Page 1 Page 2 学 位 の 種 類 博 士 (工学) 学位授与の 日付 平成2 ー年

九州工業大学学術機関リポジトリ
Title
バイパスダイオード内蔵型3 接合宇宙用太陽電池セルの
帯放電劣化特性に関する研究
Author(s)
野崎, 幸重
Issue Date
2009-06-30
URL
http://hdl.handle.net/10228/5036
Rights
Kyushu Institute of Technology Academic Repository
氏
名
野
崎
幸
重
学 位 の 種 類
博
学 位 記 番 号
工 博 甲 第287号
学 位 授 与 の 日付
平 成21年6月30日
学位 授与 の条件
学 位 規 則 第4条 第1項 該 当
学位 論 文題 目
バ イパ ス ダイオ ー ド内 蔵 型3接 合 宇 宙 用 太 陽 電 池 セ ル の
士 (
工学 )
帯 放 電 劣 化 特 性 に 関す る研 究
論 文審査 委 員
主 査
教 授
趙
孟
佑
〃
匹
田
政
幸
〃
赤
星
保
浩
准教授
豊
田
和
弘
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近 年 の 人 工 衛 星 シ ス テ ム で は 、 そ の 高 機 能 化 ・大 電 力 化 の 要 求 に 応 え る べ く 、 多 くの 衛 星 が 変 換 効
率 の 高 い3接
合 型 太 陽 電 池 セ ル を一 次 電 源 と して 採 用 す る よ う に な っ て きた 。
3接 合 型 太 陽 電 池 セ ル は 、 エ ピ タ キ シ ャ ル 成 長 さ せ た 薄 いPN接
合 で構成 され るた め、逆 バ イ アス
状 態 で の 耐 圧 が 低 く、 セ ル ご と に バ イ パ ス ダ イ オ ー ドを接 続 す る必 要 が あ る。 一 つ の 実 装 例 と して 、
シリ コン
(Si)の デ ィ ス ク リ ー ト ダ イ オ ー ドを イ ン タ コ ネ ク タ で 太 陽 電 池 セ ル に 接 続 す る 構 成 が あ る
が 、 近 年 は モ ノ リ シ ッ ク ダ イ オ ー ド (MD)
を パ イ パ ス ダ イ オ ー ドと し て 内 蔵 す る 宇 宙 用 太 陽 電 池 セ
ル も 開発 され て き た。
しか し な が ら ダ イ オ ー ド内臓 型 セ ル で は、 ダ イ オ ー ドを 隣 接 セ ル と接 続 す る イ ン タ コ ネ ク タが 露 出
す る た め 、 そ の 近 傍 が 導 体 /絶 縁 体 の 複 雑 な 電 位 構 成 と な り 、 軌 道 上 で カ バ ー ガ ラ ス 表 面 が 帯 電 す る
際 に 放 電 が 発 生 し や す い 個 所 に ダ イ オ ー ドが 位 置 す る こ と に な る 。 従 っ て 、 放 電 に よ る パ イ パ ス ダ イ
オ ー ドの 劣 化 に つ い て は 評 価 が 必 要 で あ る 。
本 研 究 で は 、 以 下 の2つ
の 研 究 目 的 の た め に 、 バ イ パ ス ダ イ オ ー ド内 蔵 型 宇 宙 用 太 陽 電 池 セ ル を 使
用 した 地 上 実 験 を行 っ た 。
(1)MD部
の 帯 電 ・放 電 に 対 す る 耐 性 を 異 な る 接 合 構 成 の セ ル に 対 し て 実 施 し て 、 放 電 電 流 / エ ネ
ル ギ ー で 劣 化 す る 閾値 を調 べ る 。 ま た、 劣 化 す る 場 合 の メ カ ニ ズ ム を検 討 し、 耐 性 向上 が 可 能
か ど うか 考 察 す る。
(2) 極 力 実 機 に 近 い 試 験 コ ン テ ィ ギ ュ レ ー シ ョ ン で 帯 電 ・放 電 試 験 を 実 施 し て 、 実 使 用 環 境 で の 劣
化 の 有 無 を確 認 して 、 実 際 の 人 工 衛 星 に 使 用 可 能 か 確 認 す る。 ま た 、 外 部 回路 が 放 電 に 与 え る
影 響 を評価 す る。
MDの
構 造 と し て 、 シ ョ ッ ト キ ー タ イ プ の も の と 、PN接
合 型 の もの が 開発 され て い た の で 、 両 者
を 太 陽 電 池 パ ドル の フ ラ イ トタ イ プ で 使 用 す る 同 一 の 部 品 材 料 、 同 一 の 製 造 工 程 を使 用 して 供 試 体
ク ー ポ ン を 製 造 し て 、 試 験 を 行 っ た 。 供 試 体 ク ー ポ ン は 、 セ ル を5直
列 接 続 した モ ジ ュ ー ル タ イ プ の
も の と 、 単 セ ル タ イ プ の も の を 準 備 し、 研 究 目 的 達 成 の た め に 以 下 の3種
1)MDセ
ルESD(ElectrostaticDischarge)
2)MDセ
ル劣化 閾値 測定 試験
3)MDセ
ル実機 相 当回路模 擬 試験
類 の試 験 を行 った。
耐性 比較 試験
試 験 で は 、 供 試 体 ク ー ポ ン を ス ペ ー ス チ ェ ン バ ー 内 に セ ッ ト し て 、 −4.5∼ −5kVの
け る 。 カ バ ー ガ ラ ス 表 面 に4∼5kVに
バ イアス をか
加 速 し た 電 子 ビ ー ム を照 射 し て 、 軌 道 上 で 予 想 され る カバ ー
ガ ラ ス 表 面 の 帯 電 状 態 を 擬 似 発 生 さ せ 、 そ の 時 発 生 す る 放 電 に よ る バ イ パ ス ダ イ オ ー ド並 び に 太 陽 電
池 セ ル の 電 圧 一電 流 特 性 を 取 得 し て 劣 化 状 況 を 評 価 し た 。
試 験 の 結 果 、 以 下 の 点 が 明 らか に で きた 。
1)MDセ
ル の 構 造 と し て は 、 シ ョ ッ トキ ー 構 造 の 方 がPN接
−1一
合 型 の も の よ り耐 性 が 高 か っ た 。
2)ESDに
対 す る耐 性 の 弱 いPN接
放 電 電 荷350μCで
3)MDセ
合 型 の劣 化 閾 値 は 、放 電 ピー ク 電 流37A、 放 電 エ ル ネ ギ ー0.8J、
あ った。
ル を使 用 し て4∼5kW級
こ ろ、 放 電 ピ ー ク 電 流 は20A程
衛 星 の 太 陽 電 池 パ ドル を模 擬 し た外 部 回路 で 試 験 を 行 っ た と
度 で あ り、 い ず れ の タ イ プ のMDセ
ル も実 際 の 太 陽 電 池 パ ド
ルへ の採用 は、帯 放 電の観 点 で は問題 ない。
4) 実 機 模 擬 相 当 回路 で の 放 電 試 験 で は 、 実 機 上 の 放 電 電 流 は バ イ パ ス ダ イ オ ー ド と太 陽 電 池 セ
ルの接 合両 方 に分流 す るため、 放電 エ ネル ギーが 分散 す る。
以 上 を ま とめ る と、 宇 宙 用3接 合 型MDセ
プ で も、 放 電 ピ ー ク電 流37A、
ル は、 軌 道 上 の 帯 放 電 に 対 し て 耐 性 の 弱 いpn接
合 タイ
放 電 エ ネ ル ギ ー0.8J以 下 で あ れ ば 劣 化 す る こ と は な く、4∼5kW級
の
太 陽 電 池 パ ドル で 使 用 す る 限 り帯 放 電 の 観 点 で は 問題 な く使 用 で き る こ とが 実 験 に よ り確 認 で きた 。
学 位 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
本 論 文 は 高 機 能 化 し た 人 工 衛 星 シス テ ム に よ る 宇 宙 利 用 を支 え る上 で 重 要 な衛 星 電 源 シス テ ム の 大
電 力 化 と高 信 頼 化 を達 成 す る た め に 必 須 の 基 礎 的 研 究 で あ る と共 に、 実 際 の 衛 星 設 計 ・試 験 ・製 作 現
場 に速 や か に結 果 を フ ィー ドバ ッ ク可 能 な実 用 的 研 究 と して の 側 面 も有 す る もの で あ る。 衛 星 シ ス テ
ム の 信 頼 性 や 検 証 試 験 方 法 の 分 野 に お い て 、 大 きな 貢 献 を な し う る もの で あ る 。
本 論 文 で は ま ず 、 研 究 背 景 と して 、 近 年 の 人 工 衛 星 シ ス テ ム で は、 そ の 高 機 能 化 ・大 電 力 化 の 要 求
に 応 え るべ く、 多 くの 衛 星 が 変 換 効 率 の 高 い3接 合 型 太 陽 電 池 セ ル を 一 次 電 源 と して 採 用 す る よ う に
な っ て きた こ と を述 べ て い る 。3接 合 型 太 陽 電 池 セ ル は 、 エ ピ タ キ シ ャ ル成 長 させ た 薄 いPN接
合で
構 成 され る た め 、 逆 バ イ ア ス状 態 で の 耐 圧 が 低 く、 セ ル ご と にバ イパ ス ダ イ オ ー ドを接 続 す る 必 要 が
あ る。 一 つ の 実 装 例 と し て 、 シ リ コ ン (Si)の デ ィス ク リ ー トダ イ オ ー ドを イ ン タ コネ ク タ で 太 陽 電
池 セ ル に接 続 す る 構 成 が あ る が 、 近 年 は モ ノ リ シ ッ ク ダ イ オ ー ド (MD) をパ イパ ス ダ イ オ ー ド と し
て 内 蔵 す る 宇 宙 用 太 陽 電 池 セ ル も 開 発 され て き た こ と を述 べ て い る。 しか し な が ら、 ダ イ オ ー ド内 蔵
型 セ ル の 問 題 点 と して 、 ダ イ オ ー ドを 隣接 セ ル と接 続 す る イ ン タ コ ネ ク タが 露 出 す るた め 、 そ の 近 傍
が 導 体 /絶 縁 体 の 複 雑 な電 位 構 成 とな り、 軌 道 上 で カバ ー ガ ラ ス 表 面 が 帯 電 す る際 に 放 電 が 発 生 しや
す い 個 所 に ダ イ オ ー ドが 位 置 す る こ と に な っ て 、 放 電 に よ る パ イ パ ス ダ イ オ ー ドの 劣 化 に つ い て は 評
価 が 必 要 で あ る こ と を指 摘 して い る 。
こ の よ う な背 景 に基 づ い て、 本 論 文 で は以 下 の2つ の 研 究 目的 の た め に 、 バ イパ ス ダ イ オ ー ド内 蔵
型 宇 宙 用 太 陽 電 池 セ ル を使 用 した 地 上 実 験 を 行 っ た 結 果 に つ い て 述 べ て い る。
(1)MD部
の 帯 電 ・放 電 に対 す る 耐 性 を異 な る 接 合 構 成 の セ ル に 対 し て 実 施 し て 、 放 電 電 流 /エ ネ
ル ギ ー で 劣 化 す る 閾値 を調 べ る 。 ま た、 劣 化 す る 場 合 の メ カ ニ ズ ム を検 討 し、 耐 性 向上 が 可 能
か ど うか 考 察 す る。
(2)極 力 実 機 に 近 い 試 験 コ ンテ ィギ ュ レ ー シ ョ ン で帯 電 ・放 電 試 験 を実 施 して 、 実 使 用 環 境 で の 劣
化 の 有 無 を確 認 して 、 実 際 の 人 工 衛 星 に 使 用 可 能 か 確 認 す る。 ま た 、 外 部 回路 が 放 電 に 与 え る
影 響 を評価 す る。
MDの
構 造 と して 、 シ ョ ッ トキ ー タ イ プ の もの と、PN接
合 型 の もの が 開発 され て い た の で 、 両 者
を 太 陽 電 池 パ ドル の フ ラ イ トタ イ プ で 使 用 す る 同 一 の 部 品 材 料 、 同 一 の 製 造 工 程 を使 用 して 供 試 体
クー ポ ン を 製 造 し て、 試 験 を行 っ て い る 。 供 試 体 ク ー ポ ンは 、 セ ル を5直 列 接 続 した モ ジ ュ ー ル タ イ
プ の もの と、単 セ ル タ イ プ の もの を準 備 し、研 究 目的 達 成 の た め に以 下 の3種 類 の 試 験 を 行 っ て い る 。
1)MDセ
ルESD( 静 電 気 放 電 )耐 性 比 較 試 験
2)MDセ
ル劣化 閾値 測 定試験
3)MDセ
ル 実 機 相 当 回路 模 擬 試 験
本 論 文 の2章 で は研 究 手 法 と実 験 設 備 につ い て述 べ て い る 。 試 験 で は、 供 試 体 ク ー ポ ン を ス ペ ー ス
チ ェ ンバ ー 内 に セ ッ ト して 、 −4.5∼ −5kVの
バ イ ア ス を か け る 。 カバ ー ガ ラ ス 表 面 に4∼5kVに
加 速 し た 電 子 ビ ー ム を照 射 し て、 軌 道 上 で 予 想 さ れ る カ バ ー ガ ラ ス 表 面 の 帯 電 状 態 を擬 似 発 生 させ 、
そ の 時 発 生 す る 放 電 に よ る バ イ パ ス ダ イ オ ー ド並 び に 太 陽 電 池 セ ル の 電 圧 一電 流 特 性 を取 得 して 劣 化
状 況 を 評 価 した 。
−2一
本 論 文 の3章 で は、 以 下 の よ う な 試 験 結 果 に つ い て 述 べ て い る 。
1)MDセ
2)ESDに
ル の構 造 と して は、 シ ョ ッ トキ ー構 造 の 方 がPN接
対 す る耐 性 の 弱 いPN接
放 電 電 荷350μCで
3)MDセ
合 型 の もの よ り耐 性 が 高 か っ た 。
合 型 の劣 化 閾 値 は 、放 電 ピー ク 電 流37A、 放 電 エ ル ネ ギ ー α8J、
あ った。
ル を使 用 し て4∼5kW級
こ ろ、 放 電 ピ ー ク 電 流 は20A程
衛 星 の 太 陽 電 池 パ ドル を模 擬 し た外 部 回路 で 試 験 を 行 っ た と
度 で あ り、 い ず れ の タ イ プ のMDセ
ル も実 際 の 太 陽 電 池 パ ド
ルへ の採用 は、 帯放 電の観 点 で は問題 ない。
4) 実 機 模 擬 相 当 回路 で の 放 電 試 験 で は 、 実 機 上 の 放 電 電 流 は バ イ パ ス ダ イ オ ー ド と太 陽 電 池 セ
ルの接 合両 方 に分流 す るため、 放電 エ ネル ギーが 分散 す る。
以 上 を本 論 文 の4章
で ま と め 、 宇 宙 用3接 合 型MDセ
ル は、 軌 道 上 の 帯 放 電 に 対 し て 耐 性 の 弱 い
pn接 合 タ イ プ で も、 放 電 ピ ー ク電 流37A、 放 電 エ ネ ル ギ ー0.8J以 下 で あ れ ば劣 化 す る こ と は な く、4
∼5kW級
の 太 陽 電 池 パ ドル で 使 用 す る 限 り帯 放 電 の 観 点 で は 問 題 な く使 用 で き る こ とが 実 験 に よ り
確 認 で き た こ と を結 論 と し て い る。
上 記 の 論 文 に対 して 審 査 を行 い 、 本 研 究 が 人 工 衛 星 の 基 幹 部 品 で あ る太 陽 電 池 ア レ イ の 信 頼 性 を 向
上 させ る に あ た っ て 必 須 の 技 術 開 発 に大 き く貢 献 し た こ と が 認 め られ た 。 審 査 会 ・公 聴 会 に て な され
た 、 太 陽 電 池 の 劣 化 指 標 と し て 放 電 エ ネ ル ギ ー を ど う評 価 す べ きで あ る か と か 、 環 境 試 験 の 改 善 方
法 、 将 来 の 超 大 型 衛 星 や 高 効 率 セ ル へ の 対 応 、 大 気 中 にお け る試 験 の 可 能 性 等 の 質 問 に も適 切 に対 処
した 。 本 論 文 作 成 の 過 程 で 証 明 した研 究 能 力 と論 文 の記 述 か ら、 本 人 が 博 士 号 を授 与 さ れ る の に相 応
しい 素 養 を 身 に付 け て い る と判 断 した 。
以 上 に よ り、 論 文 調 査 及 び最 終 試 験 の 結 果 に基 づ き、 審 査 委 員 会 に お い て 慎 重 に 審 査 し た結 果 、 本
論 文 が、博 士 (
工 学 ) の 学 位 に 十 分 値 す る もの で あ る と判 断 した 。
一3一