解析力学の基礎 解析力学は,経験則を組み合わせて構築された 力学に対して,一つの原理を基礎としてそれ から運動量保存則やエネルギー保存則などの各法則を導きだすという,学問体系の再構築を行ったもの である.抽象的であるが,この世界がどのようにして出来ているかという問いかけに対しての洞察を与 え,量子力学や相対論的力学の基礎となるものである. Newton EulerLagrange 方程式と Hamilton の正準方程式 質点系( つあるいは複数の質点)の一般化座標を q と表わす.一般化座標とは, 座標や極 座標などの座標系を問わず,すべての粒子のすべての座標を総合して q (i = 1, . . . , f ) と表すものであ る.q を時間 t の関数 q (t) として表すことができれば,その質点系の運動を完全に記述することができ ることになる.質点の速度は dqdt(t) になるが,これを q˙ (t) と表すことにする. q (t),q˙ (t) の関数 L( という)を考え, 1 Descartes i i i i i i i Lagrangian i ˆ t2 S≡ Ldt (1) t1 を定義する.t = t および t = t のときの質点の座標をそれぞれ q (t ) = q および q (t ) = q とする (図 ).t ,t ,q ,q を固定したときに S を最小にするような q (t) がどのようなものであるか,換 言すれば,q から q に至る軌跡と軌跡上の各点の時刻がどのようなものであるか,を考える. 1 1 1 2 i1 2 i1 i i2 1 i i2 図 1: 質点の運動 経路が少しずれた場合 1 i1 i 2 i2 2 qi (t) がその形を δq (t) だけ僅かに変えると,q˙ (t) も δq˙ (t) だけ変わるので,S の変分 δS は i ˆ i i ! X ∂L X ∂L δqi (t) + δ q˙i (t) dt δS = ∂qi (t) ∂ q˙i (t) t1 i i " #t2 ˆ ˆ t2 X t2 X X ∂L ∂L d ∂L δqi (t) dt + δqi (t) − δqi (t) dt = ∂qi (t) ∂ q˙i (t) dt ∂ q˙i (t) t1 t1 i i i t1 ˆ t2 X ∂L d ∂L = − δqi (t) dt ∂qi (t) dt ∂ q˙i (t) t1 i t2 (2) ここで,δq (t ) = 0,δq (t ) = 0 であること(q ,q を固定したため)を用いて変形している. q (t) が S を最小にするような関数であったとすると,任意の微小変化 δq (t) に対して δS = 0 である から, i 1 i 2 i1 i2 i i d ∂L − ∂qi (t) dt これを いま, EulerLagrange ∂L ∂ q˙i (t) =0 pi (t) ≡ ∂L ∂ q˙i (t) (3) 方程式という . 1 と定義して,q (t),q˙ (t) の関数である L から という)を作る.すなわち, i (i = 1, . . .) i H≡ 変換により p (t),q (t) の関数 H ( Legendre X (8) i i pi (t) q˙i (t) − L Hamiltonian (9) i と定義すると,H の全微分は式 を用いて変形して, (8) dH = X i q˙i (t) dpi (t) + X pi (t) dq˙i (t) − dL i X ∂L = q˙i (t) dpi (t) + dq˙i (t) − ∂ q˙i (t) i i X X ∂L = q˙i (t) dpi (t) − dqi (t) ∂qi (t) i i X ! X ∂L X ∂L dq˙i (t) + dqi (t) ∂ q˙i (t) ∂qi (t) i i (10) 1 ここで,この式がすべての i について成立することに注意しよう.たとえば,Descartes 座標系で 1 個の粒子について言え ば,これは ∂L d − ∂x (t) dt „ ∂L d − ∂y (t) dt „ ∂L d − ∂z (t) dt „ ∂L d − ∂r (t) dt „ ∂L ∂ x˙ (t) « ∂L ∂ y˙ (t) « ∂L ∂ z˙ (t) « ∂L ∂ r˙ (t) « =0 (4) =0 (5) =0 (6) の 3 つが同時に成り立つことを示している.これは位置ベクトル r = (x, y, z) を用いて,まとめて と書くこともできる. =0 (7) 3 となる.これより, が得られるが,式 (12) に EulerLagrange ∂H = q˙i (t) ∂pi (t) (11) ∂H ∂L =− ∂qi (t) ∂qi (t) (12) 方程式(式 )および p (t) の定義(式 )を用いると, (3) (8) i ∂H = −p˙i (t) ∂qi (t) となる.式 EulerLagrange S と式 をまとめて 方程式と等価である. (11) (13) Hamilton (13) の正準方程式という. Hamilton の正準方程式は の全微分 が最小となる,すなわち L が 方程式を満たしているものについて考える.前節は t ,t ,q ,q を固定した議論であったが,これらの固定を外すと,S はこれらを独立変数とする関数 となる. まず,t ,q を固定して考える.いま,q (t) の形が q (t) + δq (t) に少し変わり,t = t において q から出発した質点が t = t において q とは少し異なる点 q + δq に到達したとする(図 ). 式 S 1 EulerLagrange 2 i1 i2 1 i1 i 2 i2 i i i2 1 i2 i1 2 (2) 図 2: 質点の運動 到着点を少しずらした場合 と同様の展開をすることにより,S の変分は ˆ ! X ∂L X ∂L δqi (t) + δ q˙i (t) dt δS = ∂qi (t) ∂ q˙i (t) t1 i i " #t2 ˆ t2 X X ∂L ∂L d ∂L = δqi (t) + − δqi (t) dt ∂ q˙i (t) ∂qi (t) dt ∂ q˙i (t) t1 i i t2 t1 = X i pi (t2 ) δqi2 (14) 4 ここで,δq (t ) = 0 およびもとの L,q (t),q˙ (t) が 方程式(式 )を満たすことを用 いている.式 はt を固定したときの q の微小変化に対する S の微小変化を示したものであるの で, i 1 i (14) EulerLagrange i 2 (3) i2 ∂S ∂qi2 = p (t2 ) (15) t2 ここで t ,q の関数としての S の全微分を考える. 2 i2 dS = 両辺を dt で割り,式 2 (15) ∂S ∂t2 X ∂S dqi2 ∂qi2 t2 i dt2 + qi2 (16) を代入することにより, dS = dt2 = ∂S ∂t2 ∂S ∂t2 X ∂S dqi2 ∂qi2 t2 dt2 i X + pi (t2 ) q˙i (t2 ) + qi2 qi2 (17) i 左辺は t = t における L に他ならず,また P p q˙ は H の定義(式 )より H + L に等しいので, 2 i i i ∂S ∂t2 L (t2 ) = ∴ 式 (16) ∂S ∂t2 (9) + H (t2 ) + L (t2 ) (18) qi2 = −H (t2 ) (19) qi2 は以下のように書き直される. dS = X pi (t2 ) dqi2 − H (t2 ) dt2 (20) i 同様の議論により,出発点についても式 dS = − (20) X と符号が異なる他は同様の結論が得られる. pi (t1 ) dqi1 + H (t1 ) dt1 (21) i t1 ,t ,q ,q をわずかにずらすと,S の変化は式 2 i1 i2 dS = − X pi (t1 ) dqi1 + i X (20) , (21) の辺々を加えたものになるので, pi (t2 ) dqi2 + H (t1 ) dt1 − H (t2 ) dt2 (22) i が得られる. 空間・時間の平行移動 いま,時間について移動せず,空間について質点系全体を n の方向に n だけわずかに( は無限小 量)平行移動した場合を考える(図 ). もしもこのとき,S が変化しないのであれば,式 におい 3 (22) 5 図 3: 空間の平行移動 て dS = 0 となり,時間について移動しないこと(dt に変えて表示すると, X で割って, pi (t1 ) · n − i 1 )を用い,さらに一般化座標をベクトル = dt2 = 0 X pi (t2 ) · n = 0 (23) i X pi (t1 ) · n = i X pi (t2 ) · n (24) i となる.これは空間が n 方向に平行移動しても S が変化しない場合,p の n 方向の成分を p とし て, i X pi,n (t1 ) = i X pi,n (t2 ) i,n (25) i となり,一般化して, X pi,n (t) = const (26) i であることを意味している.また,これが任意の n について成り立つ場合,すなわち空間の全ての方向 について平行移動しても S が変化しない場合,これは X pi (t1 ) = i X pi (t2 ) (27) i となり,一般化して, X pi (t) = const (28) i であることを意味している. 次に,空間について移動せず(dq = dq = 0),時間について系全体を だけ平行移動する場合を考 える(図 ). もしもこのとき,S が変化しないのであれば,式 において dS = 0 となり, i1 i2 4 (22) H (t1 ) − H (t2 ) = 0 (29) 6 図 4: 時間の平行移動 これは で割って, H (t1 ) = H (t2 ) (30) H (t) = const (31) となり,一般化して, であることを意味している. 物理量との対応 以上の議論は,質点と時間,一般化座標以外には物理学的な前提を設けず,純数学的に導いたもので ある.ここでよく知られている非相対論的物理量との関係を見てみよう. まず,一般化座標として 座標 x = (x , x , · · · ) を用い,L として次の関数を考える. de Cartes i 1 L= 2 X1 i 2 mx˙ 2i − V (32) ここで V はポテンシャルエネルギーであり,x の関数である. 式 を式 に代入して, i (32) (3) − ∂V d − (mx˙ i ) = 0 ∂xi dt (33) すなわち, Fi = m¨ xi (34) これは の運動方程式に他ならない.つまり, の運動方程式にしたがってポテンシャルの 場の中を運動する質点は共通の t ,t ,q ,q を持つ軌跡のうちで,式 で表される L の時間積分 S (これを作用積分と呼ぶ)を最小にするような軌跡をたどることがわかる. このことを踏まえ, 質点系は作用積分 S を最小にするように運動する ということを原理( 最小作用 の原理 という)に据えて力学を再構成したものが解析力学である.解析力学においては Newton Newton 1 2 i1 (32) i2 EulerLagrange 7 方程式が運動方程式となる.そして L として式 のものを考えると, 力学と一致するという ことであり,場合によっては,たとえば相対論的力学では,L は式 とは別のものを考えることにな る. L が式 で表されるものであれば, (32) Newton (32) (32) pi ≡ ∂L ∂ x˙ i = mx˙ i (35) となる.これは 力学における運動量である. また,式 より,H は Newton (9) H= X pi x˙ − i X1 i 2 ! mx˙ 2i − V X 1 = p2i + V 2m i (36) となる.この H は 力学において系全体のエネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーを足し たもの)を表す関数になる. 解析力学においては, 方程式が の運動方程式と等価でない場合,たとえば相 対性理論においては は式 のものとは異なるが,それでも式 および式 によって 定義される p および H をそれぞれ運動量およびエネルギーと呼ぶ. 空間が n の方向に一様であれば,この移動によって質点系の運動方程式は変わらない.解析力学 においてこのことは座標変換によって 方程式が変わらないことを意味し,したがっ て L とその時間積分である作用積分 S が変わらないことになる.上で論じたように,式 , より,空間が平行移動しても S が変化しない(これを 空間の並進対称性を有する という) 方向に p が保存されることが示される.p は運動量と定義されるものであるので,空間の並進対称性か ら運動量保存則が導かれることになる. 一方,時間の平行移動によって S が変化しない(これを 時間の並進対称性を有する という)場合, 式 より,H が保存されることが示される.H はエネルギーと定義されるものであるので,時間の並 進対称性からエネルギー保存の法則が導かれることになる. 解析力学は,最小作用の原理から様々な法則を導き出している.このように原理の数を少なくするこ とにより,より本質に迫った学問体系となり,その結果,解析力学は他の学問体系と密接につながると いう特徴を有している.たとえば,式 は物質波を考える上で重要であり,量子力学の構築の基礎と なるものである. Newton EulerLagrange Lagrangian Newton (32) (32) (9) i EulerLagrange Lagrangian (26) (28) (36) (20) 2014 2014 年 月 日 作成. 年 月 日 注を追加,構成を変更. 8 22 8 31
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