
ことで、がん医療の均てん化を評価することの
可能性と有用性が示された。
<参考文献>
1Fitch K, Bernstein SJ, Aguilar ND, et
al:The RAND/UCLA Appropriatenes Method
総括報告書に、主任研究者の施設における