道具操作の模倣における動作モデルの変換過程(3) -動作と言語の相互変換- 水口 崇 (信州大学教育学部) キーワード: 道具操作、模倣、変換過程 The process of perceptual-motor translation in imitation of object manipulation (3) Takashi MIZUGUCHI (Faculty of Education, Shinshu University) Key words: tool use, imitation, translation process 【目 的】 模倣は動作モデルの目立った特徴に影響を受ける.Bird et al (2007)によれば,動作モデルを構成する複数の要素から相対的 に目立った要素に選択的な注意を向けるため,それ以外の要素 は正確に模倣されにくい.さらに,視覚的に入力された動作モ デルを動作に変換する場合と言語に変換する場合,両者に相違 はなく,エラーパターンは一致するという.これは,視覚情報 の入力時が決定的な影響を持つことを示している.つまり,入 力後から出力に至る過程の影響は考慮されていない. 一方,構音や運動等の二重課題を課すと,動作に変換する場 合と言語に変換する場合で影響を受ける二重課題の種類が異な ることが報告されている(水口,2010) .これは両者の変換過程 のルートが異なることを示唆している.さらに,動作モデルを 動作・言語・視空間に変換する課題においてエラーパターンが 一致しないことも報告されている(水口,2011) .本研究では動 作・言語の変換を体系的に捉えるため,動作モデルを動作や言 語に変換する課題に加え,言語による動作モデルの説明を言語 や動作に変換する課題を行い,エラーパターンを比較した. 【方 法】 . 対 象 右利きの大学生 32 名である(Edinburgh, 1971) 材 料 無地で白色の持ち手のないコップ 2 個,スティックタ イプの糊,木製のボード,刺激提示用の PC を使用した. 手続き effecter(右手/左手:EF)×movement(右回し/左回 し:MO)×object(右側/左側:OB)×treatment(右端/左端: TR)×end point(右横/左横:EP)を組み合わせ,32 種類の動 作モデルを設定した(Ex. 右手で糊を持ち,右回しで反転させ, . 右側のコップの右端を軽く触れた後,コップの右横に置く) 動作モデルを映像で視覚提示された後,自らの動作に変換し て模倣する条件(AA 条件) ,映像の動作を言語に変換し,説明 する条件(AV 条件)を設定した(Ex.「右手で右回しにして右 のコップの右を叩いて右に置いた」のように言及する) .さらに 動作モデルの内容の説明が聴覚提示された後,それをそのまま 言語で再現する条件(VV 条件) ,提示された音声と一致する動 作を実演する条件(VA 条件)を設定した.映像や音声の提示 は 6 秒間であり,その 5 秒後に模倣反応を求めた. Fig 1 要素の配置 要素の配置 【結果と考察】 第一に,要素間を比較した.条件別に要素間のエラー量を Signed rank sum test で比較した.結果,AA 条件,AV 条件,VA 条件で有意差が検出された.VV 条件は差がなかった.AA 条件 では,MO=EP>OB=TR>EF の順でエラー量が多かった.多 重比較の結果,MO≒EP>EF が有意であった.AV 条件は,MO >EP>TR>OB>EP の順であった.多重比較の結果,MO>EP ≒TR>EF であった.VA 条件は,EP>TR>MO>OB>EF の順 であった.多重比較の結果,EP≒TR>OB≒EF であった. 第二に,条件間を比較した.要素別に条件間のエラー量を Signed rank sum test で比較した.結果,MO にのみ有意差が検出 された.MO は,AV 条件>AA 条件>VV 条件>VA 条件の順で エラー量が多かった.多重比較の結果, AV 条件>VV 条件≒ VA 条件で有意だった(有意水準は全て p < .01) . 0.8 0.6 0.8 0.6 0.4 0.2 0.4 0.2 0 0 EF MO OB TR EP EF MO OB TR EP AA Condition 0.8 0.6 0.4 AV Condition 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0.2 0 EF MO OB TR EP VV Condition EF MO OB TR EP VA Condition Fig 2 各条件の要素別のエラー量 各条件の要素別のエラー量 AA 条件と AV 条件は,動作モデルを視覚提示した.但し, 出力時はそれぞれ動作や言語に変換することを求めた.その結 果,両条件のエラーパターンはほぼ一致していた.これは本研 究の仮説と反し,Bird et al(2007)の見解を支持している.つ まり,視覚的な入力に対する選択的注意の影響が模倣反応を決 定するため,出力の仕方が異なったとしても,両条件のエラー パターンはほぼ一致したと考えられる. 一方,VV 条件と VA 条件では,動作モデルの内容を聴覚提 示した.但し,出力時はそれぞれ言語や動作に変換することを 求めた.その結果,両条件のエラーパターンは一致せず,VA 条件では要素間にエラー量の階層が生起したが,VV 条件では 階層さえ生起しなかった.入力時が決定的な影響を持つ場合, 出力の仕方による違いはなく,言語で出力しても動作で出力し ても生起するエラーパターンは一致するだろう.従って,聴覚 提示であった VV 条件と VA 条件は出力に至る過程に違いがあ り,その影響を受けたと推測される.なお,聴覚提示された音 声に対する選択的注意の機序の解明は今後の検討課題である. (Takashi MIZUGUCHI)
© Copyright 2024 ExpyDoc