第04回

専攻科 応用数学 II
1
第 4 回 講義資料 多次元の離散型確率変数
2 次元離散型確率変数
(Ω, F, P ) を確率空間, X, Y をその上の離散型確率変数とする. このとき X = (X, Y ) をおくと, こ
れは Ω から R2 への写像である. このとき, 任意の実数 x, y ∈ R に対して
{ω ∈ Ω|X(ω) = x}, {ω ∈ Ω|Y (ω) = y} ∈ F
であるので, X(ω) = x でありかつ Y (ω) = y である事象について
{ω ∈ Ω|X(ω) = x かつ Y (ω) = y} = {x ∈ ω|X(ω) = x} ∩ {y ∈ Ω|Y (ω) = y} ∈ F
が成り立つ. よってこの事象の確率が定義される. この事象は P (X = x, Y = y) ともかかれる.
pX,Y (x, y) = P ({ω ∈ Ω|X(ω) = x かつ Y (ω) = y})
なる関数 pX,Y : R2 → [0, 1] を X と Y の結合 (同時) 確率質量関数という. 次のことが容易に確か
められる.
• pX,Y (x, y) = 0 (x ∈
/ X(Ω) または y ∈
/ Y (Ω) のとき)
∑ ∑
pX,Y (x, y) = 1
•
x∈X(Ω) y∈Y (Ω)
また, X, Y の確率質量関数 pX , pY は結合確率質量関数 pX,Y から次のように得られる
pX (x) = P (X = x) =
∑
P (X = x, Y = y) =
y∈Y (Ω)
同様にして
pY (x, y) =
∑
pX,Y (x, y).
y∈Y (Ω)
∑
pX,Y (x, y)
x∈X(Ω)
となる. これらは, 結合 (同時) 質量関数 pX,Y に対して, X, Y の周辺確率質量関数という. X = (X, Y )
を 2 つの確率質量関数を組にして作ったので, 周辺確率質量関数はただの X, Y の確率質量関数に他
ならないのではないかと思うかもしれない. しかし, 本来 Ω から R2 への写像 X(ω) = (X(ω), Y (ω))
が 2 次元の離散型確率変数であるとは
• X による Ω の像が高々可算な R2 の部分集合である
• 任意の実数 x, y に対して {ω ∈ Ω|X(ω) = x かつ Y (ω) = y} ∈ F
が成り立つことである. ここに 1 次元の離散型確率変数を組にして作ったという情報は一切含まれて
ない. これをもとにまず, pX が定義される. 次に任意の x ∈ R に対して
∪
{ω ∈ Ω|X(ω) = x} =
{ω ∈ Ω|X(ω) = x かつ Y (ω) = y} ∈ F
y∈Y (Ω)
1
であるから X は 1 次元の離散型確率変数となっているわけである. よって P (X = x) が定義される.
ここで上の和集合は互いに排反な事象によるわ集合であるので, 確率測度の完全加法性により
pX (x) = P (X = x) = P ({ω ∈ Ω|X(ω) = x})


∪
=P
{ω ∈ Ω|X(ω) = x かつ Y (ω) = y}
y∈Y (Ω)
=
∑
P ({ω ∈ Ω|X(ω) = x かつ Y (ω) = y})
y∈Y (Ω)
=
∑
pX (x, y)
y∈Y (Ω)
により pX が定義される. この流れで得られる pX を周辺確率質量関数と呼ぶのである. まとめておこう
命題 (Ω, F, P ) を確率空間, X = (X, Y ) : R2 → [0, 1] が 2 次元の離散型確率変数であるために
必要十分条件は X, Y のそれぞれが 1 次元の離散型確率変数であることである.
n > 2 のときも同様に定義される. (Ω, F, P ) を確率空間とするとき, X = (X1 , X2 , · · · , Xn ) : Rn →
[0, 1] が n 次元離散型確率変数であるとは
(1) Ω の X による像が Rn の高々可算な部分集合である.
(2) 任意の (x1 , x2 , · · · , xn ) ∈ Rn に対して
{ω ∈ Ω|X1 (ω) = x1 , X2 (ω) = x2 , · · · , Xn (ω) = xn } ∈ F
が成り立つことである. このとき, X の結合 (同時) 確率質量関数 pX は x = (x1 , x2 , · · · , xn ) ∈ Rn に
対して
pX (x) = P ({ω ∈ Ω|X1 (ω) = x1 , X2 (ω) = x2 , · · · , Xn (ω) = xn })
(= P (X1 = x1 , X2 = x2 , · · · , Xn = xn )
で定義される.
2
2 次元離散型確率変数の平均
(Ω, F, P ) を確率空間とし, X = (X, Y ) を 2 次元の離散型確率変数とする. このとき, g : R2 → R と
するとき Z(ω) = g(X(ω)) = g(X(ω), Y (ω)) により Ω から R への写像が定義されるが, これは 1 変数
の確率変数となる. まず Z による Ω の像が高々可算なのは明らか. 任意の実数 z に対して
{ω ∈ Ω|Z(ω) = z} = {ω ∈ Ω|g(X(ω), Y (ω)) = z}
∪
=
{ω ∈ Ω|X(ω) = x, Y (Ω) = y}
x∈X(Ω),y∈Y (Ω),g(x,y)=z
ここで, 上の和集合は g(x, y) = z となる (x, y) であるような x ∈ X(Ω), y ∈ Y (Ω) であるものに関す
る和集合であるが, X(Ω), Y (Ω) は高々可算な集合なので, この和集合も高々可算個の集合の和集合で
ある. よって
{ω ∈ Ω|Z(ω) = z} ∈ F
2
である. このことを用いると, 次のことを得る:
定理 (Ω, F, P ) を確率空間とし, X = (X, Y ) を 2 次元の離散型確率変数, g : R2 → R とする. こ
のとき Z(ω) = g(X(ω), Y (ω)) で定義される 1 次元の確率変数の平均は
∑ ∑
E(Z) =
g(x, y)P (X = x, Y = y)
x∈X(Ω) y∈Y (Ω)
が成り立つ. ただし右辺が絶対収束するときに限る.
証明 X(Ω) = {x1 , x2 , · · · }, Y (Ω) = {y1 , y2 , · · · }, Z(Ω) = {z1 , z2 , · · · } とする. 1 変数のときの定義に
より
∞
∑
∑
E(Z) =
zP (Z = x) =
zk P (Z = zk )
k=1
z∈Z(Ω)
これより
E(Z) =
∞
∑

zk P 
k=1
=
∞
∑
{ω ∈ Ω|X(ω) = xi , Y (Ω) = yj }
i,j:g(xi ,yj )=zk
zk
k=1
=

∪
∞
∑
∑
P (X = xi , Y = yj )
i,j:g(xi ,yj )=zk
∑
zk P (X = xi , Y = yj )
k=1 i,j:g(xi ,yj )=zk
=
∞
∑
∑
g(xi , yj )P (X = xi , Y = yj )
k=1 i,j:g(xi ,yj )=zk
=
∞
∑
g(xi , yj )P (X = xi , Y = yj )
i,j=1
2
a, b を実数とし, g(x, y) = ax + by とすると次を得る
命題 (Ω, F, P ) を確率空間とし, X, Y をその上の離散型確率変数とする. このとき E(X), E(Y )
が存在すれば
E(aX + bY ) = aE(X) + bE(Y )
が成り立つ.
3
証明 上の定理を用いると
∑
E(aX + bY ) =
∑
(ax + by)P (X = x, Y = y)
x∈X(Ω) y∈Y (Ω)
∑
=a
∑
x∈X(Ω) y∈Y (Ω)
∑
=a
x
x∈X(Ω)
∑
=a
∑
xP (X = x, Y = y) + b
∑
yP (X = x, Y = y)
x∈X(Ω) y∈Y (Ω)
∑
∑
P (X = x, Y = y) + b
y∈Y (Ω)
xP (X = x) + b
x∈X(Ω)
y
y∈Y (Ω)
∑
∑
P (X = x, Y = y)
x∈X(Ω)
yP (Y = y)
y∈Y (Ω)
= aE(X) + bE(Y )
ここで, 上の第 3 式から第 4 式を導くにあたり,
∑ ∑
∑
∑
yP (X = x, Y = y) =
y
P (X = x, Y = y)
x∈ X(Ω) y∈Y (Ω)
y∈Y (Ω)
x∈X(Ω)
と和の順序を入れ換えたが, これは E(Y ) が存在し, 絶対収束するので順序の交換が許されるのである.
2
3
離散型確率変数の独立性
(Ω, F, P ) を確率空間とする. A, B ∈ F が独立であるとは P (A ∩ B) = P (A)P (B) が成り立つこと
であった. 独立性の考え方を確率変数へ導入しよう. X, Y をその上の離散型確率変数とする. すべて
の実数 x, y に対して {ω ∈ Ω|X(ω) = x} という事象と {ω ∈ Ω|Y (ω) = y} という事象が独立, つまり
P ({ω ∈ Ω|X(ω) = x かつ Y (ω) = y}) = P ({ω ∈ Ω|X(ω) = x})P ({ω ∈ Ω|Y (ω) = y})
が成り立つとき, X と Y は独立であるという. 簡単に書くと
P (X = x, Y = y) = P (X = x)P (Y = y)
となる. そうでないときは従属であるという. pX,Y (x, y) を結合確率質量関数, pX (x), pY (y) をそれぞ
れ X, Y の周辺確率質量関数とするとき X と Y が独立ならば
pX,Y (x, y) = pX (x)pY (y)
となる. 逆に次の定理が成り立つ.
命題 (Ω, F, P ) を確率空間とし, X, Y を離散型確率変数とする. X と Y が独立であるための必
要十分条件はある f, g : R → R があって
pX,Y (x, y) = f (x)g(y)
とかけることである.
証明 必要条件であることはすでに確かめた. 十分条件を示そう.
∑
∑
∑
∑
P (X = x) =
pX,Y (x, y) =
f (x)g(y) = f (x)
g(y) = f (x)
g(y ′ )
y∈Y (Ω)
P (Y = y) =
∑
x∈X(Ω)
y∈Y (Ω)
pX,Y (x, y) =
∑
y ′ ∈Y (Ω)
y∈Y (Ω)
f (x)g(y) = g(y)
x∈X(Ω)
∑
x∈X(Ω)
4
f (x) = g(y)
∑
x′ ∈X(Ω)
f (x′ )
であるので

P (X = x)P (Y = y) = f (x)g(y) 

∑
f (x′ ) 
x′ ∈X(Ω)
∑

g(y ′ ) .
y ′ ∈Y (Ω)
ところで
1=
∑
∑
∑
pX,Y (x, y) =
x′ ∈X(Ω) y ′ ∈Y (Ω)
∑
f (x′ )g(y ′ )
x′ ∈X(Ω) y ′ ∈Y (Ω)

=
∑

f (x′ ) 
x′ ∈X(Ω)
∑

g(y ′ )
y ′ ∈Y (Ω)
よって
P (X = x)P (Y = y) = f (x)g(y) = pX,Y (x, y) = P (X = x, Y = y)
2
例題 4.1 (Ω, F, P ) を確率空間 A, B ∈ F とする. χA , χB を A, B の特性関数とする:
{
χA (ω) =
1 ω∈A
, χB (ω) =
0 ω∈
/A
{
1 ω∈B
0 ω∈
/B
A と B が独立であるための必要十分条件は確率変数 χA , χB が独立であることを示せ.
証明 A, B が独立であるとする.
(1) P (χA = 1 かつ χB = 1) = P (A ∩ B) = P (A)P (B) = P (χA = 1)P (χB = 1)
(2) P (χA = 1 かつ χB = 0) = P (A ∩ B c ) = P (A)P (B c ) = P (χA = 1)P (χB = 0)
(3) P (χA = 0 かつ χB = 1) = P (Ac ∩ B) = P (Ac )P (B) = P (χA = 0)P (χB = 1)
(4) P (χA = 0 かつ χB = 0) = P (Ac ∩ B c ) = P (Ac )P (B c ) = P (χA = 0)P (χB = 0)
逆に χA , χB が独立であるとする. このとき
P (A ∩ B) = P (χA = 1, χB = 1) = P (χA = 1)P (χB = 1) = P (A)P (B)
となり証明が終わる. 2
次の結果は平均の計算において重要である.
定理 (Ω, F, P ) を確率空間とし, X, Y をその上の離散型確率変数とする. このとき X, Y が独
立で E(X), E(Y ) が存在すれば
E(XY ) = E(X)E(Y )
が成り立つ.
5
証明
E(XY ) =
∑
∑
xyP (X = x, Y = y)
x∈X(Ω) y∈Y (Ω)
=
∑
∑
xyP (X = x, Y = y)
x∈X(Ω) y∈Y (Ω)

∑
=

xP (X = x) 
x∈X(Ω)
∑

yP (Y = y) = E(X)E(Y )
y∈Y (Ω)
ここで, 第 2 式から第 3 式への変形は次の事実を使った: 数列 {an }, {bn } が絶対収束すれば
( ∞ )( ∞ )
∞ ∑
∞
∑
∑
∑
ai bj =
ai
bj
i=1 j=1
i=1
j=1
2.
しかし, E(XY ) = E(X)E(Y ) が成り立つからといって X と Y が独立であるとは限らない. 以下の
結果を証明なしで述べておこう.
定理 (Ω, F, P ) 上の離散型確率変数 X, Y が独立であるための必要条件は, E(g(X)) と E(h(Y ))
が存在するようなすべての関数 g, h : R → R に対して
E(g(X)h(Y )) = E(g(X))E(h(Y ))
が成り立つことである.
4
確率変数の和
X, Y が確率空間 (Ω, F, P ) 上の離散型確率変数であるとき, Z = X + Y の確率質量関数を求めて
みよう. X + Y = z である必要十分条件はある実数 x があって X = x かつ Y = z − x であることで
ある. X(Ω) = {x1 , x2 , · · · } とすると
{ω ∈ Ω|X(ω) + Y (ω) = z} =
∞
∪
{ω ∈ Ω|X(ω) = xi , Y (ω) = z − xi }
i=1
よって確率測度の完全加法性より
P (X + Y = z) =
∞
∑
P (X = xi , Y = z − xi ) =
i=1
∑
P (X = x, Y = z − x)
x∈X(Ω)
となる.
定理 X, Y が (Ω, F, P ) 上の独立な離散型確率変数ならば, Z = X + Y は次の確率質量関数を
もつ
∑
z ∈ R に対して P (Z = z) =
P (X = x)P (Y = z − x)
x∈X(Ω)
6
これは 2 つの確率質量関数 pX (x) = P (X = x) と pY (y) = P (Y = y) のたたみこみといえる.
例題 4.2 X と Y が独立な離散型確率変数で, X はパラメータ λ のポアソン分布に従い, Y はパ
ラメータ µ のポアソン分布に従うとき, X + Y はパラメータ λ + µ のポアソン分布に従うことを
示せ.
証明 k = 0, 1, 2, · · · に対して
k
µk −µ
P (X = k) = λ e−λ , P (Y = k) =
e
k!
k!
であるから, m < 0 に対して P (Y = m) = 0 であることに注意して, 任意の 0 以上の整数 k に対し
P (X + Y = k) =
=
=
∞
∑
l=0
k
∑
l=0
k
∑
l=0
P (X = l)P (Y = k − l) =
k
∑
P (X = l)P (Y = k − l)
l=0
λl e−λ µl−k e−µ =
l!
(l − k)!
k
∑
l=0
1
λl µk−l e−(λ+µ)
l!(k − l)!
k!
λk µl−k · 1 e−(λ+µ)
l!(k − l)!
k!
(λ + µ)k −(λ+µ)
= (λ + µ)k 1 e−(λ+µ) =
e
k!
k!
2
問 X はパラメータ m と p の 2 項分布に従い, Y はパラメータ n と p の 2 項分布に従い, X と Y が
独立ならば, X + Y はパラメータ m + n と p の 2 項分布に従うことを示せ.
7