ストレッチングの前処置としてホットパックおよび極超短波療法は有効か?

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)14 : 50∼15 : 40 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 運動器!骨・関節 27】
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ストレッチングの前処置としてホットパックおよび極超短波療法は有効か?
川口
梨沙1),吉田
英樹2),照井
駿明3)
1)
静岡てんかん・神経医療センター リハビリテーション科,2)弘前大学
秋田県立脳血管研究センター 機能訓練部
大学院保健学研究科,
3)
key words ストレッチング・ホットパック・極超短波療法
【はじめに,目的】
筋伸張性向上を目的としたストレッチングでは,前処置として表在性温熱療法よりも深部性温熱療法を併用した方がより効果
的と予想されるが,臨床では体内金属などのために表在性温熱療法,特にホットパック(HP)を用いることも多い。また,本邦
では,深部性温熱療法の中では極超短波療法(MW)の使用頻度が比較的高い。しかし,ストレッチングの前処置としての HP
および MW の有効性については未だ統一見解を得ていない。以上から本研究では,ストレッチングの前処置としての HP および
MW の有効性について検討することを目的とした。
【方法】
健常者 16 名(女性 5 名,男性 11 名,23.1±4.1 歳)を対象とし,介入として HP,MW,コントロール(HP と MW のいずれも
実施しない)
を行う実験を実施順序を無作為として 3 日以上の間隔を空けて実施した。ストレッチングの標的筋は左右のハムス
トリングスとし,対象者の両大腿後面全体を加温するように HP および MW の導子を設置した。HP は乾式 HP 装置(OG パッ
クス KT!
521,OG 技研)を使用し,HP の表面温度は 42℃ とした。MW はパルス照射法を採用した MW 治療器(イトー PM!
820,伊藤超短波:周波数 2,450MHz,波長 12.25cm)を使用し,照射出力は 50W とした。介入条件以外の実験内容は全て同一
とした。すなわち,対象者は介入前評価として後述する両側のハムストリングスの筋硬度(筋硬度)と膝最大自動伸展角度の測
定を受けた後,介入として安静腹臥位で 20 分間の HP,MW,コントロールのいずれかを受け,その後に介入後評価として両側
の筋硬度と膝最大自動伸展角度の他,大腿後面皮膚温(皮膚温)の測定を受けた。筋硬度(単位:Nm)の測定は,筋硬度計
(NEUTONE TDM!
NA1,TRY!
ALL)を用いて,腹臥位にて坐骨結節と腓骨頭を結ぶ線の中点にて測定した。膝最大自動伸展
角度(単位:度)の測定は,対象者に股・膝 90 度屈曲位での背臥位から膝最大自動伸展運動を行わせ,その際に矢状面上で撮
影されたデジタル画像から画像処理ソフト(ImageJ 1.43u,NIH)を用いて膝最大自動伸展角度を測定した。皮膚温(単位:℃)
の測定は,放射温度計(Fluke!
572,Fluke)を用いて,腹臥位にて前述の筋硬度の測定部位と同一部位にて測定した。統計学的
分析では,筋硬度と膝最大自動伸展角度については,各介入前後での変化量を Steel!
Dwass 法にて検討した。皮膚温については,
各介入後の測定値を Tukey!
Kramer 法にて検討した。全ての統計学的検定の有意水準は 5% 未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対して本研究の目的や本研究への,参加同意及び同意撤回の自由,プライバシー保護の徹底等について予め十分に説明
し,書面にて同意を得た。
【結果】
各介入前後での筋硬度の変化量(中央値)については,HP が−1.3,MW が−1.0,コントロールが 0.0 であり,各介入前後での
変化量に明らかな違いを認めなかった。一方,各介入前後での膝最大自動伸展角度の変化量(中央値)については,HP が 1.2,
MW が 1.1,コントロールが−3.2 であり,コントロールと比較して HP および MW での有意な増加を認めたものの,HP と MW
との間には明らかな違いを認めなかった。各介入後の皮膚温(平均値)については,HP が 36.3,MW が 36.6,コントロールが
31.6 であり,コントロールと比較して HP および MW での有意な増加を認めたものの,HP と MW との間には明らかな違いを認
めなかった。
【考察】
筋硬度の結果は,HP と MW がともに筋加温に伴う筋伸張性向上効果に乏しいことを示している。一方,膝最大自動伸展角度の
結果は,HP と MW が同程度の筋伸張性向上効果を生み出す可能性を示している。両所見は矛盾する結果であるが,皮膚温の結
果を考慮すると,HP および MW 実施後では大腿後面皮膚に温熱刺激が加えられたことで,門制御理論に基づきハムストリング
スのストレッチングに伴う伸張痛・不快感が軽減された結果,筋伸張性が向上していなくてもストレッチングを実施しやすく
なった可能性が推察される。今後,伸張痛・不快感に関する評価指標を併用した検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
ストレッチングの前処置としての温熱療法を考慮した場合,HP は表在性温熱療法ではあるが,MW とは異なり体内金属の有無
に関わらず実施可能であり,臨床での汎用性に優れている。本結果は,HP と MW が,ストレッチングの前処置として同程度の
有効性を有することを示しており,特に汎用性に優れた HP の臨床での活用を支持する所見として意義深いと考える。