本田賞 35 回記念シンポジウム 基調講演 講演要旨 「人間性あふれる文明の創造へ向けて:バランス、価値観、倫理、総合性の視点」 小島 明 科学技術に支援された活発な経済活動のなかで環境への負荷が増大した現実だが、同時 に自然環境だけでなく時に人間さえも置き去りにされてきた発展のあり方を是正する必要が ある。自然環境との調和に加え、人間環境との調和も考慮すること。我々が 21 世紀の価値 観としてしっかり受け止めるべきものだ。 ローマ・クラブが『成長の限界:人類の危機』レポートを発表してから 40 年目の 2012 年 1 月に、ブカレストで開かれた 40 周年記念総会では、資本主義・市場経済と民主主義政治が 短期指向・目先指向になり、人類が直面している構造的で深刻な問題に対応できていない指 摘が相次いだ。そこで議論されたのが「新しい経済学」の必要性であり、 「3 つの分断」の問 題、 つまり①生産と雇用の分断の拡大②金融と実体経済の分断、 それと③economy とecology の分断─が指摘された。 「新しい経済学」には長期的視点、 「科学技術」との総合性、それに時代感覚、倫理観も必 要になる。50 年前の 1964 年東京オリンピックの当時、経済の量的な成長が最重要課題だっ たため、東京の川は黒く濁り魚が消え、大気は喘息になるほど汚染した。当時の社会の危機 感、問題認識が公害防止につながる新技術、生産プロセス、個人のライフスタイルなど多面 的な、イノベーションをもたらした。 「人間性あふれる文明の創造」へ向けての課題は厳しいが、価値観を点検し、バランス、 倫理を織り込んだイノベーションにより実現可能だろう。文部科学省が 2014 年 6 月に発表 した『科学技術白書 2014』は、日本が巨大災害やオリンピック開催国になることを踏まえ、 「ライフ・イノベーション」や「クリーン・イノベーション」を推進することによって、こ のシンポジウムが目指すエコテクノロジーを世界に発信し、各国と協力する発想を示してい る。 このシンポジウムからの発信を通じて、世界中が享受できる「人間性あふれる文明」の創 造へと展開することを期待したい。
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